セクシャルハラスメント(セクハラ)とは|定義や種類・事例と対処法

更新:2023/04/11

作成:2022/08/19

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

セクハラの定義とは?|想定される種類や事例、対策や対処法を紹介

セクハラとは、セクシャルハラスメントの略称で「性的な嫌がらせ」を意味します。

 

セクハラはパワハラと比べて判断基準が曖昧で、「どこからがセクハラなのかわからない」という方もいるでしょう。ただ、セクハラが生じて報道などをされてしまった場合には、企業イメージに大きな傷がつきます。

 

本記事ではセクハラの定義を明らかにし、種類や事例、対策、対処法を紹介します。

<目次>

セクハラの定義

セクハラの定義

 

多くの方がご存知であるとおり、セクハラはセクシュアルハラスメントの略です。厚生労働省によると、次のように紹介されています。

「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。
出典:明るい職場応援団「ハラスメントの定義」

ここでいう「職場」は社内だけじゃなく、出張先や移動先、職務の延長ともいえる会社の飲み会なども該当します。また、労働者は、正社員だけじゃなくパートやアルバイトも対象です。もちろん異性だけでなく、同性も含まれます。

セクハラの種類は2つ

職場のセクハラには大きくわけて2つの種類があります。

  • 対価型セクシュアルハラスメント
  • 環境型セクシュアルハラスメント

 

対価型セクシュアルハラスメント

対価型のセクハラとは、なんらかの優遇する措置の見返りとして性的な行為を求めることです。上司から部下、発注元から発注先など、職場や業務における優越的な地位を利用されることが多いとされます。

 

「優遇」するの逆で、たとえば、経営者が社員に関係を迫ったものの断られた結果、「拒絶されたから」といって不当に配置転換したり解雇したりするなども対価型に該当します。

 

環境型セクシュアルハラスメント

環境型とは言動や装飾物の設置などで性的な嫌がらせを行なうことです。例えば女性が多い職場で、男性の上司が常に性的な言動を繰り返すなどが環境型のセクシュアルハラスメントです。

 

環境型のセクハラはメンバーのパフォーマンスを下げるだけでなく、職場の人間関係や雰囲気を損ね、離職者の増加や企業の生産性低下にもつながります。環境型のセクハラは、加害者にセクハラ意識がなく行なっているケースもあるからこそ注意が必要です。

データで見るセクハラの現状

セクハラの発覚件数は年々増加傾向にあります。セクハラの現状を実際のデータから解説します。

 

セクハラの件数

職場にはさまざまなハラスメントがありますが、最も多いのがセクハラです。例えば、厚生労働によると、雇用環境・均等部(室)に寄せられた相談のうち、令和元年度は37.4%と、約3件に1件がセクハラの相談です。

 

参考:厚生労働省「令和元年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)での法施行状況」

 

したがって、セクハラは企業が最も力を入れて対策・対処しなければならないハラスメントのひとつであるといえます。

 

セクハラの事例

ここからは過去に起きた事例からセクハラについて解説します。平成19年3月に判決が出た通称広島セクハラ事件と、平成27年に判決が出た通称海遊館事件を参考に忘年会でのセクハラを紹介します。

 

<広島セクハラ(生命保険会社)事件>
ある企業の従業員7名が、部下1名に対して飲み会の場で両足を体に巻き付けたり、抱きついたりしました。また、強制的に被害者の股間に陰部を押し当てたり、抱きついたところを写真に撮ったりした、などの行為が認められています。

 

従業員たちは「被害者も楽しんでいた」「飲み会を盛り上げようとしただけ」などと説明しましたが、行為者および使用者の損害賠償責任が認められました。

 

判決では同時に「被害者にもセクハラ行為を煽るような言動があり、落ち度があった」として損害賠償額の減額が認められています。しかし、判決のとおり、被害者側にセクハラ行為を煽る言動などがあったとしても、セクハラ行為として責任が生じるわけです。

 

「煽られたから」「セクハラしてもいいような雰囲気だったから」と感じても、セクハラととらえられかねない言動は慎みましょう。なお、セクハラもパワハラもお酒がきっかけとなりやすいため、職場の飲み会は特に注意が必要です。

 

<海遊館事件>
ある企業の管理職2名が、派遣社員などに対してセクハラ発言を繰り返しました。例えば、不貞行為をはたらいている相手との性生活を話したり、年齢に対する差別的・侮蔑的な発言をしたりといった言動が認められています。

 

被害者からの抗議はなかったそうですが、しかし、判決では「就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来する」と認められています。上述したセクハラの定義である「就業環境が害されること」に当てはまるといえるでしょう。

 

本判決でわかるとおり、体を触るなどの物理的な接触だけがセクハラではありません。また、「相手が何も言わなかったからセクハラじゃない」ともいえない点に注意すべきです。

セクハラで生じる悪影響

セクハラが発生するとさまざまな悪影響が生じます。ここではおもな悪影響を4つ紹介します。

  • 被害者の休職・退職
  • 損害賠償
  • 男女雇用機会均等法による制裁
  • 企業やブランドイメージの棄損

 

被害者が休職・退職する可能性

セクハラが発生すると、被害者がメンタル疾患にかかり休職・退職するリスクがあります。メンタル疾患等がならずとも職場や上司に嫌気がさして、退職するケースも多いでしょう。

 

厚生労働省によれば、”ハラスメント行為を受けた後の行動”として、実に6.9%が退職しているのです。退職すれば人員不足を招き、人員を補充するためのコスト・時間・リソースが必要とされます。

 

また、セクハラの場合、他の女性社員も離職する、仕事へのエンゲージメントが下がる、社内風土が悪化するなどの悪影響も生じやすいといえるでしょう。

 

参考:厚生労働省「令和2年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点」

 

損害賠償

重度の悪質なセクハラの場合、加害者だけでなく企業にも損害賠償が請求される恐れがあります。平成10年3月26日に裁判が行なわれた通称千葉不動産会社事件では、行為者である代表取締役と勤務先会社が被害者に対して損害賠償を支払う形になっています。

 

本件は行為者が代表取締役であるという事情もありますが、場合によっては会社は管理責任を問われる可能性は十分にあり得ます。

 

参考:女性就業支援バックアップナビ「千葉不動産会社事件」

 

男女雇用機会均等法による制裁

男女雇用機会均等法とは採用やマネジメントに関する男女差別を禁じた法律です。セクハラに対する対処を行なわなければ、外部機関から報告を求められたり助言・勧告・指導を受けたりする可能性があります。

 

企業やブランドイメージの棄損

ハラスメントに対する価値観が変わったなかで、報道やSNS等で大きく取り上げられるリスクが高まっています。特にBtoC企業などでは、企業イメージやブランド棄損の影響は非常に大きいといえるでしょう。採用活動への悪影響なども大きなものがあり、優秀な人材確保が難しくなって中長期的に企業の利益や生産性の低下を招く恐れもあります。

企業が取るべきセクハラへの具体的な対策方法

上述したとおり、セクハラはさまざまな悪影響をおよぼすため、発生を防止するための対策を講じることが大事です。ここではセクハラへの具体的な対策方法を5つ紹介します。

  • 職場全体への周知
  • 就業規則への反映
  • 相談窓口の設置
  • 研修の実施
  • 社内アンケートやサーベイの実施

 

職場全体への周知

法律や企業の方針を職場全体に周知しましょう。ハラスメントに関する企業の方針をきちんと示し、発生時には厳重に罰する旨を表明することが、メンバー全員の意識改善につながります。

 

就業規則への反映

セクハラの基準や対処法を規定して就業規則に盛り込みましょう。例えば「問題が起きた際は人事異動を行なう」や「加害者には一定の処罰を科す」などです。実際にセクハラを理由にして解雇できるか否かは行為の程度によるものの、一定の抑止や啓発効果を期待できます。

 

相談窓口の設置

相談室を設置して、被害者から悩みをヒアリングする担当者を決めましょう。設置する際は、人事部門と連携が取れるようにすることが大切です。

 

なお、大事なのは担当者の人選です。社員から信頼性があり、なおかつ被害者・加害者両方に肩入れすることのない中立的な視点を持った人物が望ましいといえます。社内に該当者がいなければ、外部と契約することもひとつです。

 

研修の実施

セクハラに関する意識啓発の研修を実施するのも大事です。メンバーの意識を高めることがセクハラ防止につながります。

 

セクハラは”上司から部下”、“正規雇用者から非正規雇用者”といった優越的な地位を利用したものが多いからです。したがって、職場で優越的な地位にいる管理職層に対する研修は必須ですし、また、女性のパートやアルバイト等が多い職場でも研修の実施が重要です。

 

社内アンケートやサーベイの実施

社内アンケートやサーベイを実施して現状の組織風土やコミュニケーションの状態を知ることも有効です。セクハラは他人に相談できていないケースも少なくありません。個人を特定するよりも、匿名で回答可能にして現状を把握することがおすすめです。

セクハラが発生してしまった際の対処方法

セクハラが発生してしまった際の対処方法

 

対策を講じても、セクハラを100%防げるとは限りません。そこで大事なのはセクハラが発生してしまった際の対処方法を事前に決めておき、迅速に対応することです。セクハラが発生してしまって相談を受けた際の対処には、おもに4つのステップがあります。

  • 1.相談窓口に報告する
  • 2.被害者に寄り添いって話を聞く
  • 3.事実関係を確認する
  • 4.被害者・加害者への対応を行う

 

1.相談窓口に報告する

まず相談窓口に“相談があった”等の事実を共有しましょう。上司が加害者であるケースもあるため、上司に相談するのが適切とは限りません。のちのちの対処をスムーズにするためにも、社内のハラスメント対応窓口に初期から共有することが大切です。

 

2.被害者に寄り添って話を聞く

プライバシーが確保できる場所で被害者の話を聞いてください。セクハラは被害者の精神被害が多く、その他のハラスメント以上に「セクハラにあったことは表に出したくない」という意向も強くなりがちです。精神状態を考えながらゆっくりと時間を取り、話を聞きましょう。

 

3.事実関係を確認する

被害者と加害者では認識の相違があるケースもあります。「中立的な立場で聞く」という意識を持って、同じ部署などの第三者に事実確認しましょう。事実確認する際は守秘義務に十分考慮したうえで行なうことが大切です。

 

4.被害者・加害者への対応を行う

被害者と加害者の両方に対応しましょう。部署異動で引き離すだけでなく、加害者には懲戒処分を、被害者にはメンタルケアを施す必要があるでしょう。

セクハラに関するよくある質問

最後に、セクハラに関する抱くよくある質問を2つほど紹介します。ここで紹介するのは以下の2点です。

  • ジェンダーハラスメントとの違いは?
  • セクハラの判断基準は?

 

ジェンダーハラスメントとの違いは?

ジェンダーハラスメントとは、社会的・文化的な意味合いから性差別的な言動・行動を取ることです。ジェンダーハラスメントがセクハラに該当する場合もあります。ただ、ジェンダーハラスメントはLGBTQなど性的志向の多様性に関連して出てきた概念ともいえます。

 

セクハラの判断基準は?

セクハラに明確な基準はなく、被害者が性的な不快を感じたかどうかで判断されることが多いです。したがって、少しでも性的な表現のある発言・行動には注意が必要です。

 

例えばパワハラに関しては、業務上の正当な指導はマネジメント上必要なものであり、被害者の受け止め方によって正当な指導がパワハラと誤認されてしまうようなケースもありえます。

 

ただ、セクハラと誤解される行為が業務上必要となる状況は、通常の事業では発生しないでしょう。「これぐらいは…」という感覚を許さず、徹底して撲滅することが大切です。

まとめ

職場で起こるセクハラには対価型・環境型という2つの種類があります。けっして許されるものではなく、未然に防止しなければなりません。万が一、発生してしまうと、離職や職場風土の悪化に加えて、企業イメージの悪化、損害賠償が発生するような危険性もあります。

 

記事で紹介した対策を講じたうえに、万が一の対処法も制定して、発生した場合には迅速に対応しましょう。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
・ニューノーマルで迎える21卒に備える! 明暗分かれた20卒育成の成功/失敗談~
・コロナ禍で就職を決めた21卒の受け入れ&育成ポイント
・ゆとり世代の特徴と育成ポイント
・新人の特徴と育成のポイント 主体性を持った新人を育てる新時代の学ばせ方
・“新人・若手が活躍する組織”は何が違う?社員のエンゲージメントを高める組織づくり
・エンゲージメント革命 社員の“強み”を組織の“強さ”に繋げるポイント
・延べ1万人以上の新人育成を手掛けたプロ3社の白熱ディスカッション
・新人研修の内製化、何から始める? オンラインでも失敗しないための “5つのポイント”
・どれだけ「働きやすさ」を改善しても若手の離職が止まらない本当の理由 など

関連記事

  • HRドクターについて

    HRドクターについて 採用×教育チャンネル 【採用】と【社員教育】のお役立ち情報と情報を発信します。
  • 運営企業

  • 採用と社員教育のお役立ち資料

  • ジェイックの提供サービス

pagetop