アンコンシャスバイアスとは?具体例や職場における影響、解消するメリット

更新:2023/07/28

作成:2022/07/28

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

アンコンシャスバイアスとは?具体例や職場における影響、解消するメリット

「部下は上司より先に帰るべきではない」「男性社員に育児休暇は必要ない」といった発言を耳にしたことがある方はいらっしゃるでしょうか。こういった発言には、自身の経験やイメージによって偏った解釈をしてしまうアンコンシャスバイアスが影響しています。現在では、アンコンシャスバイアスは、相手を傷つけたり、大きなトラブルを招いてしまったりする要因にもなります。

 

記事では、アンコンシャスバイアスとは何か、また、日常における具体例、職場での影響、アンコンシャスバイアスを回避するポイントなどを解説します。

<目次>

アンコンシャスバイアスとは?

アンコンシャスバイアスとは?

 

アンコンシャスバイアスとは、日本語に直すと“無意識の偏見”です。「この人は~だから~だろう」「普通は~であるはずだ」などと、自身の経験や知識、価値観などをベースにものごとを解釈しようとする脳の機能が引き起こします。

 

アンコンシャスバイアスは、自分では気付いていないものの見方やとらえ方のゆがみで、何気ない発言や行動として現れます。アンコンシャスバイアスがきっかけで、知らず知らずのうちに、判断を誤ったり、相手を傷つけたり、仕事で悪い影響をおよぼすかもしれません。そのため、非常に注意しておくべき概念といえます。

日常におけるアンコンシャスバイアスの具体例

 

ステレオタイプバイアス人の属性や傾向に対して偏見や固定観念を持つ
正常性バイアス危機的状況を過小評価し、正常の範囲であると思い込む
集団同調性バイアス集団内の人の言動に同調し、流される
権威性バイアス権威のある人の言動は全て正しいと思いこむ
確証バイアス自分の考えを肯定する情報だけを注視する

 
アンコンシャスバイアスには、さまざまな種類があります。ここでは、日常で出やすい主要なアンコンシャスバイアス5つを紹介します。

 

ステレオタイプバイアス

ステレオタイプバイアスは、人の属性や傾向に対して、無意識に偏見や固定観念を持つことです。多くの人が、性別、国籍、年齢、職種など、さまざまな属性に対する抽象的な知識やイメージを持っていることから生じます。

 

例えば、「男性は論理的で、女性は感情的だ」「最近の若者は根性がない」といった発言も、ステレオタイプバイアスから生じます。「○○大学の出身だから(前職が○○だから)優秀だろう」「○○さんはどうせこうだ」などはステレオタイプバイアスの一種です。

 

ステレオタイプバイアスが作用すると、相手の属性で無意識に「こうだろう」と決めつけてしまい、“相手”そのものを見ないことになり、判断を誤りやすくなります。

 

正常性バイアス

正常性バイアスは、異常事態や危機的状況の際に、これまで経験から「そんなことはありえない」「一時的な話ですぐに戻る」などと偏った判断をして、“これは正常の範囲である”と思いこんでしまうバイアスのことです。

 

正常性バイアスが働くと自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまいます。正常性バイアスとは本来は心の平穏を守るために備わっている脳の機能です。

 

ただし、異常事態や危機的状況の際には、「この程度なら大丈夫だろう」「自分なら大丈夫」と問題をないものとしてしまうことで対応が遅れ、被害拡大してしまう危険性もあります。

 

集団同調性バイアス

集団同調性バイアスは、集団のなかにいると集団内のメンバーとつい同じ行動をとってしまうバイアスのことです。

 

日常生活では協調性につながる機能である一方で、問題が起こったときには判断が遅れたり、「多くの人がそう考えるのであれば、それが正しいのだろう」と偏った判断をしてしまったりします。

 

日本人が前例や慣習に流れてしまいがちなのは、集団同調性バイアスが強い傾向があると表現することも出来ます。

 

権威性バイアス

権威性バイアスは、権威のある人の言動はすべて正しいと思いこんでしまうバイアスのことです。上司の指示に従えば間違いないと思ったり、専門家の意見をうのみにしたり、「○○が言うのなら……」と、内容をよく吟味しないままに受け入れてしまいます。

 

上司や経営陣、また、外部のメディアや見識者のコメントを事実確認せずに、正しいと思い込んでしまのは、権威性バイアスが作用しています。もちろん権威者や経験者の言葉は参考になる場面も多いでしょう。

 

しかし、どういった文脈で言っているのか、どんな根拠で言っているのかなどを一切確認しないまま、「あの人が言っているから」と鵜呑みにしてしまうことは非常に危険です。

 

確証バイアス

確証バイアスは、無意識的に自分に都合の良い情報のみを集めてバしまうイアスのことです。確証バイアスが働くと、多様な情報があるなかで、自分の考えを肯定する情報だけが目に入りやすくなり、反証する意見は集めようとしなかったり、無視したりします。

 

自分なりの仮説や意見を持つことは大切です。しかし、確証バイアスにはまってしまうと、無意識に自分の仮説や意見と反する事象を無視してしまい、間違った意思決定につながります。

職場でアンコンシャスバイアスが生まれる原因

  • 個人の自己防衛心や自己保身
  • 個人の感情
  • 組織の習慣や文化

職場でアンコンシャスバイアスが生まれる主な原因は上記の3つです。

 

個人の自己防衛心や自己保身

1つ目は、メンバー個人の自己防衛心や自己保身です。“自分を正当化したい““集団のなかで人間関係を良好に保ちたい”“失敗したくない”といった自己防衛心や自己保身が、アンコンシャスバイアスが生まれる原因になります。特に、正常性バイアス、確証バイアス、集団同調性バイアスなどは、自己保身から生まれやすいバイアスです。

 

個人の感情

2つ目は、コンプレックスや不安感といった個人の感情です。個人の感情が刺激されたときにも、アンコンシャスバイアスが出やすくなります。コンプレックスや不安感といった負の感情が刺激されると、心がこれ以上傷つかないように、攻撃に転じたり、目を背けたりします。これらの負の感情がアンコンシャスバイアスの原因となります。

 

組織の習慣や文化

3つ目は、組織の習慣や文化です。アンコンシャスバイアスは自身の経験や知識によって作られます。組織の習慣や文化に染まり過ぎてしまうと、アンコンシャスバイアスに陥りやすくなります。

 

例えば、いまだに “お茶くみは女性がする”“リーダーは男性がする”といった暗黙の了解がある組織もあるかもしれません。外部の常識とずれた組織の習慣や慣習そのものがステレオタイプや偏見である場合もあります。時には組織の常識や前例を疑ってみることも大切です。

職場でアンコンシャスバイアスがおよぼす悪影響

  • 誤った意思決定
  • 個人への悪影響
  • 組織全体への悪影響

アンコンシャスバイアスは、個人、そして組織のパフォーマンスを下げる要因になります。ここでは、職場でアンコンシャスバイアスがおよぼす悪影響を解説します。

 

誤った意思決定

さまざまなバイアスによって意思決定や判断を誤ってしまうことは最大のリスクです。「○○が言っているから」「うちの企業では○○だから」「○○の出身だから」など、さまざまなバイアスに左右されて判断を誤ってしまうことは非常に大きなリスクです。

 

ひとつの意思決定自体が大きな損失を生むこともあるでしょうし、バイアスがかかった意思決定を積み重ねていくうちに、組織風土が崩れていったり、競合と大きな差がついてしまったりすることが多いでしょう。

 

個人への悪影響

上記のような誤った意思決定は組織内で働く個人に影響します。特にアンコンシャスバイアスによって、自身の役割りを決めつけられたり、納得いかない考え方を押し付けられたりすることは、ストレスや居心地の悪さにつながるのです。

 

また、アンコンシャスバイアスは“本人”にとっては自覚がないですが、“周囲”からみるとバイアスがかかっていることが明らかなケースもよくあります。とくに上司や影響力の大きなベテランなどがアンコンシャスバイアスの罠にはまっていると、メンバーのモチベーションや生産性を下げる原因になります。

 

組織全体への悪影響

アンコンシャスバイアスによって、無意識のハラスメント等も生まれやすくなります。誤った意思決定にもリンクしますが、悪意なく「君は女性だからやらなくていいよ」「若いうちはまずは決まったやり方に従いなさい」などの考え方がまん延しているケースもあります。

 

結果、職場の雰囲気が悪化したり、若手の離職を生んだり、組織全体のパフォーマンスを低下させてしまったりしているのです。

 

また、アンコンシャスバイアスを持つ人の言動が対外的な信用を失わせ、ブランドイメージの毀損につながるリスクもあります。スマフォですぐ録音や動画撮影され、SNS上で公開される現代においては、コンプライアンス的に問題ある言動は組織のブランドに大きな傷をつける危険性があります。

アンコンシャスバイアスの解消に取り組むメリット

  • 意思決定の精度アップ
  • 人材活用
  • イノベーションの創出
  • 企業のイメージの向上

職場でのアンコンシャスバイアスの解消に企業が取り組むことで、次のようなメリットが得られます。

 

意思決定の精度アップ

悪影響の逆ですが、アンコンシャスバイアスをきちんと認識して、誤った意思決定にならないように注意することで、一つひとつの意思決定精度が高まります。個人や組織の生産性アップにもつながるでしょう。

 

人材活用

アンコンシャスバイアスを解消することで、ステレオタイプにとらわれずに人材の能力を最大限に発揮させられます。少子化と労働人口の減少が進む中で、ステレオタイプに捉われずに人材を見抜き、採用や抜擢できることは大きな競争力になり得ます。

 

イノベーションの創出

アンコンシャスバイアスを解消することで、職場のメンバーが活き活きとコミュニケーションをとれます。また、メンバー一人ひとりが、自身がアンコンシャスバイアスを持っていることを認知することで、自分や組織内の常識を疑うようになるでしょう。懐疑的な視点を持つことは、多様な価値観を受け入れたり、クリティカルシンキングの習慣化につながったりします。イノベーションの創出にもつながる習慣です。

 

企業イメージの向上

悪影響のところで紹介したとおり、アンコンシャスバイアスを放置すると加害意識のないハラスメントが横行する可能性があります。また近年では、ステレオタイプを含んだ発信やプロモーションによって炎上する企業も度々目にします。

 

アンコンシャスバイアスを解消することで、コンプライアンスを遵守した信頼できる企業というイメージや新しい価値観を取り入れた風通しの良い企業といった良いイメージをつくり、維持することにつながります。

職場でのアンコンシャスバイアス解消のための取り組み

職場でのアンコンシャスバイアス解消のための取り組み

 

 □ 研修の実施
 □ アンコンシャスバイアスの事例収集
 □ 管理職向けのトレーニング

 

研修の実施

アンコンシャスバイアスを解消するためには、

 

  1. どのようなバイアスがあるのかを知る
  2. 自分自身がどのようなバイアスにはまりがちかを知る
  3. 気を付ける機会やアクションを決める

という流れが大切です。

 

まずは、どのようなバイアスがあるかを知らないと対応はできません。そして、存在を知ったうえで、自分がどんなバイアスに嵌まりがちかを考えてみましょう。アンコンシャスバイアスは“無意識に”実施しているものの捉え方です。存在を自覚するだけでもかなり変わってきます。

 

アンコンシャスバイアスを正しく知って自覚するには、研修の実施も有効です。バイアスの存在だけでなく、物事をより幅広く多様な視点で捉えられるようになるとコミュニケーションやチームワークも改善するでしょう。

 

アンコンシャスバイアスの事例収集

自社や職場で、どのようなアンコンシャスバイアスが起こっているか、また起こりうるかを考えることも大切です。研修内のワーク等で実施しても良いでしょう。また、匿名アンケートを実施して実態調査を実施するようなやり方もあります。

 

管理職向けのトレーニング

アンコンシャスバイアスで誤った意思決定をすることで、特に悪影響が大きくなるのは管理職です。従って、とくに管理職はアンコンシャスバイアスをきちんと知ることが大切です。

 

同時に、ハラスメント防止などと同じで「パワーハラスメントを恐れるあまり、部下への指導がおよび腰になる」ことも組織にとっては問題です。

 

管理職がリーダーシップを発揮すべき意思決定は“正解が分からない中での意思決定”です。アンコンシャスバイアスを回避することも大切ですが、意思決定の誤りを恐れすぎることも問題です。適切な意思決定ができるように、ケーススタディーやワークショップ形式で理解を深めましょう。

アンコンシャスバイアスを解消して、生産性向上やイノベーション創出につなげましょう

無意識の偏見であるアンコンシャスバイアスは、誤った意思決定をしたり、メンバーのモチベーションや生産性を低下させたりします。研修やトレーニングを通じて、まずはバイアスの存在を自覚して、また自分自身が陥りがちなバイアスを知ることで、対策していきましょう。

 

メンバー、とくに管理職層がアンコンシャスバイアスを回避できると、正しい意思決定を通じた生産性向上やイノベーション創出につながるでしょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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