マイクロアグレッションは、特定の属性を持つ人への意識・無意識の偏見・差別、無理解などを指す言葉です。
近年では、少子化やダイバーシティ経営、また、働き方改革などの流れのなかで、人種や国籍、性別などが異なる“多様な人材”と協働することも多くなっています。こうしたなかで問題になってくるのがマイクロアグレッションです。
本記事では、まず、マイクロアグレッションの概要と3つの形態、問題点を確認します。後半では、マイクロアグレッションが職場に与える影響、職場でマイクロアグレッションが起きたときの対処法を紹介しますので、管理職の方などはぜひご確認ください。
<目次>
マイクロアグレッションとは?
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マイクロアグレッションは、小さい単位をあらわす「micro」と、他者への攻撃をあらわす「aggression」を組み合わせた言葉です。マイクロアグレッションは、以下のように特定の属性を持つ人への意識・無意識の偏見・差別、無理解などを指す概念になります。
- 人種
- 国籍
- 宗教
- 性別
- 障害
- 文化的背景
- 価値観 など
マイクロアグレッションの3つの形態
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マイクロアグレッションには、以下3つの種類があります。
マイクロアサルト
アサルトとは、“攻撃”を意味する言葉です。
マイクロアサルトの特徴は、意識的かつ意図的であることです。特定の個人や属性に対して、暴力的な言動や差別的な扱いなどをすることが、マイクロアサルトといってもよいでしょう。
マイクロアサルトは、微かなものからあからさまなものまで、レベルはさまざまです。ただ、微かなレベルであっても、明確なハラスメント行為であり、対応の必要性は明確です。
マイクロインサルト
インサルトは、侮辱という意味の英単語です。マイクロインサルトは、コミュニケーションや環境に埋め込まれた形で相手を侮辱するような行為を指します。
マイクロインサルトの場合、アサルトと異なり、加害者は無意識・無自覚であることが一般的です。したがって、明確な侮辱というよりは、無礼や無神経さに当たるかもしれません。
たとえば、本人が無自覚、相手を攻撃する意思などもなく、「女性ってこうだよね!」といった発言をしているようなケースなどが、マイクロインサルトに当たります。思いやりや気遣いのないコミュニケーションを通じて、相手の性別やジェンダー、アイデンティティなどの価値を貶めることも、マイクロインサルトになる可能性が高いでしょう。
マイクロインバリデーション
インバリデーションは、“無理解・無承認”といった意味です。
マイクロインバリデーションは、有色人種やLGBTQ、女性といった特定グループ(マイノリティなど)に属する人々の感情や経験を否定したり、無視したりするような行為になります。マイクロインバリデーションも大抵の場合、加害者は無意識であることが多いです。
マイクロインサルトやマイクロインバリデーションなどは、加害者が無自覚であり、また、一つひとつの行為は小さなものであるからこそ、対応が難しくなります。
マイクロアグレッションの問題点
マイクロアグレッション、特にマイクロインサルトやマイクロインバリデーションは、従来問題となってきたハラスメントと比較して以下のような問題点があります。
無意識的なものの見方から影響を受ける
まず、マイクロアグレッションを引き起こす当事者は、自分の“ものの見方”における偏りや差別的であることに気付いていないことも多くあります。そのため、以下のような言動が相手に対して失礼だとは思っていないケースも多くあります。
- 女性新人に対して「○○ちゃん」と呼ぶ
- 高卒のメンバーに対して「高卒なのにすごいな!」と発言する
- 「やっぱり女性はダメだな!」など、失敗理由と属性を関連付ける など
マイクロアグレッションの差別環境に加担した人も、本人たちに偏見や差別をしている意識はなく、いつの間にか発言者の影響を受けているケースなども多くあります。
マイクロアグレッションが起きたと断定しづらい
たとえば、年配の男性社員が、女性の新人に「○○ちゃん」と呼んでいたと仮定します。「○○ちゃん」と呼ばれることが不快な女性からすれば、「○○ちゃん」の呼称は“明らかな差別・無礼”かもしれません。
一方で、女性新人が先輩たちと仲良くなりたいと思い、自ら「ちゃん付けで呼んでください!」とお願いした場合、全メンバーが「○○ちゃん」と呼ぶことは本人を傷つける行為にはなりません。
偏見差別につながる振る舞いは許されるものではありませんが、上記のように同じ行為でもメンバーの関係性によっては「マイクロアグレッションだ!」とは言えないケースもあります。上記のように「絶対的にNGな行為」と「関係性によっては該当しない行為」があるのは、一般のハラスメントとも似ています。
人間関係を損ねる恐れがあるため指摘しにくい
マイクロアグレッションは、マイクロという言葉のとおり、一つひとつは“小さな”言動であることが多いです。いままで紹介した事例でいえば、たとえば「やっぱり女性はダメだな」というのは、明らかにNGな発言であり、上司やほかのメンバーも注意しやすいものとなります。
一方で、たとえば、高卒メンバーに対する「高卒なのにすごいな!」とコメントは、発言した当人は、まったく悪気なく、相手を褒めるつもりで発言している場合もあるでしょう。
繰り返しになりますが、偏見差別につながる振る舞いは許されるものではありません。ただ、本人が無自覚で、かつ悪意などもまったくない軽微なコメントの場合、発言者の機嫌を損ねたり人間関係を損ねたりすることを恐れて、また、会話の流れを止めてしまうことに気をつかって、周囲が指摘しにくい場合もあるでしょう。
マイクロアグレッションが職場に与える影響とは?
マイクロアグレッションが起きている職場は、異なる価値観・人種・性別・性的志向などの人たちにとっては「受け入れてもらえていない」環境です。
マイクロアグレッションによる偏見・差別などを受ける側からすれば、「自然体の自分をオープンにできないし、穏やかな気持ちでもいられない」ということです。受ける側の人達にとって職場の心理的安全性は低い状態です。
心理的安全性の低い職場では、偏見差別のターゲットではない人材も、無能や邪魔と思われることを恐れ、チャレンジングなコミュニケーションができなくなりがちです。抑制された結果、チーム内での活発なコミュニケーションや新たなアイデアを通じた改善、イノベーションなども生まれにくくなるでしょう。
なお、優秀な人材を採用しても、優秀なメンバーがいわゆるマイノリティであれば、自らの能力を最大限に発揮することが難しくなります。
職場でマイクロアグレッションが起きたときの対処法
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職場のマイクロアグレッションは、チームワークや生産性を損ねる問題です。そのため、企業や管理職は、マイクロアグレッションが起こらない、起きても早期に解消できる環境づくりをしていく必要があります。
上司や周囲の人が指摘する
職場でマイクロアグレッションと思われる状況が起きた場合、まずは、上司や周囲の人が、「いまのは偏見・差別では?」と指摘することが大切です。ただ、本人に悪意がない場合も多いので、注意するときは「そういう表現はやめときなよ」といったやわらかい表現のほうが良いかもしれません。
また、上司以外のメンバーがこうした指摘をし合う、また、上司に指摘をするには、気付いたことを臆することなく指摘できる関係・環境があることが大切です。
職場のマイクロアグレッションに迅速な対応ができるようにするには、「上司や周囲が指摘する」という当たり前のことを実践する、また、実践できるように心理的安全性の高い組織づくりを並行して進めることが大切です。
相談窓口を設ける
先述のとおり、マイクロアグレッションともとれるコミュニケーションへのとらえ方は、人によって大きく異なります。そのため、職場のマイクロアグレッションを防いだり早期の対応を行なったりするには、職場のコミュニケーションに違和感を覚えた被害者側から相談できる窓口を設置しておくことも大切です。
なお、マイクロアグレッションの相談窓口には、ハラスメント対策の窓口と同様に、以下のようなポイントを押さえておくことが大切です。
- 初期の段階で気軽に相談できる
- 被害者のプライバシーが守られる
- 同性や自分と価値観の似た担当者に相談できる など
適切な対応ができる窓口にするには、担当者の教育も大切です。ハラスメント対策と同じ窓口にするなら、厚生労働省の「パワーハラスメント社内相談窓口の設置と運用のポイント」という資料も参考にするとよいでしょう。
*参考:ハラスメント関係資料ダウンロード(厚生労働省)
理解を促進するワークショップを行なう
繰り返しになりますが、マイクロアグレッションの多くは「無意識」の偏見から生じています。
そのため、ワークショップや研修のなかで「どういうコミュニケーションがマイクロアグレッションに該当するか?」を伝えることで、自分の言動が“無意識の偏見差別に基づくもの”だと気付いてもらいやすくなります。
周囲のメンバーから「いまのはマイクロアグレッションでは?」と指摘するためにも、理解促進は大切です。特定の人種や国籍、ジェンダーなどのメンバーを雇い入れることが多い場合、想定しうるマイクロアグレッションの事例集を配布してもよいでしょう。
なお、チームや組織においては、上司は最も指摘しやすい立場です。逆にいえば、上司がマイクロアグレッションをしていると、周囲は指摘しにくく立場です。したがって、ハラスメント対策などと同様に、管理職やリーダー層に理解・自覚を持たせることは非常に大切になります。
本当の意味で「成果主義」を浸透させる
年齢や社歴などで昇給や昇格などが左右される年功序列に対して、成果やパフォーマンスで評価する人事制度を“成果主義”と呼びます。
形式や評価としての成果主義ではなく、“成果を出すことが大切であり、成果を出すために集まった仲間である”という精神が浸透すれば、自然と「属性」に対して評価をするような意識は薄れていくでしょう。
もちろん人事制度側でも、マイクロアグレッションの対象になりやすいマイノリティ人材も“成果をあげればちゃんと報われる/評価される状態”をつくることが大切です。適正な評価によって昇格すれば、ほかのメンバーからも敬意を払われやすくなるでしょう。
まとめ
マイクロアグレッションとは、人種・性別・文化的背景・価値観などが異なる人に対する偏見・差別・無理解などを指す概念です。マイクロアグレッションは、組織のなかで無意識に行なわれていることもあります。
マイクロアグレッションには、以下3つの種類があります。
- マイクロアサルト
- マイクロインサルト
- マイクロインバリデーション
⇒意識的な差別や暴力的な言動
⇒コミュニケーションや環境に埋め込まれた侮辱・無礼・無神経さ
⇒特定のマイノリティなどに対する経験・感情の無視
なお、マイクロアグレッションは、“マイクロ”というとおり、一つひとつの行為は些細なものであることが多く、また、前述のとおり、無自覚であることも多くあります。
3種類のうち、マイクロアサルトは注意しやすいものですが、マイクロインサルトやマイクロインバリデーションなどは「マイクロアグレッションである」という断定や注意・指摘しにくいケースもあり、見過ごされてしまうことも多くあります。
しかし、マイクロアグレッションが行なわれている組織は、マイクロアグレッションの対象となっている属性の人はもちろん、ほかの人にとっても心理的安全性が低い状態です。そのため、マイクロアグレッションと思われる問題が存在する場合、早く改善することが大切です。
職場のマイクロアグレッションを防ぐには、以下のような施策があります。
- 上司や周囲の人が指摘する
- 相談窓口を設ける
- マイクロアグレッションの理解を促進するワークショップを行なう
- 本当の意味で「成果主義」を浸透させる
マイクロアグレッションを防ぐには、上記の施策のほかに、心理的安全性の高い組織を目指すことも大切です。現状のチームにおける心理的安全性が高いかどうかは、以下ページの7つの質問を通じてチェックしてみるとよいでしょう。







