ポテンシャル採用は、かつて新卒採用の代名詞として使われていた概念です。しかし、転職が一般化するなかで中途採用における未経験者採用も増加したことで、「ポテンシャル採用」という概念は新卒・中途問わず使われるようになりました。
本記事では、ポテンシャル採用の概要と企業がポテンシャル採用を実施するメリット・デメリットを確認します。そのうえで、ポテンシャル採用で重要となる内面の見極めや、ポテンシャル採用で優秀な人材を獲得するコツを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
<目次>
ポテンシャル採用の概略
1990年代頃までの日本では、ポテンシャル採用とは新卒採用を意味するものであり、対比される中途採用は即戦力の採用という意味合いを持っていました。しかし、近年では、その意味は大きく変わってきています。
まずは、いまの時代のポテンシャル採用の概要、キャリア採用との違い、ポテンシャル採用が注目される背景を確認しておきます。
ポテンシャル採用とは?
ポテンシャル採用とは、求職者の現時点での経験やスキルではなく、求職者の潜在能力や成長可能性を重視した採用を指す概念です。
前述のとおり、かつての日本では、ポテンシャル採用は新卒採用を指す言葉として使われていました。また、現在でも新卒採用は、ポテンシャル採用の比重が非常に高くなっています。
ただし、冒頭でも記載した通り、転職と中途採用が一般的になった結果、中途採用でも第二新卒採用や既卒採用などは、経験を問わないポテンシャル採用が一般的になっています。
また、学生の二極化が進む中で、新卒採用でもシステム開発やAI活用を経験している優秀学生、経営幹部候補などを通常とは別枠で採用するような動きも増えています。その点では、新卒=ポテンシャル、中途=即戦力という境目が薄れてきているといえます。
キャリア採用との違い
キャリア採用は、ポテンシャル採用の逆で即戦力になる人材を採用することです。中途におけるポテンシャル採用とキャリア採用に、明確な定義が存在するわけではありません。一般的には、以下のようなイメージで使われることが多いでしょう。
<中途採用におけるポテンシャル採用とキャリア採用の違い>
ポテンシャル採用 | キャリア採用 | |
採用対象 | 「業界未経験・職種未経験」での採用 | 基本的に「該当業務の経験者」を対象とした採用 |
年齢 | 一般的には20代が中心 | 20代後半~30代以上が中心 |
なお、本記事では、従来から行なわれている新卒のポテンシャル採用ではなく、近年増えている中途採用(既卒採用・第二新卒採用など)におけるポテンシャル採用を解説します。
ポテンシャル採用が注目される背景
転職が一般化するなかで、企業が「若年層の中途採用」に取り組むケースは非常に多くなってきています。
平成初期まで転職はネガティブなものであり、とくに若年層の離職はマイナスの目で見られることも多くありました。しかし、今では大手企業なども既卒や第二新卒などの若手層を中途採用するのは当たり前になっており、価値観が大きく変わったといえます。
新卒採用が早期化するなかで、新卒採用は母集団形成から入社まで2年近くかかるケースもよくあります(3年生の6月に接触⇒1年10か月後の入社)。その点でも、年度の事業計画達成に向けた増員や欠員補充などにおいて、中途のポテンシャル採用は企業にとってメリットがあるものとなっています。
また、中小企業やベンチャー企業などにとっては、優秀人材を確保する上で待遇が高くなりがちな経験者層よりもポテンシャル層を採用して育成したほうが効率的という考え方もあります。
また、中小企業などでは、入社後の育成を考えるうえで、“新卒ほどイチから教える必要はない”、かつ“キャリア採用ほど前職などの色がついていないので育てやすい”ということで、中途のポテンシャル採用を好む企業や経営者もいます。
こうした背景から、第二新卒や既卒者などのポテンシャル採用を実施する企業が増加しています。
ポテンシャル採用のメリット
ポテンシャル採用には、企業にとって以下の効果やメリットがあります。
新卒と比べて教育コストがかかりにくい
ポテンシャル採用の対象層のなかでも、社会人経験がある第二新卒であれば、前職でビジネスマナー研修などを受けている可能性が高いです。また、既卒者の場合、たとえば、以下のような事情で新卒にならなかった場合は、主体性などのポテンシャルが高い可能性もあります。
- 海外留学をしていた
- 大学の研究室に残っていた
- プロスポーツに挑戦していた など
社会の厳しさなどを知っていたり正社員として働く覚悟が決まっている人も多かったりして、純粋な新卒よりもポテンシャル採用の対象層のほうが教育も進めやすく、育成コストも押さえられる傾向もあります。
採用内定から入社までのスピードが速い
先述のとおり、近年の新卒は「早期化」が進んでいます。たとえば、大学3年生を対象にサマーインターンを実施する場合には、前述の通り、学生との接触→採用試験→内定→入社までに2年近い期間がかかることになります。
一方で、年度の事業計画達成に向けた増員や欠員補充は、上記のような時間軸で考えているわけにはいきません。入社までのスピードを重視する場合は、新卒採用よりも既卒者や第二新卒のポテンシャル採用のほうに圧倒的に強みがあります。
中小企業やベンチャー企業でも優秀な人材を獲得しやすい
キャリア採用に関していうと、優秀な経験者は現職でも高く評価されており、そもそも転職市場にはあまり出てきません。転職する場合も、自分の人脈などで次の職場が決まってしまう場合が多くなってきます。
当然、年収などの待遇もそれなりに高くなっており、家族などがいた場合、待遇ダウンでの転職はしにくくなります。そういった待遇面に関しては、一般的に大手企業の方が好条件であることが多くなります。
したがって、中小企業やベンチャー企業が優秀な人材を採用したいと考えた場合、キャリア採用は難易度やハードルがかなり高くなります。しかし、新卒採用と中途のポテンシャル採用であれば、どちらもキャリア採用と比べると、優秀層にリーチして、かつ知名度や待遇のビハインドを別の魅力で逆転して口説くことが可能です。
ただ、日本の新卒採用の場合、全学生が一斉に同じスケジュールで活動します。さらに、社会人経験がないからこそ、表面的なイメージや知名度に左右されてしまう部分もあります。
一方で、中途のポテンシャル採用に関しては、実施している大手企業も増えたとはいえ、まだまだ実施していない企業も多くあります。したがって、中途のポテンシャル採用は、中小企業やベンチャー企業が優秀な人材を採用しやすいチャネルといえます。
ポテンシャル採用のデメリットや注意点
ポテンシャル採用を導入する場合、以下3つのポイントは押さえておく必要があります。
個別の教育・研修が必要になる
ポテンシャル採用は、未経験者であることが大半であり、採用後には教育が必要となります。さらに、新卒採用とは違って4月に一斉入社するわけではないため、個別に教育・研修を設計・実施する必要があるでしょう。
採用に慣れていてオンボーディングなどの仕組みが整っている企業であれば、採用後の教育が大きな支障にならないかもしれません。
一方で、採用に慣れていない企業が、4月1人、7月に1人、10月に1人、11月に1人……といった形で採用すると、育成がうまくできなかったり、OJTとして現場に丸投げになってしまったりする問題が起こりやすくなります。
キャリア採用と比べると採用後に丁寧な育成が必要であり、一斉入社する新卒と比べて個別対応の手間が生じるということは押さえておきましょう。
自社で長く働いてくれる保証はない
ポテンシャル採用の対象層のなかでも、正社員経験がある第二新卒は、言い換えると就職した企業を早期で退職している層です。
“石の上にも3年”という言葉もあり、継続した努力は大切です。一方で、成長環境や職場としての環境に問題があった場合、優秀層ほど早く見切りをつけて、次の機会を探す傾向もあります。
今の時代、離職や転職が悪いということもありません。しかし、第二新卒のなかには、いわゆる“辞め癖”がついてしまっている人がいることも事実です。こうした人材は、「合わない」と感じたときに、新卒よりも気軽に離職してしまう可能性はあるでしょう。
ポテンシャル採用は見極めが難しい
キャリア採用をする場合、見極めに際して、ある程度経験や実績が参考材料となります。もちろん、求職者が培ってきた経験や成功体験が自社で活かせるものか?再現できるか?という判断や深掘りが必要ですが、深掘りする材料はあるといえます。
一方で、ポテンシャル採用は、“ポテンシャル”というとおり、潜在能力や可能性を評価するものです。参考になる過去の経験やエピソードはありますが、キャリア採用と比べると、コンピテンシーや性格特性、動機などに踏み込んで内面部分を見極める比重が大きくなり、判断が難しいといえます。
ポテンシャル採用ではスキルよりも内面の見極めが重要
ポテンシャル採用は、経験や現時点でのスキル以上に“伸びしろ”に重きをおきますので、前述の通り、適性検査や面接などを通じて、行動特性や性格特性、動機などの内面を見極めていく必要があります。
内面 = 思考・行動特性や価値観
たとえば、「一流大学の出身で、在学中に海外留学して高い語学力を活かして大手企業に入社、半年で退職した第二新卒」がいたと仮定します。
「一流大学」「高い語学力」「大手企業の出身」などのキャリアはたしかに魅力的であり、同時に、ある程度のスキルなどを保証してくれる要素でもあります。しかし、これらの要素は、自社での“伸びしろ”を保証してくれるわけではありません。
入社後の伸びしろを左右するのは、上記のような要素以上に行動特性や性格特性、動機などの部分になります。
面接で求職者の内面を見極める難しさ
多くの求職者は、面接官の質問を想定して、模範解答を用意しています。ですから、表面的な質問をしていっても、相手の内面を見極めることはできません(但し、模範解答をきちんと準備できるというのも能力や特性のひとつではあります)。
また、性格特性や価値観を見極めるに際しては、面接官の側にも自分の好みや主観、第一印象などのバイアスが生じやすくなります。
従って、ポテンシャルを見極める上で、面接は非常に大切なのですが、同時に、面接で求職者の内面を見抜き、ポテンシャルを判断するには、それなりの難易度があります。
適性検査や構造化面接の導入がおすすめ
求職者の行動特性や価値観などを深堀りするには、STAR面接などの構造化面接を導入する、また、面接と適性検査を併用することがおすすめです。
STAR面接とは、エピソードなどを深掘りするに際して、以下の内容を順番に質問していくことで、安定したヒアリングや求職者の内面の考察を可能とする構造化面接の一種です。
- Situation(状況):置かれた環境、問題の背景、役割や責任、関わり方など
- Task(課題):生じた課題と目標、目標設定の経緯など
- Action(行動):課題解決・目標達成に向けて実施した行動、意思決定や行動のプロセス、周囲とのコミュニケーション
- Result(結果):行動の結果、経験の振り返り方や得ている学びなど
ポテンシャル採用で優秀人材を獲得するコツ
ポテンシャル採用で自社に合う優秀な人材を獲得するには、以下のポイントを押さえるとよいでしょう。
採用要件の明確化
ポテンシャル採用を成功させるためには、自社でどのようなポテンシャルを持った人が活躍するかを明確にすることが大切です。
人物像、内面に求める条件として、「主体的で、コミュニケーション能力が高く、リーダーシップがある人」といったものが挙げられがちです。これらの要素が大切なわけではないということはありませんが、この条件は採用を成功させるうえでは残念ながらあまり役立ちません。
理由としては、これらの基準が、他社で求める人物像と変わらない、かつ、抽象的な単語が並ぶだけで面接での合否基準としにくいからです。ポテンシャル採用を始めるときには、今回の採用で求める必須要件は何なのかを明確にすることが大切です。
また、主体的、コミュニケーション能力、リーダーシップといった単語は、自社においてはどのような行動や思考特性を意味するのかを具体化しておくことも大切です。
採用ターゲットのニーズを理解する
競合に勝ち、求職者を集めるためには、求職者目線で採用活動を進めることが大切です。
上述した採用ターゲットの要件が「自社が求職者に求める能力条件」だとすると、「その求職者が企業や仕事に求めるものはなぜか?」「なぜ転職するのか?」をしっかりと考えることが重要です。
たとえば、ポテンシャル採用における求職者のニーズには、以下のようなものがあるでしょう。
- 早く昇進できる環境で働きたい
- 語学力を活かせる仕事をしたい
- 自分の話を聴いてくれたり提案を認めてくれたりする上司と働きたい
- 市場で通用するキャリアをつくりたい
- ワーク・ライフ・バランスを充実させたい など
採用ターゲットのニーズに合ったメッセージを発信する
求める人物像の明確化とニーズの把握ができたら、相手の人物像とニーズに合わせて、自社が提供できるものを一貫性と具体性のあるメッセージで発信します。
- 実績に応じて若くても責任ある仕事を任せる
- 26歳で拠点長になった事例がある
- 次世代リーダーの育成に力を入れており、外部研修も受講可能
- 入社2年目から海外拠点でも活躍できる
- 男性の育休取得率100%、時短勤務やテレワークも可能 など
採用ターゲットのニーズを考える、またニーズに合ったメッセージを作成する上では、採用ペルソナを作成することが有効です。採用ペルソナは「合否を決める採用基準」に、仕事に関する価値観、職歴、転職の理由、家庭環境など、“架空の人物”としての肉付けをしたものです。
まとめ
この10数年で、中途採用におけるポテンシャル採用は一般的なものとなってきました。中途採用におけるポテンシャル採用は、第二新卒や既卒者などを主な対象として、潜在能力や成長可能性を重視して採用することを指します。ポテンシャル採用には、以下のメリット・デメリットがあります。
【ポテンシャル採用のメリット】
- 新卒と比べて教育コストがかかりにくい
- 採用内定から入社までのスピードが速い
- 中小企業やベンチャー企業でも優秀な人材を獲得しやすい
【ポテンシャル採用のデメリット】
- 個別の教育・研修が必要になる
- 自社で長く働いてくれる保証はない
- ポテンシャルの見極めが難しい
ポテンシャル採用で優秀な人材を獲得するには、採用ターゲットの要件を明確にして、相手のニーズをきちんと考察したうえで、ニーズに合わせたメッセージを発信していきましょう。
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