人材紹介は求人広告と並んで、企業の採用活動で使われている手法です。採用目標の達成、採用活動の工数削減、そして優秀な人材の確保など、企業が人材紹介サービスを利用する目的はさまざまです。
また、人材紹介は従来までは中途採用で中心的に利用されていましたが、近年では新卒採用でも人材紹介(新卒紹介)を利用する企業が増えています。
人材紹介は希望の人材を効率的に採用できる魅力的なサービスである反面、デメリットも有しています。人材紹介をうまく活用するためには、サービスの仕組みを深く理解し、長所と短所の両方を知っておくことが重要
です。
記事では、人材紹介の仕組みや手数料のシステム・相場、利用するメリット・デメリットを解説します。
<目次>
人材紹介の仕組み
「人材紹介」と呼ばれるサービスには、「一般紹介・登録型」「サーチ型」「再就職支援型」の3種類があります。
まず「一般紹介・登録型」は、サービスに登録している求職者と求人企業とのマッチングを行なうタイプの人材紹介です。一般に「人材紹介」といえば、「一般紹介・登録型」を指すことが殆どです。
参考までに残りの2つも紹介しておきます。
「サーチ型」は、求人企業のリクエストに応じて最適な人材を探し出して引き合わせるタイプの人材紹介です。「ヘッドハンティング」と呼ばれることもあります。経営幹部層であるCXOクラスや、経営の後継者、また特定分野のエンジニア採用といった分野でよく使われます。
最後に「再就職支援型」は、リストラ対象となった社員や早期退職した社員の再就職を支援するタイプの人材紹介です。「アウトプレイスメント」とも呼ばれ、通常の人材紹介とは違い、採用企業ではなく、もともと雇用していた企業からの要請を受けて行なわれます。
最も一般的である「一般紹介・登録型」に関しては、仕組みや利用の流れは以下のようになります。
- 求人企業と人材紹介会社とで紹介契約を締結し、採用したい人材の要件を伝える
- 人材紹介会社が、自社に登録する求職者や契約しているデータベースのなかから要件にマッチする候補者を探し出す
- 人材紹介会社が候補者に求人企業を紹介し、応募意思を取得したうえで、求人企業に推薦する
- 求人企業は推薦された候補者の情報を確認、書類選定の上で面接を行なう
- 求人企業が内定を出し、候補者が内定を承諾した場合、採用企業と候補者の間で雇用契約を締結する
- 求人企業は人材紹介会社に紹介手数料を支払う
サーチ型(ヘッドハンティング)の場合、自社に登録している求職者のなかで人材を探すのではなく、企業の要望に沿う人材をピンポイントで探して口説く形になります。
前述のようにCXOや特定分野のエンジニア層になりますので、「競合企業の○○さん」「この3社のこの職種」「この業界で、こういう経験をしている人」といったピンポイントな採用ニーズが大半です。
【人材紹介】手数料の発生タイミングと相場、返金規定
続いて、人材紹介サービスの利用料金について見ていきましょう。手数料が発生するタイミングや仕組み、手数料の相場、そして一般的な返金規定を解説します。
手数料の発生タイミング
「一般紹介・登録型」の人材紹介サービスは、殆どが完全成果報酬制を採っています。完全成果報酬制の場合、初期費用は発生せず、採用決定時(入社時)に採用手数料が発生します。採用決定者が入社した時点で人材紹介会社から請求書が発行される形です。
なお、人材紹介会社側で大きな工数と長期間をかけて候補者を探す「サーチ型」の人材紹介サービスの場合には、初期費用として着手金が発生することが一般的です。
手数料の仕組み
人材紹介における紹介手数料の算出方法には「上限制手数料」と「届出制手数料」の2種類があります。それぞれの人材紹介会社がどちらの算出方法を採るかを決めるのですが、特殊な分野を除いては、人材紹介会社の殆どが届出制手数料を採用しています。
届出制手数料の場合、紹介手数料は
採用決定者の初年度の理論年収 × 事前に定めた料率
という形で算出されます。
例えば、採用決定者の初年度の理論年収が500万円で、料率が35%であった場合、紹介手数料は
500万円 × 35% = 175万円
となります。
料率の相場は通常時で30~35%程度です。需給バランスに応じて、売り手市場だと35~40%程度、買い手市場だと25~30%程度と多少変動します。
なお、若年層や未経験者などを対象とした人材紹介では、年収に応じて紹介料が変動する形ではなく、1人あたり80~120万円程度の定額制で手数料を設定する企業も少なくありません。
返金規定
「一般紹介・登録型」の人材紹介会社では、早期退職にともなう返金制度を設けている企業が殆どです。早期退職にともなう返金制度とは、人材紹介を通じて採用した人材が入社後すぐに辞めてしまった場合、支払った紹介手数料が返金される制度です。
早期退職の返金額は、採用決定者が企業に在籍した期間によって変わるケースがほとんどで、相場は下記のようになっています。
- 入社後1ヵ月以内 ・・・紹介手数料の100%
- 入社後1ヵ月~3か月程度 ・・・紹介手数料の50%
人材紹介の手数料の相場や計算方法については以下の記事で詳しく解説しています。
人材紹介を利用するメリット・デメリット
人材紹介サービスの利用には多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。長所と短所の両方を知って、サービスをうまく活用しましょう。
メリット
採用に人材紹介を利用するメリットは、以下の4つが代表的です。
・費用のリスクを最小限に抑えられる
ほとんどの人材紹介サービスは完全成功報酬制を採っていますので、人材紹介を使うとコスト面でのリスクが無くなります。
求人広告やダイレクトリクルーティングの場合、広告の出稿・サービスの契約時点で費用が発生することが基本的です。従って、応募者の人数や最終的な採用結果に関わらず、一定のコストが発生します。
例として、100万円の求人広告を出した場合を考えてみましょう。2名採用できれば、1名あたり50万円で採用できたことになりますが、1名も採用できなかった場合も100万円は戻ってきません。
一方で人材紹介を利用した場合、何人紹介してもらっても、入社に至らない限り費用が発生しません。人材紹介を利用することで、かけたコストが無駄になるリスクはゼロになります。
・採用活動の工数を極限まで減らせる
求人広告を出す場合、選考や合否の判断以外にも、求人企業で行なう作業が意外と多くあります。
出稿先の情報収集やプランの選定、広告内容の準備・決定、応募者対応、説明会の開催、応募者との連絡、内定承諾のクロージング……などのプロセスを求人企業側が実施する必要があるため、採用活動に多くの工数がかかってしまいます。
人材紹介を利用する場合、上記プロセスのすべてを人材紹介会社が代行してくれます。極端に言えば、求人企業がやる必要があることは面接の実施と合否決定だけです。
従って、採用の専任担当がまだいない規模の企業や、経営陣が採用活動を行なう企業にとっては、人材紹介は非常に便利なサービスだといえます。
・応募者を絞り込める
求人広告を出して採用活動を進める場合、思い通りに応募者を絞り込むことは困難です。
定量的に「資格」や「法人営業経験が2年以上」といった形で明確に絞り込める場合はともかく、未経験層や若手等を「人柄」や「コミュニケーション能力」で採用する場合には応募要項での絞り込みは難しくなります。
しかし、人材紹介を利用する場合、人材紹介会社のエージェントがいわば「外部人事」として一次選考を行なってくれる形になります。従って、ある程度定性的な採用要件も踏まえて該当する人だけが推薦され、効率的に採用活動を進められます。
・求人広告では応募してこない層の採用が可能
採用市場で出てきにくい職種や経験者を採用する場合も、紹介会社に依頼すると効率的です。自社やデータベースへの新規登録者等を継続的にウォッチしてくれますので、専任の採用担当がいても、網を広げる意味で経験者層の採用に人材紹介会社を使う会社も多くあります。
・社内外に知られたくない非公開での採用が可能
求人広告で採用活動を行うと、採用媒体上に公開した広告は、社内メンバーや競合企業からも見えてしまいます。
一方で人材紹介サービスを利用する場合、求人を一般に公開しない旨を依頼できます。非公開にすれば、求人を紹介される候補者以外には求人が公開されません。現職スタッフの退職予定にともなう中途採用、社外秘段階の新規プロジェクト要員の採用などで、人材紹介が利用されることも良くあります。
デメリット
メリットの多い人材紹介サービスですが、いくつかのデメリットもあります。
・1人あたりの採用単価が高い
前述の通り、人材紹介は採用が決まった人材の理論年収×紹介料率で、人材紹介会社への紹介料が決まる仕組みです。入社した場合にのみ費用が発生しますのでリスクはありませんが、一方で人材紹介会社が手間をかける分、採用単価は高くなります。
とくに求人広告に多くの募集が見込めるケースでは、人材紹介より求人広告のほうが採用単価を抑えられることが多いでしょう。
求人広告は、出稿企業が費用を前払いして、効果があがらなくても費用発生する代わり、応募者がどれだけ多くても追加費用はかかりません。例えば、広告費用100万円で出稿して1人も採れなくても100万円かかりますが、4人採ることができれば採用単価は25万円に抑えられます。
従って、自社の認知やブランド力が高く、かつ多くの応募が見込める未経験者層の採用などであれば、求人広告を使うことがおススメです。
また、継続的に採用する場合は、ダイレクトリクルーティングを活用することも採用単価を落とす効果があります。
ダイレクトリクルーティングは、求人企業側で直接データベースを見てターゲット人材にのみスカウトを送信することができるサービスです。いわば、求人広告や人材紹介会社の登録者データベースが有償で公開されて利用できるようなイメージです。
スカウト原稿を作り、日々検索してメッセージを送信する手間はかかりますが、うまく活用すれば、採用費の抑制と質の向上を実現できます。
採用費の抑制と採用活動に割ける工数、また自社の採用ブランド力と採用人数を勘案して、自社にとってベストな手段を検討しましょう。
・採用ノウハウが蓄積しにくい
採用活動の工数を削減できることが人材紹介を使うメリットですが、採用活動をアウトソースする分、社内に採用ノウハウが蓄積しにくいというデメリットもあります。
もちろん人材紹介でも、面接での見極めや魅力付けのノウハウは蓄積できますが、面接前後でのやり取り、志望度の把握、求職者の応募を生み出すための企業紹介のポイントといったノウハウは蓄積しにくくなります。
人材紹介サービスを利用するポイント
最後に、人材紹介サービスを効果的に利用するために押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
求める人材の条件を明確にし、しっかり絞り込む
求人企業側の採用条件があいまいだと、人材紹介会社側も良い人材を推薦しづらくなります。まず自社が求める人材を明確にすることが、人材紹介を効果的に活用するポイントです。
ただし、自社の採用力(知名度や魅力)と釣り合わない採用条件を設定してしまうと、人材紹介会社から推薦されなくなるでしょう。人材紹介会社の担当者の意見も採り入れながら、現実的な条件にすることが大切です。
また、人材紹介サービスの強みとして、エージェントによる定性的な絞り込みが可能である点が挙げられます。経歴や資格などの定量的な条件だけでなく、定性的な条件で絞り込むことも有効な手段の一つです。
人材紹介サービス側に定期的に情報提供や共有をする
人材紹介では、エージェントを介して、求職者に企業を紹介・推薦してもらいます。したがって採用ターゲットに自社の魅力を知ってもらうには、まず人材紹介会社の担当者やキャリアアドバイザー(求職者の面談担当)に自社のことを深く知ってもらい、ファンになってもらうことが重要です。
人材紹介会社の担当者に依頼して、キャリアアドバイザー(求職者の面談担当)向けの企業説明会を実施するのも効果的でしょう。担当者に応募状況などをヒアリングし、コミュニケーションを密に取っていくことで、良好な関係を築きましょう。
応募者のフィードバックをしっかり行ない、ミスマッチを減らす
スピード感が遅い採用企業は、人材紹介会社から敬遠されてしまいますので、紹介後、面接の合否を人材紹介会社にすぐ伝えることは紹介会社を効果的に使う基本です。加えて、合否と併せて合否の理由をフィードバックすることで、より精度の高い紹介につながります。
不合格の場合は、不合格の理由、どういったスキルが足りなかったか、どこが合格ラインでどの部分がラインに届かず不合格になったかなどを伝えましょう。
合格の場合も、合格の理由や評価が高かった点、今後への期待などをフィードバックするのがおススメです。フィードバックすることで今後の紹介の質が上がるだけでなく、合格の理由を伝えることで、エージェントが応募者に魅力付けするための材料を提供できます。
なお、当初伝えた採用条件に適した人材が連続して不合格となると、人材紹介会社から「この企業にはいくら推薦しても無駄」とみなされ、人材紹介会社内での優先順位が下がることもあるので要注意です。不合格が続く場合、担当者と相談して条件の見直しを検討しましょう。
まとめ
人材紹介は一部のサーチ型(ヘッドハンティング)を除けば、ほとんどが完全成果報酬制で運用されています。また、入社後にすぐに退職してしまった場合にも返金規定があることが大半です。したがって、ムダな費用が生じるリスクをなくして、採用活動を進められます。
手数料は市場の需給バランスに応じて多少変動しますが、「採用決定者の初年度理論年収の30~35%」が相場です。なお、若年層の場合には「年収×料率」という計算ではなく、定額制を採っている企業もあります。
人材紹介サービスを効果的に利用するためには採用条件を明確にするとともに、密なコミュニケーションやフィードバックを通じて、人材紹介会社の担当やキャリアアドバイザー(求職者の面談担当)に自社をよく知ってもらい、自社のファンになってもらうことがポイントです。