組織内で相互理解を深めることは、メンバー同士の信頼関係を強め、生産性を向上させることにつながります。また、組織内の問題抑制や強みを活かしたマネジメントも可能になるため、相互理解を深める取り組みに力を入れている企業が増えています。
相互理解には“コミュニケーション”が大きなポイントとなりますが、単純なコミュニケーションでは相互理解は深まりません。記事では、相互理解のメリットや、「訊く」と「聴く」ことの重要性、相互理解を深めるコミュニケーションのポイントを解説します。
<目次>
- 相互理解とは?
- 相互理解を深めるメリット
- 相互理解を深めるうえで大事な「訊く」と「聴く」
- 相互理解を深めるコミュニケーションのポイント
- 相互理解を深めるのに役立つ質問項目
- 相互理解を深めるのに役立つ理論や診断
- まとめ
相互理解とは?
相互理解とは、組織内のメンバー、上司や部下、同僚といった相手の価値観や特性、強みなどをお互いに理解し合うことです。
相互理解は円滑な人間関係の構築に欠かせない要素であり、相互理解が深まることで気持ち良いコミュニケーションが取れたり、仕事の連携がスムーズになったりします。そのため相互理解は私生活だけでなく、ビジネスシーンにおいても必須だといえます。
また、リクルートが調査した「退職理由のホンネランキング」によると、退職理由として最も多かったのが「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」であることがわかります。
退職理由の本音ランキング | |
1位 | 上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった・・・23% |
2位 | 労働時間・環境が不満だった・・・14% |
3位 | 同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった・・・13% |
4位 | 給与が低かった・・・12% |
5位 | 仕事内容が面白くなかった・・・9% |
6位 | 社長がワンマンだった・・・7% |
7位 | 企業の経営方針・営業状況が変化した・・・6% |
7位 | 社風が合わなかった・・・6% |
7位 | キャリアアップしたかった・・・6% |
10位 | 昇進・評価が不満だった・・・4% |
ランキングを見ると、第1位「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」、第3位「同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった」の合計36%が人間関係による退職。
相互理解が進み、お互いの価値観や強みの理解が深まると、人間関係による退職減少にもつながります。
なお、自己啓発の名著である『7つの習慣』、第5の習慣では「まず理解に徹し、そして理解される」とあります。相互理解を深めるためには、まず相手を理解することから始めることが大切です。
とくに、ビジネス組織のように上下関係がある場合、上司がメンバーの価値観や常識、特性を理解しようとすることが大切です。上司が理解する姿勢をメンバーに見せることで、メンバーからの信頼が高まり、メンバーも上司を理解しようとしてくれます。
相互理解を深めるメリット
メンバー同士の相互理解を深めることは、さまざまなメリットにつながります。
信頼関係の構築による生産性の向上
相互理解によってお互いの人間性や価値観、人生観が理解できると、関係性に変化が生まれます。相手を個性のある「個人」として見る意識が強まります。
すると、例えば、上司と部下の関係であれば「評価者:被評価者」というビジネス上の関係性が相対的に弱まります。また、同僚であれば「ライバルや競争相手」という意識が弱まり、協力し合って業務を進めやすくなるでしょう。
また、自分と違う個性を持った「個人」としてお互いを捉えることは、組織内の心理的安全性にもつながります。一人ひとりが不安や恐怖を感じることなく意見を主張できれば、コミュニケーション量が更に増え、主体性の発揮や組織の生産性向上が期待できます。
円滑なコミュニケーションによる組織内の問題の抑制
相互理解が深まると、心理的安全性が担保されるのでコミュニケーションが円滑になります。他のメンバーに助けを求めやすくなったり、意見や懸念を率直に発言できるようになったり、失敗を恐れずに高い目標にもチャレンジしやすくなります。
また、心理的安全性が確保された環境は、「リスクある行動をしても安全」という感覚を与えます。上記のようなヘルプや懸念に加えて、ネガティブな状況等も共有されやすくなり、報告の遅れやトラブルの隠蔽といった組織内の問題抑制にも効果的です。
フィードバックや相談が頻繁に行なわれるようになれば、メンバー間の関係性がますます強固になっていき、さらなる心理的安全性につながるでしょう。
個々の強みや個性を活かしたマネジメントの実現
相互理解を深めると、個々の強みや弱み、コミュニケーションパターン、個性などが理解されます。結果的に、一人ひとりに最適なマネジメントを実現したり、強みや個性を活かして生産性を最大化したりすることが可能です。
また、それぞれが自分の強みを認識したり、強みを生かしている感覚を持てたりすると、自己効力感やモチベーションアップも期待できます。
相互理解を深めるうえで大事な「訊く」と「聴く」
相互理解ではまず相手を知る必要があり、相手を知るためには「訊く」ことと「聴く」ことが不可欠です。
「訊く」とは?
「訊く」ことは、自分の興味や関心があることを尋ねる、質問することです。質問することで、相手のことを知り、相手を理解することができます。
ただし、一方的に質問攻めにしても理解や信頼には繋がりません。相手の本心を引き出すには相手に安心してもらう必要があります。「訊き」ながら相手の話を「聴き」、そのうえで自己開示をしていくことが効果的です。
聴くとは?
「聴く」とは傾聴のことで、相手の話を注意深く聴いたり、相手の伝えたいこと/知ってもらいたいことを理解し、相手の感情に寄り添ったりすることを意味します。
相互理解を進めるためには聴くことがとても重要です。相手に誠実な関心と興味を持って、相手の意見や気持ちを汲み取ろうとする姿勢があってこそ、「訊く」ことが信頼関係に繋がります。
相手の話を「聴く」ことで相手も「自分の話をちゃんと聴いてくれる」「自分を理解してくれる」と感じ、自然と本音や率直な意見を返してくれるようになります。
相互理解を深めるコミュニケーションのポイント
相互理解は、「訊く/聴く」コミュニケーションの上に成り立ちます。また、相手を理解するだけでなく、自分の事を理解してもらう必要もあります。そのため、相互理解を深めるためのコミュニケーションでは以下の3つを意識すると効果的です。
相手の「役割や機能」ではなく「個人」として興味・関心を持つ
相互理解につながるコミュニケーションでは、相手に誠実な関心を持つことが大前提です。ビジネスにおけるコミュニケーションは、相手の役割や機能に関心が行きがちです。しかし、役割や機能の部分でコミュニケーションしても、信頼関係はなかなか深まりません。
相手の価値観や強み、パーソナルな側面に誠実な興味と関心を持って、コミュニケーションすることが、相互理解を深めるためには大切です。自分が、相手にパーソナルな関心を持っているかを確認するには、次の章で紹介するチェックリストも参考にしてみてください。
自己開示をする
相互理解につながるコミュニケーションでは、相手を理解するだけでなく自分を知ってもらうことも大切です。ビジネスの関係性がある中では、パーソナルな側面や価値観等を話題にすることは気が引ける場合もあります。
「理解してから理解される」ことが相互理解のコミュニケーションにおける原則ですが、一方で、「自分から自己開示する」ことも大切です。とくにメンバーから上司に対しては心理的に自己開示しにくい場合もあります。上司から軽く自己開示したうえで、メンバーの話を「訊く/聴く」ようなステップがおススメです。
相互理解を深めるのに役立つ質問項目
相互理解では、「理解してから理解される」順番が原則です。前述の通り、自ら自己開示することで相手が話しやすくなる場合もありますが、いずれにせよ、いきなり相手の価値観などに踏み込むことは簡単ではありません。
そのため、まずは話しやすい情報や軽いパーソナル情報を相互理解するところから始めることがおススメです。ビジネスの関係性では、相手がどんな役割か、どんな経験をしているか、どんな能力があるかは知っていても、相手のパーソナルな側面を意外に知らないこともあります。
相手の基本的なパーソナル情報すら知らない、関心を持てていない状態では、深い価値観等を理解することは難しいでしょう。例えば、自分の同僚、メンバーや上司に関して、以下の質問に答えられるでしょうか。
もし知らない項目があれば、こういった点から訊いてみたり、自己開示してみたりすると良いかもしれません。
- 名前をフルネームで書けますか?
- 生年月日を知っていますか?
- 家族構成はわかりますか?
- 趣味は何ですか?
- 入社動機を知っていますか?
- 将来の夢は何ですか?(公私問わず)
- 今、関心を持っていることは何ですか?(公私問わず)
- 今、悩んでいることは何ですか?(公私問わず)
相互理解を深めるのに役立つ理論や診断
相手の価値観や強みを理解するためには、理論や診断も役立ちます。価値観や強みはとても定性的で感覚的なものですが、理論や診断等を通じて「見える化」「パターン化」テキストすることで、相手との共通点、違いを理解しやすくなります。
以下では、HRドクターを運営する研修会社ジェイックが導入している、相互理解に繋がる代表的な理論と診断を2つ紹介します。ジェイクでは、診断を生かしたコミュニケーション研修等も実施していますので、ご興味あればお問い合わせください。
ストレングスファインダー®
ストレングスファインダー®とは、アメリカのGallup社が開発した才能診断ツールで、177個の質問に答えることで自分の強みを明確にすることができます。
ストレングスファインダー®には34種類の資質(才能)が用意されており、一般の診断では自分の強み、上位5つの才能が提示されます(オプションで34種類すべての順位も表示可能)。
ストレングスファインダー®は
- 強み(才能)にフォーカスしているので受け入れやすい、盛り上がりやすい
- 相手との共通点と違いを「見える化」できる
- 「強み」を生かすことはビジネス上の成果に直結する
といった特徴があるため、ビジネス組織で取り入れることは非常におススメです。
ジェイックでは、ストレングスファインダー®の結果は、タレントマネジメントツールに登録され、全社員がお互いの強みを知ることができます。また、プロジェクト等のキックオフ等でも、まずはお互いのストレングスファインダー®結果を共有することもよくあります。
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ソーシャルスタイル理論
ソーシャルスタイル理論とは、人のコミュニケーションや立ち居振る舞いの傾向を4つに分類したものです。ソーシャルスタイル理論では「感情表現が多い/少ない」「自己主張が多い/少ない」 という2軸のマトリクスで、個人のソーシャルスタイルを4つに分類します。
- ドライビング :感情表現が少ない、自己主張が多い
- エクスプレシッブ :感情表現が多い、自己主張が多い
- エミアブル :感情表現が多い、自己主張が少ない
- アナリティカル :感情表現が少ない、自己主張が少ない
ソーシャルスタイルを知ることで「あの人とは何となく自分と合わない」という感覚的なものが、「なぜ合わないのか?」「どうすれば合うのか?」を言語化できます。また、コミュニケーションが“合わない理由”を言語化されることで、“感情的な好き嫌い”が減少する効果もあります。
人間関係のストレス解消、また営業や販売職等のコミュニケーション力UPにも非常に役立ちます。
まとめ
相互理解は、お互いの価値観や特性、強みなどを理解しあうことを指し、相互理解を深めることで生産性の向上や組織内の問題抑制、強みを活かしたマネジメントなどが可能となります。
相互理解を深めるためには、コミュニケーションの中で「訊く」「聴く」を徹底することが大切です。また、ビジネス上の役割や能力ではなく、相手のパーソナルな側面や価値観・強みなどに誠実な関心を寄せることが大前提です。
記事では、
- 相手のパーソナルな側面に興味を持つためのチェックリスト
- 相互理解に使えるソーシャルスタイル理論やストレングスファインダー診断®
等も紹介しました。ぜひ活用して心理的安全性の高い職場を実現してください。