リフレクティブサイクル(リフレクションサイクル)は、自らの経験から学びを得るフレームワークです。研修で知識やスキルをインプットするのとは異なり、自らの日常業務や経験から実践的に学ぶ力が身に付きますので、人材育成や生産性の向上に効果的です。
本記事では、リフレクティブサイクルの概要とメリット、具体的な導入方法を解説します。
<目次>
リフレクティブサイクル(リフレクションサイクル)とは?
リフレクティブサイクル(リフレクション)は「反省」と混合されやすい言葉ですが、実際は異なる意味を持ちます。まずは、リフレクティブサイクルの概要と、一般的な反省との違いを解説します。
リフレクティブサイクルの概要
リフレクティブサイクルのもとになっている「リフレクション」は、日本語に訳すと反省、反映、反射という意味です。しかし、一般的な日本語の「反省」とは意味が異なり、HR分野では「自分自身の経験から学ぶサイクル」、「振り返りの技法」という意味になります。
リフレクティブサイクルはギブスにより1998年に提唱された学習モデルであり、具体的経験⇒内省的観察⇒抽象的概念化⇒能動的実験の4ステップから成り立つ、デービッド・コルブの「経験学習モデル」を深堀した内容とされています。
リフレクティブサイクルは記述⇒感覚⇒推論⇒分析⇒評価⇒行動計画の6ステップから成り立っており、6ステップをしっかりと振り返ることで自らの経験から多くのことを学び、ビジネスパーソンとしての成長や生産性の向上につながります。
・記述
記述とは、起こったことに対する振り返りです。以下の4W1Hをベースとして、起こったことの「事実」を客観的に振り返っていきましょう。
- Who(誰が)
- When(いつ)
- Where(どこで)
- What(何が)
- How much(どのくらい)
・感覚
事実を振り返ったあとには、自分が感じたことを主観的に考えます。自分は何を感じたのか、自分はどう考えていたのか、自分はなぜそんな言動を取ったのかなど、自分の内側で起こったことを振り返りましょう。
・推論
起きた事実に対して何が良かったのか、成功したかなど、良かった点と悪かった点を振り返ります。振り返る際のポイントは、「もう一度同じことをやるならどこを変えるか、直すか」を考えながら振り返ることです。
・分析
記述・感覚・推論を統合して、起きた事実の状況や結果を振り返ります。なぜそんな状況になったのか、どのような仕組みだったのかなどを冷静に考えましょう。
・評価
評価は、経験から得たものに対する振り返りです。今までの経験で自分は何を学んだのか、今後に生かせることは何なのかを評価・整理します。
・行動計画
評価を踏まえたうえで、また同じ状況になった場合はどうするかを考えます。そして、少し抽象的な学びを具体的な言動や思考ベースに落とし込むようにすると、具体的な行動が浮かびやすくなります。
「よりうまくやるためにはどうしたら良いか」「同じことが起こらないようにするためにはどうすれば良いか」といった問いを考えながら振り返るとよいでしょう。
一般的な反省との違い
HR分野におけるリフレクションは「内省」と訳され、一般的な日本語の反省とは意味合いが異なります。どちらも「自身がした言動を振り返る」という点は同じですが、反省の場合はネガティブな出来事や失敗を振り返るという意味合いが強く、「感情的に責任を感じる」というニュアンスもあります。
一方で、リフレクションは状況、自身の言動や内面、プロセス、結果などを主観的・客観的に振り返り、得たものを未来につなげる行為です。また、うまくいかなかったことだけでなく、成功したことも振り返りの対象になります。
リフレクティブサイクルを実施するメリット
個人がリフレクティブサイクルを身に付けると、振り返りが組織の文化となり、チームや組織に良い影響を与えます。リフレクティブサイクルを実施するメリットはおもに以下の3つが挙げられます。
人材の成長スピードが速まる
リフレクティブサイクルは、各個人が自らの経験から学びを得るサイクルです。日常業務を通じて振り返りを行ない、学びを得られるようになると、人材育成のスピードは速まります。研修でインプットした知識やスキルなどもリフレクションサイクルのなかで振り替えられるようになり、研修(Off-JT)の効果性も高まるでしょう。
業務効率が改善され生産性が向上する
リフレクティブサイクルは個人の言動や内面だけにとどまるものではありません。日々の振り返りを通じて、業務プロセスの問題点や課題点を発見できたり、より良い方法を提案できたりすることも増えるでしょう。
成功を振り返ることで再現性を持つことができるため、業務効率が上がり、組織全体の生産性向上につながります。
主体性を持った人材を育成できる
日々の言動を自ら振り返ることは、個人が自立する力を養う効果も期待できます。また、リフレクティブサイクルは主観と客観を使い分けて振り返りを行なうため、リーダー育成にも効果的です。マインドセットを身に付けるためにも、リフレクティブサイクルを積極的に活用することがおススメです。
リフレクティブサイクルの導入方法
リフレクティブサイクルを導入する際には、振り返りの順番がとても重要になります。次に、リフレクションを実践するうえでの6ステップを解説します。
経験したことを振り返る
まず、リフレクションの対象となる経験をピックアップします。
例)
- 目標の半分しか達成できなかった経験
- 納期に間に合わなかった経験
- 目標達成した経験
- うまくいったプレゼンテーション
- 思うように振る舞えなかったミーティング
など
経験を客観的に振り返る(周囲の状況や言動)
ピックアップした経験の状況を客観的に振り返ります。
例)
- 誰が関わっていたのか
- どのような状況だったのか
- どのような言動があったのか
など
経験を主観的に振り返る(自分の内面的な感情や経験)</>h3
ピックアップした経験を自分目線(主観的)に振り返ります。
例)
- なぜそうなったのか
- どう感じたのか
- どのような視点で考えたのか?
「もしもう1回やるなら」という視点で、変える言動や継続する思考を見出す
同じ状況をもう一度経験するつもりで、良かったこと、悪かったことにどう対処するかを考えます。特に、改善点などに対しては具体的な対策、思考や言動の改善点を考えることが大切です。単に振り返るだけでなく、「もしもう一度やるなら」という問いを通じて、経験を学びに変えます。
今後に生かせるように抽象化してまとめる
考えた対処方法を行動ベースに落とし込みます。目的は次につなげることであり、失敗した原因にこだわったり、責任を感じたりすることではありません。したがって、「もしもう一度やるなら」で考えた内容を、より汎用的な学びや教訓へと抽象化しましょう。
◆今後の行動プランへと継続する点・やめる点・新たに取り入れることを反映する
ステップ5で具体化した行動を、「続けること」「やめること」「新しくはじめること」に分け、それぞれを今後の行動計画などに反映させます。行動を分別する際には、以下で紹介するフレームワークを活用すると客観的、かつ効果的に判断することが可能です。
リフレクティブサイクル導入時に活用できるフレームワーク
リフレクティブサイクルの振り返りを実際に行動に落とし込む際には、フレームワークを活用するのが効果的です。以下は、リフレクションを実施する際に役立つおススメのフレームワークになりますので、ぜひ参考にしてみてください。
KPT法
KPT(ケプト)法とは、振り返りによる改善効果を高めるフレームワークです。以下3つを意識して振り返りを行なうことで振り返るべき項目が整理されるとともに、次にどうするべきかを明確にすることができます。
- Keep(良かった点を続ける)
- Problem(課題を見つける)
- Try(挑戦する)
YWT法
YWT法もKPT法とよく似たフレームワークで、起こった状況から学んだこと、次に何をするべきかを見出すことができます。両者の違いは、KPT法が仕事や目標、改善点の見直しに重点を置いているのに対し、YWT法は経験と学習に重点を置いている点です。
したがって、KPT法とは少し違う視点で未来に向けた振り返りを実現することができ、問題点だけでなく、良かった点を含めて全体的な振り返りができます。
- Y(やったこと)
- W(わかったこと)
- T(次にやること)
PDCAサイクル
状況の改善を継続的に行なっていくためのフレームワークです。以下のサイクルを繰り返すことが重要なポイントとなり、Action(改善)が終了したら再びPlan(計画)へ戻って循環させます。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(評価)
- Action(改善)
PDCAサイクルは目標達成や自己成長の基本であり、「Check(評価)」の部分がリフレクションに該当します。したがって、リフレクションと併せて活用することで、目標達成などのプロセス全体がきちんと進捗するようになります。
https://www.kaonavi.jp/dictionary/pdca/
まとめ
リフレクティブサイクルは、自らの経験から学びを得るフレームワークです。記述、感覚、推論、分析、評価、行動計画の6ステップに分けて振り返りを行なうことで、人材育成のスピードが速まるとともに、主体性を持った人材を育成することが可能です。
また、メンバー一人ひとりが成長することで業務効率が上がり、組織全体の生産性向上にもつながります。
リフレクティブサイクルを効果的に行なうためには6ステップの順番通りに振り返りを行ない、行動計画などへしっかりと落とし込むことが大切です。
落とし込みの際には、今回ご紹介した「KPT法」「YWT法」「PDCAサイクル」といったフレームワークとの併用がとても有効なので、ぜひ積極的に取り入れてみてください。リフレクションのスキルを身に付け、組織で習慣化していきましょう。
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