職場におけるハラスメントの種類とは?ハラスメントの種類や発生原因、対処法を解説

更新:2024/04/23

作成:2022/08/18

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

職場で想定される10種類のハラスメントとは?|発生を防ぐ予防策・対策を紹介

職場でハラスメントの種類などを把握して対策を講じることは、職場の安全や生産性を維持するうえで企業や人事にとって必須の対応です。今の時代、ハラスメントが発生すれば職場の士気は大きく下がりますし、また報道されたりSNSで拡散されたりすれば、深刻なイメージダウン等にもつながります。

 

企業や人事はハラスメントを未然に防ぐために、職場で起こるハラスメントの種類を把握するとともに、ハラスメント研修や社内規則などの措置を講じる必要があります。また、万が一ハラスメントが発生した場合には、被害者の支援や加害者の対応といった対処を適切に行うことが求められます。

 

本記事では、職場でのハラスメントの種類や発生要因、予防・防止方法、また万が一発生した際の対処法などを解説します。パワハラ防止法やその他の関連法律についても紹介しますので、ぜひご確認ください。

 

<目次>

ハラスメントとは?

ハラスメントとは?

 

ハラスメントとは、“嫌がらせ”を意味する単語です。ビジネスシーンにおいては健全な就業環境を破壊する行為を意味し、社会的に糾弾されるべきものとなっています。

 

日本では、従来までハラスメントといえば、”セクシャル・ハラスメント(セクハラ)”と呼ばれる性的嫌がらせや、権限等を背景にした”パワー・ハラスメント(パワハラ)”の2つを指すことがほとんどでした。しかし、現在では人権意識の高まりと共にセクハラ・パワハラ以外のハラスメントも増えていますので、主なものを知っておく必要があります。

 

日本におけるハラスメントの現状

具体的なハラスメントの種類等に触れる前に、記事では最初に、日本におけるハラスメントの現状を簡単に解説します。
 
日本では現状、ハラスメントが様々な職場で発生しており、企業や組織にとって重要な課題となっています。特に、パワハラ(パワーハラスメント)、セクハラ(セクシャルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)などは社会問題として注目されています。
 

令和2年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間のハラスメント相談件数/該当件数の推移は、以下のような傾向となっています(調査対象:全国の従業員 30 人以上の企業・団体、回答数:6,426)。

 

  • ハラスメントのうち、セクハラ以外のハラスメントは「件数は変わらない」の割合が最も高く、セクハラのみ「減少している」の割合が最も高い
  • 顧客等からの著しい迷惑行為のみ「件数が増加している」の割合の方が「減少している」より高かったが、それ以外では「件数が減少している」の割合の方が「増加している」より高かった。

【参考】令和2年度 厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000783140.pdf

 

職場で起こるハラスメント

ここからは企業で起こりうるハラスメントをパターン別に解説します。まず、職場で起こるハラスメントはおもに3つのジャンルに区分されます。

  • 仕事に関するハラスメント
  • 性差に関するハラスメント
  • その他のハラスメント

 

仕事に関するハラスメント

仕事に関するハラスメントには8つの種類があります。

  • パワーハラスメント(パワハラ)
  • モラルハラスメント(モラハラ)
  • リストラハラスメント
  • ケアハラスメント(ケアハラ)
  • テクノロジーハラスメント(テクハラ)
  • リモートハラスメント(リモハラ)
  • ロジカルハラスメント(ロジハラ)
  • 時短ハラスメント(ジタハラ)

 

パワーハラスメント(パワハラ)

パワーハラスメント、いわゆるパワハラとは職場内の地位の優位性を利用して精神的・肉体的苦痛を与えるハラスメントです。よく上司が部下にする言動が「パワハラだ」とされますが、パワハラの対象は部下だけとは限りません。

 

正社員から非正規社員へ、購入先から仕入れ先へ、ときにはベテラン部下から新任の上司へなど、そこに「地位の優位性」があれば、パワハラとなりえます。

 

昨今、パワハラが原因で退職に追い込まれてしまうようなケースも多く、訴訟の数も増加傾向にあります。2020年6月に施行されたパワハラ防止法の対象は、2022年4月から中小企業にも拡大されており、すべての企業でパワハラの防止措置を実施することは必須となっています。

 

モラルハラスメント(モラハラ)

続いて、モラルハラスメントとは舌打ちや噂話、悪口などの相手を傷つける言動を行なうハラスメントです。パワハラほど目立たない行為なだけに継続的にストレスを受けて精神的ダメージを受ける人が多い、ひとつの行為を取り上げて静止しにくくいつの間にかメンタルヘルス等に追い込まれることもあるといった特徴があります。

 

リストラハラスメント

リストラハラスメントとは、社内上層部がリストラ候補者に対して配置転換や雑務の押しつけを行ない、退職するよう仕向けるハラスメントです。権限等を背景にするという意味では、パワハラの一種ともいえます。

 

ケアハラスメント(ケアハラ)

ケアハラスメントとは、育児や介護を行う従業員に対するハラスメントのことです。具体的には、残業を強要したり、昇進・昇格の機会を払底したり、差別的な発言をすることなどが該当します。とくに育児や介護のための制度を利用したことに伴って上司や同僚から嫌がらせを受けるケースが多くみられます。
 
育児や介護をしながら働くことは大きなストレスとなり、会社から十分な理解が得られないと、仕事を続けることが難しくなる可能性もあります。このようなハラスメントにさらされると、離職を余儀なくされてしまう恐れがあり、企業として大きなリスクとなります。また育児や介護は誰にでも生じる問題だからこそ、ケアハラスメントが発生して報道したりSNSで拡散されたりすると、大きなブランド毀損や批判につながります。

 

テクノロジーハラスメント(テクハラ)

テクノロジーハラスメントとは、ITスキルが低い従業員に対するいじめや嫌がらせを指します。具体的には、デジタル機器の操作が苦手な人を侮辱したり、ITリテラシーの高い人が低い人に対して不当な業務を割り振ったりする行為などが含まれます。
 
テクハラは、上司から部下などだけでなく、逆に若手から年配者や上司に対して行われることもありますので注意が必要です。

 

リモートハラスメント(リモハラ)

リモートハラスメントとは、在宅勤務やテレワークといったリモートワークの環境下で生じるハラスメントです。ウェブカメラを通じてのプライベート事項への不適切な指摘、必要以上の干渉などの行為が該当します。
 
リモートワークが普及した当初に比べると、最近は仮想背景の技術も発展してリモートワークで後ろに映っているものに言及されるような問題はなくなりました。ただ、リモートワークでは対面せずにコミュニケーションを取るため、意識的ばルール作りも必要です。 
また、最近ではコロナ禍の終息に伴って、出社勤務が増えて会議などでもオンラインとリモートワークの人が混在するようになり、出社している人がリモートワークの人を排除したり阻害したりするようなリモハラも生じています。この辺りにも注意が必要でしょう。

 

ロジカルハラスメント(ロジハラ)

ロジカルハラスメントは、論破することで相手に精神的圧迫を加えたり、正論を振りかざして相手を追い込んだりする行為を指します。正論を述べること自体が問題ではなく、正論を使って相手を精神的に苦しめることがハラスメントに該当します。
 
ロジカルハラスメントの場合、形式的・論理的には筋が通っているように見えるため、問題として認識されづらい部分もあります。しかし放置すれば、周囲のメンタルヘルスやモチベーションに深刻な影響を及ぼしかねません。健全な職場環境を維持するためには、このようなロジハラを行っている人がいれば、きちんと実態を把握して、注意を実施する等が不可欠です。

 

時短ハラスメント(ジタハラ)

時短ハラスメントは、育児や介護などの理由で時短勤務を利用する従業員に対する差別や偏見、不当な扱いを指します。具体的には時短勤務の権利を行使することに対する周囲の否定的な態度や、時短勤務者への業務量の不公平な配分などが該当します。
 
ワークライフバランスを重視する社会的要請が高まり、また女性の産休復帰率も向上、介護問題を抱える労働者も増える中で時短勤務を希望する労働者は増加しています。こうした時短勤務する人をハラスメントで阻害することは大きな問題と言えます。
 
同時に、時短ハラスメントは「社内にサービス残業する文化が根付いている」「時短勤務者の時短分の負荷が、通常勤務をしている人に転嫁されている」といった状況で起こりやすいものです。従って、マネジメント全体をきちんと見直していくことが大切です。

 
日本の労働環境では、企業が社員を解雇することが非常に難しくなっています。社員の就業環境が守られていること自体は素晴らしいのですが、結果としてリストラハラスメントのように陰湿な形で、自主退職するように仕向ける事象が発生しているわけです。

 

性差に関するハラスメント

性差に関するハラスメントはセクハラを筆頭に大きく4つあります。

  • セクシュアルハラスメント(セクハラ)
  • ジェンダーハラスメント
  • マタニティハラスメント(マタハラ)
  • パタニティハラスメント(パタハラ)

セクシュアルハラスメント、いわゆるセクハラは性的な言動を通して相手に苦痛を与えるハラスメントです。性的な要求を拒むと、その後に社内で不遇な処罰を受けるケースも発生しています。

 

セクハラの大半は、男性が女性に対して行なうケースです。また、上司から部下、正規雇用の社員から派遣やパート社員など、パワハラと同様に優越的な地位を利用して実施されるケースも非常に多くなっています。

 

続く、ジェンダーハラスメントは「男らしい」や「女らしい」といった偏った価値基準で、相手に指摘したり、業務を押し付けたりするハラスメントです。たとえば、「女性だから来客者にはお茶を出すべき」「男性だから多少の精神的苦痛は耐えるべき」などはジェンダーハラスメントといえるでしょう。

 

3つ目のマタニティハラスメントとは妊娠中や産前産後の女性に対して、難しい業務や育休を取得させないなどの不当に扱うハラスメントです。女性の社会進出が進み、女性の管理職比率等も注目されるようになった中で、減少しているとは言えるでしょう。一方で、産休や育休の制度はあるのに、実際に使いづらい雰囲気があるといったことは、マタニティハラスメントの一種ですので注意が必要です。

 

最後に、パタニティハラスメントです。これは、男性の子育て支援が推奨される中で、男性の育休に際して取得を妨げるような言動をしたり、取得後に不利な配属や異動をしたりするものです。SNS等で大きく炎上したり、訴えられたりするケースも出てきています。近年は育休に関する世間の認識も変わっており、注意が必要なハラスメントの一つです。

 

その他のハラスメント

その他の種類のハラスメントはおもに8つあります。

  • アルコールハラスメント
  • スメルハラスメント
  • レイシャスハラスメント
  • エイジハラスメント(エイハラ)
  • ソーシャルハラスメント(ソーハラ)
  • スモークハラスメント(スモハラ)
  • パーソナルハラスメント(パーハラ)
  • ハラスメントハラスメント(ハラハラ)

 

アルコールハラスメント

アルコールハラスメントとは、飲み会の際の飲酒や一気飲みを強要するハラスメントです。一昔前の時代はある程度”お酒の付き合い”として容認されていたような側面もあるため、本人の自覚なしでアルハラを行なってしまう可能性もあります。

 

パワハラやセクハラも同様ですが、「自分もそういう教育を受けてきた」「過去には冗談として通用していた範囲」といった感覚で実施してしまってトラブルになるケースも少なくありません。パワハラ・セクハラの大半はお酒が入る場で起こっているという話もあり、職場の飲み会等は非常に注意すべき場といえるでしょう。

 

スメルハラスメント

続く、スメルハラスメントとは、臭いが原因で周囲に不快な思いを与えるハラスメントです。体臭などは本人が気付いていないケースも珍しくありません。なかなか難しい問題ですが、最近ではこうしたことも職場におけるハラスメントとしてトラブルになるケースがあります。

 

レイシャルハラスメント

レイシャルハラスメントとは人種、国籍、地域などの生まれつきの括りで嫌がらせを行なうハラスメントです。グローバル化に伴ってハーフやクオーターの方が増えていたり、外国人労働者の方が増えていたりしますので、今後注意が必要かもしれません。

 

エイジハラスメント(エイハラ)

エイジハラスメントとは、年齢を理由に嫌がらせをしたり差別的な言動をしたりすることを指します。若年者に対して「若造のくせに」といった発言をしたり、中高年者に対して年齢を揶揄したりすることが典型例です。
 
職場においては、年齢を理由に昇進・昇格の機会を制限したり、同年代より若い人を理不尽に可愛がったりするなどの言動も、エイジハラスメントに該当する可能性があります。年齢に関係なく能力を公正に評価し、適材適所で活躍の機会を与えることが大切です。

 

ソーシャルハラスメント(ソーハラ)

ソーシャルハラスメントとは、人間関係から切り離すような嫌がらせや集団による無視などの行為を言います。会議や懇親会から意図的に外す、職場の連絡網的なグループに入れない、SNS上でのいじめ等が該当します。
 
ソーシャルハラスメントは、個人だけでなく集団で行われることが多く、被害者を職場の人間関係から切り離そうとする点が大きな特徴です。また、他のハラスメントも同様ですが、誰かがソーシャルハラスメントをやり始めた時に周囲が傍観者となって止めないことがハラスメントになってしまう大きな要因です。人間関係が希薄化する現代社会で顕在化しがちなハラスメントだといえるでしょう。
 

スモークハラスメント(スモハラ)

スモークハラスメントは、喫煙者と非喫煙者の間で生じるハラスメントです。喫煙者の煙から非喫煙者を守るための取り組みが不十分なために、職場環境で受動喫煙を強いられる状況を指します。また、最近では喫煙者同士が喫煙所での雑談で物事を決めてしまう、喫煙者だけが“タバコ休憩”を頻繁に取ることを黙認されているといったこともスモハラとして取り上げられることがあります。
 
スモークハラスメントを生じさせないためには、まず建物内の全面禁煙や喫煙室の適切な設置など、喫煙者と非喫煙者の両者が気を遣わずに過ごせる職場環境を整備することは重要です。受動喫煙の防止は法令でも定められていることですので必須の対応です。また、いわゆる“タバコ部屋トーク”で意思決定する、喫煙者だけの“タバコ休憩”などにも注意しましょう。

 

パーソナルハラスメント(パーハラ)

パーソナルハラスメントとは、個人の身体的特徴や人格を攻撃したり、無視したりする行為を指します。体型や性的指向など、個人の特性に関わる嫌がらせが典型例です。
 
パーソナルハラスメントを防ぐためには、人権を尊重し、多様性を認め合う職場づくりが求められます。相手の人格や尊厳を傷つける発言や行動は断固として許容しないといった企業としてのポリシーを示すことも不可欠でしょう。とくに「冗談半分で相手の個性をいじることがアイスブレイクになる」と思っているような人にはしっかりと注意することが必要です。

 

ハラスメントハラスメント(ハラハラ)

相手に対して「ハラスメントだ!」と過剰な反応や指摘を繰り返すことが、逆にハラスメントとなるケースをいいます。客観的にハラスメントではない事象に対して「ハラスメントです!」「訴えます!」などと相手を威圧するような言動をとることが該当します。
 
また、ハラスメント被害を受けた人に対して二次的な嫌がらせを行ったり、被害を訴えた人に対する報復的な発言や行為をしたりすることもハラスメントハラスメントに当たります。

ハラスメントの発生や放置で生じる5つのデメリット

ハラスメントは極力未然に防ぎ、また万が一発生してしまった際には素早く適切に対処することが大事です。ここではハラスメントの発生や放置で生じるデメリットを5つ紹介します。

  • 離職
  • 企業のイメージダウン
  • 生産性の低下
  • 採用コストの増加や採用難易度UP
  • 訴訟の可能性

 

離職

ハラスメントは被害者にとっては非常に不快であったり、心を傷つけられたりする出来事です。当然、組織へのロイヤリティは下がり、場合によってはメンタルヘルスの不調やうつ病などによる休業、また離職等につながる場合もあります。

 

また、ハラスメントが起こる・放置されているような職場は、他のメンバーにとっても働きやすい職場とはいえません。心身ともに体調不良になる、離職するメンバーが連鎖的に発生する恐れもあるでしょう。

 

企業のイメージダウン

ハラスメントの発生がインターネット上で広まれば、企業イメージは当然損なわれます。ハラスメントに対する社会的な価値観も変わり、SNSも普及する中で、マスコミでの報道以上にSNS等で大きく炎上する事例も増えています。ハラスメントが企業活動そのものにも悪影響を与える傾向が高まっています。

 

生産性の低下

ハラスメントが発生すると職場の人間関係は崩れ、社内環境が悪化します。社員のモチベーションも下がり、生産性に悪影響が出る恐れもあるでしょう。社内の風通しが悪くなることで、結果として大きな不祥事やトラブルにつながる恐れもあります。

 

採用コストの増加、採用難易度のUP

前述のとおり、メディア等でハラスメントの発覚が取り上げらたり、SNS等で炎上した利すると、人材採用の難易度は高まります。報道や炎上しなくても、口コミサイトに書き込まれる場合もあるでしょう。最近では、新卒でも中途でも、応募前もしくは選考過程で企業の口コミをかならず確認しますので、志望度の低下や辞退等につながります。

 

訴訟の可能性

ハラスメントを受けた社員が訴訟を起こすケースもあります。訴訟まで行けば、対応の工数・費用、また、イメージダウンや採用への影響もより大きくなります。メンバーに対して不安を与えることにもつながり、経営への不信感を持たれやすくなる恐れもあるでしょう。

 

ハラスメントが起こる要因

続いて、ハラスメントが起こる要因を説明します。ハラスメントが起こる要因はおもに4つあります。

  • 職場環境
  • 個人の意識
  • コミュニケーション不足
  • ストレスや不満の蓄積

 

職場環境

職場の雰囲気や体制などは、ハラスメントで気をつけるポイントです。威圧的で殺伐とした職場では、ストレスによってハラスメントも起こりやすいといえます。特に、中高年が多い職場は気をつけるべきです。前述のとおり、ハラスメントに対する感度は一昔前と変わっているため、職場環境と個人の意識が世間の感覚とズレてしまっている可能性があります。

 

個人の意識の問題

職場のような複数の人が集まる場所では、価値観の摩擦が起こりかねません。ハラスメントを行なった本人に自覚がなくても、相手がハラスメントと受け取ってしまう可能性もあるのです。

 

前述の通り、この10年ほどでハラスメントに対する価値観は大きく変わっています。例えば、今の40代・50代が学生~若手社会人の頃は、軽い体罰や恐喝のような怒号は当たり前でした。その感覚から、正当なものであれば「必要な教育だった(キチンと学ぶ機会になった)」という感覚を持っている方もいます。

 

ただ、今では叱ることは認められても、体罰や怒鳴る行為はハラスメントだというのが世間の感覚です。後述するとおり、研修の実施等を通じて、全社員のハラスメントに関する知識をアップデートすることが大切です。

 

コミュニケーション不足

テレワークが普及した中でオンライン上でのやり取り、また、ビジネスチャットなどでのテキストコミュニケーションが増えてきていることもハラスメントが生じる要因の一つといえるでしょう。

 

オンラインコミュニケーションやテキストコミュニケーションは便利な反面、相手の感情などをくみ取りづらく、対面でのやりとりより意思疎通しづらくなってきます。人間関係が薄いと、冗談や軽い気持ちによる言動が相手にとってはハラスメントになったりもします。

 

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ストレスや不満の蓄積

職場でのストレスや不満が蓄積された従業員の存在も、ハラスメントが生じる大きな要因の一つです。

 

例えば、過度の業務量や納期のプレッシャー、評価の不公平感、人間関係がうまくいかないなどでストレスを適切に発散できずにいる従業員は、次第に感情のコントロールが難しくなってきます。結果として、ストレスや不満を蓄積した従業員は、立場の弱い部下や同僚に対してイライラをぶつけるなどのハラスメント行為に走ってしまう可能性が高くなります。
 

ストレスは誰にでもあるものです。他者に向けて発散するのではなく、上司や人事部門に相談したり、カウンセリングを受けたりするなど、建設的な方法で解消することが重要です。また、職場環境の改善や従業員の心身のケアにも力を入れ、ストレスを溜めにくい環境づくりをするなどのマネジメントも大切です。

 

企業に求められるハラスメントの予防・防止措置

ハラスメントが大きなトラブルになりえる時代に、組織はどんな対策をすべきでしょうか。ハラスメントの主な予防策は4つです。

  • 研修の実施
  • 社内規則の制定
  • 相談窓口の設置
  • 社内アンケートやパルスサーベイの実施

 

研修の実施

まず、ハラスメントを防ぐ上では個人の意識は非常に重要です。個人の意識を変えるためにも、外部講師なども利用して社員全員でハラスメントについて学びましょう。正しい知識を得ることで、関心や注意力を高めることができます。

 

なお、ハラスメントを起こしやすい立場となる管理職には、マネジメント向けのハラスメント研修を実施したほうがよいでしょう。管理職層は優越的な地位ということもありますし、年齢が高い場合、知識をアップデートすることでハラスメントを防ぐことができます。

 

また、管理職層がハラスメントに対する正しい知識を身に付けることで、「ハラスメントだと思われるかもしれない」と委縮してしまって、適切な指導ができない状態を防ぐことができます。

 

社内規則の制定

ハラスメントの定義やハラスメントが起きた際の対処法など、きちんと文言として就業規則や社内規定などに盛り込んでおくことも大切です。社内規則でしっかり明記しておくことで、抑止や啓発効果を期待できます。また、処分等の対応に関しても、きちんと就業規則等で根拠を持たせることが大切です。

 

相談窓口の設置

ハラスメント発生時に対応する窓口を設置しましょう。ここで大事なのが、相談窓口の担当選びです。職場の人が相談できる信頼性を持った人物が望ましいでしょう。同時に、感情移入し過ぎて被害者・加害者のどちらかに肩入れしてしまわないような客観性も必要です。

 

社内アンケートやパルスサーベイの実施

社内アンケートやパルスサーベイ等を通じて声を拾うことも有効です。初期のアンケートは匿名で実施してハラスメントの現状を把握することがおすすめです。社内アンケートやパルスサーベイは定期的に実施して、現状や不満要因等をヒアリングして改善するのも効果的です。

 

ハラスメントが発生した際の対処方法

ハラスメントが発生した際の対処方法

 

対策を講じても、ハラスメントを100%防ぐことはできません。そこで大事なのが、ハラスメントが発生した際の対処方法をあらかじめ決めておくことです。ハラスメントが発覚したり、相談が来たりした際の効果的な対処方法は下記のとおりです。

  • 被害者に寄り添う
  • 客観的な事実関係を明らかにする
  • 証拠を集める
  • 加害者に対応する
  • 社外の専門機関に相談する
  • 第三者を介入させる

 

被害者に寄り添う

まずは被害者の気持ちを理解して、慎重に接しましょう。ハラスメント被害は他人になかなか相談しづらいため、接し方が最も大事です。さらに、これ以上の被害が生じないように被害者の安全を確保しましょう。

 

なお、相談等があった時点でハラスメントの相談窓口等に共有することが大切です。一人で対応しようとせず、対応部署ときちんと連携して対応しましょう。後々のためにも初期から必要な記録を残すことを習慣づけるのが重要です。

 

客観的な事実関係を明らかにする

被害者本人や同じ部署などの周囲の意見から事実を把握しましょう。不用意に加害者に接触するのは控えてください。被害者に報復する可能性などがあるため、まとまった証拠を集めてから接触することを推奨します。

 

証拠を集める

ハラスメントの事実を示す証拠を集めましょう。ハラスメントはある程度、定積的な感覚になってしまう部分もあります。「ハラスメントです!と被害者が言うからハラスメント」になってしまえば、組織のマネジメントが崩れてしまいかねません。

 

一方で、ハラスメント自体はきちんと防ぐ必要があることは言うまでもありません。被害者に寄り添いながら、客観的な証言などをきちんと集めましょう。

 

加害者に対応する

事実確認が取れて対処法も確定したら、加害者への対応を行ないます。ハラスメントを言及し、処遇を決定します。一方的に伝えずに、加害者の言い分も確認して、更なるトラブルに発展しないよう注意しましょう。

 

社外の専門機関に相談する

職場でのハラスメント問題は、社内の相談窓口だけでは解決しきれないことも少なくありません。特に複雑で深刻なケースでは、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門機関の支援が不可欠です。
 

外部の専門機関は、ハラスメントの事実確認、法的なアドバイス、救済措置の提案など、企業が自力で解決するのが難しい問題に対して、専門的なサポートを提供してくれます。社内だけで何とかしようとせず、社外の専門機関に早期で相談することで、公正かつ効果的な解決策を見出すことが可能な場合もあるでしょう。

 

第三者を介入させる

ハラスメント問題は、経営層や人事・法務部門が関与するだけでは、公平性や中立性が欠ける懸念を持たれる場合もあるでしょう。客観的には問題なくても、ハラスメント被害者は組織の信頼性等に対して過敏になっているケースもあります。そこで、場合によっては第三者に介入してもらうことも有効です。
 
例えば、監査役や内部監査部門などは、経営陣から独立した立場にあり、中立的な視点を持っている存在です。状況に応じてハラスメント問題に関与してもらうことで、被害者は安心して事実関係を伝えられ、加害者への指導や処分についても公正性が保たれやすくなります。社外の専門機関と同様に、社内の第三者の介入によって、ハラスメント問題への対応の透明性や信頼性が高まり、トラブル回避につながるケースもあるでしょう。

 

改正労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)とは?

2020年6月1日に通称パワハラ防止法が施行されました。当初は大手企業のみが対象で下が、2022年4月1日には中小企業も対象となったため、すべての企業が知っておく必要があります。パワハラ部防止法の概要や罰則などを紹介します。

 

パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)の概要

2020年6月1日に労働施策総合推進法が改正され、パワハラ防止対策における事業主の措置が義務付けられました。改正労働施策総合推進法の改正は、パワハラに関する企業の義務が明記されたことからパワハラ防止法と呼ばれています。施行当初は大企業のみを対象としていましたが、2022年4月から中小企業にもパワハラの防止措置が義務付けられています。

 

パワハラの定義とは?

パワハラの定義は、厚生労働省が以下のように定めています。以下のすべてを満たすものがパワハラです。

 

 □優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
 □業務としての適正な範囲を超えて行われること
 □身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

出典:厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」

 

3つすべてに当てはまらなければ、厚生労働省が定めるパワハラには当てはまりません。しかし、当てはまらなかったとしても、一部のメンバーから報告があった場合には、社内環境や風紀の調査、事実関係の確認をおすすめします。

 

違反した場合の罰則は?

パワハラ防止法では、違反時の罰則は定められていません。しかし、必要な措置を行なわなかった場合、公的機関による助言・指導・勧告が行なわれます。また、措置を怠ってハラスメント訴訟になったり、ハラスメント問題がニュースになったりした場合、法的な処罰以上に、イメージ悪化等による損害が大きくなる可能性は否めません。

 

上述したとおり、2022年4月以降、中小企業も含めたすべての事業主でパワハラ防止対策の措置が義務付けられています。「うちみたいな家族主義の企業でハラスメントなんて…」などと考えず、研修実施や規定整備、相談窓口の整備などをきちんと対応しておくことが大切です。

 

その他のハラスメントに関連する法律

前章では、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)について解説しました。記事の最後では、その他のハラスメントに関連する法律を紹介します。
 

男女雇用機会均等法

男女雇用機会均等法は、雇用において性別による差別を禁止し、男女の均等な雇用機会と待遇を確保することを目的に、1985年に制定された法律です。男女雇用機会均等法では、「事業主は、募集、採用、配置、昇進、福利厚生、退職などの雇用管理で、性別を理由にした不利益な取り扱いをしてはならない」と定められています。
 
また、近年では職場におけるセクシュアルハラスメントや妊娠・出産に関する言動に対する防止対策を強化するといった改訂が実施され、平成19年4月1日から施工されています。改訂された男女雇用機会均等法の主なポイントは以下の通りです。

(1) 男性も含む労働者に対する性別による差別禁止の拡大
(2) 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱い禁止の強化
(3) 男性も含む労働者に対するセクシュアルハラスメント防止対策の措置義務化
(4) 調停など個別紛争解決援助及び是正指導に応じない場合の企業名公表の対象にセクシュアルハラスメント、母性健康管理措置を追加
(5) 報告徴収に応じない等の場合の過料創設

(参考)厚生労働省栃木労働局|男女雇用機会均等法改正の主なポイント
https://jsite.mhlw.go.jp/tochigi-roudoukyoku/jirei_toukei/_81854/gekkan/kinto_kaisei.html#:~:text=%E5%83%8D%E3%81%8F%E4%BA%BA%E3%81%8C%E6%80%A7%E5%88%A5%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8A,%E3%81%8B%E3%82%89%E6%96%BD%E8%A1%8C%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

 

育児・介護休業法

労働人口が減少する中で育児や介護による離職は、大きな社会問題になっています。このような背景もあり、2021年6月に育児・介護休業法が改正されました。改定では、妊娠出産、育児休業の取得に対する不利益取扱いの禁止に加え、事業主にも育児や介護に伴うハラスメントへの防止対策措置が義務付けられました。
 
育児・介護休業法の改正点は以下の通りです。

1 男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設 【令和4年10月1日施行】
2 育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け 【令和4年4月1日施行】
3 育児休業の分割取得 【令和4年10月1日施行】
4 育児休業の取得の状況の公表の義務付け 【令和5年4月1日施行】 
5 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 【令和4年4月1日施行】

(参考)厚生労働省|育児・介護休業法について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html

 

まとめ

職場で起こるハラスメントは、パワハラ、セクハラを筆頭に様々なものがあります。また、ハラスメントに関する世間の感度も、数十年で大きく変わりました。現在では、ハラスメントが起こると情報は報道やSNS等を通じて一気に拡散され、企業のイメージダウンにつながりかねません。

 

ハラスメント対策を考える上で、最も大事なことは正しい知識のインプットや感覚のアップデート行って、ハラスメントを未然に防ぐことです。ただ、人がするものですから事前対策で100%防ぐことができるとはいえません。したがって、ハラスメントが発生した際の対処をきちんと決めておくことも大切です。

 

繰り返しになりますが、「うちの会社でハラスメントなんて…」と考えず、記事内容も参考にきちんと対策を実施して、トラブルを未然に防いでください。

 

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著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

・新入社員の特徴と育成ポイント
・ニューノーマルで迎える21卒に備える! 明暗分かれた20卒育成の成功/失敗談~
・コロナ禍で就職を決めた21卒の受け入れ&育成ポイント
・ゆとり世代の特徴と育成ポイント
・新人の特徴と育成のポイント 主体性を持った新人を育てる新時代の学ばせ方
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