
ハインリッヒの法則を組織開発やサービス品質の改善、安定した提供に活かすには、以下のことがポイントです。
ハインリッヒの法則とドミノ理論の浸透
ハインリッヒの法則を活かして、サービス品質の改善、安定提供を実現するうえでは、重大事故に繋がる“小さなトラブル”“トラブルにならなかったヒヤリ・ハット”に敏感となることが大切です。
小さなトラブルやトラブルにならなかったヒヤリ・ハットに大切にして、再発しないように仕組みや仕掛けで解決していくのです。
これを実現するためには、組織のメンバーにハインリッヒの法則の意味を浸透させて、一人ひとりのメンバーが“ヒヤリ・ハット”に敏感になって、共有する文化を作っていくことが必要です。
ヒヤリ・ハットの共有
前述の通り、ハインリッヒの法則を活用するうえでは、“ヒヤリ・ハット”の300件に敏感となり、重大災害にならなうちに解決していくことがポイントであり、発生した“ヒヤリ・ハット”を個人のものではなく、組織として共有することが大切です。
厚生労働省では、「ヒヤリ・ハットの共有」について以下のような共有例を紹介しています。
- 報告書
- 報告内容の掲示(見える化)
- 情報共有ツールの導入
- ヒヤリ・ハット活動(キャンペーンの実施、一人一件のヒヤリを全員で共有) 等
共有の方法は、それぞれの組織によって適した方法があるでしょう。ただし、大事なことは、“ヒヤリ・ハット”を責めない風土です。上記のように、キャンペーン等を活かして一斉に回収したり、「“ヒヤリ・ハット”を共有して解決することが組織として価値ある」ことだと啓蒙したりして、共有が進むようにすることが大切です。
人の意識だけでなく、仕組みやルールを導入する
ハインリッヒの法則を組織開発やサービス品質の向上に活かすときには、解決策を「メンバーの意識」にしないことが大切です。メンバーの意識を解決策にしてしまうと、逆にいえば、集中力がない状態では事故が起こりやすい、不慣れな人は事故を起こしやすい、という状態を放置することになります。
組織では人の入れ替わりがあり、人の集中力は外部環境によっても影響を受けます。従って、仕組みや仕掛けによる“ヒヤリ・ハット”を防ぐ対策が重要です。参考として、いくつかの仕組みや仕掛けの事例をご紹介します。
・駅ホームの二重ドア化
大都市圏を皮切りに多くの駅で設置されている駅のホームドア。2016年3月末のデータによると、ホームドアが設置されたJR山手線の23駅では、合計168件あった自殺を含めた人身事故(2005年以降)が設置翌年度以降はわずか1件にまで減少しています。この1件も酒に酔った男性がホームドアに寄りかかって、左手が列車側面と接触したというホーム上での接触事故で、転落等による線路事故はまだ起きていません。
もちろん大きな費用もかかっていますが、ホームからの転落等による人身事故、また、駆け込み乗車によるトラブル、発車した電車との接触、線路への落とし物防止等を「乗客への注意喚起」ではなく、「仕組み」として防いだ事例です。
・指差し点検
指差し点検は、作業対象となる車両や信号、計器、標識等に指を指し、その名称と状態を声に出す点検・確認方法です。
もともと鉄道の機関士や運転士が実践していた方法ですが、現在では、運輸、製造、建設等、さまざまな現場で取り入れられるようになっています。
“ヒヤリ・ハット”や“トラブル”を防止するためのチェックを「見える化」することで、チェック漏れを防止するセルフ・チェックの仕組みです。
「◯◯よし!」と声に出す行為は、大脳生理学においても意識のギアチェンジが可能だと分かっており、改めて注目を集めています。実際に、鉄道総合技術研究所による実験結果では、何もしない場合と比べて失敗の発生率が約6分の1以下まで下がることが分かっています。
・運搬ロボット等の警告音
製品や原材料、モノの運搬に使ったり、清掃用に使われたりする産業用ロボットの普及は、労働生産性を高めるメリットの一方で、人との接触により事故を起こすリスクも増大させています。
大型のショッピングモールや空港、駅等で、清掃活動や物資の搬入等を目的に施設内で運搬ロボットが使われるケースが増えていますが、最近では、運転中には“警告音”や“警告アナウンス”が自動で流れる仕様が一般的になっています。
これも折衝事故の防止を、運転者と周囲の人の“意識”や“声掛け”に依存するのではなく、仕組み化した事例です。
・チェックリスト
チェックリストは、さまざまな業界で導入される仕組みです。チェックリストを運用することで、個人の注意力や記憶、技能に依存せずに“ヒヤリ・ハット”に繋がるミスを軽減させることができます。
また、チェックリストの運用は以下のような効果も生まれます。
- 業務の引継ぎが楽になる
- 業務のブラッシュアップを仕組み化する(チェックリストの更新)
- 最適化されたチェック順序等を反映することで作業効率が向上する
・色や掲示による識別
“ヒヤリ・ハット”を防ぐうえでは、色による識別も効果的です。
- 排水管を黄色に塗る(つまずきやすさを解消する)
- アース線に蛍光色をつける(首や胸に引っかかるトラブルを防ぐ)
- 目立つ白色で地面に案内を書く(重要事項を目立たせる) 等
5Sの導入
“ヒヤリ・ハット”を防ぎ、生産性を向上させるうえでは、5Sの導入も非常に効果的です。
<5Sとは?>
- 整理:必要なものだけを残して、不要なものを廃棄する
- 整頓:ものに対して、使いやすい定位置を定めて管理する
- 清掃:きれいに掃除、併せて点検して、いつでも使える状態を維持する
- 清潔:きれいな状態を維持する
- 躾 :職場のルールや規律を守り、習慣づける
整理・整頓・清掃・清潔を実践することで、「必要なものだけが、いつでも使える状態で使いやすい位置に管理されている」状態ができれば、“ヒヤリ・ハット”を減少させられることは間違いありません。
また、整理・整頓・清掃・清潔は、個人の意識だけでなく、掲示や仕組みによって実現されるものであり、その点でも、仕組みによる“ヒヤリ・ハット”の回避を意図するハインリッヒの法則とは非常に相性がいいでしょう。
躾も、前述の“指差し点検” 等を実現することに直結するものであり、ルールによる“ヒヤリ・ハット”の回避に繋がります。
モチベーション管理も重要
どれだけ効率的な共有手段や仕組みを導入しても、働く人のモチベーション等が落ちてしまえば、ヒューマンエラー等のリスクは高まりやすくなります。
また、職場等で生じるうっかりミスが多発する背景には、本人の性格や適性だけでなく、疲労やストレスが蓄積していたなど労働環境問題が潜んでいる可能性も考えられます。
従って、ハインリッヒの法則を組織開発に活かす際には、各社員の負荷状態を管理したり、モチベーション状況を把握したりすることも大切です。