ぶら下がり社員に対して適切に対応できるようにするためには、なぜ組織にぶら下がるようになってしまうかという背景を知っておくことも重要です。
ぶら下がり社員が生まれる背景には、どのような要因があるでしょうか。
VUCA時代ならではの不安
現代は「VUCA時代」とも呼ばれる、先行きが不透明で将来予測が難しい時代です。
近年では、学習したデータをもとに文章や画像、音声といった様々なコンテンツを生み出す「生成AI」も登場し、ビジネスの世界に大きなインパクトを与えつつあります。
雇用に影響を与えるという話も多く出ており、一部の業務が実際に置きかえられたり、置き換わりそうな領域の採用を控え始めたりする企業も出ています。
そのような中で、時間とお金をかけてスキルを身につけても、ある日突然、AIに代替されてしまうリスクは否めません。
せっかく苦労して積み上げてきたものが一瞬で台無しにされてしまうかもしれないと思うと、どうしても積極的に新しいことを学ぼうということにはなりにくいものです。
スキル開発には、長い時間と労力を必要とします。
未来の可能性を感じており、また、学ばなければならない知識やスキルが多い新人や若手であればともかく、現状の仕事をまわしていけるだけのスキルがあるミドルやシニア世代になると、どうしても新しいスキルを身につけることに対して後ろ向きになってしまいがちです。
組織内に変化が少ない
変化が少なく、安定した組織というのも、ぶら下がり社員を生み出す要因のひとつです。組織内に刺激や緊張感がなくなることで、気持ちが緩みがちになり、だらだらとしてしまいやすくなります。
また、変化を拒んでばかりの組織では、「何をやっても変わらないだろう」というあきらめ感が蔓延しやすいものです。
このように変化が少ない組織では、変化を好む積極性のある人材は途中で離職していき、結果的に現状維持を好む社員ばかりが残る、そして、ぶら下がり社員の多い組織となっていきます。
キャリアパスが見えない
ぶら下がり社員になってしまった人の中には、社内での出世競争に弾かれてしまった人も多くいます。
入社当初は、組織内でステップアップしていくことを思い描いて意欲的に仕事に取り組んでいましたが、出世コースから外れてしまったことで、自分が成長していく未来を描けなくなってしまうのです。
未来に希望が描けなければ、意欲的に取り組もうという気が起こらなくなってしまうものです。
また、前述の通り、「自分がやっている仕事も、いつかはAIに代替されてしまうかもしれない」という漠然とした不安があれば、今やっている仕事でステップアップしていこうとも思えなくなってきます。
いずれにせよ、先行きに希望や可能性がなくなることで意欲的に挑戦できなくなり、守りの姿勢に入ってしまうのです。
前述の通り、フラット型の組織などが増えてはいますが、組織がピラミッド型になるのはある程度をやむを得ない側面はあります。
その中で、出世競争で弾かれたり、自分の将来に漠然とした不安を抱えたりする人が出てくるのは自然なことです。
それに対して、キャリア開発の支援策や人事制度上の仕組みを構築しておかないと、組織内にぶら下がり社員がたまっていってしまう一因になります。
自信の無さやあきらめ
社内での出世競争に弾かれ、また、人事評価制度などで評価されないことが続くと、人はやがて負け癖がついてしまいます。
また、上司や組織に何かを提案するに際しても、却下されてばかりともなれば、やがて提案しなくなっていくでしょう。
さらにミドル・シニアになっていくと、体力的にも若い時のように無理が効かない、衰えていることを感じるようになり、ますます無力感に拍車がかかりがちです。
仕事の過度な分業化
分業して仕事を進めるやり方は、組織として効率をあげる手段となります。しかし、分業化を過度に進めてしまうことは、ぶら下がり社員を生む一因にもなり得ます。
同じような作業をひたすら繰り返すだけということが多くなり、少ない労力で効率よく処理できるので、自分の頭で考えることが少なくなっていきます。
また、仕事の全体像もつかめないまま、自分の仕事にどんな意味があるかを考えずに取り組むことにも陥りがちです。
仕事に対するやりがいを見失ってしまい、楽な方へ流されていってしまうと、ぶら下がり社員になりやすくなってしまいます。
さらに、現代は、外部環境の変化に応じて、また、IT化やDX化などの影響で、専門化した仕事のひとつが必要なくなる、大きく変えざるを得ないといったことも生じます。
そうした際には、今までその仕事をしていた社員にリスキリングしてもらう必要が出てきますが、過度に分業化された中で長く働いていると、新たな仕事を適応できず、いつしかぶら下がり社員になってしまうというケースもあります。
成長や働きがいを求める人材の外部流出
近年、働き方改革として、時間外労働の削減や多様で柔軟な働き方などに多くの企業が取り組んできました。結果として、ワークライフバランスを取りやすいホワイト企業は確実に増えています。
しかし、そうしたホワイト企業においても、若手社員の離職が問題になっています。
一見、こうしたホワイト企業は働きやすくて問題なさそうに見えますが、成長を求める若手からすると「生ぬるく感じてしまう」という声も聞かれます。
また、「この会社にいて、市場で通用するようなスキルが身につくだろうか? のんびりと10年働いていたら市場価値が無くなってしまうのではないか…」という漠然と不安を持ち、離職していってしまうケースもあります。
仕事に対して積極的な姿勢を持った人材が抜けていくと、ホワイトな職場に居心地の良さを感じてぶら下がってしまう人の比率が増えていきます。
働き方改革も大切なものであり、残業時間などを削減して働きやすくすることが重要ですが、同時に、挑戦を求める人にその機会を提供できるようにしなければ、ぶら下がり社員が増える組織を生んでしまうことにもなりかねません。
学習性無力感
ぶら下がり社員が生まれてくる背景には「学習性無力感」も大きく関わってきます。
誰でも入社したての頃は、自分なりに工夫したり、提案したりするものです。
ところが、その努力が実らずに、ひたすらダメだったという経験を積み重ねてしまうことで、次第に「自分は何をやってもダメだ」という思い込みに縛られるようになっていきます。
そうなってくると、何かに挑戦するチャンスがめぐってきても、「どうせ無理だろう」とやる前からあきらめてしまうようになってしまいます。
これが学習性無力感と呼ばれるものです。ぶら下がり社員を生み出すひとつの要因が学習性無力感であり、積極性が失われてしまう原因の一つです。