ハラスメント防止と部下育成を両立できる管理職をどう育てるか? Vol.1

ハラスメント防止と部下育成を両立できる管理職をどう育てるか?Vol.1

テレワークの普及や男性の育休取得など、働く環境もひと昔前とは大きく変わった現在、ハラスメントの種類も増え問題視されることが増えてきました。ハラスメントをなくすために、社内で勉強会や研修を導入することは当たり前になっています。

 

しかし、ただハラスメントをなくせばいいのかというと、そんなことはありません。それよりも、ハラスメントがなくなったあと、どのように働きやすい環境を整えていくかのほうがはるかに大事です。最近は「ハラスメントを恐れるあまり、きちんと部下に指摘する、部下育成をできなくなった管理職が増えた」という悩みも伺います。

 

レポートではジェイック常務取締役の近藤より、社内でのハラスメントの実態と「どうすればハラスメントをなくしながら社員のエンゲージメントを高めることができるのか」を、データや事例をもとに解説します。
*本レポートは2023年11月17日に開催したセミナーを基に作成したものです。予めご了承ください。

 

本記事は、全2部構成でお送りします。Vol.2は下記よりどうぞ。

<目次>

データから見るハラスメントの実態

まずはハラスメントに関するデータを見ながら傾向を考察していきます。

①ハラスメントを不安視して部下への発言に躊躇することがあるか?

1つ目は管理職向けに実施した「部下への指導の際にハラスメントになってしまわないか不安で発言を躊躇したことがあるか?」という調査データです。

 

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管理職の8割が「躊躇したことがある」と答えています。

 

ハラスメントは、近年「◯◯ハラスメント」といった新たなハラスメント種類がメディアで話題になることも多くなりました。メディアで取り上げられているということは、それだけ世の中のハラスメントに対する意識が上がっているということです。

 

しかし、「何がハラスメントなのか?」を正しく理解できてない人も多いです。その結果、管理職の部下育成や能力開発、関係構築などを難しくなっている現状は明らかにあるでしょう。

②具体的にどんな場面で部下への発言についてハラスメントの不安を感じるのか?

2つ目も、管理職への「具体的にどんな場面で部下への発言についてハラスメントの不安を感じるのか」という調査データです。

 

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1位は「部下の仕事の仕上がりに不満があるとき」です。

 

仕事の仕上がりに不満があったときは、指導をする必要があります。なぜなら、仕上がりのどこが良くないのか、何が原因かを伝えなければ、事象は再発しますし、部下は成長できません。

 

この調査データから伺えるのは「絶対に改善を促した方がいい」状況でも、ハラスメントになることを不安に思い、指導を躊躇してしまう管理職がかなりの割合でいるということです。

③ハラスメントが不安で発言を躊躇してしまうことで起こる業務上の影響

3つ目は、「業務遂行上どんな影響が出てくるか」をまとめたデータです。

 

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1位は「部下の育成指導がしづらい」という回答です。

 

この回答からは、ハラスメントと指導の線引きに自信がないと感じている管理職が一定数いることが伺えます。

 

実際に、「ハラスメントに対して指摘をされるかも」、と思っている人は少なくありません。

④ハラスメントと指摘されるかもしれないと思ったことがあるか?

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この調査結果を見ると、約半数の上司が「もしかしたら部下からハラスメントですと指摘されるかもしれない」と思ったことがあるということです。

 

次に、どんな時にハラスメントと指摘されるかもしれないと思ったのかを見ていきます。

⑤どんな場面でハラスメントと指摘されるかもしれないと思ったのか?

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当然ですが、ほめる時、気づかう時、雑談する時などに、ハラスメントと指摘されるかもしれないと感じる方はあまりいません。叱ったり、注意したりする時、指摘、指示、依頼をする時に感じている方が多いようです。

 

では具体的にどんな発言をした時にハラスメントだったかも、と思ったのかを見ていきます。

⑥どんな発言をした時に指摘されるかもしれないと思ったのか?

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実際に部下から「その発言はハラスメントです」と言われたことがあるかも聞いています。

⑦実際に部下から「ハラスメントです」と言われたことがあるか?

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「はい」と回答した方は11.9%です。実際に面と向かって言われたことがある人は決して多くないということです。

 

では「ハラスメントです」と言われた人は、自身でどのように思うのでしょうか。

⑧「ハラスメントです」と言われた時に思うこと

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一番多いのは「自分ではハラスメントだと思わない」という回答です。

 

このように、自分ではハラスメントだと思わない発言にも関わらず、部下から「ハラスメントです」と指摘され、部下と接するのが怖くなってしまう。その結果、「部下とはなるべく関わらないようにしよう」「必要最低限の業務指示のみにしよう」となってしまう管理職も増えています。

⑨ハラスメントの指摘を恐れて部下と距離を置こうと思うか?

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ハラスメントと言われるかもしれないと思う気持ちから、「部下とはなるべく関わらないようにしよう」と考えたことがある管理職が40%もいるというデータです。この数字はどう感じられますか?

 

最近は、管理職でも「プレイングマネージャー」という方が多いと思います。マネジメントによるハラスメントを恐れて、プレイングの分量を増やしてしまう管理職の方も多いでしょう。

 

こういった状況では、組織の維持も危うくなっていきます。

 

マネージャーが部下の育成から逃げ出せば、部下であるプレイヤーが成長しなくなります。部下の生産性や成長スピードを落とすだけでなく、部下に「成長できない環境ならこの会社にいる必要はない」と感じさせてしまうこともあるでしょう。

 

このようにハラスメントが起きないようにした結果、他の要因とも重なって、いわゆる「ゆるブラック」で成長できない環境だと若手に思われ、優秀層の離職が増えるというケースも最近多くなってきました。

⑩ハラスメントトラブルを回避するために望まれるサポート

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管理職に、どんなサポートが欲しいかを聞いてみたところ、「実際に何がハラスメントになって、どこまでがハラスメントにならないかを知っておきたい」というニーズが多くあります。また、研修や教育、相談窓口があるといいという声もありました。

 

もちろんハラスメントについて勉強することは大事ですが、常にハラスメントか否かを意識してマネジメントを行うことは困難です。たとえ、事例集を整備しても、見ながら相手と話す訳にはいきません。また、相談窓口は、「問題が起こった後に相談する」と考えると、必要なものですが、あまりいい対処法ではないかも知れません。

 

ハラスメント研修は、基礎として必要なものですが、受けている人たちにとって楽しいものではありません。もっと良い解決方法は何かをこの後で解説していきます。

過渡期にあるマネジメントのあり方

ハラスメントが代表例ですが、マネジメントのあり方は過渡期にあり、大きく変わりつつあります。

 

環境の変化

働き方の変化と多様化

たとえば、コロナ禍によってリモートや時短など、働き方が大きく変わりました。コロナ禍が終わり出社を再開した会社が多いですが、完全に出社に戻したという会社は、そこまで多くないでしょう。出社を増やしたものの、リモートでも働けるようにハイブリッドで働いているケースが多いです。

 

今までは上司と部下が「時間と場所を長時間共有する」ことで相互理解を深めていました。しかし今は、時間と場所に依存しない形で相互理解をしていかなければなりません。

 

ただでさえ、顔を合わせる時間が減っている中で、ハラスメントに不安になってコミュニケーション量を減らしていては、お互いの理解は深まりません。

VUCAの時代

また、現在はVUCAの時代と言われます。高度成長時代から平成までは、過去の成功体験をベースに真面目に仕事をしていればある一定の成果は出せました。下図左側のイメージです。

 

観点を変える

 

組織のマネジメントはトップダウン型、ピラミッド型で上司の頂点にいます。そして頂点から指示命令が降りてきます。上司が正解を持っている状態です。

 

しかし、現在は、今までのやり方だけではうまくいかなくなってきています。そのため右図のようなサークル型でのマネジメントが求められています。

 

サークル型のリーダーは、現場の情報を吸い上げ、意思決定をする役割を担っています。リーダーが意思決定するための情報収集、コミュニケーションを、ハラスメントを恐れて躊躇していたら事業に弊害が発生します。

 

これからの時代は、円滑なよりコミュニケーションが欠かせなくなってきます。

これからの時代に求められる組織のありかた

組織のあり方

 

また、大きな変化として企業のあり方が、自前主義から他社との協業主義に変わりつつあります。そのため、他社ともコミュニケーションをたくさんとる必要がありますし、管理のあり方も変わってきています。

 

社員育成の方向性も、今までの、ルールや規則を遵守させるような教育ではなく、1人1人が自ら考えて行動できるようになるような、教育にシフトしなければいけません。

 

だから、現代の管理職は本当に大変です。そして、従来のチームの作り方に加えて、さらに求められることがあります。

管理職に求められる真のチームビルディング力

真のチームビルディング

 

上述してきたことを踏まえると、チームビルディングの重要性は益々高まっています。そして、その中でチームに求められる成果も変わりつつあります。

 

これまで以上に心理的安全性を担保し、挑戦による失敗許容し、チャレンジを後押しする必要があります。相互に意見交換をして成果を上げていくような、シナジーを発揮する動きも求められます。

 

リーダーシップも大事ですが、フラットな関係性でのコミュニケーションがより大切になります。そのためにリーダーに求められるものが「対話力」です。

 

本記事は、全2部構成でお送りします。Vol.2は下記よりどうぞ。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
・オンライン研修の「今と未来」、社員育成への上手な取り入れ方
・社長が知っておくべき、業績達成する目標管理と人事評価
・社長の右腕 ~ナンバー2の上司マネジメント / 部下マネジメント~
・オーナー経営者が知っておきたい!業績があがる人事評価制度と組織づくりのポイント
・社長の右腕 10の職掌 など

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