近年、キャリア自律が謳われる中で、従業員のキャリア開発に対して企業が支援したりアドバイスしたりするケースも増えています。キャリア開発を促進することは、従業員・企業ともに様々なメリットがあります。ただ「キャリア開発の支援はする必要を感じるが、方法がわからない」という企業も増えています。
そこで記事では、組織が従業員のキャリア開発に取り組むべき理由や、キャリア開発を行う方法を紹介します。具体例をもとに解説するので参考にしてください。
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<目次>
- キャリア開発とは ?
- 企業がキャリア開発支援に取り組むメリット
- キャリア開発を支援する9つの方法
- キャリア開発支援における注意点
- キャリア開発に取り組む企業事例
- キャリア開発に利用できる助成金・補助金
- まとめ
キャリア開発とは ?
まずはキャリア開発の意味や重要とされている背景を、個人と企業、2つの視点から解説します。
キャリア開発の意味
キャリア開発とは、職業経験や能力を中長期的な視点を持って開発することです。計画的に知識や経験、スキルを高めていくことで、自身の理想のキャリアを実現していくことができます。
個人の視点で見ると、キャリア開発はライフプランの一部であり、キャリアプランを設計することとほぼ同義です。
企業としては、これまで従業員のキャリア開発はさほど考えられていなかったテーマですが、時代変化のなかで従業員のキャリア開発支援が注目されています。企業が従業員のキャリア開発をサポートしていくことで、従業員の仕事に対する意味付けや社内のキャリアビジョンが明確になり、従業員の成長やエンゲージメントを促すことができます。
いまキャリア開発が重要となった背景
個人の視点からすると、現在は自分のキャリアを真剣に考える必要がある時代です。必要性が生まれた最大の要因としては、終身雇用が崩壊して、年功序列もほぼ崩れたことです。
以前であれば、新卒で就職すると企業内でキャリアが完結する(終身雇用で定年まで働く)ことが多く、目の前の仕事で成果を上げることに集中すれば、キャリアは企業側が勝手に考えてくれました。しかし、現代では企業の経営破綻や企業や事業のM&Aも当たり前となりました。
転職が一般化し、雇用形態も正規雇用以外にフリーランスや副業などの選択肢も一般的になりました。
結果として、企業が個人のキャリアを保証してくれる時代は完全に終わりました。
しかし、見方を変えると、さまざまなキャリアの選択肢がある時代であり、自身のキャリアを自分でコントロールできる時代ともいえます。
企業側からしても、終身雇用を約束できない状況だからこそ、従業員のキャリア自律を支援する必要性が出てきています。
同時に、キャリア開発をサポートするとともに、従業員が描いたキャリアプランと自社で得られるキャリア機会を重ね合わせることで、モチベーション向上や定着・引き留めにつなげるという狙いがあります。
類義語との違い
「キャリア開発」には「キャリアデザイン」や「キャリアアップ」という類義語があります。それぞれの類義語との違いを解説しておきます。
キャリアデザインとキャリアアップ
キャリアデザインとキャリア開発は類似したものです。基本的には同じ概念であり、キャリアデザインで描いたプランを「どのように実現するか」がキャリア開発になる、もしくは文脈によっては、“描いて実現するまでの取り組み全体”をキャリア開発と呼びます。
また、キャリアアップとは経歴を高めたり、社格やポジション・待遇を向上したりするものです。キャリアプランやキャリア開発のなかにキャリアアップが含まれると考えるとよいでしょう。
ただし、キャリア開発はキャリアアップだけに限定されるものではありません。例えばワークライフバランスや育児とのバランス、異なる専門性の開発・追求、異なる仕事への挑戦などもキャリア開発のひとつです。
キャリア開発とキャリアパス
キャリア開発と付随して出てくる言葉として、「キャリアパス」があります。キャリアパスは、企業が社員に対してキャリアプランの道筋を示したものです。
具体的にいうと、企業内で指定の職位に就くためにどのようなスキルや経験が必要か、昇格などの前後関係などを示したものがキャリアパスです。
「このポジションでこういう経験をすれば、次にこういうポジションの可能性が開ける」とイメージするとわかりやすいでしょう。
企業がキャリア開発支援に取り組むメリット
企業がメンバーのキャリア開発に取り組むのには、おもに3つのメリットを得るためです。
- モチベーション・生産性の向上
- 適材適所による組織の活性化
- 人材の引き留め
モチベーション・生産性の向上
キャリア開発をサポートすることにより、メンバーが自らのキャリアプランを描き、仕事に意味づけすることで内発的動機付けがもたらされます。
内発的動機付けとは、内面に沸き起こった興味・関心や意欲に動機づけられている状態のことです。金銭や名誉などの外部からくる報酬を動機とするのでなく、仕事そのものや自身の成長を動機とすることは非常に強いエネルギーです。
ミッションやビジョンによってもたらされる仕事の意味づけとはまた違う側面、「自分の将来・キャリアにとってこういう意味がある」となれば、主体性や成長意欲の向上が期待できます。
モチベーションが高いメンバーが増えれば、個人と組織の生産性が向上し、企業の目標達成や成長につながるでしょう。
適材適所による組織の活性化
キャリア開発を行うということは、組織の活性化にもつながります。
キャリア開発を支援するなかで、メンバーそれぞれが自分の強みや価値観に気付き、キャリアプランに基づいてジョブクラフティングしたり異動要望を出したりすることは組織のなかで人材が適材適所に納まることになり、組織の活性化につながります。
また、やりがいを感じていなかった人材が、キャリア開発によって知識やスキルが向上し、組織により良い成果をもたらすことにもなるでしょう。
人材の引き留め
キャリア開発の支援は離職防止・引き留めの効果も期待できます。前述の通り、描いたキャリアプランと自社で得られるキャリア機会を重ね合わせることで内発的動機づけがもたらされます。
キャリア開発によって、従業員それぞれのキャリアプランを実現するポジションや、能力や関心に合った業務を行うことで、従業員の意欲を高めることができるでしょう。仕事へのモチベーションやエンゲージメントが高まれば、離職を防ぐことができます。
少子高齢化に伴って労働人口が絶対的に減少し、とくに優秀層は取り合いとなっているなかで、優秀人材の引き留めは企業にとって重要です。キャリア開発によって人材の流出を防ぎましょう。
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キャリア開発を支援する9つの方法
組織が従業員のキャリア開発を支援する上では、大きく以下9つの方法があります。大きく分けると、キャリアを描く部分で4つ、描いたキャリアの実現を支援する部分で5つです。
<キャリアを描く部分>
- キャリア相談窓口の設置
- キャリアデザイン研修の実施
- キャリア面談の実施
- 外部キャリアコンサルタントの活用
<描いたキャリアの実現を支援する部分>
- 異動希望制度などの導入
- ジョブローテーションの実施
- 副業や兼業の承認
- 在宅勤務等の導入
- 資格取得支援制度の整備
キャリア相談窓口の設置
社内にキャリア相談窓口を設置することで、従業員のキャリアに対する悩みや不安に対して、キャリア開発をサポートすることができます。
キャリアはそれぞれ個人が自身で考えるものと思う人もいるかもしれませんが、キャリアに関する専門の知識を持った人間がヒアリングをすることで、相談者の思考が刺激され、明確化します。いわゆるコーチングなどと同じ原理です。
キャリアデザイン研修の実施
キャリアデザイン研修を行なうことで、メンバー自身がキャリアと向き合う機会を作れます。自分の強みや数年後のキャリアイメージを作成する、またそこに向けたステップの検討を手助けすることで、主体的なキャリア開発につながります。
大事なのは継続して考えることであり、キャリアプラン自体は漠然としたものでも構いません。キャリアデザイン研修で、これからのキャリアをどう描いていくのか、キャリア自律を考えるきっかけとしましょう。
キャリア面談の実施
定期的なキャリア面談も重要です。
キャリアデザイン研修はあくまで1対多の場です。ワークなどを入れ込んだとしても、個別の悩みやキャリアプランを詳しく相談することはできません。そこで、キャリアデザイン研修で生み出したきっかけを、1対1のキャリア面談を通じて、しっかりと自分事に落とし込んでもらうことが大切です。
研修と面談、どちらか一方という考え方でなく、組み合わせることでより有効に働きます。メンバーの話を吸い上げることで、企業側もキャリア開発・キャリア自律支援の改善点が見つかるでしょう。
外部キャリアコンサルタントの活用
規模が大きくなると、人事等だけでキャリア面談を実施することは困難になります。リソースが足りない場合は、外部キャリアコンサルタントを活用することがお勧めです。キャリア相談窓口をコンサルタントが行ってくれるサービスなどもあります。
社内でのキャリア面談と外部のキャリアコンサルタントによる面談は一長一短です。外部のキャリアコンサルタントは、メンバーにとって利害関係がないため本音で相談しやすいというメリットがあります。
一方で、社内キャリア面談のほうが自社でのキャリア機会や相手の強み、価値観を踏まえた提案やアドバイスができます。
どちらが優れている/劣っているというものではなく、それぞれにメリット・デメリットがありますので、外部・社内をうまく組み合わせることがポイントです。
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異動希望制度などの導入
人事異動や配置変えなどもキャリア開発に有効な方法です。異動の自己申告制や社内FA制などの仕組みは、考えたキャリアプランを実現してもらうための支援になると同時に、メンバーが自分のキャリア開発を主体的に考える機会にもなります。
たとえば、異動希望制度で独自の試みを取り入れているのがクックパッド株式会社です。クックパッド株式会社では社内留学制度があり、条件を満たすことで他部署の業務を約2ヵ月間体験できるという、“異動”希望のひとつ手前で考える機会が得られる仕組みがあります。
異動したけれども理想と異なっていたという事態を防ぐ工夫も必要でしょう。
ジョブローテーションの実施
ジョブローテーションとは定期的にメンバーの配置換えを行なうことです。
ジョブローテーションを行うことで、幅広い業務に携わり、異なる業務を経験することができ、自分の強みや価値観が見えてきます。
幹部候補の育成などとしてもジョブローテーションは実施されますが、キャリア開発を考える上でも有効といえるでしょう。
副業や兼業の承認
本業以外の副業へのチャレンジを認めることもキャリア開発の支援となります。本業で体験できる仕事だけでなく、様々な仕事を体験ができ、自身の関心のあるもの強みを活かせる仕事を知ることにつながります。
例えば第一生命ホールディングスは、約1万5000人の職員を対象に副業を解禁しました。最近では、副業を禁止する場合には明確に禁止理由を提示しないといけないなど、行政でも副業を推進する方向に動いています。
さらに、社外でほかの業務を経験することで本業に良い影響が出る場合もあります。従業員にとっては自分のキャリア開発を進めるためのトライアルにもなるでしょう。
在宅勤務の導入
最近ではテレワークの導入により、家事や介護などと両立してキャリアを支援することも重要です。
在宅ワークを推進することで、育児中の女性や遠方社員のキャリア開発を支援できるようになります。
リモートワークにはデメリットもありますので、何のために導入するか、誰を対象に認めるかなどをしっかりと検討して運用していくことが大切です。
資格取得支援制度の整備
資格取得支援制度を整備することも、キャリア開発の支援につながります。興味あるキャリアに関連する資格を取得することは、非常に分かりやすい目標となります。
企業が資格取得の費用を負担したり、資格取得に対して報酬を与えることで、よりキャリア開発がしやすくなるでしょう。それによって、従業員は企業へのエンゲージメントを高めるとともに、スキルや知識の向上から企業に対してもよい影響があるはずです。
キャリア開発支援における注意点
キャリア開発を行なう際に注意するべき点は2つあります。
- 一定のエンゲージメントが必要
- メンバー主体で行なう
一定のエンゲージメントが必要
企業のキャリア開発は、前提としてメンバーが「この企業でスキルを高めたい」と思われるような信頼関係を築いていることが大事です。
信頼関係が築かれていなかったり、基本的なメンバーの満足度が担保されていなかったりすると、キャリアプラン研修が本当に離職を促進することにもなりかねません。とくに衛生要因、いわゆる労働環境や待遇などに大きな不満がある状態で、キャリアプラン(自己実現であり動機付け要因)を考えさせようとしても上手くいきません。
まずは企業のビジョンを共有したり、対話を行ったり、職場環境を改善したりと、従業員の企業に対するエンゲージメントを「顕著な不満がない」状態まで改善することが重要です。
メンバー主体で行なう
企業目線のキャリア開発になってしまうと、なかなかメンバーの内発的動機づけになりません。メンバーが目的意識を持って主体的に取り組めるようにキャリア開発を支援することが大事です。
難しいバランスなのですが、企業が前に出過ぎると従業員は受け身になってしまいます。キャリアを作る、動くのはあくまで従業員であることを忘れないようにしましょう。
また、例えばキャリア研修やキャリア面談を、はじめから社内でのキャリア構築のみに限定して実施するのはNGです。
優秀人材の引き留めなどの視点では、社内でのキャリア開発を前提にしたいところはありますが、今の時代、無理に社内に引き留めるよりも、社内で機会は提供したうえで、アルムニ採用などと組み合わせてもう一度戻ってきてもらえるようにした方が効果的です。
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キャリア開発に取り組む企業事例
ここでは、従業員のキャリア開発支援を実施している企業の事例をいくつか紹介します。
ソフトバンクグループ株式会社
ソフトバンクグループ株式会社はキャリアカレッジというイベントを開催し、社員にキャリアについて考える機会を設けています。イベントをきっかっけに社員がそれぞれキャリア構築に積極的になり、生産性が向上したと言われています。
ソフトバンクグループ株式会社はほかにも、孫正義氏の後継者を発掘・育成するためのソフトバンクアカデミアやソフトバンクユニバーシティという独自の研修制度を設けるなど、従業員のキャリア開発に非常に力を入れている企業の一つです。
株式会社日立製作所
株式会社日立製作所はGPM(グローバルパフォーマンス・マネジメント)という制度を導入しています。これは事業と個人が連動して目標を立てることによって、メンバーが自発的に成長できるように支援する取り組みです。GPMを導入した結果として、社員一人ひとりが自律してキャリアアップでき、企業の生産性向上につながったとされています。
日本農村医学会
日本農村医学会ではキャリア開発ラダーという制度を導入しています。キャリア開発ラダーとは目標を段階的に設定して、自身を客観的に評価する取り組みです。
キャリア開発ラダーの導入により、能力と経験年数が比例しないことが判明し、参加した看護師それぞれが自身の課題を見つけることができたそうです。
こういった一種の評価制度やキャリアマップなどの仕組みも、従業員にキャリア自律やキャリア開発を考えてもらうきっかけとなるでしょう。
株式会社ティップネス
株式会社ティップネスでは、総合職と専門職でそれぞれ異なるキャリアステップを用意しています。総合職とはチーフや店舗の支配人を目指すコースで、専門職とはインストラクターを目指すコースです。総合職と専門職の間で職種転換も可能で、実際に働いていくなかで自分に合ったキャリアを見つけることができます。
こうしたマネジメントコースとプロフェッショナルコース、複数のキャリアパスを設ける試みは従業員のキャリア開発を考える上でスタンダードな取り組みです。
キャリア開発に利用できる助成金・補助金
キャリア開発には様々なメリットがありますが、コストがかかることも事実です。コストが理由となって、なかなかキャリア開発を支援できていないという企業も多いのではないでしょうか。
そんなときに利用したいのが、国や自治体が設けている補助金や助成金です。国や自治体は経済の成長を促したいということから、キャリア開発を積極的に支援しています。ここではキャリア開発に利用できる補助金をいくつか紹介します。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、正規雇用の従業員の専門的な知識や技能の習得のための職業訓練に対して、かかった費用や賃金の一部を国が助成する制度です。以下のように、様々なコースがあります。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
専門的な知識の習得、有給教育訓練等制度を使用した場合、デジタル人材や新規事業の立ち上げに必要な人材の育成などに利用できる制度となっています。
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の労働者のキャリアアップ、キャリア開発を促進するための補助金です。正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して助成が行われます。
様々な取組に対して助成してもらうことができ、その内容ごとに以下のようにコースが分かれています。
- 正社員化コース
- 障害者正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賃金規定等共通化コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 短時間労働者労働時間延長コース
正社員化した場合や賃金を改定した場合、賞与や退職金制度を設けた場合など、非正規雇用の従業員のキャリアや処遇を改善した場合に助成が行われます。
こういった補助金や助成金を利用することで、企業の負担を減らしながらキャリア開発を行うことができます。ぜひ取り入れてみましょう。
まとめ
個人にとってキャリア自律の必要性が高まり、企業も終身雇用を保証できなくなった中で、従業員のキャリア開発支援は個人にも企業にもメリットがある取り組みです。
キャリア開発支援を実施する際には、まず研修や面談でキャリア開発を考えてもらう機会を提供し、同時に、異動希望制度やジョブローテーションで実現を支援することが大事です。
転職が一般化している中で、キャリア開発の支援は優秀人材の引き留め、従業員のモチベーション向上施策としても意味がある取り組みです。ぜひ取り組んでみてください。
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