様々な会社でキャリア自律の相談をいただく中で、典型的な失敗事例をいくつかご紹介します。
①バックキャスティング型のキャリア教育

最初の失敗ケースはバックキャスティング型のキャリア教育です。
前述の通り、会社がキャリア自律を支援する、その第一歩としてキャリア研修などを実施することは良いことです。ただし、キャリア教育をする際に過去の感覚でコンテンツを組むと逆効果になることがあります。
例えば、Must-Will-Canのキャリアビジョンと、5年後・10年後のキャリア年表を書くといったコンテンツです。このコンテンツ自体が悪いわけではありません。ただ、その背景に社内での昇進昇格を目指してもらおうといった姿勢があると、上手くいかない確率は高まります。
今の時代、そもそも仕事が人生の中心ではなく、また同じ会社で昇進・昇格を目指していくというキャリア形成を目指す人は決しては多くありません。そもそも昇進・昇格がキャリアの成功だと思っていない若手も増えています。
逆にキャリア研修をして上手くいっている会社は正解を押し付けない、また、人生も含めたキャリアを考える、そして、キャリアの中にうちの会社で仕事をするという選択肢があるというぐらいの姿勢でキャリア自律を支援しています。
これは若手に限ったことではありません。家族をお持ちの方は、家族の幸せを叶えることが人生の中心となり、その手段としてキャリアがあり、仕事が入っているわけです。このように、人生を含めたキャリア形成を会社として支援していく必要があります。
もちろん会社としては、うちの会社で活躍し続けてもらいたいのが本音です。ただ、それは自社を魅力的な職場とすることで実現する必要があり、会社内で押し込めてキャリアを描かせるようなキャリア支援をすると逆効果になってしまいます。
②多様化するニーズへの一律対応

キャリア教育を失敗しないためにポイントとなるのはキャリアの正解をひとつのモデルにするではなく、多様な活躍モデルを会社として許容することです。
価値観が多様化し、働き方の選択肢も増えた中で、年代・性別・性格などによって、何を持ってキャリア、人生を成功と考えるかは本当に多様化しています。結果として、従業員のニーズに同じ仕組みで一律対応することがフィットしなくなってきています。
もちろん一律対応が悪いわけではありません。従業員に対して公平性を担保することは大前提として非常に重要です。ただし、すでに公平性を担保した一律の基本施策をある程度動かせている会社は、次のステージとして同質対応から個別対応に切り替えていくことが望ましいでしょう。
これまで全くキャリア自律に取り組んできておらず、これからキャリア自律の支援を始めるという段階では、まずは公平性を担保するために一律対応は必要になってきます。例えば、キャリア研修や定期的なキャリア相談、社内公募制度、自己啓発の支援などは一律対応、平等の仕組みであることは大切でしょう。
一方で、自律支援やダイバーシティ推進がうまくいっている企業ほど、次のステージとして挙手型のキャリア相談、選択・自己応募型の人事制度などの個別対応に入ってきています。
③場当たり的な施策の連打

3つ目の失敗事例は、「最近若手の退職が頻発しており、経営層から対策を指示されて、慌てて若手向けのキャリア研修をやる」といった火消し対応、場当たり的な施策が連打されている状態です。
生じた問題に対して何もしないことは最も問題がある状態で、すぐ対応することは良いことです。しかし、一時的な対応に終始して、本質的な対応になっていないケースも多くなっています。
キャリア自律の支援というのは中長期的に取り組むものです。短期的な場当たり的な対応を繰り返していると、あまり成果が出ず、従業員からも見透かされてしまいます。
中長期で本質的な課題解決を考える際に、組織調査を用いる会社も多くあります。組織調査は有効ですが、もう何年もサーベイを実施している会社であれば、さらに深掘りをしていくことが大切です。
組織調査をしているのに上手くいっていない会社は、データの解析と打ち手がリンクしていないことが多いです。また、サーベイをして現状確認しているだけになってしまい、現場社員の本音が聞けていない状況になってしまっていたり、共通化されたサーベイの結果を見て、「ここの不満は分かるけど、そう簡単に手が打てる話でもないんだよね…」と放置してしまっていたりする状態も多いでしょう。
④評価や業務の進捗管理だけの1ON1

この10年ほど1on1を導入した会社も多いですが、1on1が上手く機能していない企業もかなりあります。1on1という名前の評価面談や業務レビューになっており、実務以外のテーマ、キャリアやプライベートのことが話されていないといった状態です。
例えば、評価のフィードバックで、上司が改善ポイントを解説した後、面談の最後で「君は将来何がやりたいの?」と聞かれても本音は聞き出せません。
また、本来の1on1は「部下のための時間」ですが、実態は「上司のための業務確認の時間」になってしまっていることも多いです。これは、上司だけに原因があるのではなく、部下も信頼関係がない上司に本音を話しづらく、差しさわりのない業務の報連相に終始しているケースは多いでしょう。
1on1が悪いわけではなく、ある大手企業では、1on1の実施頻度と満足度が明確にエンゲージメントに相関しているという調査データも出ています。
ただし、「1on1を実施しているから大丈夫」というのは要注意です。逆に、1on1が退職や転職の決め手になってしまっていることもあります。1人1人に合わせた1on1というのは難易度が高いので、上司の支援も設計のポイントになってきます。また、1on1の満足度や効果に関して、きちんと検証することも大切です。
⑤働きやすさに特化した人事施策

キャリア支援を考えるうえで失敗する最後のケースは「働きやすさ」に重点を置き過ぎた施策です。
弊社で新入社員800名を対象に実施したアンケート調査では、会社選びの基準として「働きやすさ」に関連する項目を選んだ比率はここ数年で約10pt上がっています。面接での質問で、応募者から勤務地や残業などを質問されるようになった機会も増えていますし、会社として新卒の配属先や配属地を決めて採用したり、残業削減と勤怠管理を徹底したりする会社も増えました。
しかし、同時に「働きやすさ」にこだわりすぎた結果、「ぬるま湯組織」になっている会社もあります。
例えば、最近相談された事例では、新人メンバーが残業しない、どんどん有給を取っている半面で、管理職にしわ寄せが行き、残業や休日出勤しているという会社もあります。ぬるま湯の組織になってメリハリがないという状態ですし、中長期的にも若手が管理職を目指さない組織となり、転職が増えていくことが予想されます。
既に「働きやすさ」の制度構築が一定まで進んでいる場合、今後のキャリア自律支援は「働きがい」に注力した方が良いでしょう。
「働きやすさ」は大切です。但し、成果・生産性が上がらなければ、報酬向上などには還元できませんし、働きやすさの推進をする原資にも限界があります。一定の「働きやすさ」が確保された状態であれば、「働きがい」=仕事が面白い、やりがいがあるという状態を追求する方が「この会社で働き続ける」という選択になり、エンゲージメントも向上しやすいでしょう。