生産性の指標とは?計算式や代表的なKPIの設定方法や改善施策を解説

生産性の指標とは?計算式や代表的なKPIの設定方法や改善施策を解説

日本におけるホワイトカラーの生産性向上は、欧米と比べて劣っており、改善が必要なテーマとして知られています。また、生産性向上は、企業の利益率向上、メンバーの待遇改善にもつながってくる要素です。そのため企業において、生産性指標を念頭において業務改善などを行ない、生産性を向上していくことは非常に重要です。

 

しかし、いままで生産性向上に力を入れたことのない企業やマネージャーは、そもそも、生産性指標とは何かわからない場合もあるでしょう。

 

記事では、生産性と生産性指標の基本を確認します。そのうえで、企業における生産性を測る代表的な指標や生産性向上のための取り組みを簡単に解説しています。

<目次>

生産性とは?

生産性とは、「インプットに対するアウトプットの比率」を示す概念です。ビジネスにおける生産性は、「投入した資源に対してどれだけの成果を出せたのか?」で示されます。

 

生産性をあらわす数式は、「得られた成果 ÷ 投入した資源」です。たとえば、ものすごくシンプルには、「5の資源を投下して、10の成果を生み出している状態の生産性」は、「成果:10÷資源:5=2」ということになります。

生産性指標を運用するメリット

前述のとおり、生産性向上は企業の利益率や従業員の待遇改善、さまざまな投資の原資を生み出すものです。したがって、生産性を効率的かつ持続的に向上させていくことは企業にとって非常に大切です。

 

しかし、生産性指標がまったくなく、行きあたりばったりのやり方では、生産性を効果的に向上させることは難しいでしょう。

 

生産性向上させるための改善対象ややり方は、一つとは限りません。現状や取り組みを振り返り、問題点を改善し、さらなる生産性向上に向けてブラッシュアップしていくうえで、基準となる生産性指標を決めてマネジメントしていくことが非常に大切です。

生産性を測る指標、2つの考え方

時間効率のイメージ

 

生産性には、物的労働生産性と付加価値労働生産性の2つの考え方があります。本章では、それぞれの計算式や、KPIの設定方法を解説しましょう。

 

物的労働生産性

物的労働生産性とは、成果(アウトプット)を、生産量や売上高などの総量で考える生産性です。物的労働生産性の計算式は、以下のとおりになります。

 

物的労働生産性 = 生産数量(売上高の場合もある)÷労働量

物的労働生産性を向上させる方法は、考え方としてはシンプルで、以下2つのどちらかです。

  • 生産数量(売上高)を上げるにはどうすべきか?
  • 労働量を減らすにはどうすべきか?

 

付加価値労働生産性

物的労働生産性は、成果(アウトプット)を生み出したもの全体で考えました。一方で、付加価値労働生産性では、成果(アウトプット)を付加価値額で考えます。

 

付加価値額とは、企業が新たに生み出した金額的な価値であり、粗利益の概念に近いものです。付加価値労働生産性の計算式は、以下のとおりです。

 

・付加価値労働生産性=付加価値額÷労働量

付加価値額は、一般的に「売上高-外部購入価値」で計算できます。外部購入価値とは、材料費、運送費、外注費など、原価にあたるものです。

 

付加価値労働生産性の向上では、物的労働生産性の2つの視点に加えて、

  • 外部購入価値を下げるにはどうすべきか?

という視点を持って取り組むことになります。

 

物的労働生産性と付加価値労働生産性の優劣

2つの生産性に、優劣はありません。まず算出しやすいのは、物的労働生産性のほうになります。また、物的労働生産性は、組織全体としてどれだけ効率よく生産や販売を行なっているかということを捉えやすい指標だといえます。

 

一方で、付加価値労働生産性は、より純粋に自社内で価値を生みだす効率を捉えた指標であり、より重要で本質を捉えているともいえます。

 

たとえば、付加価値労働生産性の具体的な指標のひとつに「労働者1人当たり年間粗利」があります。経営等に携わる方であればお分かりのとおり、労働者1人当たり年間粗利は従業員の待遇等に大きな影響を与える指標です。

 

実際のビジネスでは、2つの考え方があることを知ったうえで、目的や状況に応じてうまく使い分けることが大切です。

企業における生産性を測る代表的な指標の種類

企業における生産性を測る指標は、前章2つの考え方に基づいて、さまざまな指標があります。代表的な指標は、以下のとおりです。

 

人に関する生産性の指標

人に関する生産性の指標では、労働生産性と人時生産性が代表的なものとなります。

 

・労働生産性
労働者1人あたりが生み出した成果で考える生産性。前述した「労働者1人当たり年間粗利」、それに対応する物的労働生産性の指標である「労働者1人当たり年間売上」などがあります。

 

・人時生産性
労働者1人が1時間で生み出した成果で考える生産性。人時生産性が高ければ、労働効率が高いということができます。

 

資本に関する生産性の指標

資本に関する生産性の指標で代表的なものは、以下の4つです。

 

・資本生産性
企業が保有する土地・設備・機械などを使って生み出した成果で考える生産性。資本生産性が高いということは、自分たちが持っている資本をうまく使えているということです。たとえば、非常に単純なところでは、設備の稼働率や利用頻度を改善すれば、資本生産性が向上します。

 

・有形固定資産回転率
売上高を有形固定資産で割った比率です。資本生産性に近い概念で、有形固定資産回転率が高ければ、企業は有形固定資産をうまく活用して売上を創出しているということを示します。

 

・総資本回転率
企業の総資本に対する売上高の割合。資本生産性や有形固定資産回転率と同じで、総資本回転率が高ければ、企業は資本を効率的に活用できているということになります。

 

・売上高付加価値率
売上高に占める付加価値額の割合。売上高付加価値率が高ければ、自社で新しく創造した価値の比率が高いと考えられます。粗利率に近い概念といってよいでしょう。

 

広告に関する生産性の指標

たとえば、売上を獲得する広告に関しても生産性の指標を考えることができます。たとえば、以下のようなものはWeb広告業界でよく使われる指標ですが、広告に関する生産性の指標ということができるでしょう。

 

・CPA
顧客獲得単価。顧客1人の獲得にかかった費用。CPAが低いほど、広告費を効率的に使って顧客獲得できているということになります。

 

・CPO
新規顧客の獲得単価。1件の注文を獲得するのにかかった販売促進費用のこと。CPAをもう一段進めた指標といえます。

 

・ROAS(販促費生産性)
かかった広告費に対する売上の割合。広告費用対効果や広告費用回収率と呼ばれることもあります。

生産性向上のための取り組み

研修・教育のイメージ

 

生産性向上に向けてできることには、さまざまな取り組みがあります。実際のビジネスシーンでは、現状をしっかり分析したうえで、自社に合う取り組みを選択することが大切です。

 

人材投資

人材投資は、いわゆる人材開発や組織開発を通じた生産性向上です。人材投資は業種や職種を問わず実施できるものです。具体的には、以下のような施策です。

  • 優秀人材の採用
  • スキルの底上げ
  • 管理職のマネジメントスキル強化
  • 育成体系の整備
  • 人事評価制度の見直し
  • 組織風土の変革
  • 適材適所の人材配置 など

なお、こうした人材投資を通じて生産性を向上させる場合、以下のような助成金が使える場合があります。

  • 働き方改革推進支援助成金
  • 時間外労働等改善助成金 など

参考:生産性向上の事例集(厚生労働省)
参考:生産性向上のヒント集(厚生労働省)

 

設備投資

製造業や物流などでよく考えられる生産性向上のポイントです。設備や機械を導入したり入れ替えたりすることで、生産性を向上させるものとなります。

 

設備投資というと、工場設備の刷新や新機材の導入など大掛かりなものがイメージされますが、作業導線を考えて作業場のレイアウト変更をしたり、データ管理するIT機器を刷新して作業時間を圧縮したりすることも立派な設備投資のひとつです。

 

人材投資と同様に、特定の設備投資や設備投資による賃金向上の取り組みなどは、業務改善助成金が使えることもあります。なお、業務改善助成金は、人材育成や教育といった取り組みでも利用可能です。

 

参考:生産性向上のヒント集(厚生労働省)
参考:ESG投資(経済産業省)

 

IT投資

近年では、IT活用による生産性向上、また、DX(デジタルトランスフォーメーション)を意識したIT投資を行なう企業も増えています。

 

IT活用による自動化は、生産性向上に大きな効果をもたらします。

 

また、DXによるIT投資のポイントは、自社の業務をただIT化して終わりではなく、製品やサービス、ビジネスモデルの改善とともに、競争優位性の確立につながる以下のようなものの変革を行なうことです。

  • 組織
  • 業務プロセス
  • 企業文化・風土 など

先述の業務改善助成金は、以下のようなIT投資でも使われた実績があります。

  • テーブルオーダーシステムの導入
  • Web会議システムの導入
  • タクシー配車システム連動カーナビの導入
  • オンラインストアを開設 など

参考:DXレポート(デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会)
参考:生産性向上のヒント集(厚生労働省)

 

ナレッジ共有

組織で働く各メンバーは、それぞれが独自の経験、知識、コツなどの暗黙知を持っています。暗黙知を組織内で共有し、多くのメンバーがアクセスできる形式知にすることを、ナレッジマネジメントと呼びます。

 

無駄の排除と効率化

業務内のさまざまな無駄を発見するには、トヨタ生産方式の「7つのムダ」という視点を活用するのもおすすめです。

  • 作りすぎのムダ:不要なものをつくるムダ
  • 手持ちのムダ:資材・工具・指示などの不足で、手持ち無沙汰になるムダ
  • 運搬のムダ:材料や完成品の移動、運搬が必要以上に多いムダ
  • 加工のムダ:適切な手段を選ばないことで起こるムダ
  • 在庫のムダ:材料や仕掛品、完成品が必要以上にあるムダ
  • 動作のムダ:付加価値を生まない人の動きが多いムダ
  • 不良をつくるムダ:不良品や手直しが必要な仕事が多いムダ

「7つのムダ」は、トヨタ自動車などの製造業をベースとした考え方です。しかし、たとえば、以下のような形で他業種にもいくらでも応用できるものとなります。

  • 不良をつくるムダ:注文漏れがないようにチェックリストを作成する
  • 運搬のムダ:営業ルートを見直す、担当エリアを変える
  • 手持ちのムダ:検品フローを見直す、マニュアルを作成する など

無駄の排除と効率化を考えるうえでは、ECRSの法則なども参考になります。ECRSは、Eliminate(排除)、Combine(結合)、Rearrange(交換)、Simplify(簡素化)の頭文字を取ったものです。業務改善を考えるときには、E⇒C⇒R⇒Sの順番で取り組むことが原則になります。

 

BPR

BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、組織の業務プロセスや作業フローなどを根本から見直し、再設計することです。

 

組織内の業務プロセスや作業フローは、さまざまな沿革や経緯があってつくられたものです。一方で、ビジネス環境や自社の規模、外部環境の変化、ITツールの進化など、さまざまな変化があるなかで、業務プロセスや作業フローが「現状に最適」ではなくなっている場合も多くなっています。

 

しかし、業務プロセスや作業フローの多くは、組織内の惰性や慣習で変えずに継続されてしまいがちです。ゼロベースで業務プロセスの目的やゴールを考えて再設計することで、大きな生産性向上が実現することもあります。

 

ビジネスモデル

生産性向上を考えると、小さな改善を積み重ねる方向に思考がいきがちです。つまり、成果物(アウトプット)を少しでも増やし、投入物(インプット)を少しでも削っていくという考え方になります。

 

ビジネスをするうえで、改善を積み重ねる思考はたしかに大切です。たとえば、世界を代表する企業になっているトヨタのKAIZENは、グローバルで通用する英単語になっているほど浸透しています。

 

一方で、生産性向上を考えるうえでは、ビジネスモデルそのものの変革が有効なケースもあります。ビジネスモデルとは、どのように価値を生み出し、顧客に届けるかということです。

 

生産性の効率や限界は、ビジネスモデルによって決まってくる部分もあります。したがって、生産性の壁を超えるうえでは、新たなビジネスモデルに取り組む、ビジネスモデルを変えるような思考も有効でしょう。

生産性向上と業務効率化の違い

生産性向上と混合されがちなものに、業務効率化があります。業務効率化は、仕事のプロセスから無理・無駄などを省いて、限られた資源を効率よく活用することです。たとえば、オンラインミーティングの導入で会議のための出張を減らす、仕事の停滞を防ぐために業務フローを見直す……なども業務効率化の一例です。

 

業務効率化は、生産性の数式における「分母(投入物:インプット)」を減らして、同じ「分子(成果物:アウトプット)」を維持するアプローチです。業務効率化によって時間やコストの削減が可能になり、生産性向上につながります。

 

ただし、留意点が2つあります。第一に、前述のように業務効率化では「改善」思考になるため、業務効率化だけでは生産性を飛躍的に向上させることは難しいです。そのため、生産性向上を考えるうえでは、BPRやビジネスモデル変革のような視点も持っておくことも大切になります。

 

もう一つは、一見無駄と思えることのなかに、実は、価値を生んでいるものがあるケースです。たとえば、「接客するメンバー数に少しゆとりがあることで、じつは清潔で整った店内環境や心地良い接客が可能になっており、顧客満足度が上がっている」といったケースです。

 

上記のケースで、業務効率だけを考えて、メンバー数をぎりぎりに減らしてしまうと、オペレーションは問題なく回っているように見える一方で、実は、顧客の満足度が下がり、リピート率の低下や既存顧客の流出につながってしまうこともあるでしょう。

 

そのため、業務効率化に取り組む際には、一見無駄な業務が目に見えない「価値」を生んでいないか?という視点を持っておくことが必要です。

まとめ

ホワイトカラーの生産性向上が求められるなかで、企業やマネジメントは、生産性指標の運用を通して、効率的かつ持続的に生産性を向上させていくことが大切になります。

 

生産性には、物的労働生産性と付加価値労働生産性という2つの考え方があります。自社の生産性を向上させるときには、記事で紹介した指標に着目するとともに、自社に合った取り組みを継続的に実施することが大切です。

 

人材投資・設備投資・IT投資・業務効率化などによる改善の積み重ねに加えて、BPRの視点やビジネスモデルの変革による飛躍的な向上の両方を視野に入れて、生産性向上に取り組んでいきましょう。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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