ハインリッヒの法則とは?「1:29:300の法則」を組織開発に活かすポイント

更新:2023/07/28

作成:2020/12/10

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

ハインリッヒの法則とは?「1:29:300の法則」を組織開発に活かすポイント

ハインリッヒの法則は、労働災害等を防ぐための考え方として、建設業や製造業等ではよく知られた考え方です。

SNS等が普及した近年では、企業や組織の不祥事が発覚、拡散されやすくなっており、労働災害のみならず不祥事やミスによる事故を防ぐための考え方として、多くの企業で取り入れられるようになっています。

ハインリッヒの法則は、トラブル防止だけでなく組織開発やサービス品質の向上に繋げられる部分もあります。記事では、ハインリッヒの法則の概要や重要性、組織開発に活かすポイント等を解説していきます。

<目次>

ハインリッヒの法則とは?

ハインリッヒの法則とは、重大事故やトラブルの危機管理に用いられる経験則の一つであり、別名「1:29:300の法則」と呼ばれています。

 

ハインリッヒの法則を通してトラブルが起こる経験則を知っておくことで、組織や個人における失敗やミスを防げる確率を高めやすくなります。

 

 

「1:29:300の法則」の具体的内容と生まれた背景

1:29:300の法則とは、「1件の重大事故が起こる手前には29の軽微な事故があり、またその背景には300もの“事故の素”ともいえる小さな異常やケアレスミスがある」ということをあらわした法則です。

 

法則は、アメリカの損害保険会社で技術・調査に携わっていたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ(Herbert William Heinrich)が、1929年11月に「労働災害の発生確率の分析結果」として論文発表したものです。

 

ハインリッヒは、調査対象としていた工場で起きた数千件の労働災害を分析して、上記のように、1件の重大事故に対して、29件の軽微な事故があり、その手前には300件の危うく事故になる“ヒヤリ・ハット”が発生していることを明らかにしました。

 

 

ハインリッヒの法則とドミノ理論

ハインリッヒは、重大事故をなくすためには、その手前にある軽微な事故、また、事故に繋がる“ヒヤリ・ハット”の原因をなくすことを大切だと提唱しています。

 

多くの重大事故は、いくつも要因が重なった結果として生じします。従って、「ドミノ倒しを途中で止めるためには、途中のドミノを抜けばいい」というのと同じように、重大事故に繋がる軽微な事故、“ヒヤリ・ハット”の原因を排除することで、重大事故を防げるということです。

 

この考え方はドミノ理論と呼ばれ、軽微な事故やヒヤリ・ハットの原因となる、下記の要因をなくすことが重要だとしています。

 

  • 軽微な作業環境の不良
  • 材料不良
  • 設備不良
  • 人員不良
  • 管理不良

 

 

ハインリッヒの法則が世界や日本に広まったきっかけ

1:29:300に基づく考え方が、ハインリッヒの法則と呼ばれるようになったのは、1931年に発行された彼の著書「Industrial Accident Prevention-A Scientific Approach」がきっかけです。

 

日本においては、1951年にこの本が「災害防止の科学的研究」として翻訳されたことで、ハインリッヒの法則への注目が集まるようになりました。そして現在では、世界中で災害防止のバイブルとしてハインリッヒの法則が活用されています。

ハインリッヒの法則の重要性

屋根の先端に立って、下の様子を伺っている男性

ハインリッヒの法則はもともと、彼が調査を行なっていた製造業や建設業を中心に労働災害を防ぐために使われてきました。こうした環境で働く人が法則を理解すれば、労働災害を未然に防ぎやすくなります。

 

また、近年では製造業や建設業以外の業界でも、多くの業界で導入されています。とくに労働災害を防ぐだけではなく、サービス業でサービスの提供品質を安定して高めること等にも活用されていることは注目すべきことです。

 

 

交通・インフラ分野

電車やバス、トラックやインフラ分野も、一つの重大災害が多くの人を巻き込む可能性の高い分野です。

 

例えば、2005年4月に発生した福知山線脱線事故では、107名もの方が亡くなられました。事故調査委員会による調査では、運転士のブレーキ操作ミスのほかに、過密ダイヤや教育体制といったさまざまな問題が見つかり、今回の事故を生む手前にあった軽微な事故やトラブルが、300件以上見つかったとされています。

 

製造業や建設業と同じように、手前の軽微な事故要因や“ヒヤリ・ハット”を排除することで、重大事故を防ぐために大切なのです。

 

 

医療・介護・看護

人の命を預かる医療現場も、ハインリッヒの法則が活用される分野の一つです。

 

病院では、医師や看護師、各技師、介護士といったスタッフが連携して医療に当たっています。従って、コミュニケーションのミスや齟齬によるトラブルが起こり得る環境であり、ドミノ理論の考え方を用いて、二重チェックや円滑なコミュニケーションの実現を図っています。

 

 

サービス業

ハインリッヒの法則は、カスタマーサービスの分野でも注目されています。サービス業における顧客からのクレームは、企業が提供したサービスや商品へのフィードバックです。

 

店舗や企業にとって大きなクレームを、ハインリッヒの法則における重大災害「1」に当てはめると、その背後には「29」という軽微なクレーム、「300」というクレームにならなかったミス、提供品質の低下に繋がりかねない“ヒヤリ・ハット”があると考えられます。

 

この考え方に基づいて、サービス業でも“クレームを防ぎ、サービス品質を安定的に高める”ためにハインリッヒの法則やドミノ理論の考え方が用いられています。

ハインリッヒの法則を組織開発に活かすポイント

5人のビジネスパーソンのシルエット

 

ハインリッヒの法則を組織開発やサービス品質の改善、安定した提供に活かすには、以下のことがポイントです。

 

 

ハインリッヒの法則とドミノ理論の浸透

ハインリッヒの法則を活かして、サービス品質の改善、安定提供を実現するうえでは、重大事故に繋がる“小さなトラブル”“トラブルにならなかったヒヤリ・ハット”に敏感となることが大切です。

 

小さなトラブルやトラブルにならなかったヒヤリ・ハットに大切にして、再発しないように仕組みや仕掛けで解決していくのです。
これを実現するためには、組織のメンバーにハインリッヒの法則の意味を浸透させて、一人ひとりのメンバーが“ヒヤリ・ハット”に敏感になって、共有する文化を作っていくことが必要です。

 

 

ヒヤリ・ハットの共有

前述の通り、ハインリッヒの法則を活用するうえでは、“ヒヤリ・ハット”の300件に敏感となり、重大災害にならなうちに解決していくことがポイントであり、発生した“ヒヤリ・ハット”を個人のものではなく、組織として共有することが大切です。

 

 

厚生労働省では、「ヒヤリ・ハットの共有」について以下のような共有例を紹介しています。

 

  • 報告書
  • 報告内容の掲示(見える化)
  • 情報共有ツールの導入
  • ヒヤリ・ハット活動(キャンペーンの実施、一人一件のヒヤリを全員で共有) 等

 

共有の方法は、それぞれの組織によって適した方法があるでしょう。ただし、大事なことは、“ヒヤリ・ハット”を責めない風土です。上記のように、キャンペーン等を活かして一斉に回収したり、「“ヒヤリ・ハット”を共有して解決することが組織として価値ある」ことだと啓蒙したりして、共有が進むようにすることが大切です。

 

 

人の意識だけでなく、仕組みやルールを導入する

ハインリッヒの法則を組織開発やサービス品質の向上に活かすときには、解決策を「メンバーの意識」にしないことが大切です。メンバーの意識を解決策にしてしまうと、逆にいえば、集中力がない状態では事故が起こりやすい、不慣れな人は事故を起こしやすい、という状態を放置することになります。

 

組織では人の入れ替わりがあり、人の集中力は外部環境によっても影響を受けます。従って、仕組みや仕掛けによる“ヒヤリ・ハット”を防ぐ対策が重要です。参考として、いくつかの仕組みや仕掛けの事例をご紹介します。

 

・駅ホームの二重ドア化

大都市圏を皮切りに多くの駅で設置されている駅のホームドア。2016年3月末のデータによると、ホームドアが設置されたJR山手線の23駅では、合計168件あった自殺を含めた人身事故(2005年以降)が設置翌年度以降はわずか1件にまで減少しています。この1件も酒に酔った男性がホームドアに寄りかかって、左手が列車側面と接触したというホーム上での接触事故で、転落等による線路事故はまだ起きていません。

 

もちろん大きな費用もかかっていますが、ホームからの転落等による人身事故、また、駆け込み乗車によるトラブル、発車した電車との接触、線路への落とし物防止等を「乗客への注意喚起」ではなく、「仕組み」として防いだ事例です。

 

・指差し点検

指差し点検は、作業対象となる車両や信号、計器、標識等に指を指し、その名称と状態を声に出す点検・確認方法です。

 

もともと鉄道の機関士や運転士が実践していた方法ですが、現在では、運輸、製造、建設等、さまざまな現場で取り入れられるようになっています。

 

“ヒヤリ・ハット”や“トラブル”を防止するためのチェックを「見える化」することで、チェック漏れを防止するセルフ・チェックの仕組みです。

 

「◯◯よし!」と声に出す行為は、大脳生理学においても意識のギアチェンジが可能だと分かっており、改めて注目を集めています。実際に、鉄道総合技術研究所による実験結果では、何もしない場合と比べて失敗の発生率が約6分の1以下まで下がることが分かっています。

 

・運搬ロボット等の警告音

製品や原材料、モノの運搬に使ったり、清掃用に使われたりする産業用ロボットの普及は、労働生産性を高めるメリットの一方で、人との接触により事故を起こすリスクも増大させています。

大型のショッピングモールや空港、駅等で、清掃活動や物資の搬入等を目的に施設内で運搬ロボットが使われるケースが増えていますが、最近では、運転中には“警告音”や“警告アナウンス”が自動で流れる仕様が一般的になっています。

 

これも折衝事故の防止を、運転者と周囲の人の“意識”や“声掛け”に依存するのではなく、仕組み化した事例です。

 

・チェックリスト

チェックリストは、さまざまな業界で導入される仕組みです。チェックリストを運用することで、個人の注意力や記憶、技能に依存せずに“ヒヤリ・ハット”に繋がるミスを軽減させることができます。

 

また、チェックリストの運用は以下のような効果も生まれます。

 

  • 業務の引継ぎが楽になる
  • 業務のブラッシュアップを仕組み化する(チェックリストの更新)
  • 最適化されたチェック順序等を反映することで作業効率が向上する

 

・色や掲示による識別

“ヒヤリ・ハット”を防ぐうえでは、色による識別も効果的です。

 

  • 排水管を黄色に塗る(つまずきやすさを解消する)
  • アース線に蛍光色をつける(首や胸に引っかかるトラブルを防ぐ)
  • 目立つ白色で地面に案内を書く(重要事項を目立たせる) 等

 

 

5Sの導入

“ヒヤリ・ハット”を防ぎ、生産性を向上させるうえでは、5Sの導入も非常に効果的です。

 

<5Sとは?>

  • 整理:必要なものだけを残して、不要なものを廃棄する
  • 整頓:ものに対して、使いやすい定位置を定めて管理する
  • 清掃:きれいに掃除、併せて点検して、いつでも使える状態を維持する
  • 清潔:きれいな状態を維持する
  • 躾 :職場のルールや規律を守り、習慣づける

 

整理・整頓・清掃・清潔を実践することで、「必要なものだけが、いつでも使える状態で使いやすい位置に管理されている」状態ができれば、“ヒヤリ・ハット”を減少させられることは間違いありません。

 

また、整理・整頓・清掃・清潔は、個人の意識だけでなく、掲示や仕組みによって実現されるものであり、その点でも、仕組みによる“ヒヤリ・ハット”の回避を意図するハインリッヒの法則とは非常に相性がいいでしょう。

 

躾も、前述の“指差し点検” 等を実現することに直結するものであり、ルールによる“ヒヤリ・ハット”の回避に繋がります。

 

 

モチベーション管理も重要

どれだけ効率的な共有手段や仕組みを導入しても、働く人のモチベーション等が落ちてしまえば、ヒューマンエラー等のリスクは高まりやすくなります。

 

また、職場等で生じるうっかりミスが多発する背景には、本人の性格や適性だけでなく、疲労やストレスが蓄積していたなど労働環境問題が潜んでいる可能性も考えられます。

 

従って、ハインリッヒの法則を組織開発に活かす際には、各社員の負荷状態を管理したり、モチベーション状況を把握したりすることも大切です。

まとめ

ハインリッヒの法則は、組織内のトラブルや重大事故が、どのように発生するかを「1:29:300」の数字で示したものです。

 

1件の重大事故が生じるまでには、29件の軽微な事故、300件の“ヒヤリ・ハット”が発生しているといわれており、重大事故を回避するためには、“ヒヤリ・ハット”を仕組みによって排除することが大切です。

 

もともとは、労働災害を防ぐという目的で、製造業や建設業、医療現場等で使われてきましたが、近年ではサービス業等において、“サービスの提供品質を安定して高める”うえでもハインリッヒの法則の考え方が活用されるケースが増えています。

 

ハインリッヒの法則を組織開発に活かすには、組織メンバー一人ひとりが“ヒヤリ・ハット”に敏感になり、それを共有して、仕組みや仕掛けで解決していくことが大切です。ハインリッヒの法則を組織開発やサービス品質の向上に向けて取り入れたい方は、ぜひ記事で紹介した実践のポイントを参考にしてみてください。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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