入社3年以内のZ世代で、一度は「辞めたい」と思ったことがある514名を対象にした最新調査から若手社員の働き方に対する意識が見えてきました。調査を行った株式会社コーナー代表取締役CHROの門馬貴裕氏に、データの背景にある若手世代の本音を伺いました。
<目次>
調査概要
- 調査対象:新卒入社した企業に在籍する入社3年目までの正社員
(既に辞める予定が決まっている人を除く) - 調査エリア:日本全国
- 有効回答数:514件(1年目:256件/2・3年目:258件)
- 調査期間:2025年8月29日~2025年9月4日
- 調査方法:Webアンケート調査
- 調査企画:株式会社コーナー
- 実施機関:株式会社マクロミル
Z世代の"辞める前提の就業"という意識
時代背景が生んだ「選択肢を持つ世代」
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今回の調査は、一度は「辞めたい」と思ったことがある層を母集団としたものになりますが、回答者の7割弱は「いずれ辞めたい」と転職意向を示しており、”辞める前提の就業”という意識が見られます。門馬氏はまず、結果の背景にある時代性についてこう語りました。
世間一般的に、“未来”の不確実性が高い予測困難な時代だと言われており、そうした背景も影響しています。調査対象となったのは、コロナ禍で学生生活や就職活動を経験した世代です。学生時代や就職活動の時がコロナ禍にぶつかっており、新卒で入社して最初からリモートでスタートした方も多くいます。
Z世代は情報リテラシーが高く、外部の情報にアンテナを立て、常に「良い選択肢を選びたい」と考えているからこそ、転職が非常に身近なものになっています。
門馬氏が代表を務める株式会社コーナーは、副業・兼業・フリーランス・パラレルワークといった働き方をベースにビジネスを展開しています。門馬氏も「そのため、なおのことそう見えるという部分もあるかもしれない」とは認めつつ、今のZ世代にとって副業・兼業といった働き方も昔と比較して身近になっていると分析します。
つまり、1社に勤め続けるという選択肢だけでなく、副業や転職、パラレルワークといった多様な働き方が当たり前のように視野に入っています。そういったことをトータルで考えたときに、「辞める前提の就業」という価値観に繋がってくるのだと門馬氏は整理します。
離職率横ばいが示す「3年で基礎を築く」意識
一方で厚生労働省の「学歴別就職後3年以内離職率の推移」、いわゆる大卒の離職率”3年3割”は景況感に応じて1〜2ポイントの変動はあるもののほぼ横ばいで、増加傾向にはなっていません。Z世代の意識変化を考えると矛盾するようにも見えるデータについて、「矛盾するような話ではない」と門馬氏は考えています。
例えば富士通は2026年、新卒一括採用をやめてジョブ型に振り切り、通年採用に変えると発表していますが、これはまだ極めてレアケースです。
その結果、時代背景や世代的な考え方の変化というのは確かにある一方で、働き方の選択肢を意識しつつも、社会で価値を提供できるスキルを身につけるために、「入社してまずは3年間頑張ろう」という考え方は、そこまで変わっていないと門馬氏は話します。
転職や副業にしても、結局、「スキルを還元していく」ということがベースになります。学生起業家等でない限りは、ひとまずは「自分ができることを増やそう」というのが、まさに1年目から3年目ぐらいの時期になります。その結果、意識の変化は生じつつ、3年以内離職率は横ばいという状態になっているのではないかと門馬氏は考察します。
入社3年以内「定着の分水嶺」
人間関係・給与・裁量・柔軟性
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入社前後でのネガティブギャップの上位4項目として、退職志向層と継続志向層の差が10ポイント以上あった項目は以下の通りです。
- 人間関係・職場の雰囲気(差分15.8pt)
- 給与・待遇(13.5pt)
- 仕事の裁量(11.4pt)
- 柔軟な働き方(10.5pt)
ギャップが大きな項目の顔ぶれの背景について考察を伺いました。
継続志向層は人間関係と裁量権に満足している
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継続志向層は、やはり人間関係、仕事の裁量権、柔軟な働き方といった点に満足感があると門馬氏は分析します。
一方で給与・待遇は、どちらの層も「もっと欲しい」と感じている点では共通しています。門馬氏はこの理由は明快だといいます。現在、各社の求人情報、募集している情報がオープンになっていたり、口コミサイトなどで他社の給与水準が分かったりする時代になりました。
自分の今の頑張りと他社との相対比較をした際、おおよその給与・待遇が予測できる。その結果、社会人1年目から3年目ぐらいのとき、「もっと給料が欲しい」と思う傾向は、当然なことだと門馬氏は考えます。
退職志向層の残留理由と「静かな退職」の背景
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退職を考えている層が「今辞めない理由」として、前向きな残留理由を挙げるケースが少ないという結果について、門馬氏は「静かな退職」というキーワードで説明します。
ジョブ型雇用の本質は「職務に応じた給与が決まり、それが継続する」という点にあり、欧米では学歴や資格によって就ける職種や到達できる役職も明確に決まっています。しかし日本のジョブ型は職能型と混在しており、評価制度とも組み合わされています。
結果として、日本では転職した時に「今の職種とスキルならこういう待遇が得られる」という確証が持ちにくい状態です。
こうした背景から退職志向のZ世代に広がっているのが「静かな退職」です。辞めもしないが、積極的に頑張りもしない状態を指します。リモートワークの普及もこの傾向を後押ししています。
「適度に働き、昇進・昇格にこだわらず、プライベートを充実させたい」という考え方も確実に広がっており、その中で不満はあるが、リスクは避けたい。であれば、「静かな退職」をして、チャンスを待つ、また副業などのパラレルワークという選択肢も考える。こういった意識が調査結果の裏側にあるのではないかといいます。
給与・待遇への捉え方とアプローチ
昇格スピードへのギャップが小さい理由
入社前後のネガティブギャップを見ると、給与や待遇については継続志向層と退職志向層で大きな差がある一方、昇給・昇格のスピードについては両者のギャップが小さい。この違いはなぜ生まれるのでしょうか。
門馬氏は、給与は会社のベースとなる部分であり、他社との比較が容易になった現在「もっと高い給与がもらえるはず」という不満が生じやすいと説明します。
一方、昇格スピードは視点が異なります。昇格・昇進は、人事制度や社内での相対比較の問題であり、周囲のロールモデルを見ながら「自分はまだそこに至っていない」という認識が生まれやすい。給与とは異なる評価軸で捉えられているため、両者のギャップが比例しないのではないかと考察します。
継続志向層も給与・待遇に不満を持つ
継続志向層でも「期待より悪かった」項目として「給与や待遇」が29.9ポイントと上位に挙がる一方、「給与や待遇」は「期待より良かった」でも31.7ポイントで第2位となっています。「転職時にかなえたい条件」でも「給与・待遇の十分な保証」が共通トップであり、全般的に給与・待遇は大きな関心事です。
門馬氏は、個社固有の考え方やカルチャーが前提としつつ、給与・待遇はZ世代にとって会社選び、また就業の継続を考えるスタート地点になっていると指摘します。1〜2年目の若手は、どの会社でも新卒の最初のグレードからスタートします。
自分が何年働いてどれだけ給料が上がるのか、まだ未来の想像がつきにくい段階にいます。希望する待遇を受けられるスキルや経験値を持っていない状態でのアンケートであるため、気になるポイントとして挙がるのは自然なことだと話します。
企業が取るべきアプローチ:評価制度の見える化とコミュニケーション
企業は給与や待遇への意識向上にどう対応すべきでしょうか。門馬氏は、人事システムや人事制度を運用する中で、コミュニケーションが最も重要だと強調します。
ただ話せばよいわけではなく、入社前から「入社したら報酬やキャリアはこうなる」という人事制度やキャリアイメージを、しっかりと見える化しておくことが必要です。
運用面では、目標設定や評価の際に、自分がどう頑張り、何を身につければどんな給料になるのかを想像してもらうことが重要です。人事制度のシステムをコミュニケーションに乗せて運用していくことが、企業として最も大切なアプローチとなります。
「良い語り」を社内で増やすために
先輩・上司の言動が最大の影響力を持つ
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退職志向層について、同僚や先輩・上司からの話が「不安を感じる」「期待を感じる」双方で最も影響を与えているという結果が出ています。若手の定着を考えるうえでは、コミュニケーションの仕組みを工夫することが重要だと門馬氏は指摘します。
ただし、ここで言う「コミュニケーション」とは、ただ話す機会を増やすことではありません。門馬氏が特に重視するのは、制度や仕組みに対する「意味づけ」です。
「若手の定着を阻む要因として、制度や仕組みそのもの以上に見落とされがちなのが『語られ方』です。評価制度やキャリアパスが整っていても、それがなぜ存在するのか、何を目指しているのかが語られなければ、若手にとっては『よく分からないルール』に留まってしまいます」
制度は用意することがゴールではなく、日々のコミュニケーションを通じて意味づけされ、解釈が揃ってはじめて機能するものだと門馬氏は言います。組織に必要なのは、ただ事実を伝える説明ではなく、「この会社では、どう頑張る人を評価し、どんな成長を期待しているのか」を一貫して伝える”良い語り”なのです。
Z世代は「年功序列の時代は終わった」「終身雇用は終わった」という世界を前提に就業しています。「ずっと勤め上げれば自動的に給料が上がる」といったことはないと考えています。
だからこそ、外部にアンテナを貼りながら、「今の職場に残る」と「転職する」、そして「“静かな退職”をして副業ながら転職の好機を待つ」といった選択肢を天秤にかけています。
その中で、透明性の高いコミュニケーションと明確なキャリアパスの提示こそが定着とエンゲージメント向上につながります。
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