上述した人事の役割や業務と少し紐づけながら、人事に生じる組織課題を見ていきましょう。役割にも少し対応して組織課題は大きく5つに分類できます。
- 採用に関する組織課題
- 育成に関する組織課題
- 人事評価に関する組織課題
- 労働環境に関する組織課題
- その他の組織課題
採用に関する組織課題
はじめに、分かりやすいのが採用に関する組織課題です。知識労働社会となった現代、優秀人材とそうではない人材の生産性ギャップは非常に大きなものとなっています。
さらに、少子化に伴って生産年齢人口の減少が進むなかで、離職を防止して必要な人材を確保し続ける難易度は上昇しているといえるでしょう。
転職が一般的になった昨今、中途採用に対する受け入れ環境の見直し(オンボーディング)も大事です。
厚生労働省『令和2年転職者実態調査の概況(個4.今後の希望等について)』によると、労働者の5人に1人(21%)が「機会があれば転職したい」と考えています。
特に中途採用は取り組み方によって差がつく分野になってきています。ダイレクトリクルーティングやキャリアSNSなど、さまざまな手法が広がったことで転職潜在層へのリーチもしやすくなりました。
短期的、従来型の施策だけでなく、中長期的な視点で新しい施策に取り組んでいくことが必要となるでしょう。
後述しますが、自社が転職潜在層にリーチしやすくなったということは、逆に自社からの流出も大いにありえます。
このように流動性が高い現代では、社員のエンゲージメント向上もあらためて求められています。
育成に関する組織課題
人材育成は、業績目標の達成や中長期的な成長、生産性向上のために必ず取り組まなければならない重要課題です。
適材適所への配置やジョブローテーション等を含めた職場での学び(OJTやリフレクションの習慣化)、同時に、職場から離れたOff-JTでの学びを大きな視点で組み合わせていくことが求められます。
Off-JTに関しては、環境・役割や責任の大きな変化がある新入社員や新任管理職などが最優先となりますが、各階層、職種、部門で成果を上げるための育成という視点で研修設計を考えていく必要があります。
また、コンプライアンスやハラスメント予防などのテーマもありますし、組織開発の視点から階層や職種を横断したミッション、ビジョン、バリューや共通言語の浸透、キャリアプラン研修なども大切です。
人材育成は、人格とスキル、2つのバランスが非常に大切です。特にリーダーシップやマネジメントは人格と紐づくもので、スキルだけで実践できるものではありません。
したがって、若手のうちから人格面も醸成することが必要です。
また、職場での学びを考える際には、管理職層のコーチングやフィードバックなどの”人材育成スキル”、コルブの経験学習モデルに代表される”リフレクションのスキル”などもポイントです。
育成は個の成長にフォーカスした考え方ですが、同時に個が集まった組織の開発・成長という視点も大切です。
前述のとおり、エンゲージメント向上も人材育成での大きなテーマになっており、チームビルディングやインナーブランディングなどを通じて、働きがいある職場をつくることが求められています。
なお、エンゲージメント等を考えるうえでは、もちろん育成だけでなく評価や待遇なども重要です。
人事評価に関する組織課題
人事評価はメンバーにとって待遇に直結する大きな関心事です。業績などの成果や目標達成への努力が正当に評価されることは、モチベーション向上や退職を防ぐことにもつながります。
評価制度の運用を見直して、問題がないように整備・ブラッシュアップし続けることが必要です。
例えば、評価者によって評価基準が異なったり恣意的だったりすると、不公平感から業務意欲の低下を招きかねません。
評価制度が適正に運営されているかを人事部が主体となってチェックし、統一した基準で人事評価を行うことが必要です。
なお、人事評価制度やマネジメントを通じて、メンバーに「自分の待遇を向上させるにはどうすればいいか?」といった生産性向上などの視点を持ってもらうことも大切です。
最近では同一労働同一賃金の流れがあるなかで、有期雇用労働者と正規雇用者の待遇差是正、職種の専門分化が進んだ中でのジョブ型雇用の検討も人事課題となっています。
また、場合によってはITエンジニア等をはじめとする希少職種を確保するための賃金体系、テレワークが広がる中での評価制度の見直しなども対応すべき課題となってくるでしょう。
労働環境に関する組織課題
労働環境も人事課題の一つといえます。
日本では、この10年ほどで働き方改革や自殺事件を契機とした残業時間や勤怠管理、また、パワハラ防止法などを通じたハラスメントに対する社会的な価値観や意識は急激に変化しました。
結果として、以前には曖昧に許容されていたレベルのものも問題視されるようになりましたし、ハラスメントが起きればSNSによって一瞬で拡散されて企業ブランドに傷がつく環境になっています。
リスク管理としても、メンバーの働きがいのある労働環境を整備するためにも時代に合わせた勤怠管理やハラスメントへの対応は必須といえます。
ハラスメントではパワハラ、セクハラだけでなく、さまざまな種類のハラスメントが取り上げられるようになっています。
また、ハラスメントが問題となる背景には、年代による感覚の違いも大きな要因です。このような点を把握したうえで、人事部が主体となってハラスメントの予防方法を早めに構築する必要があります。
勤怠管理に関しては、基本となるのは時間外労働の月45時間・年間360時間といった原則をしっかりと押さえて運用することです。
サービス残業やメンタル疾患発症などの問題を防ぐためにも残業や休日出勤の時間外労働をきちんと管理して抑制する取り組みが必要です。
労働環境に関しては、高年齢雇用安定法の改正により、企業は社員が70歳まで働ける環境の整備義務なども求められています。
さらに、障碍者雇用も企業の社員規模によって一定人数雇用する義務があります。こうした問題も労働環境に関する組織課題といえるかも知れません。
その他の組織課題
これまで紹介したさまざまな課題が解決できない理由のひとつに人事部の人手不足があります。ここまで記載した通り、人事が対応すべき組織課題は非常に多岐にわたります。
一方で、たとえば、中小企業などでは人事担当は1名のみ、また、人事と総務を兼任といった場合もあり、人材採用や育成に充分なリソースを割けなくなっていることもあるでしょう。
「人事業務の効率化や体制を整えて、組織にとって必要・重要な組織課題に対応できる状態をつくる」ことも、多くの企業における課題となっています。