これからの長寿社会を支えるべく、バイオテクノロジーを研究する大学や民間企業に向け、世界各国のメーカーから最新の研究機材や試薬、消耗品などを仕入れ、研究目的に合った商品やサービスを提供しているミクセル。
2024年Great Place to Work® Institute Japan「働きがいのある会社」ランキング小規模部門において、第2位に選出されています。社員が経営理念を共感し、いかに会社の持続的な成長へと結実させているか、代表取締役 島 幸司様に伺いました。
会社名:株式会社ミクセル様
設立:2008年11月
従業員:37人(2023年4月現在)
大学や病院などの各研究施設のための研究用機器や試薬の販売、各種コンサルなどを手掛ける。主な事業に、実験に用いる各種機器、試薬、消耗品の販売、保守、修理をはじめ、研究施設のラボデザインおよびにそれに伴う設備導入、ライフサイエンス事業の立ち上げ支援などを行う「研究支援事業」と、リハビリ特化型デイサービス、福祉用具のレンタルや特定福祉用具の販売を行う「ヘルスケア事業」がある。さらに「海外事業」として東南アジアを中心とした医療ツーリズムプロジェクトや、介護人材プロジェクトを展開する。
<目次>
- Q.貴社設立の経緯について教えてください。
- Q.貴社の事業展開について教えてください。
- Q.採用ではどのような点にポイントを置いていますか?
- Q.そうして入社した社員の育成方法についてはいかがでしょう?
- Q.5qualities(自立 協働 共感 創造 挑戦)を備えた人材育成について教えてください。
- Q.貴社は理系的な印象がありましたが、人の感情を大事にしているのですね?
- Q.GPTWにエントリーしたきっかけについて教えてください。
- Q.島社長のお考えになる、経営者の心がけについてお聞かせください。
- Q.今後の組織づくりについてお聞かせ下さい。
Q.貴社設立の経緯について教えてください。
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島様:設立したのは2008年11月のことですが、それまで私は理化学機器販売業の会社に勤めていました。その頃にリーマンショックが起き、会社が倒産の危機になったので、なんとか社員たちに働く場所を提供したいという思いでスタートを切りました。
ただ現実は甘くはなく、売掛けを長い間待っていてくれたりと、知人や周囲の支援でなんとか軌道に乗せることができたのです。
当社では信条の2つ目に「私たちはあきらめない」と掲げており、本気でやれば夢は叶うと記しています。どんなことも想像しないことには始まりません。
そして、やってみれば世の中捨てたものではないと、この実体験で思ったことがその背景にあります。自分の力を信じれば、そこに人の力が集まってきて、夢は現実となるのです。
Q.貴社の事業展開について教えてください。
島様:「研究支援事業」「ヘルスケア事業」「海外事業」の3つを展開しています。なお、海外事業はベトナム市場をメインに考えていたところ、関連する中国経済の低迷やコロナ禍などの理由で現在、ペンディング状態となっています。
3つの事業は一見、別々でつながりのないように見えますが、弊社の「日本の文化と技術で長寿を喜び合える社会をつくる」というパーパスの下、ストーリーを作り上げています。
例えば研究支援事業(一般には理化学機器販売業といわれる事業)では、東京大学、東京医科歯科大学、広島大学など日本の最先端の研究者とつながりが深いことを強みとしており、それらを介護・ヘルスケアに転用する目的でヘルスケア事業があります。
つまり、研究支援事業では大学と連携し病気になった後のケアのことを研究していますが、ヘルスケア事業では病気になる前を対象にしているのです。
海外事業については、日本が1億人超の国家で初めて超高齢社会となり、ここで困っていることを解決することは、おそらく今後の世界への輸出産業になるのではないかと考えたことがきっかけで始まりました。
世界を見ても、日本の医療インフラは群を抜いて整っていますが、国内の人口減少などの理由で維持できなくなるリスクも考えられます。そこで近隣国である東南アジアなどの国家に日本の医療インフラを使って頂くことで、それが日本国内での医療インフラ維持にも繋がると見込んでいます。
このように当社の中では、全てパーパスを元にしたストーリーを描き、事業活動が繋がっているのです。
私はこれまで漠然とですが、20~30年の将来を見据えつつ、10年先にある事業化のタイミングを計ってきました。
そうした中で私自身が団塊ジュニア世代であり、団塊と呼ばれる親の世代がいかに高齢者となっても社会の負担とならずに、どう幸せに自分らしく生きてもらうかが、自分のテーマとしてありました。
これは団塊ジュニアである私たちならではのテーマでもあるでしょう。さらに自分たちより後の世代にツケを残さず、今後も自分たちの世代で両親たちを支えられるような、事業展開をしていきたいと考えています。
Q.採用ではどのような点にポイントを置いていますか?
島様:採用については、シンプルに能力よりも「人柄」を重視しています。能力は時間をかけて伸ばすことはできるかもしれませんが、その人柄にみられる人間性や価値観は容易に変えることはできません。
そうしたことを踏まえ、当社では採用時にミクセルメンバーシップというものを備えており、このメンバーシップに沿った、当社が求める人柄をもつ人材を求めるようにしています。
Q.そうして入社した社員の育成方法についてはいかがでしょう?
島様:仕事をするうえで、人には専門的な仕事をする力と、基礎的な仕事をする力があります。
とくに基礎的な仕事はどこの業界に移ってもできるベースとなる力ですが、さらにその根底には、人としてどう生きるかという価値観、人生観などが土台にあります。新入社員とベテラン社員をみても、若干の価値観のずれは否めませんが、これは普遍的なものであると思っています。
それを踏まえて、当社で普遍的ともいえる経営理念を社員全員で共感しながら、育成していくようにしています。何かを一方的に刷り込んでいく・教えていくというような方法ではありません。
社員にとって我々役員や幹部が憧れになる存在となり、我々の真似をしていたら勝手に経営理念の体現者になっている、というのが理想です。そのため経営理念については浸透というより、共感という言葉を使っています。
「社長や幹部のようになりたい」「どんなことを考えているんだろう」と部下が自ら思い、学んでいくというのが共感の形です。マーケティングで考えるところの「プッシュ型」ではなく、「プル型」の営業に近いかもしれません(笑)。
なお理念については、幹部と定期的に見直しをしています。私たちが大切にしていきたい価値観とは何か、10~20年後での日本に必要となるペインポイントは何かなどを考え、そのうえで新たな事業展開や、そのための人材・チームづくりなどバックキャスティングを考え、新たなフレームワークを見出しています。
私は、自分のやることに意味を見出せないとなかなか燃えないタイプなので、物事の意味づけをするために頭の中を常に整理しています。経営理念は何のためにあるのか、それは共通の価値観として持つためにあるので、それをそのまま実現できるように尽力しています。
Q.5qualities(自立 協働 共感 創造 挑戦)を備えた人材育成について教えてください。
島様:当社では5qualitiesの中に、さらにそれぞれ5項目ずつ行動様式が細分化されています。例えばプロフェッショナルとはこういう人材だというような内容ですが、その合計25項目の行動様式に基づき、半年に1回、360度評価をかけています。
社員にとっては半年に1回、理念を通じて仲間を評価する体験を行うことになります。理念を通して人を見ることによって、どういう人を会社は期待しているのかというのを無意識に感じられ、この機会自体が経営理念を理解する仕掛けにもなっています。
もちろんこれに限らず、すべてのディスカッション・議論に経営理念を中心に置く意識はしています。
教育の機会は押し付けになりがちですが、当社ではどちらかというと日常生活の中で感じ、「本当にその通りだな」と共感してもらえる機会を意図的につくっています。
「共感力」というものは本当に大切なものです。人の痛みに共感するから感謝する力が生まれ、感謝できるからその人に尽くしたいと思えて、尽くしたいから自分の力を伸ばしたいと思うようになります。このように実はロジカルにつながっているんですね。
例えば当社の朝礼では、「昨日の有難う」というテーマで社員が発表を行っています。そこで誰かに昨日やってもらったことを意識して感謝し、キャッチアップする力を磨いています。
Q.貴社は理系的な印象がありましたが、人の感情を大事にしているのですね?
島様:そうですね、ただ感情だけ育てても、形にできないと仕事になりません。そこでこの5~6年でトライしているのは、感情的に得たことをロジカルに考えて、ビジネスに落とし込んでいくようにしています。ロジカルシンキングがないと前に進みませんから。
そのために社内で月1回、企業事例を読んで、それを図にして因果関係をつなげて物事を論理的に考える力を磨く場を設けています。論理的に考えるからこそ、感情を整理できる側面もあるでしょう。感情だけでもダメだし、理屈だけでもダメ。いかにリンクさせていくかが大切です。
それができると、お客様の感情にフォーカスし、「お客様がこういう感情で動かれているから、こういうサービスが必要だ」とロジカルに考え、形にすることができます。
ロジカルシンキングができると、こういう理由だからこれをやるという話をしたとき、理解のスピードが違ってきます。すると感情的にも前向きになれるんです。理屈と感情は相反するようでつながっており、両方の能力が必要です。
Q.GPTWにエントリーしたきっかけについて教えてください。
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島様:私は県立広島大学でMBAを取得したのですが、そのときの先生のご縁でGPTWのことを知りました。そこでの勧めもあり、また社員の意識の調査にも関心が高まっていたのでエントリーすることになりました。
初参加でランキングに入れたことは、思わぬ結果でしたね。ランクに入れるとは全く思ってはおらず、もしかしたら認定ぐらいは取れるのかなと希望を持っていた程度でした。
150カ国が参加する世界基準のものにランキングされたのは誇りになりますし、これまで経営側としては当たり前と思っていたことが、社内では高く評価してくれていたんだなと分かったことは、素直に嬉しいと感じています。
ただ私の場合、どうしてもスコアの低いところが気になってしまい、性格的に素直に喜べない(笑)。ただ翌年以降、悪いところが改善されていたので、やはりGPTWは社員の働きやすさとか、満足度を向上するにはいい制度だと思いました。
Q.島社長のお考えになる、経営者の心がけについてお聞かせください。
島様:前述の通り、前職で会社が経営不振に陥り、社員を路頭に迷わせたくないという思いが会社設立のきっかけでした。
そのため会社の業績のために社員を教育するとか、そういう発想になったことがありません。どちらかというと私にとって社員は仲間であり、子供のようなものです。
私自身は、「人生1回しかない」と強烈に意識しているタイプです。翻ると、社員には人生での多くの時間を会社に費やしてもらっており、その時間がもしつまらなければ本当に嫌だろうなと感じています。
そこでいかに社員に充実感や自己効力感というものを、仕事を通じて感じてもらえるかがテーマになっています。
会社設立当初、一緒にそばを食べていた社員が、「将来、お父さんは会社でこんな仕事しているんだと胸を張って言える会社にしたい」と言ってくれたことがありました。それをよく覚えており、仕事を通じて家族に誇れるような人生を過ごしてほしいと常に願っています。
ただ、日々の仕事でそれほど日本を救うような大きな仕事はありません(笑)。目の前の小さな仕事がたくさんあるなかで、その仕事が何につながっているか、きちっと会社のビジョンやパーパスに基づいて紐づけし、どんなちっぽけな仕事でも社会の役に立っていると思えることが、当社のような中小企業にとっては大事なことだと感じています。
そして何より、知名度もない中小企業でどのように高く誇りを持てるのかというと、それが理念だったり、ビジョンにあるのです。そのためにロジカルシンキングでシステム的に考えてもらい、自分たちのやることに意味を見出してもらう。考える土壌がないと、こちらが言っても社員には伝わりません。
経営者として、社員に日々の仕事の意味づけをしていくということと、同時に意味を理解できる人を育てていくという両輪のバランスを、今後も取っていきたいと思っています。
Q.今後の組織づくりについてお聞かせ下さい。
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島様:前職で倒産の危機を間近に見ていたので、組織の大きくなることが怖いときもありました。
そのため、当初は小さくて強い会社を求めていたのですが、今は自分の思う「社会の役に立つ」会社になるためには、ある程度大きくした方がいいと思えるようになりました。
大家族主義での組織体制を基本とすることに変わりはありませんが、例えば当社が動いたときに広島市が良くなるとか、県が良くなるように、ある程度のところまでスケールしていきたいと考えています。
さらに、あくまで理想ですが、組織の管理コストゼロにしたいとずっと考えてきました。今後組織をスケールしていくうえで、管理コストは必然的に増えていくでしょう。
しかしできればコストはかからず、自律的集団のままスケールしていきたい。それをいかに家族主義の中で実現させていくかがテーマです。
マネジメント関しては意図的に緩くしているところがあり、そこは他社と違う点といえるでしょう。自律して動くためには何が必要か、上司が管理しなくてもいい判断ができるということになります。
そのため新入社員のときから経営に関する勉強の機会を与え、利益・コスト構造などしっかり理解し、判断できる人間を育てていきたい。そこで初めて、自分で思ったことを上司に聞くことなく行動できる組織となるでしょう。
その延長上に、管理コストゼロという理想に近づくことができます。
余談ですが、当社の社名はいろんな人の知恵を集める「ミックスナレッジ」という言葉と、当社が細胞(セル)や遺伝子を扱う仕事をしていることに由来しています。
細胞が分割して成長するように、同じ思いを持った人間が集い、知恵を集められたら素敵な会社になるのではないかと願いを込め、造語で「ミクセル」となりました。
今後もいい細胞分裂して、いい組織づくりに努めていきたいと思います。






