既卒採用は、若手採用におけるブルーオーシャンになっております。若手採用というポテンシャル採用を行う場合は、新卒を採用するのが一般的です。しかし、中堅中小企業の新卒有効求人倍率を考えると、新卒で無理をするよりも若手採用のブルーオーシャンで戦うことは非常に有効な戦略です。
既卒者採用のメリットには、新卒採用よりも採用難易度が低いことに加えて、内定後すぐに働いてもらえる、採用の工数が抑えられるといったことがあり、社内状況によっては新卒採用より強くおすすめできるケースがあります。
本記事では、そもそも既卒者とはどんな層を指すのか、既卒採用のメリットやデメリット、他の採用方法との比較、既卒採用を行う際の注意点を詳しく解説していきます。
<目次>
そもそも既卒者とは?
「既卒者」とはどんな層を指すのでしょうか。新卒や第二新卒、中途との違いを確認しておきましょう。
既卒者とは?
「既卒者」に明確な定義はありません。しかし、一般的には「大学や専門学校を卒業して、正社員での勤務経験がない」若手層を指して使われます。フリーターと呼ばれる属性とも似ています。
既卒者やフリーターというと、「新卒時の就職活動で内定を獲得できなかった」「ちゃんと就職活動をしなかった」「定職に就かずふらふらしている」といったネガティブなイメージを持たれる人もいるでしょう。
日本の場合、「新卒一括採用(新卒一斉就職)」という世界的にも珍しい仕組みがありますので尚更です。ただ既卒者が就職しなかった理由は本当に様々です。
- 資格試験や公務員試験に挑戦していた
- 海外の大学に留学していた
- 卒業後、海外に行っていた
- 学生時代にやっていたアルバイト先に頼まれてアルバイトを継続していた
- お笑いや演劇、音楽などに挑戦していた
- 「研究員」などの立場で大学の研究室に残っていた
- プロスポーツに挑戦していた
- 内定者研修に行ってみたら実はブラック企業で辞退した
- 勤務時間の融通が利く派遣社員で就職した
新卒時に就職しなかった既卒者の中に、高いポテンシャルを持つ人は数多くいます。「既卒者だから能力が低い」と決めつけてしまうのは大きな機会損失を生み出してしまうので注意が必要です。
厚生労働省の発表によると、平成23年では就職が決まらないまま卒業する者が7.5万人いたとされています。
大学を卒業して就職する人が年間45万人ですので、もちろんこれよりは小さいですが、採用の分母にするのに十分な人数がいるといえます。
最近では「大学中退者」も、既卒者の一部分を占める属性です(厳密には卒業していませんが、正社員経験のない若者、という意味合いで捉えてください)。経済的な事情などで自主退学した中退者は、経済的な事情もあり中退後すぐにアルバイト等の非正規雇用で就業するケースが多くなっています。
大学中退者は文部科学省が平成26年に行った調査では年間7万9,311人にもなります。平成25年の大学卒業者の数が55万8,853人ですので、実は大学卒業生の15%ほどもいる計算です。
新卒採用市場で大手企業と同じフィールドで戦うよりも、既卒市場で優秀な人材を探すことは“若手採用のブルーオーシャン戦略”と言えるでしょう。
第二新卒とは?
既卒と混同されてしまいがちなのが、「第二新卒」という属性です。第二新卒は、「大学や専門学校などを卒業して、正社員として就職した後に、1~3年間で離職した」若者を指します。
既卒者と第二新卒を比べた場合、「正社員として仕事した経験があり、基本的なビジネスマナーなどの基礎的な社会人スキルが身に付いている、場合によっては営業経験もある。しかも、すぐ入社してくれる」ということで、「第二新卒を採りたい」という企業は多いでしょう。新卒採用を行わず、第二新卒の採用しかしていない会社もあります。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の2004年の調査によると、正規従業員の採用として第二新卒者を採用した企業は全体の85.9%であり、多くの企業が取り入れていることがわかります。なお、この中には既卒者を採用している企業も含まれていると考えられます。
なお、第二新卒の採用枠としては、「中途採用者と同じ枠で採用」が51.9%、「新卒者と同じ枠で採用」が40.1%となっており、中途や新卒と同じ感覚で採用している企業も多いことが分かります。
ただし、「採りたい企業が多い」ということは、採用競争が激しいレッドオーシャンであるということです。市場にいる人数が少ない分、新卒採用以上に難易度が高い、採用費がかかる、と言えるかもしれません。
自社の状況、採用力を勘案しながら、新卒、既卒、第二新卒、どこの層をターゲットとするか、どう組み合わせていくかを考えていくとよいでしょう。
既卒採用のメリットとは?
既卒者を採用することのメリットを見てみましょう。
採用競争を避けられる(若手採用のブルーオーシャン)
既卒者を採用する最大のメリットは、採用競争を避けられることです。新卒採用の領域では大手企業の採用力には敵わない中堅中小企業や不人気業界であっても、既卒採用の領域であれば人気企業が競合とならない可能性が高くなります。
政府と経団連の方針により、大手企業の新卒採用における応募条件は「卒業後3年以内なら可能」とされているのが一般的です。しかし、実際には大手企業が「新卒採用枠」で既卒者を採用しているケースは非常に稀であり、大手企業・人気企業が参入していない市場だと言っていいでしょう。
加えて、既卒者をターゲットとした場合は、新卒のように一斉に就職活動をしているわけではありません。「会社説明会を開いて、求人広告で誘導して、選考を行って、内定を出して、入社まで繋ぎとめる」といったプロセスは必要なく、中途採用に近い感覚で採用工数を抑えられることも魅力かもしれません。
すぐに入社して働いてもらえる
すぐに入社して働いてもらえることも新卒採用と比較した場合のメリットです。新卒採用の場合には、例えば2021年3月卒採用であれば、「2020年の3月1日から採用活動をスタートして、実際に入社するのは2021年4月1日」です。採用活動のスタートから入社まで1年以上かかります。
最近はインターンシップからの採用を増えていますので、その場合には「2019年6月から活動をスタートして、入社するのは2021年4月」と約2年かかるわけです。内定者が入社する1~2年後に、事業状況がどのようになっているのか想定しにくい場合もあるでしょう。
既卒者は中途採用と同じですので、内定後すぐに入社して働いてもらうことできます。極端な例ですが、既卒者の場合は非正規雇用であることが多いため、内定を出した翌日から出社するスピード感がある場合もあります。「すぐにでも入社して欲しい」というニーズがある場合、新卒採用と既卒採用を比べると、スピード感で既卒採用に軍配があがります。
失敗体験を乗り越えてきた人材である可能性が高い
既卒者の全てがそうであるとは限りませんが、既卒者はなにかしらの挫折経験を持っているケースが多く、失敗体験を乗り越えてきた人材である可能性が高いです。既卒者の挫折経験は、「スポーツや芸能などプロの世界で通用しなかった」「資格試験での挫折」「就職活動での失敗」などです。
また、「正社員として働いている大学同期と比べてのコンプレックス」、中退者の場合には「中退者であることのコンプレックス」などもあります。
挫折経験は、「次の機会では成功したい」という強い決意を生む原動力になります。挫折経験をしたうえで、再度「就職」することを決めた既卒者の気持ちは、“なんとなく流れにのって就職”する新卒者より圧倒的に強いこともあります。
ある上場企業では、「挫折経験をしたうえで就職を決意した既卒者は、入社後の活躍率が高い」と、新卒採用を一切行わず既卒者のみを採用していたぐらいです。
助成金が得られる
既卒採用を行うことで、企業は国から助成金をもらうことができます。
たとえば、厚生労働省では、「三年以内既卒者等採用定着奨励金」という助成金を設けています。これは、「既卒者等が応募可能な新卒求人の申込みまたは募集を新たに行い、採用後一定期間定着させた事業主に対して奨励金を支給」するというものです。
既卒者を雇入れて一定の要件を満たした場合に、以下のように奨励金をもらえます。
企業区分 | 対象者 (奨励金コース名) | 1人目 | 2人目 | ||||
1年 定着後 | 2年 定着後 | 3年 定着後 | 1年 定着後 | 2年 定着後 | 3年 定着後 | ||
中小企業 | 既卒者等 コース | 50万円 | 10万円 | 10万円 | 15万円 | 10万円 | 10万円 |
高校中退者 コース | 60万円 | 10万円 | 10万円 | 25万円 | 10万円 | 10万円 | |
それ以外の 企業 | 既卒者等 コース | 35万円 | – | – | – | – | – |
高校中退者 コース | 40万円 | – | – | – | – | – |
定着した年数によって3年目まで奨励金がもらえ、人件費の負担を軽減できます。助成金は採用の対象者や採用ルートが限定されるなどの注意点もありますが、うまく活用できればコスト負担を下げることが出来るでしょう。
既卒採用と新卒・第二新卒・中途採用の比較
既卒採用を、新卒採用、第二新卒の採用、中途採用それぞれと比較してのメリットとデメリットを整理してみました。一つの採用方法に絞る必要はありませんので、メリットとデメリットを把握して、うまく組み合わせていただくことがおすすめです。
新卒採用との比較
新卒採用と比べて、既卒採用のメリット
-すぐに入社してもらえる
-新卒採用よりも採用競争が少なく、少ない工数でよい人材に出会える確率が高い
新卒採用は、学校を卒業してからの入社となり、最近では早期採用であれば内定承諾から入社まで1年間以上の期間が空きます。その点、既卒採用であれば即日入社できるような人も多く、すぐに入社して働いてもらえます。社内で人材が不足している、事業計画の達成に向けて人員を確保したい場合などは、既卒採用の方がよいでしょう。
また、新卒採用は多くの企業が行っており、優秀な人材の獲得に対して競争が激しくなっています。結果的に、上述した早期化・長期化が起こっており、新卒採用で優秀人材を確保するには専任の採用担当を置いたり、工数を投下したりする必要性が増しています。
既卒採用であれば競争は新卒採用よりも激しくないですので、工数を抑えながらも良い人材に出会える可能性があります。
新卒採用と比べて、既卒採用のデメリット
-「4月1日に入社して一斉研修」ができないので、受け入れ方法を考える必要がある
-1回の採用活動で30人、50人など大量に採用することは難しい
既卒採用のデメリットとしては、中途採用と同じく、少人数での採用を都度行うことになるので、入社後の研修や教育を一斉には実施できません。教育体制やカリキュラムを整備する、動画を利用して効率化するなどが必要になります。
第二新卒の採用との比較
第二新卒の採用と比べて、既卒採用のメリット
-採用競争が圧倒的に少ない
近年では社会人経験3年程度の優秀な第二新卒は多くの企業が求めており、新卒や中途以上に採用難易度が高くなっている部分があります。一方で、既卒採用は、第二新卒と比べると他社、とくに大手企業が採用ターゲットにしておらず、隠れた優秀な人材を採用することができます。
なお、第二新卒の採用にこだわりたい場合には、「販売職やサービス業などからキャリアチェンジしたい層」をターゲットにする等、第二新卒の市場内でも採用難易度が低い層を狙うことがおススメです。
第二新卒の採用と比べて、既卒採用のデメリット
-初期教育を丁寧にする必要がある
第二新卒は正社員として働いたことがある層ですので、基本的なルールや業務知識、ビジネスマナーなどが身についていることが多いです。しかし、既卒採用では、正社員としての勤務の経験がないので、社内用語や業務知識に加え、社会人としてのビジネスマナーなども教育する必要があります。
中途採用との比較
中途採用と比べて、既卒採用のメリット
-経験がない分、前職での癖がなく育てやすい
-年齢が低い分、教育しやすい
中途人材は他社での経験がある分、前職での常識やルールなどがしみついています。その分、採用した場合、前職での癖が育成において邪魔になることがあります。
また、社内の平均年齢が若い、あるいは新卒採用を継続している場合など、中途採用者を「年下の上司」のもとに配属するケースが多い場合、お互いに心理的な抵抗や遠慮が生じるケースもあります。
一方で、既卒採用であれば、正社員としての勤務がない学校卒業後数年の若い人材なので、こういった教育に関するやりづらさはないでしょう。
中途採用と比べて、既卒採用のデメリット
-社内用語や業務知識に加え、社会人としての初期教育をする必要がある
第二新卒と比較した時と同じように、既卒採用の場合、ある程度社会人としての基礎教育からスタートする必要があります。その分、教えやすい側面もありますが、手間や戦力化までの期間はかかります。「即戦力が欲しい」というニーズであれば、やはり業界や職種経験者を中途採用したほうがよいでしょう。
既卒採用を成功させるためのポイント
卒業後の行動を確認
既卒者を採用するときには、卒業後の行動や経緯を確認することは大切です。
既卒者が、新卒で正社員として就職しなかった理由はさまざまです。資格取得や留学、挑戦したいことがあるなど、正社員として就職していなくても優秀な人材は多くいます。
また、就職が面倒、働くのが嫌といったネガティブな理由で正社員として働いていない人などもいるでしょう。どういった理由で新卒で就職しなかったか、また、その選択や経験をどう振り返っているかを確認することが大切です。
人物本位の選考を行う
人物本位で選考し、対面での選考を重視することがポイントです。既卒者は職歴がありませんので、履歴書だけでは判断できません。また、社会人経験がなかったり、同世代へのコンプレックスを抱えていたりする場合もあり、面接での華やかなパフォーマンスは下手な場合が多いです。
面接の中で素を引き出してあげたり、長所を見抜いて自社で生かせるかを考えたりするような選考をできると、既卒採用は成功しやすくなります。
決意や成長意欲があるかを見極める
「人物本位の選考」の裏表になる話ですが、既卒者の採用を成功させるためには、人物像をしっかりと見極めることも重要です。見極めるべきは、就職への決意や成長意欲があるかです。既卒者の場合、決意や成長意欲が入社後のポテンシャル開花や企業へのエンゲージメントに直結します。最も重点的に見極めるべきポイントだといえるでしょう。
決意や成長意欲は、「とりあえず就職したい」という甘い意識ではないかどうかを見極めることが大切です。既卒者のなかには「世間体が気になるから就職したい」と考えている人もいますし、「まだ本当は資格試験に未練がある」人もいます。
こういったタイプは、採用してもすぐに辞めてしまう可能性が高いため、採用すべきではありません。就職への決意や成長意欲に関する問いに明確な答えが返ってこない、曖昧である場合は、採用を見送った方が良いでしょう。
既卒者を育てる意志を持つ
既卒者は、第二新卒や中途採用以上に丁寧に受け入れを行う必要があります。「とりあえず現場に入れて、指導担当を決めておけば何とかなるだろう」ではなく、採用した経営者や人事が関わりながら、育成していく意思経が必要です。
外部の研修会社やオンボーディングの仕組みなどやり方は色々ありますが、「育てる」ことに採用企業が意志を持たなければ、既卒の採用はうまく行きません。
既卒採用における注意点
既卒採用においては、以下のようなポイントは選考や受入れで注意する必要があります。
逃げて就職をしなかったという人材は避ける
既卒採用では、逃げて就職しなかったという人材は避けたほうがよいでしょう。
前述の通り、既卒人材のなかには、特に理由なく就職をしなかったという人もいます。そういった人は社会でのルールや常識に従うことができない可能性がありますし、労働意欲が低い可能性があります。
もしそういった人材を採用してしまうと、入社後すぐにやめてしまう、仕事をうまく覚えられない、成果をあげられないということになってしまうかもしれません。
採用面接の際に、なぜ就職しなかったのかを必ず確認しましょう。
失敗体験や甘さに向き合えていない人材に注意
失敗体験や甘さが原因で就職していない人で、その失敗や甘さに向き合えていない人にも注意が必要です。
既卒者の中には「新卒での就職が上手くいかなかった」「早期離職してしまった」といった人もいるでしょう。これらは選考側からすると一種の甘えや失敗のように感じられるかも知れません。
ただし、どんな経験であろうか、自分の意思決定や行動についてきちんと振り返って、失敗や甘さを反省や後悔している人であれば、就職後はしっかりと覚悟を持って働くことができるでしょう。ただ、自分の失敗やミスと向き合えていない人は、甘さが抜けておらず次も挫折してしまう可能性があります。
面接の際に失敗体験や甘さに対してどのようにとらえているか。今後どのように行動をするのかなど覚悟を確認することは大切です。
正社員として就職する覚悟がある人材を採用する
正社員として就職する覚悟がある人材を採用しましょう。
上述でも覚悟というコメントをしましたが、たとえば、フリーターなどは時間に融通がききやすいですし、正社員よりも責任が少ない環境です。長年アルバイトをしていた人であれば、職場ではリーダーや先輩として人間関係も楽な部分が多いでしょう。
また、資格試験などに臨んでいた人であれば、資格試験の先で描いていたキャリアがあります。そうしたものを諦めて意思決定しているかも大切です。
失敗や甘さと向き合うというニュアンスに近い部分がありますが、既卒採用の場合、「正社員として就職してしっかり働く」という覚悟を持っているかの見極めが大切です。面接などで、本当に正社員として働く覚悟があるか、その覚悟の程を深堀りして確認するようにしましょう。
こうした覚悟が出来ていないと、就職後に壁にぶつかった際、「あの夢をもう一度追いかけたほうが、あの生活に戻ったほうが自分は幸せなんじゃないか…」といった感覚で、離職してしまうことになりかねません。
まとめ
既卒者を採用するメリットとしては「新卒者と違いすぐに入社して働いてもらえる」「採用における競合を避けられる」「失敗を糧に成長できる人材である可能性が高い」などがあり、企業によっては新卒採用や中途採用よりも既卒者の採用が向いていることがあります。若手の採用を考える際、「新卒採用」という枠にとらわれるのではなく、「既卒者」に目を向けることでよい採用ができる可能があります。
一方で、既卒採用を成功させるためには、人物本位の選考をしっかりと行うことや、採用後に育成する意志を持つことが必要です。既卒採用のノウハウがない場合には、ノウハウを持つ採用支援会社やサービスを利用することも選択肢の一つです。