企業がビジネスを継続・成長するうえでは、目標・計画を立てて、達成に向けて行動していくサイクルを繰り返すことになります。目標設定と計画・行動のサイクルは、企業のなかで働くメンバー個人にとっても同様に行なわれます。
しかし、目標設定をきちんと学んだことがない、または目標設定の効果を実感したことがない人の場合、「そもそもどのように目標設定をすればいいの?」「今の目標設定は適切なのかわからない」という疑問があるかもしれません。
記事では、目標設定が必要とされる理由や、設定した目標が達成できない理由を確認したうえで、5W1Hを活用した目標設定方法と5W1H以外のおススメフレームワークを紹介します。
<目次>
目標設定が必要とされる理由
仕事における目標設定は、以下の理由から不可欠です。
ゴールが明確になることでモチベーションが高まる
質の良い仕事を続けたり集中したりするには、高いモチベーションの維持が必要です。例えば、入社したばかりの新人なら、携わる業務のすべてが新鮮であり、高いモチベーションで仕事しやすいかもしれません。
一方で、同じ部署で同じ作業を半年、1年、3年と続けた場合、仕事に対する慣れから飽きてくることもあるでしょう。飽きなどのなかでモチベーションが低下すると、生産性や集中力も下がってしまいます。
そこで役立つのが目標設定です。
人が生まれながらにして持っている動機のなかに「達成動機」というものがあります。適切な目標設定と意味づけをすることで、内発的動機づけや集中力、モチベーションアップが可能になるのです。
また、「今年は1,000万円受注する」や「お客様評価を4.2に上げる」などの少し高い目標を設定することで、達成に向けた施策の試行錯誤や新たなチャレンジを通じて、高いモチベーションで仕事ができるようになる側面もあります。
設定過程で達成プロセスが思考される
目標を設定するなかでは、「自分はどのように目標達成しようとしているのか?」「どうすれば目標を達成できるか?」という達成プロセスを考えることにもなります。質の高い達成プロセスを考える力は、目標達成の確度を高めてくれます。
きちんと道筋が描かれているからこそ、迷わずに集中して実行していけるのです。
また、目標設定と達成プロセスがきちんと描けていれば、計画通りに進まず上司に話をするときにも、「本来なら今月までに◯◯万円受注している計画だったのですが、□□の施策が計画した効果を出せず、△△万円のギャップが出ています」といった具体的な課題・相談もしやすくなります。
結果として、上司などから適切なアドバイスももらいやすくなるでしょう。さらに、達成プロセスをきちんと設計することで、「何がうまくいったか?いかなかったか?」の振り返りが可能になり、次の挑戦では、さらに達成確度を高められるようになります。
目標達成までのスピードが加速する
目標を設定し、達成プロセスを考え、進捗を把握し、状況に合わせて計画を改善する営みは、ゴールへの最短距離を模索するPDCAであるとも言い換えられます。
PDCAを回すことで最適な施策ややり方を駆使していけば、より早く効率的に目標達成できるようになるでしょう。
設定した目標を達成できない理由
目標は、設定すれば必ず達成できるものではありません。目標設定しているのに達成できない人には、いくつかの理由や原因が考えられます。
本項では、計画や実行プロセスは除外して、「目標設定」自体に関する問題を紹介します。自分自身や組織を見たときに当てはまることがないかを確認してみましょう。
目標設定が曖昧
曖昧な目標とは、以下のように漠然としているものです。
- 現在の商品の販売を推進する
- サービスの認知度を上げる
- 商品の品質を改善する など
上記は方針と呼ばれる段階のもので「目標」ではありません。例えば、「推進する」という方針を立てた場合、「推進する」というのがどういう状態を指すのか、結果としてどうなればいいのかという基準は人によって異なります。
ゴールが曖昧であれば、計画も、アイデアを羅列したような精度の低いものになりがちです。また、進捗管理をしようにも、ゴールが曖昧な状態では、順調に進んでいるのかどうか判断もできません。
結果として、計画も適当、施策の振り返りや改善も適当になり、だらだら仕事を進めることにもなりかねません。
実現性が低い目標を設定している
達成や実現できる可能性が著しく低いものは、適切な目標とは言えず夢や理想です。
・3年連続100万円しか売ってない人の「来年は1億円分の商品を売る」という目標
ビジネスにおける「短期の目標」は、ある程度、現実的に挑戦できるレベルで設定してこそ、高いモチベーションで施策を実施できるようになります。
例えば、3年連続100万円しか売っていない人が「来年は1億円の売上」を目指した場合、現状の能力やアイデアの引き出しをすべて出しつくしても、実現できる可能性は低いでしょう。
また、「来年は1億円分の商品を売る」を目標にしても、現実的な計画を立てることはできません。そして、目標に対する進捗もずっと悪い状態で、改善しようもなく、結果的にモチベーションも低下することになるでしょう。
仕事するうえで高い理想を掲げることは、もちろん素晴らしいです。中長期においては、野心的なビジョンを掲げることは大切です。
また、思考法として「10X」と呼ばれる、現状から10倍の目標を掲げることで思考の枠を壊してイノベーションを促進するような方法もあります。
さらに、短期においても、必ず達成できるような目標ではなく、OKRなどの目標設定で決めるような「普通では6割ぐらいの達成率に終わってしまうレベル、ただし、達成にワクワクするような目標」を掲げることが効果的な場合もあります。
しかし、OKRなどにおいても、あくまで「現実的に挑戦できる」レベルにすることが大切です。
目標達成に本気になっていない
「目標達成に本気になっていない」というのは組織における目標設定で生じがちな問題です。
例えば、企業全体で3億円の売上達成を目指すとします。この場合、企業全体の目標は、東京営業部と大阪営業部で1.5億円ずつの部門目標となり、東京営業部に所属するAさんは「1年で3,000万円(前年実績2,500万円)」という形で個人目標が決まっていくような流れになりがちです。
上記の流れと目標設定は、個人の目標達成が組織全体の目標達成につながる形であり、組織としては合理的であり、客観的にも違和感はありません。一方で、各個人(Aさん)にとっては上から一方的に決められた目標に近く、達成したいというモチベーションは高まりづらいです。
メンバーが目標に対して当事者意識を持てなければ、組織として適切な目標設定ができても達成には至りづらくなります。
したがって、ビジネス組織においては「各個人が目標に意味づけして本気になる」ことを促進する目標設定プロセスの設計が大切になります。
5W1Hを活用した目標設定方法
5W1Hとは、目標に必要な項目を網羅的に設定するうえでおススメのフレームワークです。5W1Hは、物事を具体的にするためによく使われる以下6項目の頭文字をとったものです。
- Who(誰が)
- What(何を)
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Why(なぜ)
- ・How(どのように)
5W1Hは、情報を具体的にして漏れなく伝えるフレームワークとして、以下の分野でもよく紹介されます。
- ビジネス文書やメールの書き方
- コミュニケーション方法
- プレゼンテーション方法 など
基本となる5W1Hに、「How much(いくら)」「How many(どれだけ)」という項目を追加した5W3Hもおススメです。
5W1Hを使い目標を深堀りする
5W1Hを使うと、目標を以下のように深堀りできます。
- Who(誰が):営業職である自分が
- When(いつ):1年後までに
- Where(どこで):第一営業部の担当エリアで
- What(何を):新商品Aを
- How(どのように):訪問営業で販売する
- Why(なぜ):第一営業部ではいま、新商品Aの販売に力を入れている。また、直近2年間はコロナ禍で顧客訪問ができていないので、訪問を通じた顧客とのラポール形成も大切な目的である。
5W3Hにすると、以下のようにさらに具体性の高い目標を設定できます。
- How much(いくら):3,000万円
- How many(どれだけ):500個
5W1H、5W3Hを使って目標設定を考えることで、目標が曖昧ではなく具体化します。
また、具体化していくなかで、「現実的にどうやって達成するのか?」「達成可能なレベルなのか?」「組織にとって、また自分にとって、どのような意味があるのか?」といった項目をしっかりと考えていくことができるでしょう。
目標の表現で、5W1Hすべてを網羅する必要はありません。しかし、目標をきちんと分解したときに、5W1Hの要素が網羅されているか、答えられるか、ということを考えて目標設定することが大切になります。
目標設定で使える5W1H以外のフレームワーク4選
5W1Hのフレームワーク以外にも、目標設定や達成プロセスの設計で活用できるフレームワークがあります。本項では、4つのフレームワークを紹介します。
SMARTの法則
SMARTの法則は、目標設定の大原則となるものです。
- S:Specific(具体的である)
- M:Measurable(計測できる)
- A:Achievable(達成できる)
- R:Related(上位目標と関連する)
- T:Time‐bound(期限が定められている)
5W1Hを活用することでSMARTの法則に則った目標設定も実現します。また、達成できない理由で紹介した「曖昧」や「実現性が低い」の問題が解消できるでしょう。
SMARTを活用すれば、上司との計画共有や進捗管理、フィードバックやアドバイスをもらう、振り返りなどもしやすくなります。
三点セット法
三点セット法とは、「テーマ、達成レベル、達成時期」の三項目(三点)を、具体的にする目標設定のフレームワークです。
- テーマ(何を取り組み分野として達成するのか?)
- 達成レベル(テーマに対する具体的な基準、数値化や◯×などはどうなるか?)
- 達成手段(テーマを達成するための行動は何か?)
三点セット法は、5W1Hに落としきれないときに考えてみるとよいでしょう。自己成長などの目標設定にも向いているフレームワークです。
KPIツリー
KPIツリーは、大きな目標を分解していく際に役立つ考え方です。ゴールとなる定量目標を、以下のように数式で分解していきます。
・売上 = 新規顧客の売上 + 既存顧客の売上
・新規顧客売上 = 新規商談数 × 商談からの受注率 × 顧客単価 など
KPIツリーは目標設定だけではなく、目標達成に向けた行動計画を立てる際にも役立ちます。
なお、KPIツリーをさらに分解していくと、
といった形で、架電数のような「行動目標(KAI)」に落とし込んでいくこともできます。KPIやKAIが明確になると、計画立案と実行は非常にマネジメントしやすくなるでしょう。
ロジックツリー
ロジックツリーは、大きな目標やビジョンを考えていくときに有効なフレームワークです。
前述のKPIツリーは、数字だけで分解していくものです。目標の分解作業を実際に進めていくと、数字では分解できない場合も多々あります。
したがって、KPIツリーと同時に、ロジックツリー、特にWhatツリーやHowツリーを組み合わせて使うことが有効です。
・Whatツリー:テーマや目標を数値以外の要素で分解するフレームワーク
・Whyツリー:「なぜ?」を繰り返して理由や原因を深堀りするフレームワーク
・Howツリー:「どうすれば目標達成できるか?」などの方法を分解するフレームワーク
例えば、「既存顧客の売上」という目標を数値ではなく、
- 解約防止のアプローチ
- アップセル提案
- クロスセル提案
- 購買ポテンシャルが高い顧客のリストアップとアプローチ
といった形で分解していくイメージです。
KPI、KAIによる数値の計画作成、マネジメントと併せて使うことで、施策のアイデア出しや計画作成に生かせるでしょう。
まとめ
仕事するうえで非常に重要な目標設定ですが、以下の理由に該当する場合、達成が難しくなります。
- 曖昧な目標を設定している
- 実現性が低い目標を設定している
- 目標達成に本気になっていない
以上の問題を解消するうえでは、5W1Hなどのフレームワークを使い、目標に必要な項目を具体化するとともに深堀りしていくことが大切です。
5W1Hは、以下の6項目の頭文字です。
- Who(誰が)
- What(何を)
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Why(なぜ)
- How(どのように)
5W1H以外にも、目標設定や計画作成で使えるフレームワークがいくつもあります。うまく活用して、効果的な目標設定や実行計画を作成していきましょう。
- SMARTの法則
- 三点セット法
- KPIツリー
- ロジックツリー