企業規模が一定以上になると、社員を年次や役職に応じていくつかの階層に区分できるようになります。階層別研修は、これら社内の階層を基準に実施される研修であり、多くの企業でなじみの深い研修です。
階層別研修は、“社内の立場や役職、役割が変わる節目のタイミング”で実施されることが一般的です。年次や経験年数などそれぞれの階層によって、求められるスキルや期待される成果は異なります。
階層別研修を実施し、それぞれの階層に求められる知識やスキルを身に付けることは、個人の仕事能力向上だけでなく、階層全体のレベルを底上げすることにもなります。
階層別研修は、組織の人材育成を形作るうえで基本となる研修体系です。本章では階層別研修の4つの代表的な研修の概要とポイントを紹介します。また、章の最後で階層別以外の研修体系も簡単に解説します。
新入社員向け研修(新卒)
最近ではインターンシップや内定者研修で入社前から職場になじんでいる新人も少なくないですが、基本的には入社直後の新入社員の多くはつい最近まで学生だった人たちです。
社会人の意識が切り替わっていない新人もいますし、社会人として必要な基本的なビジネススキルも身についていません。したがって新入社員研修は、基本的には“社会人としてマインドセット”と“基礎的なビジネススキル”の2つを軸に実施されます。
対象となる新入社員のレベルや意欲によって、それぞれのボリュームや内容は異なってきますが、2つの軸に沿ってしっかりとポイントを押さえて研修プログラムをつくることが大切です。
ときどき新入社員研修が、スキルとビジネスマナー中心になり、身だしなみや挨拶の仕方、敬語、報連相、名刺交換、電話対応、コンプライアンスなどに偏っているケースが見られますが、新入社員研修でマインドセットの軸を押さえることは非常に大切です。
しかし、新入社員研修は社会人のマインドセットを形成し、新人たちの不安を取り除き、良い社会人生活がスタートダッシュできるようにすることも非常に大切です。
社会人経験がない学生がイメージする社会人生活は、入社後、特に現場配属後のリアルとのギャップが必ず生じます。このギャップを“リアリティショック”といいます。新入社員研修の初期でしっかりとマインドセットをしておかないと、リアリティショックの吸収ができず、モチベーション低下や早期離職の原因にもなります。
逆に、リアリティショックに対する心構えができてるような層の新入社員であれば、もう一段レベルをあげて“プロフェッショナルとして成果をあげるための仕事への向き合い方や考え方”を初期にインプットすることで早期活躍が実現するでしょう。
若手社員向け研修
入社してからおおむね2年~5年を経過した社員を対象とするのが、若手社員研修です。若手社員はある程度仕事にも慣れてきて、“1人前”に近づく状態です。入社数年経過すると、優秀層が頭角を見せ始めてきますので、次世代リーダー候補として伸ばしていくことも大切です。
企業の業態やステージによって、入社どれぐらいで1人前となり、チームリーダーなどへと昇格するかは異なります。したがって、若手社員向け研修の各コンテンツをどのタイミングで実施するのが最適かは企業によっても異なりますが、大枠としては以下のようなコンテンツ種類を考えるとよいでしょう。
入社して2年目になると、新たな新入社員が入社してきて、上司や先輩の関心は次の新入社員育成へと移りがちです。1年目は手厚い関心とフォローがあったものが、2年目になると急になくなることもよくあります。
スムーズに「私も2年目で、後輩の模範となるように頑張らないと!」と思ってくれればよいのですが、一方で状況変化についていけず、モチベーション低下などを起こす層もいますし、仕事に悪い意味での“慣れ”を感じてマンネリ化する層もいます。
上記のようなことを起こさないためには、2年目のはじめなどに、入社1年間の振り返りによる成長実感の獲得、立場が変わることへの心構え、新たな成長目標の設定などによるモチベートを行なう研修を実施することが有効です。
最近、多くの企業で問題になっているのが、入社3~5年目層の離職です。1人前として目の前の仕事は十分に回せるようになったなかで、「自社でのキャリアパスが見えない」「成長環境に不満がある」といった形で、新しい環境に成長機会を求め、転職してしまうのです。
採用から育成まで投資してようやく育った層に離職されるのは企業にとって大きな痛手です。これを防ぐためには、あらためてもう一段上のステージに向かうためのセルフリーダーシップや仕事の意味づけ、またキャリアプランの設計などが大切です。
ここのケアをしておかないと、「順調に成果をあげてくれている」と思っていた若手優秀層が急に離職を申し出るといったことになりかねません。
若手のなかから将来のリーダー候補を選抜し、リーダーになるための知識や後輩指導のスキルを早めに体得させることも視野に入れましょう。そのための育成方法としては、以下のようなものが挙げられます。研修だけでなく、実務も通じて次世代リーダーを育成・選抜していきましょう。
・スピーチやプレゼン経験
・タイムマネジメントやロジカルシンキングなどの能力向上
・メンターをつけ課題解決のサポートをする
・後輩育成やメンバーマネジメントへの挑戦
・自身の長所・短所を認識させ、今後のキャリアプランを描かせる
管理職向け研修のポイント
管理職研修は、対象者の経験に応じて、大きく2つの種類があります。1つ目は新しく管理職になる人を対象とした“新任・初級管理職研修”で、2つ目は、現在管理職業務に就いている人向けの“中級・上級管理職研修”です。2つの研修は目的や内容もそれぞれ異なります。
新任・初級管理職研修の目的は、“管理職に求められる役割を理解してスキルを身につける”ことです。管理職の役割と責任は組織の成果を上げることであり、自分で成果を上げることが求められるプレイヤーとは異なります。当然、必要な知識・スキルも変わります。
プレイヤーとして成果をあげてきた人でも、管理職に登用されたタイミングで自分の過去の実績やスキル・知識を一旦リセットして、新たな役割に適応する心構えを持ってもらうことが大切です。
また、中堅・上級管理職研修は、大きく3つのタイプがあります。1つ目は、KPIやPDCA、コーチングや1on1など、より専門性の高いマネジメントスキルの習得です。
2つ目は360度評価やリフレクションを絡めたマインド研修などを通じて今の自分と客観的に向き合い一皮むけてもらう体験です。
最後の3つ目は、幹部候補として事業のマネジメントや経営に必要なアカウンティングやマーケティング、経営戦略などのスキルを身につけることです。
3つのどれにポイントを置くかで対象者の選抜、研修のスタイルも大きく変わってきますので、しっかりと目的・対象を明確にすることが大切です。
経営幹部・幹部候補向け研修のポイント
経営幹部は、事業部門全体の業績の責任を担う存在です。自らの役割を理解して、強力なリーダーシップを発揮し、任された部門で成果を上げることが求められます。
“VUCA”の時代と呼ばれる現在は、経営環境が変わるスピードも速く、トップがすべての部門を統括することには限界があります。したがって経営幹部は経営者の右腕となって、トップと同じ目線で事業や組織をけん引し、企業の成長・発展を実現させていくことが求められます。
経営幹部・幹部候補向け研修では、経営幹部としての意識の醸成や視野の獲得、事業運営や戦略・計画立案などの経営に関するスキルを体得します。マーケティングやアカウンティング、全社的な視座の高さや視野の広さなど、経営幹部が身につけるべき知識やスキルは多岐にわたります。
これらの知識やスキルを座学や研修で学ぶこともが可能です。ただし、知識やスキルを学んでも、業務で活かせなければ何の意味もありません。幹部に求められるのは知識やスキルではなく、成果をあげることです。
したがって、経営幹部や幹部候補向け研修は上述のような“インプットする”という意味では大切です。ただ、経営幹部や幹部候補の育成自体は、研修ではなく実務こそがコアであり、どのようなポジションを任せていくかが非常に重要です。
階層研修以外の研修体系
ここまで階層研修を重点的に説明してきました。組織が規模を増すなかで、各階層に必要なスキルやマインド、生じる課題はある程度共通してきますので、階層別研修が人材育成を考える基本となります。
階層別研修以外では、以下の2軸で研修を考えることがお勧めです。
階層別研修が組織のピラミッドを横に切る軸でとらえたものだとすると、職種別研修はピラミッドを縦に切る軸でとらえたものです。営業研修やエンジニア研修、マーケター研修など、各職種でパフォーマンスするのに必要なスキルや考え方を身につける研修です。
組織規模が大きくなってくると、人材育成や研修は「階層×職種のマトリックス」でとらえていくイメージが基本となります。
階層別研修や職種別研修とまったく異なる軸で考えるのが全社員研修です。全社員研修の最もイメージしやすい例は、ミッション・ビジョン・バリューの浸透です。
また、ミッション・ビジョン・バリューの浸透と近いところもありますが、組織風土の改善などを目的とした共通言語の構築や考え方研修なども全社員を対象として考えることが大切です。