終身雇用が崩壊して転職が当たり前となり、働き方も多様性といわれる時代に求められる「キャリア自律」。うまく取り入れることで従業員のエンゲージメント向上につながる施策であり、取り組み始めている企業も多いことでしょう。しかし、上手くいっていない企業や、失敗してしまい、逆に離職につながってしまっているケースもあります。
記事では「キャリア自律」の支援がうまくいっている企業とそうではない企業では何が違うのか?どのようにすれば「キャリア自律」の支援がうまくいくのか?実際にあった事例を共有しながら解説します。
*本レポートは2024年7月10日に開催したセミナーを基に作成したものです。予めご了承ください。
<目次>
キャリア自律とは?
本記事で扱うキャリア自律の定義について、事前に説明しておきたいと思います。
最近、「キャリア安全性」という言葉もよく耳にするようになりました。キャリア安全性というのは、従業員が「この職場で働き続けた時、自分のキャリアは大丈夫か?」と感じているかという概念であり、中長期的なキャリアの展望を描ける会社かどうかということです。
キャリア安全性が低いと、将来が不安になってしまい、従業員の離職が加速します。従って、会社は従業員のキャリア安全性を高める必要があります。
但し、キャリア安全性を企業として支援することは必要ですが、従業員側の主体性を促し、タッグを組んでこそ、キャリア安全性は高まります。そのためにもキャリア自律、つまり従業員が主体的にキャリア形成に取り組むマインドを持ってもらう必要があります。
キャリア自律が求められる背景
なぜキャリア自律が求められるようになったのかも確認しておきます。
①雇用制度の変化
過去の雇用制度では、終身雇用を前提に、その代わり、異動や配置、昇進昇格を企業が主導していく状態でした。しかし、いまは人手不足もある中で、とくに優秀層や若手を筆頭として、その主導権が従業員に変わりつつあります。
終身雇用制度が崩壊し、働き方が変化している背景としては、まずVUCA時代とも言われる不安定な経済状況や時代の変化からくるところが大きいでしょう。さらに、IT化やデジタル・AIの導入で働き方も変わってきました。また、労働人口も減少する中で、会社も優秀層や若手人材をなかなか採用できない状況があります。
こうした中で、終身雇用と年功序列という制度は完全に崩壊し、転職が当たり前であり、成果主義とジョブ型という雇用制度に変わりつつあります。
現在は、「この会社に入ったらずっと雇用を保証してもらえる」という時代ではありません。その中で、従業員にもキャリア自律が求められるようになってきました。
②ジョブ型雇用の普及
この数年で、大手企業を中心にジョブ型の人事制度を導入する企業が増えてきました。ジョブ型の雇用制度では、希望する仕事に就くためには従業員にも積極的なスキルアップやリスキリングが必須になってきています。
現在増えつつあるジョブ型と対比して、日本の雇用はこれまでメンバーシップ型と言われてきました。
新卒一括採用して、人に仕事を割り当てて、若いうちは同じようなペースで昇進していく。そして、いろいろな部署を渡り歩いて、総合的に役割を決めていくのがメンバーシップ型、つまり「人」が中心にある雇用です。
過去の日本は人材の流動性は低かったですし、強化したい分野や部署に企業側が自由に人を配置したり、長期的な育成をしやすかったりするのがメンバーシップ型です。
しかし、今は終身雇用が崩壊して、また仕事の専門分化が進む中で、メンバーシップ型では生産性が上がらないという状態になってきました。つまり、転職が当たり前になると長期的な視点での育成をしにくい、また、専門性がない総合職は成果をあげられないという状態です。
ただし、現在増えているジョブ型は、欧米のジョブ型雇用をそのまま取り入れているのではなく、日本独自の方法で社内の配置や処遇の面から少しずつジョブ型を導入してフィットさせていこうという形です。
ジョブ型の大きな特徴は、ジョブディスクリプションです。ジョブ型を導入した企業の多くは「この仕事/職位はどういう能力やスキルを要します」というのを明確に記述しています。そして、求められるスキルや成果に対して待遇が決まっていきます。
ジョブ型を導入して上手くいっている会社からは、人材を効率よく確保し、ミスマッチを防げるようになったという声が聞かれます。
メンバーシップ型からジョブ型に変えていく会社が増えている中で、ミドルやシニア層は給与が下がる方とそのまま維持できる方が明確に分かれつつあります。また、受け身の人やスキル・知識をブラッシュアップできていない人は、今までのように何となく目の前の頑張っても給与やポジションが上がっていかないという状態になります。
③キャリア観の多様化
40代中盤以上、就職氷河期世代の人がこれまで培ってきた仕事観は、現在とは時代背景や状況が全く違っていました。当時は「仕事中心」の考え方が普通です。仕事を中心に住む場所を決め、役職や給与を上げるためには、希望とは異なる異動や転勤も受け入れないといけないという時代でした。
日本がまだ今ほど物質的に充足はしておらず、一方で、日本経済は中長期的には右肩上がりに成長してくような展望があり、「頑張れば、我慢した分は将来の報酬で報われる」という思いもありました。当時は、キャリア=仕事という方が多かったでしょう。
但しミドルシニア層になっていけば、全員が満足に昇進昇格できているわけではありません。出世コースから外れてモチベーションが下がってしまう方もいますし、その中でミドルシニア層にもっと活躍してほしいという悩みを抱えている会社も非常に多いです。
一方で、今の世代は「人生中心」という価値観が増えており、キャリア=生き方であり、キャリア=人生です。そして、幸せな人生を送るための一部に仕事が入ってくるというイメージです。当然、仕事を優先して、人生を犠牲にするという価値観はありません。そして、終身雇用も年功序列も崩れ、かつ日本経済が成長というよりは衰退するのではないかという見込の中で、「いま我慢すれば将来報われる」という感覚はありません。
キャリア=仕事であり、キャリアの成功=昇進・昇格と待遇UPであった時代と比べて、キャリア=人生となると、非常に幅広くなってなります。当然、正解も1つだけではなく、人生を含めたキャリア支援はすごく難しくなってきているという実態です。
キャリア自律を促進するメリット
次に、企業が従業員のキャリア自律を支援することで得られるメリットを見ていきます。
パーソル研究所が行った調査によると、キャリア自律している社員ほどパフォーマンスが上がるというデータが出ています。自分でキャリアを描こうという主体的な意思を持っている人は、やっている仕事にも意味づけがされやすく、取り組む姿勢も変わってきます。
企業から「うちの社員は研修をやっても、自己啓発の機会を提供しても、全然学んでくれません…」というような相談をいただくこともありますが、キャリア自律できている人は学ぶ姿勢も変わります。
仕事の充実感も同様です。キャリア自律できていない方は「仕事が面白くない」と感じていたり、受け身で割り切って仕事をしており「それは私の仕事ではありません」と言ってしまったりするような働き方になる傾向にあります。また「会社がこうだから給与が上がらない」とか「うちの会社は他社と比べてこれがダメだよね」といった不平不満も多く、パフォーマンスが低くなってしまう傾向もあります。
なお、キャリア自律の話をすると、経営層の中には「キャリア自律したら、辞めてしまうのではないか?」と心配される方も多いです。私達は国内最大級のキャリア自律支援プラットフォームを運営していますが、そのデータ等を見ていても心配はいりません。
こちらはパーソル研究所の調査結果ですが、キャリア自律できている従業員ほど定着率が上がる、キャリア自律と定着率に相関があるというデータです。
若手ほどキャリア自律による定着率への影響が大きくなっています。
大手や中堅企業における若手の離職というのは、入社数カ月で辞めてしまう、現場配属されていきなり「辞めたい」と言ってくるような早期離職は殆どありません。
いきなり辞めたいではなく、まずはモヤモヤが出てきます。例えば「職場の人間関係がうまくいかない」「イメージしていた仕事と違う」「希望の部署や勤務地ではなかった」などを通じて、まずモヤモヤが始まります。このモヤモヤに対して、自分自身で考えて課題が整理できる状態だと大事態にならず解消できます。
一方で、「採用のメッセージと現場の人で言っていることが違う」「先輩や上司は忙しそうで仕事を教えてもらいにくい」といった小さな不満を自分の中で溜め込んでしまうと、それが積み重なって「私はこの会社にあっていない」「この会社は古い会社なのではないか。働き続けても未来はない」となって辞めてしまいます。
また、上記は入社2~3年目でも生じます。入社数年目の場合は、小さな人間関係や仕事の悩みに加えて、徐々に仕事に慣れている中で「この会社でこのまま仕事していて大丈夫かな?」という悩みが出てきます。スタートアップに入社した同期やSNS上では、華々しく活躍して既にリーダーやマネージャーになっている人も出てきます。
その中で「この職場で不満を我慢して、このまま働いてもダメなのではないか…」という不安がどんどん増幅されます。そして、何かをきっかけに「転職サイトに登録する」「人材紹介会社に登録する」という行動に転化して離職が生まれます。
いずれにしてもキャリア自律を支援すると辞めるのではなく、むしろキャリア自律していないまま、小さな不安や悩みが積み重なることが離職につながります。きちんと仕事や人間関係、キャリアの悩みを早期に解消し、キャリア自律させることが大切です。
確かに、キャリア自律を支援する中で「うちの会社では自分が望むキャリアは描けない」と考えて辞める人は発生するかもしれません。ただ、それを恐れるあまり、多くの若手が「このまま働き続けて大丈夫だろうか…」とエンゲージメントが低い状態で働いている、そして、不安や不満から離職する状態を放置する方が、企業の生産性や成長にとって大きな問題です。
キャリア自律施策の失敗事例
様々な会社でキャリア自律の相談をいただく中で、典型的な失敗事例をいくつかご紹介します。
①バックキャスティング型のキャリア教育
最初の失敗ケースはバックキャスティング型のキャリア教育です。
前述の通り、会社がキャリア自律を支援する、その第一歩としてキャリア研修などを実施することは良いことです。ただし、キャリア教育をする際に過去の感覚でコンテンツを組むと逆効果になることがあります。
例えば、Must-Will-Canのキャリアビジョンと、5年後・10年後のキャリア年表を書くといったコンテンツです。このコンテンツ自体が悪いわけではありません。ただ、その背景に社内での昇進昇格を目指してもらおうといった姿勢があると、上手くいかない確率は高まります。
今の時代、そもそも仕事が人生の中心ではなく、また同じ会社で昇進・昇格を目指していくというキャリア形成を目指す人は決しては多くありません。そもそも昇進・昇格がキャリアの成功だと思っていない若手も増えています。
逆にキャリア研修をして上手くいっている会社は正解を押し付けない、また、人生も含めたキャリアを考える、そして、キャリアの中にうちの会社で仕事をするという選択肢があるというぐらいの姿勢でキャリア自律を支援しています。
これは若手に限ったことではありません。家族をお持ちの方は、家族の幸せを叶えることが人生の中心となり、その手段としてキャリアがあり、仕事が入っているわけです。このように、人生を含めたキャリア形成を会社として支援していく必要があります。
もちろん会社としては、うちの会社で活躍し続けてもらいたいのが本音です。ただ、それは自社を魅力的な職場とすることで実現する必要があり、会社内で押し込めてキャリアを描かせるようなキャリア支援をすると逆効果になってしまいます。
②多様化するニーズへの一律対応
キャリア教育を失敗しないためにポイントとなるのはキャリアの正解をひとつのモデルにするではなく、多様な活躍モデルを会社として許容することです。
価値観が多様化し、働き方の選択肢も増えた中で、年代・性別・性格などによって、何を持ってキャリア、人生を成功と考えるかは本当に多様化しています。結果として、従業員のニーズに同じ仕組みで一律対応することがフィットしなくなってきています。
もちろん一律対応が悪いわけではありません。従業員に対して公平性を担保することは大前提として非常に重要です。ただし、すでに公平性を担保した一律の基本施策をある程度動かせている会社は、次のステージとして同質対応から個別対応に切り替えていくことが望ましいでしょう。
これまで全くキャリア自律に取り組んできておらず、これからキャリア自律の支援を始めるという段階では、まずは公平性を担保するために一律対応は必要になってきます。例えば、キャリア研修や定期的なキャリア相談、社内公募制度、自己啓発の支援などは一律対応、平等の仕組みであることは大切でしょう。
一方で、自律支援やダイバーシティ推進がうまくいっている企業ほど、次のステージとして挙手型のキャリア相談、選択・自己応募型の人事制度などの個別対応に入ってきています。
③場当たり的な施策の連打
3つ目の失敗事例は、「最近若手の退職が頻発しており、経営層から対策を指示されて、慌てて若手向けのキャリア研修をやる」といった火消し対応、場当たり的な施策が連打されている状態です。
生じた問題に対して何もしないことは最も問題がある状態で、すぐ対応することは良いことです。しかし、一時的な対応に終始して、本質的な対応になっていないケースも多くなっています。
キャリア自律の支援というのは中長期的に取り組むものです。短期的な場当たり的な対応を繰り返していると、あまり成果が出ず、従業員からも見透かされてしまいます。
中長期で本質的な課題解決を考える際に、組織調査を用いる会社も多くあります。組織調査は有効ですが、もう何年もサーベイを実施している会社であれば、さらに深掘りをしていくことが大切です。
組織調査をしているのに上手くいっていない会社は、データの解析と打ち手がリンクしていないことが多いです。また、サーベイをして現状確認しているだけになってしまい、現場社員の本音が聞けていない状況になってしまっていたり、共通化されたサーベイの結果を見て、「ここの不満は分かるけど、そう簡単に手が打てる話でもないんだよね…」と放置してしまっていたりする状態も多いでしょう。
④評価や業務の進捗管理だけの1ON1
この10年ほど1on1を導入した会社も多いですが、1on1が上手く機能していない企業もかなりあります。1on1という名前の評価面談や業務レビューになっており、実務以外のテーマ、キャリアやプライベートのことが話されていないといった状態です。
例えば、評価のフィードバックで、上司が改善ポイントを解説した後、面談の最後で「君は将来何がやりたいの?」と聞かれても本音は聞き出せません。
また、本来の1on1は「部下のための時間」ですが、実態は「上司のための業務確認の時間」になってしまっていることも多いです。これは、上司だけに原因があるのではなく、部下も信頼関係がない上司に本音を話しづらく、差しさわりのない業務の報連相に終始しているケースは多いでしょう。
1on1が悪いわけではなく、ある大手企業では、1on1の実施頻度と満足度が明確にエンゲージメントに相関しているという調査データも出ています。
ただし、「1on1を実施しているから大丈夫」というのは要注意です。逆に、1on1が退職や転職の決め手になってしまっていることもあります。1人1人に合わせた1on1というのは難易度が高いので、上司の支援も設計のポイントになってきます。また、1on1の満足度や効果に関して、きちんと検証することも大切です。
⑤働きやすさに特化した人事施策
キャリア支援を考えるうえで失敗する最後のケースは「働きやすさ」に重点を置き過ぎた施策です。
弊社で新入社員800名を対象に実施したアンケート調査では、会社選びの基準として「働きやすさ」に関連する項目を選んだ比率はここ数年で約10pt上がっています。面接での質問で、応募者から勤務地や残業などを質問されるようになった機会も増えていますし、会社として新卒の配属先や配属地を決めて採用したり、残業削減と勤怠管理を徹底したりする会社も増えました。
しかし、同時に「働きやすさ」にこだわりすぎた結果、「ぬるま湯組織」になっている会社もあります。
例えば、最近相談された事例では、新人メンバーが残業しない、どんどん有給を取っている半面で、管理職にしわ寄せが行き、残業や休日出勤しているという会社もあります。ぬるま湯の組織になってメリハリがないという状態ですし、中長期的にも若手が管理職を目指さない組織となり、転職が増えていくことが予想されます。
既に「働きやすさ」の制度構築が一定まで進んでいる場合、今後のキャリア自律支援は「働きがい」に注力した方が良いでしょう。
「働きやすさ」は大切です。但し、成果・生産性が上がらなければ、報酬向上などには還元できませんし、働きやすさの推進をする原資にも限界があります。一定の「働きやすさ」が確保された状態であれば、「働きがい」=仕事が面白い、やりがいがあるという状態を追求する方が「この会社で働き続ける」という選択になり、エンゲージメントも向上しやすいでしょう。
キャリア自律施策の全体像と取り組みのポイント
多様化している社員の価値観・ニーズと企業のキャリア支援をうまく接続するために、HRドクターを運営するジェイックでは、グループ企業Kakedasでキャリア自律支援プラットフォーム「Kakedas」を提供しています。
「Kakedas」は、社外のプロ、国家資格キャリアコンサルタントにキャリア相談をできるサービスです。また、個人の相談内容は会社には共有しません。
だからこそ、従業員はネガティブな不安や不満も含めて本音を相談しやすく、本音や感情を吐き出すからこそ、その先で専門家によってしっかりと内省が促されます。
Kakedasには、累計3,040名(2024年10月1日時点)の国家資格キャリアコンサルタントが登録しており、プラットフォーム上では、契約コンサルタントの中から従業員1人1人に最適な人がマッチングされます。
従業員が性格診断を受検すると、自分の価値観にフィットするキャリアコンサルタントが10名ピックアップされる仕組みです。また、コンサルタントの経歴やキャリアを従業員が検索して指名することも可能です。
そして、従業員はマッチングされたり検索したりしたコンサルタントの詳細プロフィールを見て、相談したい相手を指名できます。
また、Kakedasの特徴として、社員の本音を可視化できることもあります。Kakedasでは、1対1の対話データを分析して、企業に個人を特定されない形で提供します。
1対の1の対話だからこそ、サーベイ等ではわからない部分を詳しく知ることができます。例えば、キャリアカウンセリングを1時間行うと、最初は「会社が嫌だ」「辞めたい」と言っていた人たちが徐々に使うことが変わってきたりします。
本当は「辞めたい」のではなく「会社のここが合わずに困っている」「自分のプライベートの問題と会社の制度が一致しない」という根本的な原因が洗い出されます。
「Kakedas」では、従業員のアンケート、コンサルタントによるレポート、対話データを解析して、自社の状況、従業員の退職リスク、チームの雰囲気などが、他社比較も含めて把握できます。
本音のデータ、具体的な声を見ることで、どんな課題があり、どんな施策を打てばいいのかを導き出しやすくなります。
Kakedasは利用の手間も非常に低くなっています。従業員の名前とメールアドレスを登録すれば、即日使えるになります。従業員1人当たり月額約800円で、キャリア面談の実施と分析レポートの取得が可能になります。
有償での小規模トライアルもできますので、興味があればご相談ください。
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