社内教育は、企業の目標達成、生産性向上においても重要な取り組みのひとつです。
しかし、目的や成果を意識して、また、ポイントを押さえて実施しないと、研修を実施することが目的化してしまったり、研修自体が形骸化してしまったりすることも少なくありません。
本記事では、研修会社としての知見を踏まえて社内教育の目的や種類の基本を解説します。
社内教育の実施方法についてもご紹介するので、教育体系の導入や見直しを検討している方の参考になれば幸いです。
<目次>
社内教育の意味とは?
社内教育は、従業員個人および組織の成長や生産性向上を目的として実施される取り組みです。
狭義では、教育研修や日常のマネジメントにおけるフィードバックなどを指しますが、広義では人事評価制度や人材配置なども含めた人材育成の取り組み全体を指す言葉としても用いられます。
社内教育と社内研修の違い
社内教育に付随して使われる言葉が社内研修です。社内研修は、業務に必要な知識やスキルを高めるための研修をいいます。
社内研修には個人の能力開発のほかに、エンゲージメント向上やチームビルディングなどを目的とした研修も含まれます。
先ほども述べたように、狭い意味では、社内教育と社内研修を同義として扱うことがありますが、社内教育は、社内研修を含めて人材育成の取り組み全般を指す概念です。
研修に限られるものではなく、日常のマネジメントや人員配置、人事評価制度の設計や運用、また場合によっては福利厚生なども含まれてくる点が異なります。
社内教育の方法や種類
上述の通り、社内教育には社内研修も含めてさまざまな方法や手段があります。ここでは、社内教育の種類と具体的な実施方法について解説します。
研修
社内研修は実施する場所や時間によって、大きく3つの種類に分類できます。
●Off-JT
Off-JTは、Off the Job Trainingの略で、基本的に職場以外の場所、または、実務以外の時間で実施される研修です。
社内外の講師によるセミナーや講義などになり、知識のインプットなどを目的とした座学、グループワークなどを行うアクティブラーニング、ZoomなどのWeb会議システムで各拠点などをつないで講義するオンライン研修などの方法があります。
●OJT
OJTは、On the Job Trainingの略で、実際の現場で、実務をしながら実践的なスキルやノウハウを身に付ける研修です。
上司や先輩が指導者(OJTトレーナー/OJT担当者)となり、実務を通じて新人社員や部下に対して業務の流れやスキルを教えます。
OJTは、Show(やってみせる)、Tell(説明・解説する)、Do(やらせてみる)、Check(評価・フィードバックする)という4ステップで進めていくのが基本です。
●事例共有、ロールプレイング
Off-JTとOJTの中間的な位置づけで、日常業務内において短時間で実施するOff-JTの一種といえるでしょう。
事例共有は、朝礼やミーティングなどの一部を使って、業務における成功事例や失敗事例を、チームや部署などに共有するやり方が一般的です。
また、ロールプレイングは、実務の場面を想定し、数人で顧客役と営業役などを演じるやり方です。
営業や販売などが強い会社の多くは、Off-JTやOJTなどの仕組みに加えて、事例共有やロールプレイング、または後述するマネジメントを通じた日常的な社内教育を盛んに実施しています。
eラーニング
eラーニングは、インターネットを使った学習形式を指し、時間を同期させて実施するオンライン研修を含むこともありますが、一般的には動画やアプリなどを使った学び方を指します。
Off-JTの一種と位置づけることもできますが、集合教育の時間を取らないという面で、別物として考えることが多いでしょう。
知識のインプットが主になってしまうという限界はありますが、時間と場所を選ばず、個人の好きなタイミングで受講できるという点が大きなメリットです。
自己啓発支援
自己啓発支援は、従業員の自主的な学びや成長を支援する取り組みや制度を指します。
具体的には、資格取得のサポートや自由に使えるeラーニングの導入、自主的に受講するセミナーや外部研修などへの金銭的・時間的支援などが該当します。
また、自己啓発のための書籍や教材の購入を負担する制度を設けている会社もあります。
マネジメントを通じた社内教育
マネジメントを通じた社内教育には、ティーチング、コーチング、日報、朝礼・夕礼、1on1ミーティングなどがあります。
ティーチングとコーチングは社内教育の方法というよりは「コミュニケーションの取り方」ですが、日常のマネジメント内で上司がティーチングとコーチングを意識的に使い分けることで、社内教育につながってきますので解説します。
●ティーチング
ティーチングとは、指導する側である上司が、部下に対して自身が持つスキルや知識を教える指導法です。
マニュアルに沿って説明したり、経験や体験から得たノウハウを教えたりします。1対1で教える場合もあれば、複数に対して教えることもあります。
ティーチングの際には、部下からの質問や相談、テーマに対しては、WHY(なぜ)・WHAT(何を)・HOW(どのように)を明確にして、ロジカルにわかりやすく伝えることが肝心です。
ティーチングの際には、理解度を確認したり深めたりするために、教えた後に部下にポイントや要点を復唱してもらうと効果的です。
●コーチング
コーチングは、適切な問いを投げかけることで、対話のなかで部下から選択肢や意思を引き出し、自発的な行動を促す指導法です。
自分自身で考える答えを導き出す、また決定することから、部下の思考力を高めたり、主体性を引き出したりすることに役立ちます。
ティーチングとコーチングは優劣があるわけではなく、2つの特徴を把握してうまく使い分けていくことが非常に大切です。
●日報
1日の活動を報告する日報も、記入項目を工夫することで、有効な社内教育になりえます。
日報の項目を設計する際には、自身の経験を振り返って気付きや学びを見つけ出し、他の状況に応用する「コルブの経験学習モデル」をベースにすると良いでしょう。
たとえば、「今日の業務で良かった点は?(自己肯定)」「もっとうまくやるにはどうすれば良い?(再現性の創造)」「もう一度やり直すなら?(振り返りと完了)」「明日必ず達成することは?」などの項目がおすすめです。
●朝礼・夕礼(定例ミーティング)
朝礼や夕礼、ミーティングなども、やり方次第で社内教育となります。
通常、目標達成に向けた業務進捗の確認や施策の検討などが主となりますが、事例共有やフィードバック、判断基準の共有など、社内教育としても有効に活用できます。
1on1ミーティング
1on1ミーティングは、定期的に上司と部下が1対1で面談する方法です。
人事評価や業務進捗のためではなく、部下との対話を通じて、部下の悩みや問題の解決や成長をサポートするのが主な目的です。
1回30分〜60分程度で、部下が話しやすい場所やテーマを選んで実施します。
単なる雑談にならないよう、面談の記録を残して連続性のあるコミュニケーションにすることもポイントです。
人材配置(OJD)
人材配置は実務を通じた社内教育です。
従業員の能力や適性、またキャリア開発を踏まえて人材配置や抜擢を行うことをOJD(On the Job Development)と呼びます。
日本では大手企業を中心に、複数の職種や部門、事業などを異動する中で、多様なマネジメントの経験、修羅場体験をさせて、幹部候補となるジェネラリストを育成する社内教育がありました。
OJDはジェネラリストを目指すものではありませんが、配置や異動・抜擢などの人材配置を通じて人材育成していくという考え方は、上記の発展版といえます。
近年は、各職種の専門性が増してジョブ型雇用が重視されつつありますが、ジェネラリスト・プロフェッショナル関係なく、3年・5年・10年のスパンでキャリアを考えて人材配置や抜擢をすることが大切といえるでしょう。
人事評価
人事評価制度は「従業員のパフォーマンスを評価する」ということだけに留まらず、評価制度や等級制度を軸に、目標設定や進捗サポート、フィードバックを通じて、人材育成するという機能を持っており、社内教育のひとつと捉えることもできます。
社内教育の目的
社内教育の目的はさまざまなものがあり、以下の7つがあります。目的に応じて適した社内研修ややり方も変わってきます。
また、社内教育全体が、どこかの目的だけに偏っていたり、抜け漏れがあったりすると、何らかの歪みが生じやすくもなります。
組織に必要なことを考えながら、バランスをとっていくことも大切です.
社内教育の目的① 目標達成
社内教育の大きな目的は、従業員の能力開発を通じて、個人や組織の目標を達成することです。
個人のスキルアップやチームビルディングを通じて、短期、また中長期に目標達成することを目指しましょう。
社内教育の目的② 従業員個人の能力開発
上述の通り、社内教育ではOff-JTなどの教育研修や日常的なマネジメントなどを通じて、個人の能力の向上を目指します。
能力が高くなることで個人の生産性が向上し、チームや組織全体の成長、また目標達成にもつながります。
社内教育の目的③ 従業員の早期戦力化
新入社員研修や新任マネージャー研修などは、入社後や着任後に1日でも早く戦力となってもらうことを狙いとして実施されます。
新入社員研修では、ビジネスマナーをはじめ、業務をするうえでの基礎知識など、ビジネスパーソンに必須のスキルを身に付けることを目的としています。
また、新しく管理職となる人材に対しては、プレイヤーとは異なる管理職の役割や責任、また、必要となるスキル、労務管理や人事評価などの管理職に求められる知識の習得を促します。
社内教育の目的④ 従業員のエンゲージメント向上
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の浸透やライフプラン研修、キャリア研修などは、能力向上よりもワークエンゲージメントや組織へのエンゲージメント向上を主な目的とした社内教育です。
従業員のエンゲージメントが高くなることで、個人のパフォーマンス向上、また、定着、採用への好影響などにつながってきます。
とくにミッションやビジョンは組織の存在意義であり、事業を進めるうえでの最も重要な判断基準となるものです。
従業員が正しく理解し実践することが、社内のカルチャーの醸成、社外においてはブランドイメージの定着などにもつながります。
社内教育の目的⑤ 組織の生産性アップ
生産性の向上や目標達成といった視点で考えると、能力開発やエンゲージメント向上などの個人単位の話だけでなく、チームワークやマネジメントレベルの向上を通じて、組織の生産性を向上させることも非常に重要です。
社内教育の目的⑥ 人材の定着率アップ
従業員の離職率を抑え、定着率をアップさせることも社内教育の目的の1つです。
人材を定着させるには、上述してきた能力開発やエンゲージメント向上に加えて、成長実感を得られるようなリフレクション、また、キャリア自律を促すような仕組みも大切です。
社内教育の目的⑦ コンプライアンスの遵守
社員教育には、組織の一員としてコンプライアンス遵守の意識を高める目的もあります。
コンプライアンス教育は、年次や立場にかかわらず横断的に実施される研修です。
近年、企業の社会的責任に対する期待や要求は高まっており、社内コンプライアンス違反や1人の従業員が起こしたSNSへの不用意な書き込みなどが、大きな風評被害へとつながることも珍しくありません。
社内教育の整備のやり方、計画の進め方
社内教育の目的や必要性を理解できても、どのように導入や開発を進めたら良いかわからない方もいるでしょう。
ここでは社内教育の整備・計画の基本的な進め方を、ステップを踏んで解説します。
ステップ①組織ビジョンの作成
まず、社内教育の目的やゴールに紐づく組織のビジョンについて作成しましょう。
ビジョンやゴールが定まっていない状態で社内教育を実施すると、社内教育そのものが目的となったり、場当たり的な計画になったりしてしまいがちです。
後述する通り、いきなり完璧な組織ビジョンを作ることはできませんので、基本的な教育制度の整備から入っていってもよいのですが、中長期的には「どのような組織をつくり、どういった人材を育てたいのか」という組織ビジョンが社内教育の軸となることは念頭に置いておく必要があります。
ステップ②基本的な教育制度の整備
組織ビジョンによって社内教育のやり方やポイント、優先順位は変わってきますが、組織としては必ず押さえた方がよい基本的な社内教育、優先順位が高い研修はある程度確立されているものです。
例えば、新入社員研修や新任管理者研修、各階層と職種で必要な能力を磨く階層別研修や職種別研修、コンプライアンスや個人情報などに関わる全社員研修などが該当します。
加えて、この段階で日常のマネジメントを通じた社内教育の仕組みを整備していくと、研修等の効果性も高まりますし、研修に依存しない社内教育の体制ができていくでしょう。
ステップ③現状の課題把握・分析
基本的な社内教育のプログラムが固まったら、その時々の課題に対して必要な社内教育を適宜実施していきます。
ただし、表面的な問題に囚われてしまうと、場当たり的な教育、また単発の教育を連続することになり、本来の効果が得られません。
社内教育の効果性を保つ、また、組織において何が本当の課題かを見極めるために、ステップ3の段階に入った際にこそ、改めてステップ①の組織ビジョンに立ち返ることが肝心です。
ステップ④教育計画の策定
現状の課題を把握できたら、個別の教育計画を策定します。課題によっては、必ずしもOff-JTのような研修がよいとは限りません。
選択肢を研修に限らず、現場のマネジメント、人事評価、人材配置(OJD)、自己啓発支援など、何が有効な解決策になるのかを検討して決定しましょう。
ステップ⑤社内教育の実施
策定した教育計画に基づき、社内教育を実施します。
規模が小さい会社では、予算や人員などの面で限りもあり、大手企業のように研修などを充実させることは難しいかもしれません。
基本的なものは公開講座への派遣などを通じて押さえたうえで、上司によるティーチングやコーチング、日報、朝礼・夕礼など、日々の業務における社内教育が進むように整えていくとよいでしょう。
書籍などを使った勉強会などもおすすめです。
ステップ⑥振り返りと評価
社内教育を実施したら実施後の振り返りは欠かせません。社員教育の効果を測る方法としては、「カークパトリックの4段階評価法」が有名です。
カークパトリックの4段階評価法は、反応、学習、行動、結果の4段階で効果を可視化するものです。
社内教育が成果につながるまでにはさまざまな外部要因もありますし、厳密に定量化できるものでもありません。
ただ、基本的な理論を押さえたうえで、振り返りと評価を行うことが大切です。
また、個々の施策への振り返りと評価だけでなく、定期的に組織の状態を振り返り、評価することも大切です。
組織ビジョンを見直して修正する、同時に組織の現状を評価して、次の期間に優先順位が高い課題が何か?を検討することが習慣化すると社内教育の精度が向上していくでしょう。
まとめ
社内教育は、組織の成長や目標達成のために不可欠な取り組みです。
社内教育には、社内研修などのOff-JT、またOJTやeラーニングなどはもちろん、自己啓発支援や日常のマネジメントを通じた人材育成、配置や異動を通じたOJD、人事評価制度の運用などまで、幅広い種類があります。
社内教育の目的を踏まえて、基本的な教育体系を整えたうえで、自社の組織ビジョンを軸として、適切な方法で取り組んでいくことが大切です。