イエスと答えられる問題を選ぶ|デール・カーネギー『人を動かす』

更新:2022/10/31

作成:2022/10/30

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

"イエス"と答えられる問題を選ぶ|デール・カーネギー『人を動かす』
「ねぇ!『東京コーヒー』って10回言ってみて!」
「東京コーヒー、東京コーヒー、東京コーヒー・・・・東京コーヒーっと。はい10回!」
「さて問題です。学校を休むことを何というでしょう?」
「登校拒否!」
「残念!正解は『欠席』でーす!」

子供の頃に、このような言葉遊びをしたことはないでしょうか?「そういえば、友達とやったことがあるなぁ」と懐かしくなった人もいるかもしれません。

上記の場合だと、回答者は正解が「欠席」だと分かっていても、先に繰り返した「東京コーヒー」に引きずられてしまい、つい「登校拒否」と答えてしまうわけです。

例に挙げた言葉遊びは“10回ゲーム”と言い、「人は、先に得た情報をその後の意思決定に無意識の内に反映させてしまう」という心理学のプライミング効果に基づいた遊びです。

このプライミング効果は、言葉遊びにとどまらず、私たちの実生活においても活用できるものです。

うまく利用することで、ビジネスや交渉の場において、”Yes”を引き出すことが難しい相手からポジティブな返事を引き出すといったことも可能になります。

コミュニケーションとリーダーシップに関するベストセラー書籍『人を動かす』では、「”イエス”と答えられる問題を選ぶ」という表現で、このプライミング効果の応用ともいえるコミュニケーションの原則が紹介されています。

本記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より、「人を説得する12原則」のひとつとして紹介されている「”イエス”と答えられる問題を選ぶ」について解説します。

なお、本原則は書籍では「”イエス”と答えられる問題を選ぶ」ですが、デール・カーネギー研修の受講者に配られるゴールデンブックでは「相手が即座に”イエス”と答える問題を選ぶ」と表記されています。

記事内では、よりシンプルに表記された書籍の表現に合わせて解説していきます。

<目次>

『人を動かす』とデール・カーネギー

記事では最初に書籍『人を動かす』の概略と著者デール・カーネギーについて簡単に紹介します。

デール・カーネギーとは

『人を動かす』の著者デール・カーネギーが生まれたのは、1888年アメリカ・ミズーリ州でした。教師を志していたカーネギーは、地元の教育大学を卒業すると、中古車の販売職を始め様々な仕事を渡り歩きます。

しかし、いずれの仕事でも芽が出ることはなく、カーネギーにとって、失意の日々が続くことになりました。

そんな日々の中、カーネギーはある時YMCAの夜間学校で、話し方教室の講師を担当する機会に巡り会います。

もともと教師を志望していたこともあり、この仕事はカーネギーにとって天職と言えるものでした。

カーネギーが登壇した授業は瞬く間に評判となり、仕事は軌道に乗り始めます。

カーネギーは授業の中で、生徒たちに必要なのは話術だけでなく、人間関係を構築する術であるということに気づきました。

そこでカーネギーは、心理学や偉人の伝記などを徹底研究し、自分で教材やプログラムを開発していきます。

そして、開発した教材やプログラム、実践経験を基にして、『人を動かす』の書籍としてまとめあげました。

その後もカーネギーは自身の研究所を設立し、コミュニケーションとリーダーシップ分野の大家として大きな成果を上げることになります。

書籍『人を動かす』

『人を動かす』は、カーネギーが1936年に出版した書籍です。

当初こそ3000部という少ない部数で出版されましたが、その後は評判が評判を呼び、あっという間にベストセラーになりました。

本書の中でカーネギーは、様々な事例を通して『人を動かす』ことの神髄を述べながら、私達はどのように人と関われば良好な人間関係を築けるのか、そして、人を動かすことができるのかを懇切丁寧に解説しています。

発行から80年以上が経つ現在でも、同書は世界中の人々に読み継がれ、日本国内で430万部、世界で1500万部以上を売り上げています。

『人を動かす』は、私たちが生きていく上で身につけるべき人間関係の原則を説いた不朽の名著と言えるでしょう。

「人を説得する12原則」

書籍『人を動かす』は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」の4パートから構成されており、全部で30の原則が紹介されています。

本記事のテーマである「”イエス”と答えられる問題を選ぶ」は、「人を説得する12原則」のひとつです。

「”イエス”と答えられる問題を選ぶ」の詳細に入る前に、本章では「人を説得する12原則」の一覧を簡単に紹介します。

1.議論を避ける
誰かと議論をした際、議論には勝ったものの、相手は結局言うことを聞いてくれなかったという経験はないでしょうか。

人間は論理だけでなく、感情で動く生き物でもあります。

従って、正面から議論して相手をコテンパンに打ち破っても、“人を動かす”うえでは意味がないということもよくあります。

カーネギーは、そもそも「正面から議論して勝敗をつける」という状況を作らないことが大切だと話しています。

2.誤りを指摘しない
私達は、誰かの言動に過ちを認めたとき、つい指摘しがちです。

しかし、正面から過ちを指摘されれば、相手の自尊心は傷つき、指摘した相手に対して反発心をいだくことになるでしょう。

議論で勝敗をつけるのと同じく、手厳しく過ちを指摘することは“人を動かす”うえでは逆効果になることも多いのです。

過ちを指摘する時は、相手自身に気付かせる、また、相手の気持ちにも配慮して婉曲な表現で注意することが大切です。

3.誤りを認める
私達人間は間違いや失敗をしてしまう生き物です。大切なのは、間違いに気づいたら自ら認めてしまうことです。

言い訳をしたり間違いを認めなかったりするよりも、素直に誤りを認めて自らを批判するほうが遥かに相手に好印象を残すことができるでしょう。

4.穏やかに話す
たとえ相手と意見が合わないことがあったとしても、感情的、威圧的な態度・話し方で接することは禁物です。

相手は警戒心を抱き、ガードを固めてしまいます。相手に「私はあなたの味方である」と認識させるような穏やかな話し方や態度を心がけましょう。

5.”イエス”と答えられる問題を選ぶ
人は一度「ノー」と言ってしまうと、後から自分の意見を変えたり、引っ込めたりすることがなかなかできなくなります。

だからこそ、人を説得したいのであれば、最初は相手が「イエス」と言える話題から始め、徐々にイエスを重ねながら、議論を進めていくことが大切です。

6.しゃべらせる
相手を説得したいのであれば、自分が話すのではなく、相手に喋ってもらうことが鉄則です。

人は「喋りたい」生き物です。まずは相手に自分の意見や言い分、相手から見た状況を思う存分喋り切ってもらった後で、こちらの言いたいことを伝えましょう。

心置きなく、相手に喋ってもらうためには、良い聞き手になることが重要です。

7.思いつかせる
私達は、人から言われてやる時よりも、自分の頭で思いついたことの方が、遥かに高いモチベーションで物事に取り組めます。

したがって、相手に動いてもらいたいときは、ヒントだけ提供して、相手自身にアイディアを考えてもらったり、相手に結論を出してもらったりすることがポイントです。

8.人の身になる
相手の考えや行動には、相手なりの理由があります。「この人からはどんな風に見えているだろうか?」「どう感じたのだろうか?」というように、相手の身になって考えてみることが大切です。

9.同情を寄せる
私達は多かれ少なかれ、他者からの同情や共感に飢えています。

だからこそ相手の身になって考え、「あなたの気持ちはよく分かる」「私があなたの立場だったら同じように考え行動したかもしれない」と同情を寄せる、共感することが大切です。

10.美しい心情に呼びかける
私達は心のどこかで、“自分自身は品行方正で分別のある人間、良い人物である”と思いたいものです。

だからこそ、相手が持つ「立派な人物でありたい」という感情を刺激してあげることによって、相手が自ら進んで行動するように誘導することもできるでしょう。

11.演出を考える
同じ事を伝えるにしても、伝え方一つで相手からの見え方や受け止め方は変わります。人を動かすには、ときに演出を考えることもポイントになってきます。

12.対抗意識を刺激する
多かれ少なかれ、人は他者よりも優れていたい、秀でていたいと心の中で思っています。

だからこそ、相手を動かす上では、対抗意識や競争心を適度に刺激することが有効に働くこともあるでしょう。

「”イエス”と答えられる問題を選ぶ」の詳細と実践

記事のテーマでもある「”イエス”と答えられる問題を選ぶ」について詳しく解説します。

1.「イエス」と答えられる問題から話を始めることで、相手と合意を重ねていく

カーネギーは、人を説得するに際して、会話の最初から、お互いの間で意見が異なる話題、相手が「ノー」と言うような問題を取り上げてはならないと話しています。

なぜなら、冒頭で相手に「ノー」と言わせてしまうと、その時点で相手の姿勢が「ノー」、あなたに対する対立の姿勢になってしまうからです。

逆に「ノー」ではなく「イエス」と相手に繰り返し答えてもらい、合意を重ねていくことができれば、最終的に相手を説得することも容易になるでしょう。

カーネギーは『人を動かす』の中で、「”イエス”と答えられる問題を選ぶ」の原則を用いて、望む結果を得たエピソードを以下のような紹介しています。

銀行員のジェイムズ・エバーソンの元へ、ある時、預金口座を開こうと訪れた顧客がいました。エバーソン氏は、顧客に必要事項の記入を案内します。

ところが、親族に関する質問になると、相手は一向に答えてはくれませんでした。熟慮の末、エバーソン氏は、次のような対応をとることにしました。

「私は常識にかなった態度をとってみようと決心しました。銀行側の希望ではなく、客の希望について話そう。そして、最初から”イエス”と客に言わせるようにやってみようと思いました。そこで、私は客に逆らわず、気に入らない質問には、しいて答える必要はないといいました。そして、こういい添えました──『しかし、仮に預金をされたまま、あなたに万一のことがございましたら、どうなさいます? 法的にあなたに一番近い親族の方が受け取れるようにしたくはありませんか?』 彼は”イエス”と答えた。私はさらに、『その場合、私どもが間違いなく迅速に手続きができるように、あなたの近親者のお名前をうかがっておくほうがいいとお思いになりませんか?』と尋ねました。彼は”イエス”と答えます。私たちのためではなく、彼のための質問だとわかると、客の態度は一変しました。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

エバーソン氏は、最初に大きな目的から入って相手との合意を重ねていくことで、スムーズに親族に関する情報に答えてもらうことができたわけです。

もし相手との合意を重ねず、「手続き上必要なので、親族の情報を教えて下さい。答えていただけないなら、口座を開設することはできません」と対応していたらどうなったでしょうか。

顧客は質問に答えようとはせず、へそを曲げて早々に帰ってしまったかもしれません。

上記のエピソードは些細な話に見えるかもしれませんが、まずはお互いの意見が一致する話題、相手が「イエス」と答えられる質問から話を始めることで、相手を意図する方向へ導いていく分かりやすい事例です。

2.相手から「イエス」を引き出す聞き方とは?

相手から「イエス」を引き出す聞き方に長けていたのが、古代ギリシアの哲学者として名高いソクラテスでした。

「ソクラテスは、相手の誤りを指摘するようなことは、決してやらなかった。いわゆる“ソクラテス式問答”で、相手から”イエス”と言う答えを引き出すことを主眼としていた。まず、相手が”イエス”と言わざるをえない質問をする。次の質問でもまた”イエス”と言わせ、次から次へと”イエス”を重ねて言わせる。相手が気づいた時には、最初に否定していた問題に対して、いつの間にか”イエス”と答えてしまっているのだ。相手の誤りを指摘したくなったら、ソクラテスのことを思い出して、相手に”イエス”と言わせてみることだ。」
(デール・カーネギー『人を動かす』より引用)

ソクラテスが実践したように、私達もビジネスや普段の人間関係で、相手から「イエス」を引き出すことが大切です。

相手から「イエス」を引き出す聞き方のポイントを3つお伝えします。

1つ目は、まず相手が同意できる問題、相手と合意している問題を探すことです。

例えば、「この交渉でお互い合意して、こういう結果を得たいと思っていますよね?」「win-winになる結果を導き出して、長いお付き合いをしたいと思っていますがいかがでしょう?」「いま私達の間で合意できているのは、ここですね?」といった形で、より大きなテーマや前提条件を探しながら対話を進めていくと、うまくいきやすいでしょう。

2つ目は、「確かにおっしゃる通りですね」「なるほど、そういうことなんですね」というように、相手に共感を示すことです。

共感を示しても、相手からイエスを引き出すことには繋がらないのでは?と思えるかもしれません。しかし、あなたが同意を示すことで、相手は、「そうそう!そうなんだよ。これがこうで…」とイエスを返して、同意の言葉を重ねてくれることが多くなるでしょう。

最後の3つ目は、自分なりの主張や見解を持っている相手に対して、「A案とB案は、それぞれメリットがありますよね」「この状況であれば、B案もいけそうですね」「A案にも、〇〇の良さはありますよね」というように、断定した物言いをせず、相手の言葉を肯定する、ということです。

これも2つ目と同じように、相手はイエスを返し、言葉を重ねてくれるでしょう。

どんなに肯定的な返事を引き出すのが難しそうな相手であっても、視点を変えたり、聞き方を工夫したりすることで、何かしら「自分と相手で一致している部分」を見つけることはできるはずです。

商談や交渉事においても、相手に「イエス」と答えてもらうことで、少しずつ相手の心情を肯定的な方向に導いていくことも可能になるでしょう。

3.ビジネスシーンで実践する「イエスセット話法」

ここまで、”イエス”と答えられる話題から話を始めることの重要性、および、相手から「イエス」を引き出す聞き方をお伝えしました。

営業テクニック等に詳しい方ですと、「“イエス”と答えられる問題を選ぶ」という原則は「イエスセット話法」と共通していることに気づいたかもしれません。

「イエスセット話法」とは、何度も「イエス」と答えてもらうことで、次の質問にも「イエス」と言いやすくなる、あるいは「ノー」を言いにくくなる素地を作る、という主に営業のテクニックです。

「イエスセット話法」は、始めにイエスと答えられる話題から入ることで相手の心理をイエスに導いていくという、カーネギーの原則を踏まえたものです。

「イエスセット話法」について、実例を交えてお伝えします。ここでは、子供向けの英語教材のセールスを事例にみていきましょう。

イエスセット話法を使わずに、いきなり相手を説得しようとするとこうなります。

  • あなた「お子様にこんな英語教材はいかがですか?こんな素晴らしい商材です!」
  • お客様「学校でしっかり勉強しているので大丈夫です」

このような聞き方では、お客さんは本気になって話を聞いてくれようとはしないでしょうイエスセット話法を使ったらどのような会話になるでしょうか?

  • あなた「お子さんには、すくすく成長して、将来も幸せであってほしいですよね」
  • お客様「もちろんです!」
  • あなた「お子さんが社会に出る10年後を想像してみてください。いまより英語力が必要になる場面が多くなりそうだと思いませんか?」
  • お客様「確かにそうですね…」
  • あなた「ただ、大人になってから外国語を習っても吸収力が落ちるんですよね。子供のうちに苦労せずに身に付けてしまった方がいいと思いませんか?」
  • お客様「それはそうですね」
  • あなた「もちろん学校でも英語を習われていると思いますが、学校の授業だけで十分喋れるようになるでしょうか?」
  • お客様「うーん、そういわれると難しいですね」
  • あなた「そうなんです。皆さんそうおっしゃるんです。そこで学校以外の教材を使って、子供のために英語が身に付くようにしている親御さんが多いんですよ」
  • お客様「なるほど、そうなんですね」

上記のように、相手から何度もイエスの答えを引き出していくと、本命の質問にも、「イエス」と返答しやすい雰囲気が生まれてきます。

ビジネス等でイエスセット話法を実践するポイントは、「ほとんどの人が“イエス”と答えるであろう質問」を投げかけるという事です。

上記の例で言えば、殆どの親御さんは「子供に幸せであってほしい」「将来はもっと英語力が必要になりそう」と考えているでしょう。

このように、相手が「イエス」と答えるポイント、相手が得たいもの、大きなゴールを意識することが、「”イエス”と答えられる質問を選ぶ」を実践する勘所です。

まとめ

記事では、デール・カーネギーの著書『人を動かす』より、人を説得する12原則のひとつである、「“イエス”と答えられる問題を選ぶ」をテーマにお伝えしました。

説得したい相手がいるのであれば、相手が「ノー」と答えるような話題から入ることは禁物です。

相手は、最初に「ノー」と答えたことに引きずられ、以降の会話でも、あなたに否定的な意識・態度をとりがちになってしまいます。

人を説得する際は、相手が「イエス」と答えられる話題から会話を始め、「イエス」を引き出すような質問・聞き方を繰り返していくことが重要です。

記事では、「“イエス”と答えられる問題を選ぶ」の実践技術として、イエスを重ねていく「イエスセット話法」などの方法も紹介しました。

記事の内容が、今後のビジネスや私生活で、望む結果を得るヒントになれば幸いです。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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