
モチベーション向上に効果的なインセンティブ制度ですが、メリットとデメリットがあります。メリットをうまく生かしつつ、デメリットが生じないように工夫をしていく必要があります。この章では、インセンティブ制度のメリットとデメリットを確認していきます。
インセンティブ制度のメリット
インセンティブ制度の主なメリットは以下の3点です。
1.社員のモチベーションが上がる
インセンティブ制度は、うまく機能すれば、社員のモチベーションを上げることができます。とくに、「頑張ることで目標達成できる可能性が十分にある」というラインにインセンティブを設定すれば、モチベーション向上に大きな効果があるでしょう。
また、「後少しで達成できる」といった場合に、最後の頑張りを後押しすることにもインセンティブ制度が役立ちます。社員一人ひとりの努力が業績に結び付けば、組織全体のパフォーマンスアップも期待できるでしょう。
2.意欲の高い人材採用に繋がる
インセンティブ制度は「成果を挙げた社員に適切に報いる」という趣旨の評価制度です。従って、成果主義型の評価制度にと並んで、適切なインセンティブ制度の存在は、意欲の高い人にとっては、望ましい評価制度であり、採用選考等における魅了付けにも繋がります。
3.社員間の競争意識を促す
MVP制度やチーム別売上対抗戦等の制度を設定することにより、社員間に競争意識を促すことができます。HRドクターを運営するジェイックでは、各種の表彰制度を運用していますが、半期評価において、社員から最も羨望の対象となるのは、MVT(Most Valuable Team)となっており、各拠点やチーム等の半期目標でも、「MVTを取る!」といった目標が掲げられることも多く、チームの一体感を生み出すこと等に繋がっています。
インセンティブ制度のデメリット
インセンティブ制度は上記のように効果的な制度ですが、留意点もありますし、組織風土や目標設定のやり方等によっては組織に悪影響を及ぼすこともありますので、注意が必要です。
1.個人プレーが横行する危険性
もとから個人主義が強い組織において、個人単位の業績目標によるインセンティブを導入すると、個人プレーが加速する危険性があります。
HRドクターを運営するジェイックでは、ミッション経営を導入する前はかなり個人主義が強い組織風土でした。そこに個人業績と四半期賞与が連動するインセンティブ制度を導入した結果、顧客や情報の囲い込みが日常的に発生する組織となってしまった経験があります。
とくに個人で仕事が完結するような業務の場合、個人主義を後押しするインセンティブを導入すると、チーム内での協力や協調が薄れ、社員が自分自身の売上や成果を求めるようになりがちです。また、個人成果に直結しない仕事が後回しにされてしまう等、組織としての健全性が損なわれてしまう危険性があります。
2.短絡的な施策や結果が重視される危険性
インセンティブ制度は、基本的には一定の期間を区切って、その期間でのプロセスや業績等を基に金銭的・精神的な報酬を与えるものになります。つまり「その期間内で成果として評価される行動だけを動機付けする」ということであり、逆に「その期間内で成果にならない、成果として評価されない行動がおざなりになる」というリスクを含んでいます。
経営の世界で、「経営者を業績や株価等で評価する傾向がいき過ぎると、自分の任期だけ数字の帳尻を合わせるような経営に走ってしまい、本質的な問題解決が放置されたり、時として粉飾に近いグレーな施策がおこなわれたりする」という問題が指摘されますが、インセンティブ制度も同じです。
3.「インセンティブ中毒」を起こしたり、内発的動機を損なったりする危険性
インセンティブ制度は、社員の意欲を引き出す施策になりますが、一方で、インセンティブ制度が日常化すると、『インセンティブがないからやらない』と逆にモチベーション低下を引き起こす原因にもなります。
とくに販促キャンペーン等で、特定商品や期間の売上に対するインセンティブを設定すると、キャンペーン期間が終わると売上が落ちた、といった話をよく聞きます。その結果、常にキャンペーンをやるようになり、徐々にキャンペーン自体の効果が落ちていく、また、より強いインセンティブを設定しないと社員を動かせなくなるという「インセンティブ中毒」現象に陥ります。
また、インセンティブは金銭的なものにしろ、精神的なものにしろ、外からの刺激でモチベーションを高める「外発的動機」になります。マネジメントの世界でよく知られた心理学の実験に以下のようなものがあります。
<実験>
絵を描くことが好きな幼稚園児たちのグループを3つに分けました。
グループ1は「絵を描いたらお菓子がもらえることを、あらかじめ子供たちに知らせ、実際に報酬を受け取りました」。
グループ2は「絵を描く前にはお菓子がもらえることを知らせていませんでしたが、絵を描いた後、ご褒美にお菓子をあげました」。
グループ3は、「お菓子がもらえるとは伝えず、描いた後もあげませんでした」。
2週間後、この3グループに、お菓子のことも何も伝えずに、ただ絵を描いてもらいました。各グループ、どういう反応になったでしょうか?
<結果>
グループ2と3の幼稚園児は、前回同様、絵を描くことを楽しんだが、グループ1の幼稚園児は、絵を描くことに興味を示さなくなった。
<解説>
一度、報酬のことを知ってしまうと、今度は「報酬がないとそのこと自体に興味を示さなくなってしまう」ということです。自主的な行動に対してご褒美を与えてしまうと、内発的動機付け(好き/やりたい)が損なわれることが示された実験結果です。
仕事も同じで、「ある行動」に対して「内発的動機付け」がされているのであれば、不用意にインセンティブ等の報酬(外発的動機付け)を用意すると、「次からは、その行動をする時には、報酬(外発的動機付け)がないと動かなくなる」可能性があります。
先ほどのキャンペーンの話と近いものがありますが、内発的動機付けがされている行動に対して、外発的動機付けをすることはリスクもあるということが分かります。