ワークエンゲージメントとは、仕事に対するポジティブな心理状態を指す言葉です。ワークエンゲージメントの向上は、生産性アップや社員のメンタルヘルス対策、人材育成環境の改善に直結します。
記事では、ワークエンゲージメントを向上させるメリットや向上の方法、ワークエンゲージメントを測定する方法を解説します。
<目次>
ワークエンゲージメントとは?
はじめに、「ワークエンゲージメントとは何か」という基本的な部分を確認します。ワークエンゲージメントとよく似た言葉「エンゲージメント」との違いも解説します。
ワークエンゲージメントは仕事に関する心理状態の充実度を指す言葉
ワークエンゲージメントとは、社員の精神的な健康度を示す概念の一つで、「ポジティブな状態で仕事に没頭しているかどうか」の指標です。
「ワーカホリック(仕事中毒)」という状態も、「仕事に没頭している」という点は同じですが、ワーカホリックはワークエンゲージメントとは違い、一種の「中毒」や「依存」というネガティブな意味合いを含んでいます。
ワークエンゲージメントは前向きな状態であり、例えば、仕事を休む罪悪感や不安から仕事にのめり込んだり、自分自身に価値が見いだせない苦しさを埋め合わせるために仕事に没頭したりするのは、ワークエンゲージメントが高い状態とはいえません。
ワークエンゲージメントは、“働きたい(I want to work)”であるのに対して、ワーカホリックは“働かなければならない(I have to work)”であるといわれます。
ワークエンゲージメントを構成する3つの要素
ワークエンゲージメントという概念は、オランダ・ユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって提唱されました。シャウフェリ教授の定義では、ワークエンゲージメントは3つの要素から構成されています。
- 活力
- 没頭
- 熱意
それぞれの要素はどういうものか、詳しく見ていきます。
・活力(vigor)
仕事中に、「高い水準のエネルギー」が満ちあふれている状態です。ストレスからの回復も早く、困難にも粘り強く立ち向かえます。
・没頭(absorption)
時間を忘れて仕事にのめり込んでいる状態であり、いわゆる「フロー状態」です。仕事をしていると時間があっという間に過ぎてしまう状態です。
・熱意(dedication)
仕事に意味を見いだし、誇りを感じ、熱中している状態です。仕事に強く関与して、挑戦しようという意欲を感じています。
ワークエンゲージメントとエンゲージメントの違い
HR業界では、「エンゲージメント」という言葉もよく使われますが、「ワークエンゲージメント」とどう違うのでしょうか。
ワークエンゲージメントは、「仕事に対する精神的な結びつき」を示すものですが、エンゲージメントは、「仕事以外に所属する組織や構成メンバー等との繋がりも含んだ概念」です。
両者は異なる概念ですが、重なる部分も出てきます。自分がやっている仕事に価値や意味を感じられず、熱中していない状況で、組織に対するエンゲージメントが高いということはありえないでしょう。
同様に、組織のミッションや価値観に誇りを感じているようであれば、ミッションを実現するための仕事にも誇りを感じ、熱中しやすい土壌があるでしょう。
ワークエンゲージメントを測定する方法
ワークエンゲージメントは、シャウフェリ教授らが考案した「ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale」によって測定することができます。尺度を用いれば、「活力」「没頭」「熱意」の3要素に関する17項目(短縮版では9項目)に回答するだけで、ワークエンゲージメントを測定できます。
尺度は20言語に翻訳されており、非営利であれば無料で利用することができます。慶應義塾大学 島津明人教授が翻訳した日本語版も存在し、島津研究室のホームページからダウンロード可能です。必要に応じて活用して下さい。
ワークエンゲージメントを高めることで得られる3つのメリット
ワークエンゲージメントを高めると、どういった効果があるのでしょうか。組織が得られる代表的な3つのメリットをご紹介します。
生産性・業績の向上
ワークエンゲージメントの高い社員、つまり仕事に対する高い意欲を持ち、仕事に熱中している社員は、業務において最大限のパフォーマンスを発揮してくれます。社員のワークエンゲージメントを高めることは、生産性の向上に繋がります。
ワークエンゲージメントの高い社員は、ほかの社員や顧客に対してもポジティブな影響を与えます。社員のワークエンゲージメントが高まることで、社内に良い循環が生まれ、組織全体の活性化や業績アップに繋がります。
ストレス対応力の強い企業を構築できる
ワークエンゲージメントの向上に取り組むことは、メンタルヘルス不調の対策にもなることがわかっています。高いレベルの活力は、業務における心身的ストレスを軽減させ、自身のメンタルヘルスを健全に保ちます。
また、ストレスチェックのように問題を改善するタイプのメンタルヘルス対策を行なうにあたっても、ワークエンゲージメント向上の取り組みと並行させることで、対策の効果がより高まります。社員のメンタルヘルスが良い状態に保たれていれば、仕事上でのトラブルやミスに対して、動揺することなく、迅速に対処を行なうことできます。
人材育成をしやすい環境を構築できる
ワークエンゲージメントの高い社員は、他の社員にポジティブな影響を与えますし、社内のロールモデルとなるでしょう。各世代や組織におけるロールモデルの存在は、組織の人材育成に好影響を与えます。
また、仕事に対するポジティブな感情が高まれば、共通の目的やゴールを持つ組織の構成メンバーとのコラボレーションや良好なコミュニケーションが増え、エンゲージメントも高まります。
ワークエンゲージメントを高める方法
社員のワークエンゲージメント向上への取り組みは、「仕事資源」と「個人資源」という2つの側面から実施できます。それぞれの要素の概要とアプローチ例を紹介します。
仕事資源へのアプローチ
「仕事資源」は、以下のような役割を果たすことで、ワークエンゲージメントを向上させます。
- 仕事量、仕事内容等の負荷を適切にする
- 仕事の負荷による悪影響を緩和する
- モチベーションを高める
アプローチとしては、基本的に個人の仕事負荷を適切なものへと調整しながら、社員一人ひとりが自分の仕事に意味を見いだせるように働きかけ、仕事に熱中できる環境を整備する形となります。
仕事資源へのアプローチ例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 上司による適切な仕事量への調整
- 個別の負荷やストレス状況の把握とケア
- 行動や結果に対するポジティブなフィードバック
- 仕事に集中できるハード、ソフトの環境整備
- 仕事に対する裁量権や自己決定権の委譲
- チームや組織のミッションやビジョン構築(仕事の意味付け)
- 社員同士が支えあうコミュニケーション環境や関係性の構築
- 社員間での感謝や尊重のコミュニケーション活性化
- 能力向上や成長機会の提供
いずれも、社員が自身の仕事に意味を見いだし、目標を持って前向きに業務に取り組むことを促して、ワークエンゲージメントを高めていく施策です。
個人資源へのアプローチ方法
「個人資源」は、各社員の心理状況やモチベーションなどの内的な要素を指します。
個人資源へのアプローチは、仕事資源へのアプローチのような環境の整備ではなく、社員の心理面にアプローチすることで、ワークエンゲージメントを高める施策です。個人資源を高めるアプローチは、以下のような例が挙げられるでしょう。
- レジリエンス等のストレス処理に関するスキル向上
- 自己肯定感や自己効力感を高める関わり
- 強みの発見や成長実感の獲得
個人資源は、社員一人ひとりの内面ですので、組織からの働きかけが難しい部分があります。ただ、個人資源は、仕事資源の充実に連動して高まっていく部分があります。
組織としてワークエンゲージメントの向上に取り組む際は、社員一人ひとりのパフォーマンスを高める下地として、個人資源への働きかけ(研修等)を行なったうえで、日常のマネジメントにおける仕事資源へのアプローチを中心にすると良いでしょう。
まとめ
ワークエンゲージメントとは、仕事に対するポジティブな心理状態を指すもので、「活力」「没頭」「熱意」の3要素から構成されています。
ワークエンゲージメントの向上は、生産性・業績の向上や社員のメンタルヘルス対策、人材育成環境の改善に繋がるため、企業としても積極的に取り組みたいものです。
ワークエンゲージメントの向上は、「仕事資源」「個人資源」という2つの側面からアプローチすることができます。人材育成の下地として「個人資源」へのアプローチで、社員のセルフコントロール力やマインドの良い状態をつくり、日常のマネジメントにおいては、「仕事資源」のアプローチで仕事に没頭できる環境づくりをサポートしましょう。