採用面接の質問は企業によってさまざまですが、職業安定法により特定事項の個人情報を聞きだすことは禁止されています。また、厚生労働省により「尋ねるべきではない質問」のガイドラインも公開されており、知らずに質問してしまうと悪評につながったり罰金を科せられたりするケースもありますので注意が必要です。
記事では面接官としての心得、採用選考のガイドラインとともに、聞いてはいけないタブーな質問、判断が難しい質問事例を解説します。
<目次>
- 面接官に求められる基本姿勢
- 厚生労働省が定める公正な採用選考のガイドライン
- 面接官が聞いてはいけないタブーな質問集
- 面接官としてタブーな質問をしてしまった場合は
- 聞いてはいけない質問にあたるのか難しい事例
- まとめ
面接官に求められる基本姿勢
採用面接ではタブーな質問をしてはいけないと同時に、面接官としての姿勢や心構えが問われます。面接官として最低限知っておくべき基本姿勢は以下のとおりです。
公正な採用選考を行なう
採用面接では、企業にマッチした人材かどうかを客観的に判断することが大切です。面接官の主観的な評価や思い込み、印象などで判断してはならず、選考基準に合致している人材は次の選考ステップへ進ませる必要があります。
基本的人権を尊重し、適性・能力で合否を判断する
日本国憲法では採用の自由が認められていますが、自由だからといって何でも質問して良いわけではありません。アイスブレイクや雑談としての質問でも、相手に不快感を与えたり、誤解を招いたりするような質問は避けるべきです。
また、仕事への適性・能力以外の事項に関する質問は、内容によっては「就職差別」につながる可能性があるため注意しましょう。
インターネットでの拡散リスク
ITツールやSNSなどの普及により、最近では面接での録音情報がSNSで公開されるような事象も発生しています。就職差別やハラスメントにあたるような面接が行なわれた場合、インターネット上で拡散・炎上し、企業イメージやブランドなどを毀損する可能性があるため注意が必要です。
選考に際して、カルチャーフィットの視点ではともに働く相手の価値観や人柄などは重要な情報ですが、タブーとなりやすい部分であることも知っておきましょう。
厚生労働省が定める公正な採用選考のガイドライン
厚生労働省では「公正な採用選考の基本的な考え方」としてガイドラインを提示しています。ガイドラインを知っておくことで、聞いて良い質問と悪い質問の判断がしやすくなるため、必ず確認しておきましょう。
採用選考の基本的な考え方
原則として、採用選考は雇用条件・採用基準に合ったすべての人が応募できるものであり、求職者の持つ適性・能力が求人職種の職務を遂行できるものかどうかが選考の基準となります。また、選考は求職者の基本的人権を尊重するとともに、適性・能力に基づいて行なわなければなりません。
公正な採用選考を行なうためには
採用選考では、求職者の適性や能力と関係ない事柄で採否を判断してはいけません。例えば、障害者や難病の有無、性的マイノリティなどは仕事の適性や能力と関係がないため、排除の理由にはならないということです。
また、社会的差別の原因となる恐れのある個人情報などの収集も、職業安定法第5条の4および平成11年告示第141号により認められていません。したがって、選考に関係ない事柄を応募用紙に記載させたり、面接で質問したりすることはタブーです。
じつは新規中卒者、新規高卒者、新規大卒者の採用では、厚労省が推奨する応募用紙が決まっています。独自の応募用紙やエントリーシートを使用する場合は、適性と能力に関係のない事項、就職差別につながる恐れがある質問を含めないよう注意しましょう。
採用面接も、あらかじめ質問項目や評価基準を決めておきましょう。また、本記事の内容などを確認して、危うい質問を迂闊にしないようにすることが望ましいです。
採用選考時に配慮すべき事項
以下の事項は就職差別につながる可能性があり注意が必要な項目です。特に家族に関することは、求職者からの指摘も多い事項であり、十分に配慮しましょう。
・本人に責任のない事項の把握
┗本籍、出生地、家族、住宅状況、生活環境、家族環境などに関すること
・本来自由であるべき事項
┗宗教、支持政党、人生観、尊敬する人物、思想、労働組合、購読新聞、愛読書などに関すること
・採用選考の方法
┗身元調査などの実施、合理的・客観的に必要性が認められない健康診断の実施など
面接官が聞いてはいけないタブーな質問集
採用面接において、男女雇用機会均等法などに抵触する質問は完全にタブーです。また前述のとおり、本人に責任のない事項や本来自由であるべき事項などを面接で質問することも、就職差別と取られる恐れがあるので十分に注意しましょう。
本籍に関する質問
本籍に関する質問は、人種や居住地などでの差別につながるため不適切であるとされています。
・本籍地はどこですか?
・両親の出身地はどこですか?
・今の住所になる前はどこにいましたか?
住居やその環境に関する質問
住居やその環境に関する質問は、候補者の能力や適性と無関係です。
・住んでいる地域の詳細な住所を教えてください。
・住んでいる地域にはどのような特徴がありますか?
・家の付近で目印となるものは何ですか?
・自宅周辺の地図を書いてください。
家族構成や家族に関する質問
家族構成や家族に関する事項は候補者の能力や適性に関係ないだけでなく、本人に責任のない事項に該当します。
・両親はどこの企業に勤めていますか?
・家族の年収はどれくらいですか?
・母子・父子家庭になった理由は何ですか?
・家族はどのような雰囲気ですか?
資産に関する質問
資産に関する質問も本人に責任のない事項であるとともに、部落差別などにあたる可能性があるため不適切とされています。
・現在住んでいる家は持ち家ですか?
・自家用車を持っていますか?
・土地などを保有していますか?
・貯金はどのくらいありますか?
思想・信条、宗教、支持政党に関する質問
憲法で自由を保障されている事柄を採用選考で質問するのは、基本的人権を侵すことにつながります。じつは愛読書に関する質問なども、愛読書が合否判断に使われれば「思想の自由」などに抵触する恐れがあり、厚生労働省のガイドラインでは望ましくないとされています。
・どの党を支持していますか?
・神様や仏さまを信じますか?
・家では何新聞を読んでいますか?
・あなたの愛読書は何ですか?
男女雇用機会均等法に抵触する質問
女性に限定しての質問は、男女雇用機会均等法の趣旨に違反する採用選考につながりますので、NGです。
・何歳で結婚したいですか?
・現在交際中の人はいますか?
・子供は欲しいですか?
・結婚、出産しても仕事を続けられますか?
面接官としてタブーな質問をしてしまった場合は
タブーとされる質問をして、求職者からハローワークや厚生労働省に訴えがいった場合、まずは厚生労働省から改善命令が発せられ、改善命令に従わない場合は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
現在はSNSなどで情報が拡散しやすくなっているため、企業ブランドが損なわれたり、求職者が激減したりするリスクもあります。うっかりタブーな質問をしてしまった場合はすぐに訂正をし、回答内容が合否に影響しないこと、回答が必須でないことを求職者に伝えましょう。
家族の仕事や人生観、生活信条、尊敬する人物、愛読書などは、相手の「人柄」や「価値観」を知るうえで有効な質問です。しかし、就職差別につながる恐れがあるため、扱いにはくれぐれも注意しましょう。
タブーな質問を避けるためには、質問の目的を明確にしておくこと同時に、知りたいことに対して適切な聞き方を準備しておくことが大切です。
聞いてはいけない質問にあたるのか難しい事例
職業安定法や厚生労働省のガイドラインは、タブーとされる質問が明確に記載されているわけではないため、聞いてはいけない質問かどうかの判断に困ることも少なくないでしょう。ここでは、判断が難しい事例として「犯罪履歴に関する質問」と「在宅勤務に関する質問」をご紹介します。
犯罪歴に関する質問
犯罪歴に関する質問は法律上で禁止されていませんが、仕事内容と関係ない犯罪歴を聞くことはタブーとみなされます。例えば業務でトラックの運転をする場合、安全運転ができるかを確認する目的で交通の犯罪歴を質問するのは問題ありません。
しかし、業務に関係ない少年時代の犯罪歴などを質問した場合は、損害賠償の対象にもなり得ますので注意しましょう。
在宅勤務に関する質問
現在は、リモートワークの普及により住宅状況の質問をする機会が増えてきています。自宅内で業務ができる場所を確保できるか、パソコンの有無、インターネット環境などに関する質問であれば特に問題はありません。
一方で、間取りや住宅の種類、部屋数などの質問は、適性や本人の能力に関係ない事柄に該当するとして、厚生労働省のガイドラインでは望ましくないとされています。また、「小さな子供がいる」「自宅で介護をしている」といった家族状況などに関する質問も同様に注意が必要です。
まとめ
面接官は求職者の基本的人権を尊重し、適性・能力に基づいて選考を行なう必要があります。そのためには、厚生労働省が定める公正な採用選考のガイドラインを認識するとともに、面接で聞いてはいけない事項や質問を知っておくことが重要です。
タブーとされている質問は求職者に不快感を与えるだけでなく、就職差別や人種差別、男女雇用機会均等法違反につながる恐れがあり、場合によっては罰則を科せられる可能性もあります。また、面接でのやり取りがSNSなどで拡散される事例などもあり、企業イメージやブランドにも悪影響をおよぼしかねません。
万が一タブーな質問をしてしまった場合はすぐに訂正し、回答内容が合否に影響しないことや、回答は必須でない旨を伝えることが必要です。