コンピテンシーとは?意味や行動特性を使った組織開発のポイント

コンピテンシーとは?意味や行動特性を使った組織開発のポイント

一時期、採用や人材開発、人事評価等で注目されたコンピテンシー評価。高い成果を上げている人材の行動特性を基準にすることで、社員一人ひとりの生産性アップをはじめ、企業の成長や業績アップが期待されるとして、多くの企業で導入されました。

 

記事では、組織開発に欠かせないコンピテンシー評価の考え方や導入ポイント、コンピテンシー評価の限界と打開策等を解説します。

<目次>

コンピテンシーとは?

コンピテンシー(Competency)とは、高い業績や成果に繋がる行動特性のことをいいます。

 

例えば、営業部で高い成績を上げている社員、Aさんがいるとしましょう。

 

Aさんが成果を上げている理由、他のメンバーとの違いを分析してみると、商談前に必ず商談時間を同じぐらいの時間をかけて事前準備を行なっていました。HPやニュース、IR等で相手の状況を推察する、相手との接触履歴も確認して、自社製品の理解度や興味を持ちそうなポイントを分析して、事例の準備や商談の流れを設計していたのです。

 

この場合、「本番を想定して入念な事前準備をする」ということが成果を上げた行動特性、つまりコンピテンシーになります。

 

短期的には「能力」は人によって異なります。ただ、成果を上げているメンバーの行動特性を分析して、それを採用や評価、人材開発に盛り込むことで、「成果に繋がる行動」を組織的に強化していくことができる、というのがコンピテンシー評価の考え方です。

コンピテンシー評価の考え方

こぶしを握って前を見ている2人の男性

コンピテンシー評価は、行動特性を評価に盛り込んだ評価方法です。コンピテンシー評価では、結果だけでなく、結果を出すための行動(プロセス)を見ますので、効率的な社員育成に繋がるとされています。

 

また、採用等においても、自社で成果を出すためのコンピテンシーが備わっていれば、能力(スキル)を開発することで成果を出せますので、ポテンシャル採用に向いているとされています。

 

 

行動傾向を評価する

コンピテンシー評価は、能力や技術、知識等を重視する能力評価と異なり、行動傾向を重視する評価方法です。そのため、評価基準も行動傾向で表現することになります。

 

<コンピテンシー評価の評価基準例>

  • 業務を効率的に構築できる
  • 人と親密な関係を築ける
  • 人の話をしっかりと聞ける
  • チームに一体感を与えられる 等

 

このように、コンピテンシー評価は行動に繋がる評価基準となります。社員は「どうすれば評価されるのか」を理解することが容易く、設定した「成果を上がる行動」が加速され、業績の向上、人材開発に繋がるとされています。

 

<コンピテンシー評価のメリット>

  • 人材育成ができる
  • 評価しやすい
  • 組織の業績が向上する

 

 

コンピテンシー評価を導入する際のポイント

コンピテンシー評価を導入するうえで押さえるべきポイントは、以下の4点です。

 

  1. モデルとする人物を定めて分析する
  2. 評価項目を定める
  3. 社員へのヒアリングと改善
  4. コンピテンシーモデルと企業の方向性を合わせる

 

 

モデルとする人物を定める

コンピテンシー評価を行なうためには、まず高い成果を上げている社員を特定します。そして、ヒアリングを行ない、一般レベルの成果を上げている社員、成果を上げていない社員との違いを洗い出し、成果に繋がっている行動特性を洗い出していきます。

 

この「社員特定と分析」は、コンピテンシー評価において非常に重要なポイントです。そのため、管理職や同僚、部下等にもヒアリングを行ない、さまざまな情報を集めるようにしましょう。

 

また、事業内容や企業の方向性に沿って、理想的な人物像の行動特性や思考特性をリストアップしていくことも一つのやり方です。

 

 

評価項目を定める

洗い出した行動特性から評価項目を作成し、評価として使える形にしていきます。この、評価として使える形になったものが「コンピテンシーモデル」です。

 

評価項目を作成する際は「コンピテンシー・ディクショナリー」や「WHOグローバル・コンピテンシー・モデル」を参考にすることで設定しやすくなります。

 

コンピテンシー・ディクショナリーやWHOグローバル・コンピテンシー・モデル等は、ビジネスにおけるコンピテンシーを網羅的に分類したものです。ヒアリング結果を基に、自社ではどのコンピテンシーが成果に繋がるのかを照らし合わせることで、効率的にコンピテンシーモデルを作成できます。

 

例えば、以下はコンピテンシーの研究機関であるスペンサー&スペンサーが考案した「コンピテンシー・ディクショナリー」です。コンピテンシーが包括的な形(6領域・20項目)に分類されているため、「自社で成果を上げるためのコンピテンシーを整理して、自社なりに表現する」等が容易に行なえます。

 

コンピテンシーの領域コンピテンシーの項目
達成行動達成志向
秩序・品質・正確性への関心
イニシアチブ
情報収集
援助・対人支援対人理解
顧客支援志向
インパクト・対人影響力インパクト・影響力
組織感覚
関係構築
管理領域他者育成
指導
チームワークと協力
チームリーダーシップ
知的領域分析的志向
概念的志向
技術的・専門職的・管理的専門性
個人の効果制自己管理
自信
柔軟性
組織コミットメント

 

 

 

社員へのヒアリングと改善

コンピテンシーモデルができたら、その項目に沿って、社員へのインタビュー・ヒアリングを行ないます。作ったコンピテンシーモデルが、実際に成果に繋がるものになっているかという検証が大切です。

 

評価や採用基準に関するモデルを作ったときに大切なのは「予測的妥当性」という考え方です。これは、「作ったモデルで評価が高い人物は、実際に仕事で成果を上げているか?」を示す指標です。

 

モデルでの評価と実際のパフォーマンスや成果を照らし合わせて、8割を超える程度の納得感があれば、十分な予測的妥当性だといえるでしょう。

 

 

コンピテンシーモデルと企業の方向性を合わせる

コンピテンシーモデルが固まったら、最後に企業の方向性と一致していることを確認します。

 

作成したコンピテンシーモデルと、ミッションやビジョン、バリューが一致していないと、そのコンピテンシーモデルを導入することで、組織の方向性や社風に悪影響を及ぼす恐れもあります。

コンピテンシーの価値と限界

机に手をついてがっくりとうなだれる男性

コンピテンシー評価の考え方は、非常に明確であり、実際にうまく運用できれば、社員一人ひとりの生産性アップや能力開発、業績の向上に繋がります。

 

また、前述したようにポテンシャル採用においても、「成果を出すための行動特性」を持った人材を採用して能力開発をすれば、成果に繋がりますので、採用基準としても活用できます。

 

一方で、コンピテンシー評価の限界も存在しており、近年では、コンピテンシー評価を採用や評価制度、人財育成の主軸として据える企業は減ってきています。

 

理由は大きく2つあります。

 

まず心理統計学等の分析が進んだ結果、じつは、行動とは「結果」であり、根源的な土台は「性格特性」である行動のということが、より明確になってきたからです。

 

性格特性とは、人間の価値観における一番根っことなる価値観や判断基準等です。性格特性のうえに、地頭、意欲、スキル等の要素が上乗せされて、その結果が行動として現れます。

 

そして、性格特性は、若年期(小学校卒業まで)までに形成されものであり、形成された性格特性が変容するためには、相当大きなインパクトを与える出来事や長年の習慣形成による矯正が必要だとされます。

 

従って、自社においていくら正しいコンピテンシーモデルを形成できたとしても、既存社員に「性格特性に合わない行動を実践させる」ことは無理があり、あまり効果的ではないのです。

 

また、もう一つの理由として、コンピテンシー面接の難易度が高いことです。とくに日本の採用活動における主流である新卒の一括ポテンシャル採用において、採用対象となる大学生等は、組織で成果を上げるミッションを担ったことが殆どありません。

 

もちろん、アルバイトやサークル、部活等は組織での活動としては類似する部分もありますが、ビジネスにおける組織とは異なります。従って、新卒に対して行動特性を測るコンピテンシー面接を行なうことは、一定の効果はありますが、非常に難易度が高いのです。

 

コンピテンシー評価の考え方自体は、非常に正しいものですが、紹介したような2つのハードルを踏まえて、最近では単一のコンピテンシーモデルを用いたコンピテンシー評価や採用が実施されることは減少しつつあります。

 

次の章では、上記を踏まえた最新のトレンドをご紹介します。

コンピテンシーと性格特性を使った組織開発のポイント

最後にコンピテンシー評価の考え方から一歩踏み込んだ最新の組織開発のポイントをご紹介します。

 

 

性格特性に基づくコンピテンシーモデルを複数作成する

既存社員のパフォーマンス向上を考えるうえで、性格特性に合わせない行動を強制しようとしてもあまり効果的ではありません。“せっかち”な人に、“行動する前にじっくり考える”ことをさせようとしても、限界があるのです。

 

また、コンピテンシー分析が進む中で、成果を上げるコンピテンシーモデルは1社に一つではないことも分かっています。職種が異なればコンピテンシーモデルが異なることもありますし、同じ職種、例えば「営業職」でも、う商材によって求められる性格特性が違ったり、複数の活躍パターンがあったり扱するのです。

 

従って、本気で組織開発を行なう際には、単独のコンピテンシーモデルではなく、既存社員の性格特性分析を踏まえて、複数の“活躍パターン”を作成することがポイントです。

 

複数のモデルは、評価制度とリンクさせることは難しいですが、自分の性格特性に合わせた活躍パターンを目指して、強みの発揮、能力開発を行なうことで、効果的に人材開発を行なうことができます。

 

 

先天的要素にウェイトをおいて採用活動を行なう

前述の通り、ポテンシャル採用においてコンピテンシーや経験値を基にして採用活動を行なうことは難易度が高くなります。従って、より根底にある性格特性や動機付け要因等の先天的な要素を見て採用活動を行なうことで、採用活動の精度を上げることが近年の主流です。

 

後天的要素である「コンピテンシー」と「経験」、それに先天的要素である「性格特性」「動機付け要因」を加えた下記の「KF4D」モデルも参考になるでしょう。

 

KF4Dモデル
 

後天的要素

【コンピテンシー】

職務で成功するために必要となる観察可能な行動特性

【経験・能力】

職務に就くうえで求められる役割の経験や能力

 

先天的要素

【性格特性】

若年期までに形成された価値観、嗜好性、適性

【動機付け要因】

行動のきっかけとなる内発的動機や興味関心

 

性格特性や動機付け要因は、能力や学力のように高いから優秀、というわけではありません。重要なことは、コンピテンシーと同じように「自社で高い成果を上げるための性格特性や動機付け要因を持っているか?」です。

 

従って、採用の際には、先天的要素である性格特性や動機付け要因に関する「自社の活躍モデル」を作成して、モデルと本人の性格特性、動機付け要因を照らし合わせます。

 

照らし合わせの結果と、面接におけるコンピテンシー(性格特性がどのように行動として発揮されているか)等のインタビュー結果を併せて判断することで、精度の高いポテンシャル採用を実施することが可能になります。

 

 

複数の活躍モデルに基づく、個人の性格特性を活かした能力開発

従来のコンピテンシー評価においては、個人のパフォーマンス向上を果たすためには、「コンピテンシーモデルで定めた行動を実施してもらおう」と考えられがちです。ただ、実際には性格特性と異なるコンピテンシーを発揮することは困難です。

 

従って、性格特性に基づく複数の活躍パターンを設定したうえで、

 

  • 自分の性格特性を把握する(自分の価値観、強みや弱みの認識)
  • 自分の性格特性に合った活躍パターンを確認する
  • 能力開発や行動目標を設定する

 

という能力開発のやり方が、先端的な企業におけるトレンドになっています。

 

成果を上げるうえでの自分の強みや弱みを自己認識したうえで、自分の性格特性に基づくゴール(活躍パターン)を認識して目標設定することで、現実的に達成可能なプロセスになると同時に、社員のモチベーションも向上させることができます。

まとめ

能力や技術、知識等を重視する能力評価と違い、具体的な行動傾向で評価するコンピテンシー評価は理に適った人事評価です。

 

しかし、コンピテンシー評価を現実で行なおうとすると、「自分の性格特性と合わない行動を強制するのは効果的ではない」、また、「社会人経験がないポテンシャル採用でコンピテンシー評価を行なうことは難易度が高い」という側面もあります。

 

従って、近年では、コンピテンシーの根っこにある性格特性や動機付け要因まで踏み込んだうえで、自社における複数の活躍パターンを作成して、能力開発や採用活動に活かす企業が増えています。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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