フィードバックは、職場における人材育成の手法として非常に効果的です。実際の業務を通じて、社員の成長を促進することができますし、「見られている」という緊張感と「見てくれている」という信頼関係にも繋がります。
一方で、フィードバックのやり方を誤るとモチベーションダウン等にも繋がりますので、フィードバックをする上司や先輩は適切な方法を知っておく必要があります。記事では、フィードバックの定義や種類、得られる効果、またフィードバックを行なう際のポイントをまとめていますので、ぜひご覧ください。
<目次>
フィードバックとは?
まずは人材育成を目的として行なわれる「フィードバック」の概略を確認しておきます。
フィードバックの意味と目的
フィードバックとは、相手のアクションやパフォーマンス、成果物に対してコメントや評価を返すことです。人材育成の現場では、主に以下の目的でフィードバックが行なわれます。
- 気付きを与える
- 現在地を知らせる
- 行動を軌道修正する
- 良い行動を加速させる
- 動機づけを行なう
フィードバックは一般的に、“上司から部下に対して行なう”というイメージが強いかもしれません。しかし、フィードバックは上下関係を前提として行なうものではありません。部下から上司、同僚同士でのフィードバックが行なわれているような組織は、風通しも良く、人材育成も順調に進んでいるでしょう。
ただし、本記事では、人材育成の現場で一般的に行なわれる上司から部下へのフィードバックに限定して、解説を進めていきますので予めご了承ください。
フィードバックとフィードフォワードの違い
人材開発の分野では、フィードバックと似た概念として、最近“フィードフォワード”という言葉も使われる言葉があります。
本来のフィードバックは決してネガティブなものではありませんが、一般的にフィードバックというと、「上司が部下に主観的にダメ出しをする」という印象があることも事実です。そこでフィードフォワードは、フィードバックのうち、“アドバイス”に該当する部分、「未来に向けてこうしたらどうか」という提案部分だけを新たな言葉として表現したものです。
フィードバックの浸透で期待できる5つの効果
組織内にフィードバックを浸透させると、以下のように多くの効果が得られます。
1.部下の育成が捗る
フィードバックの浸透による最大の利点は、部下の育成や成長が促進されることです。上司による適切なフィードバックは、部下に自分の現在地に関する自覚を生み出します。どんな点が成長したり、うまくできていたりするか、また、どんな点に成長テーマがあるかを自覚することで、成長への主体的な取り組みが期待できるでしょう。
2.部下のパフォーマンスが向上する
フィードバックは部下に「見られている」という緊張感を生み出す側面もあります。適度な緊張感やストレスは、パフォーマンスに好影響を及ぼすものであり、仕事の生産性アップや主体性の発揮に繋がります。
3.部下のモチベーションが向上する
信頼関係ができている上司からのフィードバックは、「見られている」という緊張感と同時に「自分の仕事ぶりを見てくれている」や「正当に評価されている」といった安心感や満足感を与える効果もあります。これらの安心感や満足感は、「もっと頑張ろう」というモチベーションの向上に繋がり、パフォーマンスのさらなる向上という好循環が生まれます。
4.上司と部下の関係性が強化される
フィードバックは、上司と部下のコミュニケーション量を増やします。ザイアンスの単純接触効果でもいわれるようにコミュニケーション量は信頼に繋がりますし、フィードバックを通じて、対話が生まれると相互理解も進むでしょう。
5.フィードバックする側も成長する
フィードバックはする側にとってもチャレンジングです。適切なフィードバックをするうえでは、仕事のポイントを押さえること、メンバーをしっかりと見ること、相手が受け入れられるように伝えること等が求められます。これらを意識することは上司にとってもマネジメントやコミュニケーションスキルの向上に繋がります。
フィードバックの種類
フィードバックには、大きく分けて3つの種類があります。
ポジティブフィードバック
ポジティブフィードバックとは、部下の好ましい言動やうまくいったプロセス、成果についてフィードバックを与えることです。うまくいった点をフィードバックすることでと、部下は自分の成功や成長を認識しやすくなります。ポジティブフィードバックには、以下のメリットがあります。
- うまくいった点を自覚させ、再現性が強まる
- 好ましい言動やプロセスを加速させる
- 承認欲求を満たし、モチベーションを向上させる
- 成長実感を生み出す
- 自己効力感を高める
ネガティブフィードバック
ネガティブフィードバックとは、好ましくない言動やうまくいかなかったプロセスや結果についてフィードバックを与えることです。ネガティブフィードバックを行なう目的は「うまくいかなかった点を自覚させ、改善させる」という一点です。相手に責任を感じさせたり、モチベーションを落としたりするようなフィードバックは誤りです。部下へのネガティブフィードバックは成長を目的に行なうものであることは絶対に忘れてはいけません。
フラットなフィードバック
フラットなフィードバックとは、ポジティブ/ネガティブなく、事実をただ伝えるフィードバックです。主には「自分から見えた光景や事実」を相手に伝えることで、気付きを与えたり、思考を深めたりしてもらうことを目的に行ないます。
フィードバックを効果的に行なうためのポイント
フィードバックは部下の育成を行なううえで、非常に有効なものですが、一方でやり方を誤ると効果が半減したり、逆効果になったりすることもあります。この章ではフィードバックを効果的に行なうためのポイントを解説します。
フィードバックを行なうタイミング
フィードバックをするタイミングの基本は、「その時」です。フィードバックのタイミングが遅れてしまうと、部下の頭の中には細かい記憶がなくなってしまっており、フィードバックの効果が半減してしまいます。
例えば、「商談」に対するフィードバックをするとしたら、商談が終わって、今後何をするかの確認を終えたら、すぐに行なうべきです。商談の中で自分がどんな発言をしたか、相手がどんな反応をしたかが頭の中にあるからこそ、フィードバックが効果的になります。商談の3日後にフィードバックをされても、もう細かい流れを覚えていませんし、『いまさら何をいっているのだろう…』となってしまいます。
ただし、頻繁にフィードバックをしすぎても、部下の気が滅入ってしまいます。中長期的なテーマに関してフィードバックを行なうのでは、以下のようなタイミングで指摘や評価を行なうことも良いでしょう。
- 1on1による定期面談
- プロジェクト進捗報告の都度
- 成果物があがったタイミング 等
フィードバックを効果的に行なうためのポイント
以下のポイントを押さえていただくと、部下へのフィードバックを効果的に行なうことができるでしょう。
フィードバックをする時には、相手の心に受け入れる態勢を作るうえでも、フィードバックの許可を得ることが有効です。うまくいかなかったプロセスや結果に対するフィードバックをされるのは部下も嫌なものです。受け入れる準備を整えてもらうためにも、「先ほどの商談に関してフィードバックしてもいいかな?」といった言葉で相手の許可を取りましょう。
相手の許可を取ることはアドバイスや提案する時などにも有効です。「フィードバックもアドバイスも、訊かれたら部下は『はい』と答えるしかないだろうに、訊く意味があるのか」と思われる方もいるかもしれません。しかし、「1つアドバイスしてもいいかな?」といった前置きを入れることで、相手に聞く姿勢を作ってもらうことに意味があるのです。
フィードバックは、観察等を通じて気付いた事実を伝えることがポイントです。事実に関しては2つの種類があります。1つは、「商談の中で、アイスブレイクで●●さんはこういう発言をしたよね。それに対して相手がこう回答したね」といった客観的な事実です。
もう1つは、「さっきの打ち合わせで、●●さんの表情がだいぶ曇っているように感じたんだよね」という主観的な事実です。主観的な事実は必ずしも正しいとは限りません。ただし、フラットなフィードバックをする際には、このような主観的事実のフィードバックも非常に効果的です。
フィードバックを人材育成に役立てるには、部下がすぐに理解できる具体的な表現でフィードバックすることが重要です。
事実をフィードバックすれば、自然と具体的になりますが、慣れていないと「商談全体を通じて、●●さんは相手の話を真剣に聞いていないような印象があったんだよね」など、抽象的かつ曖昧な表現を使ってしまうこともあります。このようなフィードバックは、人に心当たるものがない場合、改善に繋がりづらい本ですし、フィードバック内容がネガティブなものであった場合、心情的に受け入れづらくなります。
これに対して、「お客さんが『○○に困っているんだよね、こういうことを実現したいんです』と、かなり真剣に話していた時も、●●さんは頷きを殆どせず、表情も無表情に近かった。その結果、お客さんも途中から苛ついた顔をして、◇◇のあたりから話がトーンダウンしてしまったよね」と事実に基づくフィードバックを具体的に伝えられたら、部下の受け止め方はまったく変わるでしょう。
ネガティブフィードバックをする時は相手の許可を得ると同時に、なるべく1対1で行なうことが好ましいでしょう。大勢の前で指摘されると、「みんなの前で恥をかかされた」という心理が先に立ってしまい、フィードバック内容を受け入れにくくなります。
フィードバックの目的は、相手の言動を改善することです。「相手の許可を得る」と同様に、相手がフィードバックを受け入れられるようにすることが、非常に重要です。また、1対1でフィードバックすることで、相手がネガティブな反応をしたとしても、フォローして自信喪失やモチベーション低下を最小限に抑えることも可能でしょう。
ただし、昨今はさまざまなハラスメント等の危険がありますので、1対1の密室を作っても大丈夫か、録音等を残しておく必要があるかは、会社の規定や状況に応じて判断してください。
フィードバック内容を受け入れてもらうには、丁寧かつ適切な言葉を選ぶ配慮も必要です。例えば、フィードバックの許可を得る時の言葉も、以下のように変えることで部下の身構え方や緊張感もだいぶ変わってくると思います。
- 【NG例】ちょっといいか?(ぶっきらぼうで一方的な声かけ)
- 【OK例】いまフィードバックを伝えても大丈夫ですか?(丁寧で配慮のある声かけ)
部下との関係性に応じて適切な言葉遣いは変わりますが、フィードバックは部下の気付きや成長、パフォーマンス向上を生み出すためにするものです。とくに、成長を促すためのネガティブフィードバックをする際には、受け入れてもらいやすい言葉を選ぶことも忘れないようにしてください。
フィードバックに使える例文3選
前章ではかなりしっかりとフィードバックする場面を前提にポイントを記載しました。しかし、実際には、ここまで丁寧に事実をフィードバックしたり、許可を取れないこともあったりするでしょう。その際には、「 事実 ⇒ ポジティブなフィードバック ⇒ネガティブなフィードバック(改善点) ⇒ 提案 」という構成を心がけると良いでしょう。以下にいくつか例文を紹介します。
「テイクアウトのお客様から、サラダのドレッシングが入っていなかったという電話がありました。袋詰めのスピードは確実に速くなっているので、商品をお渡しする前の最終チェックだけ確実にできるように何か工夫できないかな?」
ファーストフード店のクレームを伝えるフィードバックです。入れ忘れがあったという事実だけをフィードバックしたうえで、袋詰めに関するポジティブフィードバックを行なっています。そのうえで、具体的に実践して欲しい行動を示したうえで、問いかけの形で相手に工夫や選択する“スペース”を作っています。
「今日のランチタイムは、担当の調理エリアで5分以上お待たせしてしまうお客さんがいましたね。Aさんの作業は、みんなのお手本にして欲しいぐらいマニュアルどおりです。でも、ときどき回転が悪くなることがあるので、どうしたら改善できるか一緒に考えたいなと思ったんだけど…」
レストランの調理担当者へのフィードバックです。こちらもポジティブフィードバックを加えたうえでアドバイス・提案に入っています。仕事の進め方等の場合、問題個所だけをフィードバックしても、部下はどう改善すればいいのか分からない場合もあります。原因が明確であればフィードバックの中でアドバイスすることも有効ですが、そうではない場合には、上記のようにフィードバックのうえで“一緒に考える”という提案も有効です。
「先々月から営業目標が未達に終わっているね。行動力のある●●さんらしくなく、商談件数も減っていることが気になっているんだよね。何か困っていることがあれば、私も協力して解決したいと思うので、教えてもらえるかな?」
営業部においてスランプ状態に陥っている部下へのフィードバックです。もともと好成績の部下であるため、成績悪化を責めるのではなく「心配する・寄り添う」の姿勢を示します。そうすることで、部下には「気にかけてもらっている」というモチベーションアップに繋がる気持ちが生まれ、悩みの相談もしやすくなります。
まとめ
適切なフィードバックは、部下の育成やモチベーションUPに有効です。またフィードバックを心がけることで、上司のマネジメント力やコミュニケーション力も向上することでしょう。ただし、不適切なフィードバックは、成長を促進するどころか、モチベーション低下や関係性の悪化を引き起こしてしまうこともあります。
フィードバックのタイミングや「相手の許可を得る」、「具体的な事実を伝える」など、記事の内容を参考に、相手が受け入れて成長の糧にできるようなフィードバックが飛び交う文化を作っていただければと思います。