顧客に商品やサービスを提供するうえで社員がどれだけ注意をしても、苦情やクレームが生じる可能性はあります。また、近年では、SNSの普及によって悪い評判などがインターネット上などに流されやすくなっており、企業における苦情対応の重要性も高まるようになりました。
組織としてクレーム対応するに際して用意しておきたいのが、苦情対応マニュアルです。記事では、苦情対応マニュアルの必要性とマニュアルに盛り込む項目例とひな形、マニュアル作成時のポイントを紹介します。
<目次>
苦情対応マニュアルの必要性
ベテラン社員が大半の企業では、マニュアルがなくても苦情対応をスムーズに行なえていたかもしれません。しかし、苦情対応マニュアルは、以下2つの理由から、大切なものです。
苦情対応の均質化
苦情対応は、商品やサービスの提供と同じで、新入社員からベテラン社員までの誰がやっても、同じ手順や対応品質であることが理想です。
苦情対応の均質化ができれば、たとえば、前回の担当者が不在中にクレーマーから電話などがあっても、対応内容を引き継いだほかの担当者が同じスタンスで対応できるようになります。また、誰でも毅然とした対応ができる状態をつくると、悪質なクレーマーからも狙われづらくなるでしょう。
特に、新人や若手などは、クレームを受けると精神的に動揺しがちです。急なクレームの際に参照できるマニュアルがあることで、組織として安定した対応できるようになりますし、クレーム対応する社員にかかる精神的な負担も多少なりとも軽減されます。
迅速な苦情処理の実現
近年では、先述のとおり、悪質なクレーマーではなくても、商品・サービスに抱いた不快感や違和感が、すぐに不祥事としてSNS上で拡散されやすくなっています。そのため、苦情処理も、よりスピードが求められる時代と考えてよいでしょう。
一方で、たとえば、クレーマーが大声を出したり暴力をふるってきたりした場合、相手への恐怖からパニックに陥り、冷静な判断ができなくなることもあるはずです。企業側では、恐怖や混乱の生じる状況下でも、適切かつ迅速な対応を可能とするために、具体的な流れや判断基準などをマニュアル化しておく必要があります。
マニュアルに盛り込む項目例とひな形
初めて苦情対応マニュアルを作成する場合、具体的にどのような項目・内容を盛り込むべきかわからないこともあるでしょう。この章では、一般的な苦情対応マニュアルに盛り込まれる項目と記載例、ひな形などのポイントを紹介していきます。
苦情の定義
従業員が、迅速な苦情対応をするには、顧客からのクレームに対して「これは苦情である(早く対応しなければ!)」と認識しなければなりません。
そのため、苦情対応マニュアルの冒頭では、自社における苦情の定義を明確化したうえで、苦情への適切な対応や記録に残す必要性などの目的を記載することが大切になります。
苦情対応に関する組織のスタンス・価値観
たとえば、「客席で顧客がいきなり大声で苦情を言い始めた」ときに感じることは、以下のように、社員によって大きく異なるものです。
- 「ほかのお客様の迷惑になるので、まずは静かにしてもらおう」
- 「本気で怒られると怖いので、あまり刺激しないほうが良いだろう」
- 「自分では説得力がないので、とりあえず上司を呼ぼう」
こうした感じ方の違いは、個性や価値観から生じるものです。そのため、各社員が違った印象を抱くこと自体がおかしいわけではありません。しかし、クレーム対応をするうえで各自の感じ方が異なっていては、対応のスタンスなどもバラバラになってしまう可能性があります。
したがって、苦情対応の均質化をするには、マニュアル内で以下のような組織のスタンスや心構えを定めることが大切です。
- 苦情申出人のプライバシー保護のために、個室で話を聴く
- 個室では、苦情受付担当者のほかに上司1名などの複数人で対応をする
- 苦情申出人の話を途中で遮らない
- 苦情申出人に対して、勝手な思い込みや先入観を持たないようにする
- 苦情申出人に対して、不快な思いをさせたことは謝罪する
- 不当な要求には毅然とした態度で対応をする など
マニュアルに自社のスタンスを記載しておけば、あとで自社の価値観が合っているかどうかの振り返りやブラッシュアップも可能になるでしょう。
苦情受付・処理の体制
店頭、メール、電話(コールセンター)、手紙……と、考えられる一通りのチャネルを網羅する形で苦情受付・処理の体制を記載します。大企業や大きな事業所、重大クレームの多い業種などでは、以下の担当者を設置するのもおすすめです。
- 苦情受付担当者:利用者などからの苦情を受け付け、記録内容を申出人に確認する人。苦情解決責任者にエスカレーションする役割でもある。
- 苦情解決責任者:苦情内容の確認後に苦情対応委員会を招集し、直接原因の調査分析結果を通して申出人に解決策を提案する役割。
苦情対応の手順・フロー
苦情の手順書には、苦情を受けたときに、いつ、誰に、どのような手順で報告や対応をしていくかを記載します。詳細は企業や業種によっても変わりますが、具体的な手順は、以下の3ステップがベースになるでしょう。
- 1.事実の確認
- 2.情報共有・全社的な対応
- 3.再発防止に向けた取り組み
なお、カスタマーハラスメントと思われる事案の場合、「1.事実の確認」内で、以下のような段階を踏む必要があります。
- 1.起こった問題や事実関係を、時系列で正しく把握・理解する
- 2.顧客が求める内容を把握する
- 3.顧客の要求内容の妥当性を検討する
- 4.顧客の要求手段や態様が社会通念上、相当かを検討する
苦情対応マニュアルには、過去に来たクレームの種類や事例も記載しておくとよいでしょう。
最近では、上記のように、悪質なクレームやカスタマーハラスメントなども増加傾向にあります。そのため、組織として適切に対応するうえでも、なるべく早期から、また可能な限り、クレーム内容・対応の記録を残していくことも大切なポイントになります。
苦情処理報告書の作成方法・提出先
苦情処理報告書の作成方法やポイントを、わかりやすく記載しましょう。提出先、不明点があるときの相談先(内線番号)、提出期限も記載します。
なお、社員が適切な苦情対応をとれるようにするには、当ページで紹介したほかに必要な項目もあります。苦情対応マニュアルの作成を考えるうえで参考になるのが、日本工業規格(JIS)が2000年2月にまとめた「苦情対応マネジメントシステムの指針」です。この指針は、苦情処理の体制、基準などを考えるうえでも非常に役立ちます。
出典:JIS Q10002:2015 (ISO 10002:2014)苦情対応マネジメントシステムの指針
マニュアル作成時のポイント
クレーム対応マニュアルの作成時は、以下のポイントを大切にする必要があります。
従業員が理解できる平易な言葉を使う
苦情対応マニュアルは、すべての従業員が内容の理解・実践ができてこそ、効果性を発揮するものです。そのため、作成時には、共通言語を理解しているベテラン社員だけでなく、新入社員や派遣社員なども容易に理解できる言葉を使いましょう。
あまり詳細に記載しすぎない
先述のとおり、苦情対応にはスピードが求められます。また、クレームはケースバイケースであり、すべてがマニュアルの内容と一致するようなケースは、実は少ないです。さらに、苦情に対応している現場では、対応が急がれたり気が動転していたりして、じっくりと細かな文章は読み込めない可能性もあります。
苦情対応の理想は、マニュアルの内容を頭に入れたうえで、毅然とした対応をすることです。しかし、苦情対応の真っ最中でも「自分が何をすべきか?」を把握できるように、簡潔に見やすく記載することが大切になります。
マニュアルを全社員に周知し浸透させる
マニュアルは、作って終わりではありません。マニュアルの存在や内容を全社員に周知、浸透させ、クレーム発生時に使ってもらってこそ、意味があるものとなります。
そのため、組織としての心構えや価値観は、マニュアルを使った研修で解説してもよいでしょう。新入社員や若手の場合は、ロープレ研修を実施するのもおすすめです。
実際のクレーム対応時に見ながら対応できるようにする
実際のクレーム対応では、クレーマー本人と話をする最中や、電話中にマニュアルを見ることも多いです。こうした現場で自然かつ少ない負担でマニュアルを使うには、すべてを文章で解説するのではなく、見やすい以下のような要素を入れるのもおすすめとなります。
- フローチャート
- 図解、図表
- チェックリスト
- FAQ など
まとめ
苦情対応マニュアルは、企業における苦情対応の均質化や迅速な処理を実現するうえでも非常に重要なものです。苦情対応マニュアルには、以下の項目を盛り込むのが一般的となっています。
- 苦情の定義
- 苦情対応に関する組織のスタンス・価値観
- 苦情受付・処理の体制
- 苦情対応の手順・フロー
- 苦情処理報告書の作成方法・提出先
苦情対応マニュアルを作成するときには、以下のポイントを大切にしましょう。
- 社員が理解できる平易な言葉を使う
- あまり詳細に記載しすぎない
- マニュアルを全社員に周知し浸透させる
- 実際のクレーム対応時に見ながら対応できるようにする