「手塩に掛けて育てる」という言葉もあるように、採用した新人が定着して順調に成長していく環境を整えるべく、各企業は知恵を絞り、さまざまな取り組みを行なっています。
しかし、企業で取り組みを行なっても、「入社して日が経つにつれて悩みを抱え、仕事にも職場にもなかなか馴染めない」という新人も少なくありません。
新人の悩みや不安を解消し、仕事に前向きに取り組める状態を作るためには「フォロー面談」が有効です。
新人育成における面談は、ただ単に新人の話を聞くことではありません。いわゆる1on1ミーティングのように上司やOJT担当者が定期的に行なったり、人事部門が決まったタイミングで行なったりする、新人をフォローする目的を持った面談です。言うまでもなく効果を上げるためには面談の質、中身が重要です。
記事では、なぜ新人へのフォロー面談が、新人の定着や成長に効果を発揮するのか、理由を明らかにしたうえで、具体的な面談の進め方を説明します。
<目次>
フォロー面談が新人の定着と成長に有効である理由
新人に対するフォロー面談が、新人の定着や成長に効果を発揮する理由は以下の3つです。
理由① 新人に対するコミュニケーション不足を解消できる
独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(※)では、新人が早期離職する要因の一つとして、「マネジメントが十分に行き届いていない」という点が指摘されています。具体的には、「上司・先輩と新人のコミュニケーション不足」そして「部署ごと、上司ごとに教育の当たり外れが大きい」ということが挙げられています。
昨今の働き方改革やリモートワークの普及で、ただでさえ「時間を共有してコミュニケーションを取る」ということは難しくなっています。上司とのコミュニケーション機会が、業務指示と報連相ぐらいになってしまえば、「組織に所属している」という実感や「組織の一員である」という安心感を新人が持ちにくいことも無理はありません。
また、上記のような状況がある中で、新人との時間を作ったり、新人の不安に寄り添ったりできるかどうかは、まさに「部署や上司の当たり外れ」にもなっているのでしょう。
単なる業務指示や報連相だけでなく、フォロー面談の機会を定期的に作ることで、コミュニケーション不足が解消され、また、部署や上司の育成力によるばらつきを減らす効果が期待できます。
理由② 新人の不安や疑問を払拭する機会となる
同じく労働政策研究・研修機構の調査によると、新人が早期離職に至る他の要因として、「入社前後のギャップ」が挙げられています。働いたことがない新人の思い込みや事前情報の誤解によって、「実際に入社してみると選考時に聞いていた話と違っている」と感じるケースはよくあります。
多くの会社にOJT制度が普及する中で、「普段から新人と関わる機会は多く、現場ではコミュニケーションが取れているはずだ」という企業もあるかと思います。しかし、先ほどと同じように上司やOJT指導者の育成力によっては、覚えないといけない業務スキルや手順、会社の常識を教え込んでいるだけで、新人の気持ちに気づけていないケースが多々あります。
入社前後のギャップはどんな会社でも大なり小なり必ず生じます。ギャップを解消するためには新人が何を考え、どんな気持ちでいるのかを把握して、新人の気持ちに寄り添うと共に、社会人として活躍するためのマインドセットを行なう必要があります。
しかし、新人の気持ちを理解するには、スキルや業務手順などを教える中では分かりにくいものです。だからこそ、新人が安心して何でも話ができる場としてフォロー面談が有効なのです。
※https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2020/221.html
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ
(第2回若者の能力開発と職場への定着に関する調査 ヒアリング調査)
理由③ 新人本人に考える習慣がつく
「今年の新人は主体性がない、自分で考えることをしない」という悩みは、新人を採用した企業から毎年伺う悩みの一つです。右も左も分からない新人のうちは、指示待ちや受け身になるのもある程度は仕方がないのですが、いつまでも指示待ちでは困ります。
フォロー面談は新人に話をさせる場ですが、何をどう話すかを考える必要があります。つまり、新人に話をさせるフォロー面談は、じつは新人に考えさせる機会を与えることにもなるのです。
なお、新人が何を考えるのかは、どんな質問をするのかで決まります。面談の目的やタイミングに応じて適切な質問をすることが非常に重要です(質問のポイントについては、後ほど説明します)。フォロー面談を通じて考える習慣を身に付けさせることが、主体性を持った新人へと成長する第一歩になるとも言えるでしょう。
新人とのフォロー面談をより効果的に実施するポイント
実際にフォロー面談を実施するうえで、以下4つのポイントに注意すると良いでしょう。
面談することを「目的化」しない
すでに新人のフォロー面談を実施している企業も少なくないかと思います。「やっているけど、思うような成果が上がっていない」という場合、「面談を実施している」という事実をもって満足していないでしょうか?あるいは「面談してやったのにあの新人は何も変わらない」といって、面談の効果が表れなかった責任を新人に負わせていないでしょうか?
「面談すること」が目的になってはいけません。「とりあえず話を聞いてみる」というスタンスで面談に臨むのではなく、「悩みがありそうなのでそれを引き出す」「半年後の理想状態を明確にしてアクションプランを考えさせる」といった面談のゴールを持って面談することが大切です。
効果的な面談となるかどうか、新人が面談後に好ましい変化を見せるかどうかの責任は、上司や人事側にあると心得ましょう。
実施するタイミングを考える
面談を頻繁に行なって手厚いフォローができることが理想です。理想は1か月に1回と言われますが、時間を取るのはなかなか難しいのが現実です。従って、適切なタイミングを見計らって面談を実施することが重要です。
では、フォロー面談を実施する適切なタイミングはいつ頃かと言うと「新人の感情が動く時期」です。感情が動くのは、仕事や職場が自分に合っているかを考える時期、仕事に慣れ始める時期、社会の厳しさを感じる時期、社会人としての自分のペースを掴んできた時期、等です。
新人教育やOJT、配属等のスケジュールにもよりますが、一般的には入社から概ね3か月、6か月、1年のタイミングが新人の感情が動く時期だと言われます。いずれのタイミングでも、感情がポジティブに動くこともあれば、ネガティブに動くこともあります。面談を通じて自分の感情を整理させ、好ましい状態へと方向づけすることが大切です。
面談者にふさわしい社員を選ぶ
新人に対して「何かあったらいつでも言って」という言葉を上司・先輩がかけたとしても、上司・先輩に悩みや不安なこと、分からないことを何でも話せる新人はごく一部でしょう。直属の上司・先輩は新人にとって身近な存在ではありますが、必ずしも心を開いて話ができる相手であるとは限りません。場合によっては、上司・先輩こそが悩みの原因ということさえあります。
直属の上司・先輩に新人のフォロー面談を実施させているケースも多いですが、必ずしも適任であるとは限りません。特に、新人から今の悩みや感じている問題について引き出したいのであれば、直属の上司・先輩以外の社員が面談を実施したほうが良いでしょう。
また、誰が面談を実施するにしても、面談時の態度や振る舞いについては十分に注意が必要です。面談に集中していなかったり、新人に対して威圧的な態度を取ったり、「新人はこうあるべきだ」と自分の意見を押し付けたりしたら、新人は「この人には何を話しても無駄だ」と感じます。
特に昨今の若者は「一方的に基準を押し付けられること」に対して反発したり、心を閉ざしたりする傾向が強くなっています。一度心を閉ざしてしまうと、新人が本音を話すことはなく、フォロー面談の意味をなさなくなります。新人と面談者の間で信頼関係を保つことが不可欠なのです。
フォロー面談の面談者は誰でも務まるわけではありませんので、人選は慎重に行ないましょう。
場合によっては面談者に対して、信頼関係の構築(ラポール形成)やコーチングのトレーニングを実施することもおすすめです。
質問の質が面談の質を決める
いきなり「あなたの話を聞くための時間だから、とりあえず何でも話してみて」と伝えたところで、新人は何も話してくれません。貴重な面談の場を有意義な時間にできるかどうかは、どのような質問を投げかけるのかが非常に重要です。
また確認したいことをそのまま質問しても、新人にとっては答えづらい内容もあるはずです。限られた時間の中で質の高い面談をしようと思えば、面談の目的に沿ってどのような質問をしていけば良いのか、事前に設計しておくことが必要です。あらかじめ「質問シート」を作成・配付して、事前に回答を考えておいてもらうのも一つの手です。
フォロー面談の具体的な実施方法
実際に新人へのフォロー面談を実施するうえでは、タイミングごとの目的に沿った面談を実施することが重要です。一般的なタイミングごとの目的と実施のポイントを解説します。
入社3か月後
入社3か月後のタイミングで行なう面談では、新人から仕事や職場に対する感想や不安をたくさん話させることがポイントです。面談者はとにかく傾聴に徹しましょう。
特に、入社3か月後の時期は、仕事や職場が自分に合っているかどうかの第一印象が確信に変わりつつあるタイミングです。「合う」という判断をしていれば問題ないですが、「合わない」という方向に傾いているとすれば、なぜそう感じるのか、不安や疑問に対して丁寧に答えて払拭していきます。
まだ新人は会社に慣れているわけではありません。面談を通して、面談者が「自分は味方である」ということを印象付けることで新人は安心します。
<質問例>
「仕事の状況はどう? 順調にいっている?具体的に聞かせてくれるかな?」
「どんな仕事に取り組んでいるとき、楽しいと感じる? 逆に大変だと感じるときは?」
入社6か月後
入社6か月となると、仕事にも職場にもある程度慣れてきますので、「今の自分は何ができて、何ができないのか」を棚卸しさせ、自分の現在地を理解させ、改めて目的地を設定することがポイントです。
新人によっては、自分の現在地を知ることで、自分の無力さを痛感してモチベーションを下げる人もいます。
会社からの期待を伝えたり、本人の今後のビジョンを聞き出したりして、中長期的な視点を持たせ、目先の状況に囚われ過ぎないようにする働きかけが必要です。
少しずつ自分なりの答えを出せるようになる時期でもありますので、どのように課題解決するのかを自分で考えさせる質問も有効です。順調に成長している新人であれば、さらなる成長に向けたアクションプランを考えさせることも良いでしょう。
<質問例>
「仕事でうまくやれていることはどんなこと?」
「自分の課題だと感じていることは?」
「課題を解決しようと思ったら何に取り組むべきだろう?」
入社1年後
入社1年間の振り返りをさせる面談となります。
「何ができるようになったのか」「何が課題か」「1年前のイメージと比べてどうか」といったことを整理させましょう。
中には2年目に入ると、すぐ後輩ができるケースもあります。後輩を持つ場合は、先輩社員としての目標や課題も明確にしたほうが良いでしょう。
また、入社1年のタイミングで「新人」の時期が終わり、会社から「戦力」として期待される時期が来たことも自覚させなければなりません。「自分がどうしたいか」だけでなく、「会社にどのように貢献するのか」という視点も含めて、中長期的なスキルアップ、キャリアアップを検討させることが大切です。
<質問例>
「1年目を終えて自己採点すると100点満点で何点?その点数になったのはなぜ?」
「入社してから1年間経ったけど、どんな点で成長したり、新しいスキルを覚えたりしたと思う?」
「○年後の自分の理想の状態を教えてください。実現するために必要なことは何だろう?」
上司部下で行なう定例ミーティング:1on1(ワン・オン・ワン)
上司部下、あるいはOJT担当者と新人の間で、評価や業務指示のための面談でなく、対話を重視した1on1ミーティングを導入する企業も増えています。部下・新人の成長を上司やOJT担当者がサポートするために、定期的な1on1を継続することは非常に有効です。
1on1ミーティングで一番大切なことは信頼関係作りです。
上司やOJT担当者が心を開いて対話することが1on1ミーティングの成功のカギです。また、業務指示等の打ち合わせにならないように新人にテーマ設定させたり、上司も喋り過ぎたり脱線したりしないように注意する必要があります。
継続して実施することで相互理解と信頼関係が深まるようになり、次第に新人が本音を伝えてくれ、悩みや不安を相談してくれることにもつながるでしょう。
おわりに
フォロー面談が必要な理由と実施方法をお伝えしました。
フォロー面談は、新人が気持ちよく仕事に全力投球して成長できるようにするために行ないます。
新人はまだ一人では何もできません。新人が頑張っていくために「周りがしっかりサポートする」というメッセージを面談の中で伝えましょう。「フォロー面談を通じて力をもらえた」と新人が感じることができたら面談は成功です。
新人のことを普段から気にかけていて、頻繁に声を掛けたりしているという企業は多いかと思います。
しかし、新人は声を掛けて欲しいのではありません。一緒に問題解決したり、自分の頑張りを認めてもらったり、ビジョンを示してもらったりして、安心して働ける環境が欲しいのです。
「手塩に掛けて育てる」とは熱心に大切にいろいろと世話をしながら育てることを言いますが、フォロー面談を通じて新人としっかりと向き合うことが、まさに新人を手塩に掛けて育てることにつながるでしょう。
今回ご紹介した内容が新人との面談を実施する、また、フォロー面談の仕組みを取り入れる参考になれば幸いです。