新人教育で上手く教えるコツと一人ひとりに合わせた育成のポイント

更新:2023/07/28

作成:2021/10/26

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

新人教育で上手く教えるコツと一人ひとりに合わせた育成のポイント

「採用した新人がすぐに辞めてしまう」「丁寧な研修を行っても優秀な人材に育たない」といった悩みを持つ採用・人事担当者向けに、新人教育のポイントや進め方を解説します。価値観が多様化している現状、一人ひとりに合わせた育成が新人教育のポイントです。

 

<目次>

新人教育、オンボーディングとは

現在の新人教育は、多様な価値観やさまざまな働き方に対応するために、従来のOJTや研修に加えて『オンボーディング』を取り入れることも多くなっています。 新人教育を行うにあたって役立つオンボーディングの概要や行う目的を紹介します。

 

新人に情報を提供し、価値観や前提を共有していく

オンボーディングとは、企業のミッションやビジョン、社内の組織や価値観、社内制度や評価制度等の情報を新人に提供し『組織と働くメンバーの価値観や前提を共有するための支援活動』です。新人教育の手段の一つとして、日本でも取り入れる企業が増えつつあります。
一方で、オンボーディングを新人研修やOJTと同じようなものだと誤解している人もいます。従来の新人研修と同じように、「実地研修や座学などを行って現場で即戦力となる技量を持った新人を育てる教育方法」と認識している人もいるかもしれません。
確かに「即戦力化を早める」といった効果は同じですが、本来の意味でのオンボーディングは、もっと広義の意味を持っています。仕事のやり方やノウハウを教えるだけでなく、新人が組織の一員として自分の力を発揮できるよう支援するのが本来のオンボーディングの在り方です。
そのため、研修だけでなく、社内SNSや社内イベントなどを活用したり、部署をまたがった広範囲のメンバーがオンボーディングに関わったりすることも珍しくありません。

 

新人教育を行う目的の例

オンボーディングの目的は『新人をできるだけ早く組織になじませ、活躍させる』ことです。組織に馴染んで活躍することは、『早期離職の防止』と『成長スピードの改善』といったメリットにもつながります。
新人が仕事に就く場合に問題となるのが、組織内の暗黙知が分からない、仕事のやり方を誰に聞けばよいか迷ってしまう、どんな人材や行動が評価されるのかが分からないといったことです。
入社した後、技術やスキル研修だけを受けて現場に配属された新人の一部は、日々の仕事のやり方に戸惑いを感じたり、部署の雰囲気になじめなかったりします。新人の不安や不満を放置しておくと、早期離職にも繋がりかねません。
オンボーディングの一環としてメンター制度や社内SNSを取り入れることで、仕事内容や人間関係のミスマッチ、業務に対する不安・不満を早い段階で解消し、離職率を低下させることが可能です。
また、人間関係の構築や社内ルールにいち早く適応できれば、自分の能力を発揮して、既存メンバーとも協力しあい、成果や成長につながりやすくなります。

 

新人教育が苦手と感じる理由

一部の組織では、新人教育が苦手と感じる社員も少なくないようです。なぜ新人教育に苦手意識を持ってしまうのか、原因を把握することで新人教育の成果につなげましょう

 

新人に対して先入観がある

新人教育を苦手に感じる社員に原因を聞くと「新人はいちから全部教えなければいけないので面倒だ」、「以前に研修した新人にやる気を感じられなかった」など、過去の体験等から先入観を抱えているケースが多く見られます。
一口に新人といっても性格やモチベーション、技量は十人十色です。『新人』という言葉でひとくくりにせず、個人として向き合うように指導することが重要です。

 

育った時代、考え方が合わない

ジェネレーションギャップや価値観の違いも、新人教育に苦手意識を持ってしまう要因です。教育担当者と新人の間に年齢差があると、話題が合わずに打ち解けにくいといった状況が発生します。
また、終身雇用制度が変化しつつある現代において、最近の新人は過去よりも会社への帰属意識が薄いことも多く、働くことに対する考え方そのものが、従来の社員と異なるケースもあります。
こうした問題を防ぐためには、時代変化による働き方や仕事への考え方の違い、指導のポイントを既存社員に対して教育等を通じて伝えていく必要もあるでしょう。

 

リモート環境によるもの

新型コロナウイルスの感染拡大は、日本におけるリモートワーク、在宅勤務を急拡大させました。リモートワーク下では意思の伝達や共有が難しく、直接対面で指導するよりも教育が難しいと感じる人が多いようです。とくにリモートに慣れていない中堅社員は、苦手意識を持つ人も少なくありません。
雑談をしたり、一緒に食事したりといった緩いコミュニケーションがとりにくいため、誤解が生じたり、打ち解けるまでに時間がかかったりといった問題も発生します。

 

ポイント①教育係に必要な意識を知る

新人教育を効果的に行うためには、教育担当者側もいくつかのポイントを知っておく必要があります。まずは新人教育のためのマインドセットを理解しておきましょう。

 

新人と一緒に成長していく

新人教育は、新人に一方的に教える場ではなく、教育担当者の成長の場でもあると捉えましょう。新人に教えるためには、教育担当者は会社や業務の基本的な部分への理解を「分かりやすく説明できる」レベルへと高める必要があります。
普段半ば無意識に実施している業務について、基本的なことや意味・目的について確認・整理する機会となります。
また、どのように説明すれば伝わるかを考えて実行することは、教育とコミュニケーションについての訓練にもなります。新人教育は、新人だけでなく教育担当も学ぶべきことが多くある機会なのです。

 

最初が肝心である

入社初日は、新人にとって非常に印象の強い一日です。入社初日は入念な準備を行った上で迎えるようにしましょう。
段取りに手間取って新人を放置してしまったり、説明がいい加減だったりすると「この会社は新人を大切にしてくれない」という不満を抱かせ、早期離職につながってしまいます。
逆に、相談役となるメンターがしっかりした人であったり、社長や役員の歓迎を伝える場やイベントを開催したりすると、『新人を大切にする会社』という印象を与えられるでしょう。新人のモチベーションアップに貢献し、定職率を高めることにつながりますので、初日の準備は大切です。

 

ポイント② タイプ別の教育を行う

人間は成長速度も得意なこともさまざまです。新入社員も同様です。とくに価値観が多様化している現代において、全員に対し同じ研修を行うことの効果性は徐々に低下しつつあります。本章では、タイプ別教育を行うポイントについて紹介します。

 

同じ教育方法では響きにくい

学校教育の現場を思い出してみてください。 同じ授業を聞いていたにもかかわらず、生徒によって成績は全く異なっていました。得意なこと・苦手なことも人によって異なりました。
新人教育では、新入社員全員の理解度、そして成長スピードをある程度は統一、一定水準まで引き上げる必要があります。新人の成長という観点から考えると、じつは画一的に同じように教える学校教育のような方法は不向きな部分があります。
理想は新人それぞれの性格や得意分野・苦手分野を把握して、それぞれに異なったアプローチや教育を施すことです。一人ひとりを大切な「人財」と捉える意識を持って、今までの画一的な教育手法にタイプ別の教育を加えて、新人教育の効果性を高めていきましょう。

 

承認欲求が強いタイプの例

最近の新人は「認めてほしい」「褒めて欲しい」という承認欲求が強くなっている傾向があります。新人の中でも、とくに承認欲求が強いタイプに振り回され、疲弊してしまっている教育担当者もいます。
承認欲求が強いタイプが入社すると、面倒に思ってしまう人もいるかもしれません。しかし、承認欲求が強いタイプは見方を変えれば見られ方への意識が高く、将来的に会社に貢献してくれる有望な社員となる可能性もあります。
承認欲求が強い新人をコントロールするポイントは『現在行っている仕事の重要性を理解してもらうこと』です。小さな仕事であっても全体で見れば不可欠なことや、大きな仕事との一部であることを伝えて、侮らないように理解を促します。
また承認欲求が強いタイプは、こまめに声をかけてあげたり、成長を褒めてあげたりすることで承認欲求が満たされ、より仕事に意欲的に取り組むようになるでしょう。

 

新人教育の進め方

入社した新人が段階を踏んで仕事に対する理解度を深めていけるよう、新人教育を計画的に進めていきましょう。本章ではどのようなステップを踏めば効率的に新人を教育できるか、新人教育の進め方を解説します。

 

課題を洗い出し、プランを作成する

まずは、現状の課題を洗い出すところからスタートしましょう。新人の離職率の高さが課題であれば、『なぜ離職してしまうのか』という課題に対する原因を明確化しましょう。
『部署の雰囲気になじめない』『新人が放置されている』など原因がわかったら、改善するための施策を打ちます。人間関係や部署の雰囲気に問題がある場合は、コミュニケーションの活性化のためにランチ会をひらくのも良いアイデアです。
新人がわからないことをすぐに聞けない環境であれば、『ブラザー・シスター制度(メンター制度)』を導入することも有効です。また、採用人数が多ければ、配属先をより適切に選択できるよう、新人の性格や得意分野を分析することも良いでしょう。
課題と解決策を踏まえたうえで、プランを作成します。プランを作成する際は、スケジュールと目標を具体化しましょう。
なお、新人教育は新人研修の期間だけで終わるものであありません。1年先の成長ゴールを設定して、そこから逆算して、クリアすべき課題や身に付けるべきスキルへと分解していくような形でプランを作成することがおススメです。

 

スモールステップ法で実施する

いきなり1年後の成長目標を与えても、新人はどのように目標に到達できるよいかが分からず、途方に暮れてしまいます。達成困難と感じる目標では、かえってやる気を削いでしまうかもしれません。
プランを作成するときは最終目標に到達するまでに達成すべき小さな目標を設定していくことがポイントです。新人には、最終的な成長目標と同時に、小さな目標を提示して、ひとつひとつ直近の小さな目標をクリアしていくことで最終目標にたどり着けることを示しましょう。
小さな目標を達成していくことで自信が付き、加速度的に最終目標までの道のりを歩んでいけるようになります。

 

オンボーディング後のフォロー

オンボーディングが終了すれば新人教育が完了するわけではありません。むしろ新人が他の社員と同じように組織の一員として業務に参加するところからが本番といえます。オンボーディングでは上手くいっていた新人がつまずいてしまう可能性もゼロではありません。
オンボーディングをどんな期間で設定するかにもよりますが、とくに新人研修期間の数か月で設定する場合には要注意です。人事からのケア等がなくなるタイミングと本格的なOJTが始まってリアリティショック等が生じるタイミングが重なると、エンゲージメントが低下してしがちです。
従って、オンボーディング後のアフターケアも欠かさず定期的に設定しましょう。精神面や人間関係等のフォロー、キャリアパスに関する面談、成長やキャリア目標の設定などを通じてモチベーションをケアして、前向きに業務に向き合ってもらうことが大切です。

 

具体的な育成方法

本章では新人を育成する具体的な方法を解説します。以下の方法を参考に、育成カリキュラムを組み立てましょう。

 

オリエンテーション、新人研修

業務に関する基礎知識や社内での自分の役割を把握してもらうために、新人にはオリエンテーションや新人研修を行うのが一般的です。
各部署に配属されて業務に従事し始めると会社全体を知る機会はそう多くはありません。オリエンテーションや新人研修によって、会社全体の業務やミッションビジョン、組織の役割分担、協力体制等を知ることで、帰属意識は高まりエンゲージメントが向上します。
じつはオリエンテーションは「動機付け」という意味を持っています。「自分が何のために働くのか?」をオリエンテーションや新人研修を通じて理解してもらいましょう。

 

OJT

OJT (On-the-Job Training)とは、実務研修です。実務を通じたトレーニングによって、仕事に必要な知識や経験を培います。
OJTは実際の仕事を通して学ぶため、新人が実務的なスキルを身に付けたり、先輩社員との関係性を築けたりする点がメリットです。eラーニング(インターネットを通じた学習)やOff-JTと組み合わせて、座学と実務を反復しながら行う方法を取り入れましょう。
なお、教育のために現場のリソースが割かれることや教育担当者の技量によって新人の育成速度に差が出てしまう点はOJTのデメリットです。OJTを実施する際には、OJT指導者となる既存社員、先輩社員に「教え方」を指導する取り組みも大切です。

 

新人の不安を解消する取り組み

就職や転職は大きな環境変化をもたらします。とくに新卒の場合、学生時代とは全く違った環境に身を置くことになるため、かかるストレスは大きくなります。何のケアもしないと、モチベーションが低下したり、離職してしまったりする新人が出てきます。

中途採用であっても、環境の変化に対してストレスがかかるのは同様です。上手く現場になじめず、期待していたほどのパフォーマンスを発揮できないかもしれません。受け入れに際しては、新人の不安解消やストレスを和らげるための取り組みも行っていきましょう。どんな取り組みがあるのかを以下で具体的に紹介します。

 

1on1

1on1とは、部下と上司が1対1で行う面談のことです。主にコーチングの手法が用いられます。1対1で相手の話を聞くことで、環境や人間関係をヒアリングして、問題点をキャッチアップできます。
価値観の多様化に伴い、1on1を行う企業は年々増えています。日常の業務の中で直属の上司と直接話をする機会が少ない企業では、新人の不安を解消する取り組みとして1on1が役立つでしょう。
なお、1on1には上司と部下の信頼関係が不可欠です。また、1on1が上司の負荷になっていないかも留意する必要があります。また、1on1が単なる雑談や頭ごなしに叱りつけるだけの場、業務レビューの場にならないように、上司側に注意を促したり教育したりすることも重要です。

 

ブラザーシスター制度(メンター制度)

『ブラザーシスター制度』とは、新人に対して別部署で年齢の近い先輩社員をサポート役としてつける制度です。同様の施策をメンター制度と呼ぶ場合もあります。
ブラザーシスター制度(メンター制度)は、業務以外の不安や悩み解消、組織に馴染むことの支援が主な目的です。新人にとって気軽に悩みを話したり、業務外の相談をしたりする相手の存在は精神的支柱となり、仕事に慣れるまでの安心感につながります。
なお、ブラザーシスターやメンターはOJTの指導者とは異なる相手、できれば別部署にすることで、実務上の上下関係から切り離すことが運用のポイントです。

 

まとめ

新人教育を成功させれば、新人の離職率を下げ、エンゲージメントを高めることができます。
とくに近年は、終身雇用制度の崩壊とともに、入社時点で新入社員のエンゲージメントが低いケースも増えています。また、価値観も多様化していることから一斉研修の効果も薄れており、新人教育に対する考え方を見直さなければならない転換点を迎えつつあります
新人教育は、とくに初期対応が大切です。オリエンテーションやOJTの実施による技術的なケアを実施すると共に、メンター制度や1on1ミーティングによって悩みや不安を解消する環境をしっかり整えることで新人の安心を生むことも大切です。
充実した指導と丁寧なケアをしてくれる会社だとわかれば、新人も学習に集中でき、成長速度のアップにもつながります。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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