経営層の役割とは?6つのおもな仕事と持つべきスキルを紹介

経営層の役割とは?6つのおもな仕事と持つべきスキルを紹介

企業の中で「経営層」はきわめて限られた存在です。また、会社の規模や資本、状況によって経営の実態も大きく異なります。

 

だからこそ通常の人材育成と異なり、経営層になった後、もしくは経営層になるためのトレーニングというのは、あまり一般的なものではありません。

 

本記事では一般的な経営層の役割を説明し、6つのおもな仕事と経営層が持つべき基本スキルを紹介します。
経営層を目指す、経営層を育成する上で、参考になれば幸いです。

<目次>

経営層とは?

PCを前に険しい表情の経営者

 

経営層とは組織全体に対する責任を持ち、経営資源の配分を決める権限を持っている人々を指します。一般的には、社長、取締役、執行役員などの階層に属する人たちです。

経営層の役割

“マネジメントの父”とも呼ばれるピーター・ドラッカー、そして、経営戦略論で有名なヘンリー・ミンツバーグが提唱する経営層の役割を紹介します。

 

ピーター・ドラッカーが述べる経営層の役割

経営学者のピーター・ドラッカーは「経営者の職務は、効果的であること、なすべきことを成し遂げるということが期待されている」と述べています。

 

ドラッカーは経営層には以下のような役割があるといいます。

  • ①事業策定:参入すべき技術、市場、製品、事業の決定、廃棄すべき事業の決定、組織としての価値観、信条、原則の決定
  • ②資金配分:資金の調達と投下は、トップマネジメントの責任であって、現業の部門にまかせることはできない
  • ③人材配置:人材は組織全体の資源であって特定の部門のものではない。人事の方針や、実際の主要な人事は、各部門、現業が関与するとしても、あくまでもトップマネジメントが決定すべきことである。

 

ヘンリー・ミンツバーグが述べる経営層の役割

経営戦略論などで有名なアメリカの経営学者ヘンリー・ミンツバーグは、組織の経営者は大きな3つの役割を持ち、細かく分類すると10の少し細かく分類された仕事があるとします。

【大きな3つの役割】
  • 対人関係の役割
  • 情報伝達の役割
  • 意思決定の役割
<対人関係の役割>
1.儀式代表者
→法律上、形式上責任を担う存在となり、ある団体や階層の顔となる存在になる。
2.リーダー
→企業全体や部門のトップとなり、メンバーのパフォーマンスをマネジメントする。
3.外部接触
→社外の関係者とのコミュニケーションを担い、効果的なネットワークを築く。<情報伝達の役割>
4.モニター
→企業や業界の内部と外部の環境変化を監視する。
5.周知伝達役
→社外の人に向けて、組織のことを発信する。
6.スポークスマン
→メンバーや上層部に有益な情報を提供する。

【意思決定の役割】
7.変革を起こす起業家
→新しいアイデアを創造し、組織の変革と創造の担い手となる。
8.障害処理者
→想定外の障害が起こった際の責任者。
9.資源配分者
→組織内の人的リソースや財務的リソースなどを適切に配分する。
10.交渉者
→組織内で発生した重要な交渉の責任を負い、指示を出す。

経営層の具体的な仕事

本章では前章の内容も踏まえて、組織内で経営層が能動的に動くべき6つの仕事を紹介します。

  • 企業のMVVを定める
  • 事業を拡大させる
  • 経営資源を適切に配分する
  • 組織を維持・発展させる
  • 働きやすい職場環境を整備する
  • アライアンスを構築する

 

企業のMVVを定める

MVVはMission(ミッション)Vision(ビジョン)Value(バリュー)の頭文字であり、経営理念やパーパス、クレドなどともほぼ同義です。

 

MVVは組織の存在理由や価値観を示したものであり、これを意思決定できるのは経営層だけです。
MVVは定めるだけでなく、メンバーに浸透・共有させることが大切であり、経営者の役割です。

 

事業を拡大させる

計画を前へ進め、事業を拡大させるために動くことは経営層にとっては欠かせない仕事です。

 

中長期の事業計画や経営方針の立案などを通じて基本方針を決め、M&Aや投資の決定、後述する経営資源の配分を通じて、計画と組織を動かして打っていきます。

 

『経営は「実行」』というビジネス書籍は有名ですが、事業拡大も実行そのものです。経営層は意思決定だけでなく、実行にコミットすることが求められます。

 

経営資源を適切に配分する

経営資源とは、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」です。

 

従業員の工数という人的リソース、物品や工場などの稼働キャパシティ、また販促費や開発費などの予算をどのように振り分けるかの意思決定は経営陣の重要な仕事です。

 

今ある経営資源を配分するだけでなく、経営資源を守る、調達することも経営陣の重要な仕事です。

 

組織を維持・発展させる

いかなる時代でも事業計画などを実行するのは「人」です。したがって、人材の確保(採用)、定着と育成などを含めた組織開発が必要になります。

 

もちろん評価制度の導入と運用、組織の風土醸成なども経営層の重要な役割です。

 

働きやすい職場環境を整備する

職場環境の整備はモチベーションの維持・向上だけでなく、離職率を下げることにもつながります。最近ではテレワークやフレックスといった働き方に関する整備も重要です。

 

また、組織の風土醸成とも関わりますが、人間関係の構築や心理的安全性の確保に向けた環境整備も大切です。

 

アライアンスを構築する

信頼できる外部の協力者やパートナーを見つけ、関係構築することも経営者の仕事です。

 

短期的・単発的・部分的な外注などであれば現場の仕事ですが、経営上のパートナー、業務提携やアライアンスの検討などは経営陣がするべきできない仕事です。

  • 本当に信頼できる相手なのか?
  • 自分や企業との相性は合うのか?
  • 事業にとって有益な相手か?

このような条件をしっかりと見極め、事業成長を実現するアライアンス先を探すことは経営層の役割です。

経営層に必要な能力

経営層に求められる能力は、以下のようなものになってきます。

  • 戦略的思考力
  • 論理的思考力
  • 抽象的思考力
  • 先見力
  • 決断力
  • 人を動かす力

 

戦略的思考力

戦略的思考力とは、戦略作りの考え方やプロセスを活用する思考法です。

 

戦略的思考の教科書的存在として知られるクラウゼウィッツの『戦争論』では、戦略とは目的を達成するために、手持ちの資源をどのように配分するか選択であると述べられています。

 

現代のビジネス組織に置き換えれば「企業の目標達成に向かって経営資源をどのように配分して、市場で勝ち残る、競合に勝つか」を考える力です。

 

ビジネスで戦略的思考力を発揮する上では、抽象的な思考力だけでなく、マーケティングやアカウンティング、自分たちの市場に関する知識も必須となります。

 

論理的思考力

経営者に限らずビジネスパーソンにはロジカルシンキング、つまり論理的思考が欠かせません。

 

そのなかでも、現場から遠い経営層は、データや現場からの報告などを論理的に整理・統合して判断する必要があるため、高いレベルのロジカルシンキングが求められます。

 

抽象的思考力

上述の通り、経営層には高いロジカルシンキング能力が求められますが、同時に経営層の意思決定は論理だけで答えを出せるものではありません。

 

経営レベルの意思決定や組織のビジョン、事業のコンセプトを考えたりするには、本質をつかむ抽象的な思考力、いわゆるコンセプチュアルシンキングの能力が大切です。

 

先見力

先見性なしには良きリーダー足り得ることはできません。現代はこれまでにない急激な速度で技術革新やIT化、働き方改革、グローバル化などが進んでいます。

 

かつてドラッカーは「人の手によるものはすべて陳腐化する」と述べましたが、実際にいまのビジネス分野では「今日の常識は3年後の時代遅れ」となりかねません。

 

このような状況の中で企業を維持し、さらに発展させていくのは先見力が大事です。

 

先見力はここまで述べたような戦略的思考力、倫理的思考力、抽象的思考力などをかけ合わせて生まれてくるものです。

 

決断力

経営層が方針を決めたり、戦略を決めたりしなければメンバーは動くことができません。

 

方針や戦略を考えるうえでは、上述した論理的思考力や戦術的、また論理的・抽象的な思考力、先見力などが求められます。
ただ、それらを駆使しても経営レベルの意思決定に正解はなく、答えが見えないことが大半となります。

 

その中でも大きな意思決定を求められるのが経営層です。従って、高いレベルの決断力、セルフリーダーシップを必要とします。

 

人を動かす力

『経営は実行』という名著もありますが、経営は意思決定したらうまくいくわけではありません。

 

もちろん意思決定しないと何も始まりませんが、同時に意思決定したことを実行して、やり切って、初めて意思決定や選択が意味を持ってくるともいえます。

 

組織とメンバーを動かすには、プレゼンテーション、ヒアリング、コーチング、ファシリテーション、人間性など、人と信頼関係を作り、人を動かすコミュニケーション力が求められます。

経営層に就任したらやるべきこと

腕組みをするミドル社員(セピアカラー)

 

経営層に就任したとき、まず「何をすれば良いのか」と不安になる方も多いでしょう。ここでは2つのやるべきことを紹介します。

 

組織やメンバーと信頼関係を築く

経営層にとって、組織やメンバーとの信頼関係は非常に重要です。

 

なぜなら場合によっては厳しい条件の仕事や新しい分野の開拓など、難易度の高い仕事を任せなければならないからです。

 

方向性が共有できていなければ調和が乱れてしまい、メンバーのモチベーション低下や不和などが引き起こしかねません。

 

現実においては、ときにはトップダウンで迅速に意思決定して従ってもらう必要があります。
トップダウンでの意思決定は一種の緊急対応ですが、日ごろから意思決定を速やかに実行してもらったり、質の高い意思決定をするために本音で議論したりするためにも、一緒に働く仲間である幹部や管理職と信頼関係を築くことが大切です。

 

ミドルマネジメントとの違いを理解する

ミドルマネジメントのおもな役割は決定された経営方針に従いながら、自分の担当領域の実行計画を立てて方針を実行することです。

 

トップマネジメントが戦略的な意思決定をするための情報をボトムアップで提供する役割もあります。

 

一方で、経営層であるトップマネジメント層は組織で発生するすべての事象に責任を持ち、組織全体と中長期の時間軸を見ながら経営方針を決断し実行する必要があります。

 

求められている役割や心構えが違うため、ミドルマネジメントの意識のままで、幹部層・経営層の仕事をしようとしても機能しません。

 

求められる役割の違いをきちんと理解することが経営層として仕事するために大切なことです。

経営層の心構えを持とう

経営層は組織を成長させるために大きな意思決定が求められる役割です。さらに社会情勢や事業の環境変化により、経営層に求められる役割や業務は複雑になっています。

 

さまざまな能力が必要とされ、責任感のある決断をスピーディーに実施することが求められます。必要な能力を個別に身に付け、同時に実務のなかで統合していきましょう。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。

著書、登壇セミナー

・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
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