2018年10月に経団連より就活ルールの廃止が発表され、2019年4月には「新卒学生の通年採用を拡大する」ことで経団連と大学側が合意しました。また、その後、政府と大学が主導して、就職ルールを決定するという形で運用が決まっています。
今回の通年採用に関して、メディアの報道にも意図的なのか、理解不足なのか、かなり誤解を招く内容もありました。また、表面的な「就活ルールを決める主導者が、経団連から政府と大学に移った」ということ以上に、この2年近くで採用活動の実態に大きな変化が生じています。
記事では、前半では言葉通りの「通年採用」の意味、後半では、経団連の就活ルール廃止によって起きている実態の変化や対応のポイントを解説します。通年採用は非常に誤解されやすいトピックですので、正しく理解して新卒採用を成功させてください。
<目次>
本来の「通年採用」とは?
本来の通年採用とは、字のごとく「1年を通して採用活動をおこなうこと」を指します。従来まで日本の新卒採用は、「3月に採用広報がスタート、6月に採用選考が解禁され、10月に内定出しが解禁される」というスケジュールが定められていました。
実態としては「3月に大手ナビサイトでの説明会募集が解禁されて、同時に選考がスタート。6月1日~上旬で、大手企業における実質の内定出し(名目上は内々定)と内定承諾へのクロージングがおこなわれ、お盆前には大手企業の採用活動はほぼ終了。10月1日に内定式を開催して、内定者教育に入る」というスケジュールです。
このスケジュールの中では、学生側は実質3月~5月に応募しないと、就職活動が不利になってしまいます。企業側から見ても、海外留学生、教職課程からの転向、公務員試験から民間転向した学生、体育会の学生、研究で忙しい理系学生等、リーチしにくい属性が発生します。
これに対する1つの改善策として、時期が偏った一括採用を緩和して、通年で新卒採用の活動をおこなうようにするのが「通年採用」です。これにより企業も応募者の属性を広げたり、自社の状況を見ながら採用活動をおこなえる一方で、採用活動が長期化、終わりも曖昧になり、内定辞退の増加や採用コストの増加等も懸念されています。
通年採用と従来型の一括採用の違い
一括採用とは、すべての企業が同じ時期に一斉に採用活動をおこなうという、従来のやり方です。限られた期間で集中的に採用活動をおこなう一括採用は、企業にとって工数や費用を必要最低限に抑えられるというメリットがあります。
しかし、採用期間が短いために、前述したように一括採用から漏れてしまう優秀な人材を見逃してしまう、社会全体でのミスマッチが生じやすいという欠点があります。
通年採用のメリット
新卒採用において通年採用を目指すメリットは主に2つです。
企業ごとのタイミングで採用できる(学生ごとのタイミングで就職活動ができる)
必要なタイミングで採用活動をできるようになるというのが通年採用の目指すところです。中途採用においては、当たり前となっている考え方ですが、新卒採用はシーズンが縛られているため、決まったシーズンに合わせて採用活動をせざるを得ません。
3月~6月は企業によっては繁忙期にあたりますし、中小企業になると、入社の1年前に採用活動をおこなうことは時期が早すぎて経営状況が読みづらい側面もあります。通年採用になれば、場合によっては未経験者・既卒者の中途採用とも融合するような形で、企業のタイミングで採用活動ができるようになります。
学生側も同様で、4年生の新学期が始まる時期に就職活動をおこなわざるを得ないことは学生にも大きな負担がかかっています。これを是正することが通年採用の大きな狙いです。
多種多様な人材を採用できるチャンスが広がる
採用活動が平準化し、通年採用になることで、海外留学している学生、年々増加傾向にある既卒者、教職課程からの転向、公務員試験からの転向、卒業論文のテーマ策定時期にあたる理系学生、リーグ戦等のシーズンにあたる体育会系等、いまの一括採用では不利になりがちな人材に機会が生まれます。
当然、企業にとっても、いままでは取り逃した層にリーチしやすくなり、社会全体としてもマッチングの機会損失がなくなることが期待できます。
通年採用のデメリット
通年採用には社会全体の機会損失を防ぎ、企業にとってもメリットがある一方で、デメリットやリスクもあります。
中小企業は内定辞退に苦しむ可能性がある
通年採用が拡大すれば、学生側も入社する企業をじっくり選べるようになります。この数年、“内定承諾に法的拘束力はない”ということがネット上でも盛んに書き込まれた結果、内定承諾後の辞退は増えている傾向にあります。
とはいえ、一括採用の中で、メインの採用シーズンが終わると、一気に求人数が減少し、とりわけ10月1日の内定式以降は、辞退が生じにくい傾向にあります。
しかし、通年採用になると、中小企業から内定をもらった学生は、その後でも大企業の入社試験を受けることができるようになります。通年採用が本格化すると、中小企業が学生にとっての「滑り止め」になり兼ねない点が懸念されます。
採用コストや工数が増大する可能性がある
通年採用の実施により、求人広告や求人媒体への掲載期間が長期化する恐れがあります。現在の一括採用は、ほとんどの企業と学生が一斉に活動をおこなう分、効率が良いともいえるのです。通年採用になると、いまほど効率的に母集団形成ができなくなるリスクがあります。その場合、採用コストの増加は避けられません。
「通年採用」に関する大きな誤解と実態
ここまでは、言葉通りの「通年採用」について解説してきました。本来の「通年採用」が意味するところを理解していただいたところで、この章からは、経団連の採用ルール廃止に伴って、実際に起こっていることや誤解が生じている部分を解説していきます。
まず2018年10月、経団連の中西会長が発した「2021年度以降に入社する学生を対象とした採用選考に関する指針を策定しない」という発言があり、その後、2019年4月に「大学と経団連が通年採用で合意した」という報道がなされました。
この中で、マスコミによっては「通年採用=早期化、自由化することで、大学と経団連が合意した」と捉えられるニュアンスの記事もありましたが、これは全くの誤解です。ここまでの事実は以下のようなものです。
- 決まったのは「経団連が採用選考に関する指針を策定しない」ことであり、2021年卒の新卒採用は、政府と大学が主導して採用ルールを作成する。それ以降のことは未定
- 経団連と大学が合意したのは「外国人留学生、日本人の海外留学経験者、インターン就業した既卒者、大学院生等を対象にした採用活動を通年でおこなっていく」ことを拡大する
- 「通年採用=早期化、自由化」に合意したわけではない
実際に経団連の中西会長も「2021年の新卒採用から自由化(早期化)したい」といった発言はしていません。
『本日の会長・副会長会議において、2021年度以降に入社する学生を対象とする採用選考に関する指針を策定しないことと決まった。日本の現状を見れば、何らかのルールが必要ではあるものの、経団連がルール作りをしてきたことに抵抗感があるというのが、ほとんどの副会長の認識であった。今後は、未来投資会議をはじめとする政府の関係会合において、2021年度以降のルールのあり方について議論していくことになる』
出典: 「定例記者会見における中西会長発言要旨」より
経団連としては、ある程度のルールは必要だが、経団連主導で「就活ルール」を定めるのはやめるとアナウンスしたわけです。また、2019年4月に、大学と経団連が合意発表をしたのは以下の内容となります。この内容は、経団連側の採用ルールの廃止発表をした理由が汲み取れる部分もあり、重要な内容です。
- メンバーシップ型採用(就社)に加えて、ジョブ型採用(職種別採用)も含めて、複線的で多様な採用形態に秩序を持って移行すべき
- 外国人留学生や日本人海外留学経験者を積極的に採用する
- ジョブ型採用を念頭に、大学院生を積極的に採用する
- 1dayインターンシップは、教育的意義を持つインターンシップとは区分して、別のものとする
- インターンシップで得た学生情報の広報・採用選考活動への活用は、継続的に検討する
ここまでを確認すると、「新卒採用から自由化(早期化)される」ということで合意がなされたという事実はどこにもないことがわかります。誤解が生じたのは、報道や人材ビジネス各社のミスリードも大きな要因でしょう。
ただし、経団連が指針廃止に踏み切った背景には「高度なIT人材や本当の経営幹部候補が外資やメガベンチャー企業に採用されてしまっており、このままでは必要な人材を確保できない」という危機感があることは間違いありません。
これは、合意内容の一部にある「ジョブ型採用の促進」からも汲み取れますし、時期を合わせたかのように、NEC、SONY等が相次いで発表した、「新卒でも優秀なエンジニアには年収1,000万円を支払う」といった一括採用・一括待遇からの脱却メッセージからも読み取れます。これまでの採用ルールは、経団連が採用における圧倒的な強者だったからこそ、成り立っていたものです。
しかし、近年では、採用ルールに従わない新経済連盟の加盟企業に代表されるようなメガベンチャー、GAFAや外資系コンサル、外資系金融等に採用ブランドや人材獲得競争に負けることもある状態です。
その中で、自らの手を縛るような採用ルールをこれ以上維持し、AIエンジニアをはじめとする優秀な人材の採用に負けることが続けば、自社の存続も危なくなるという危機感が経団連を今回の意思決定へと駆り立てました。その結果、実際に採用市場でこの2年間において起こってきた変化は、「早期化・長期化・複雑化」です。
・早期化
サマーインターンで母集団形成をおこない、選抜型の選考を実施する企業が2か年で急増。“インターン期で接触した学生で採用目標の○割を採用する”と明確に設定する企業や“3月以降は母集団形成をしない”という企業が増えています。
・長期化
早期化によって起こったのが長期化です。3年生6月~9月のサマーインターンで接触を取った学生に内定、内定承諾のクロージングをするのは1月~3月がメインとなっています。
これだけでも接触から6ヵ月~9ヵ月。その後、内定式まで、更に6ヵ月。入社までは更に6ヵ月と母集団形成~入社まで最長で2年近くかかることになります。この間、学生と接触を取り続ける必要があり、接触管理やコミュニケーション設計の難易度が増しています。
・複雑化
早期化とジョブ型採用の掛け合わせによって起こった変化です。インターンからの早期採用では、学生を口説くためにも「特別選考」等のルートを作る場合が多々あります。また、職種別採用も広がり、職種によって選考フローが異なることも一般的です。誤解が生まれがちな通年採用の実態は下記でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
早期採用の成功に必要な3つの要素
通年採用という名の下で、インターンシップを採用活動に直結させた形の早期採用が確実に増えつつあります。過去5年間でインターンシップの増加企業数は約3倍へ増加。一方で、インターンシップへの学生参加率は90%に近づき、そろそろ頭打ちです。
これに伴って、学生1人あたりが参加するインターンシップの企業数は明確に増加傾向にあり、早期採用を成功させる難易度も徐々に高くなってきています。そのような状況で、早期採用を成功させるために欠かせないのが以下の3つの要素です。
1. 早期に学生接触できる「会う」チャネル
インターンシップ開催企業が増加している現在、媒体やイベントといった「学生に会うチャネル」の新規開拓は必要不可欠になっています。大手求人媒体に掲載されるインターンシップの掲載数は1万社を突破し、22卒からは大手求人媒体での「1dayインターンシップ」名称の利用停止や掲載期間の制限が始まります。
ダイレクトリクルーティングやイベント等、新規チャネルの開拓も試行錯誤しながら自社のターゲット学生に会えるチャネルを確保する必要があります。
2. 接触してから本選考に誘導する「繋ぎとめる」工夫
この1、2年で学生1人が参加するインターンシップ数が増加し、3社~4社は当たり前、10社を超える学生も一定割合います。とくにベンチャー志望者等の情報感度が高い学生層は、インターンが採用に直結していることを承知しています。従って、いわば説明会に参加するのと近い感覚で企業を見ています。
また、早期選考は6月~8月に接触した後、内定出しは1月~2月頃におこなうケースが多いです。相当強力なクロージング力がないと、学生の「もう少し他社を見てみたい」という希望を超えて、内定承諾を獲得することが難しいためです。
従って、初接触から6ヵ月間程度、継続してコミュニケーションを取りながら志望度を上げていくケースが多くなります。従って、この間の「繫ぎとめ」ができないと、せっかく接触できても優秀な人材はどんどん流出してしまい、結果的に採用に結びつきません。
3. 年内~4月に内定承諾してもらう「口説く」力
インターンから早期採用する場合は、6月の大手企業選考が始まる前に、内定承諾を獲得するケースがほとんどです。一般的なのは、10月~1月頃に選考を進めて、1月~2月に内定出し、2月~4月頃までに内定承諾を獲得するスケジュール感です。
従って、3月4月には内定承諾を獲得する「口説く力」がなければ、「繋ぎとめる」力と同じく、せっかく早期に接触しても、採用まで結びつきません。
まとめ
「通年採用」は年間を通して採用活動を実施する手法であり、中途採用では普通におこなわれていることです。しかし、日本の新卒採用は、スケジュールが決まった一括採用であり、通年採用とは対極にあるものです。その中で、3月~6月に活動しにくい学生層と企業のミスマッチが生じていることが問題でした。
その中で、経団連の「就活ルール廃止」発表を受けて、“通年採用”という言葉が盛んに取り上げられるようになりました。ただ、非常に誤解が生じやすく、また、実態との乖離も生じています。
その中で優秀な人材を採用するためには、実態として生じている「早期化・長期化・複雑化」に対応することが必要です。それには、早期で「会う」チャネル、優秀学生を「繋ぎとめる」力、年内~4月に内定承諾を獲得する「口説く力」が必要です。
早期採用で必要な力や成功事例の紹介については、下記もご覧ください。