
「採用活動」を「マーケティング」と捉えたからといって、採用活動の流れが大きく変わるわけではありません。しかし、今までの採用計画の中ではあまり重視されなかったステップを重要視したり、ステップを実行する中でマーケティングの考え方やフレームワークを使ったりすることが特徴です。
詳しい内容を紹介すると「すでにやっている」ことも一部あると思います。採用マーケティングの全体像やポイントを把握して、採用活動を整理していただくと、より効果的に実践できるでしょう。
マーケティングにおける基本的な用語は、採用マーケティングでは以下のように置き換えて考えます。
- 顧客 :「求職者」
- 商品・サービス :「自社」であり「自社で働く体験や得られるキャリア」
- 競合 :採用ターゲットである求職者が併願する「採用競合」(同業他社が含まれることは多いですが、異業種が入る場合も多々あります)
- 商品・サービスの購入 :「内定承諾」
通常の「マーケティング」と「採用マーケティング」の大きな違いは、「選考」の存在です。商品・サービスの販売をするときには、顧客像を設定していたとしても、極端には「商品・サービスを購入してくれた人は全員が顧客」です。一方で、採用の場合には「自社の内定を出せる人だけが顧客」といえます。
採用マーケティングでは「求職者」を「顧客」と捉えるからといって、選考基準を変えるわけではありません。今の時代、一人ひとりの社員の重要性が増しているからこそ、採用基準を落とすわけにはいきません。しかし、「(企業が)採用してあげる」という企業中心の考え方では、今の時代に通用しないことも事実です。
「自社の採用基準を満たす人材から、いかに選ばれるか」というテーマを扱うのが採用マーケティングです。従って、採用マーケティングに成功すれば、より採用基準を高められる、優秀な人材を採れるようになります。
以上の内容を前提として、採用マーケティングの基本的な7つのステップを見ていきましょう。通常の採用計画と違うポイントだけ詳細に解説していきます。
ステップ1.採用目標の設定(大枠での採用ターゲット、目標人数など)
どんな人を採りたいかという採用ターゲットを決めて、目標人数などを決定します。採用計画を立てる中で、当たり前に行ってきたステップと変わりません。
ステップ2.ペルソナ設定
ステップ1で設定したターゲットを具体化し、詳細な人物像、すなわちペルソナを設定していきます。ペルソナ設定はこれまでの採用計画ではあまり重視されていませんでしたが、採用マーケティングにおいては重要なステップです。
「採用ターゲット」と「ペルソナ」は何が違うのでしょうか。一般的に採用ターゲットは、「どんなポジションでどんな人を採りたいか」であり、年齢、学歴、職歴、能力、経験値、資格などの要素で成り立つことが多いでしょう。HR業界で、採用ターゲットのことを“スペック(性能)”と言うこともあるぐらい、「採用企業の視点で考えた採用基準」という側面が強いものです。
一方で、「ペルソナ」は、採用ターゲットに「人」としての側面を肉付けして、具体的かつ詳細なプロフィールに落とし込んだものです。
採用ターゲット(顧客)がどんな人なのか、架空の人間像を描いていく作業がペルソナ設定です。どんな価値観を持っているのか、仕事選びで何を重視するのか、どんなコミュニティに所属しているのか、就職活動にどうやって行っているのか、普段見ているサイトはどんなものか、どんな友達が多いかなど、具体的な個人像を描き出していきます。
日本のマーケティング分野で、「個人像」の設定で有名な事例が「Soup Stock Tokyo」です。創業10年で52店舗、売上高42億円と驚異的な成長を遂げた「スープ屋さん」ですが、その陰に「秋野つゆ」という人物像が設定されていたことで有名です。
正確には「秋野つゆ」はペルソナではなく、「Soup Stock Tokyo」の目指すものを擬人化したブランド・パーソナリティなのですが、ペルソナの理解が進む事例ですので、ご紹介します。
「Soup Stock Tokyo」で設定した「秋野つゆ」の人物像は下記のようなものです。
< 秋野つゆ(37歳)>
- 女性
- 都内在住
- 独身か共働きで経済的に余裕がある
- 都心で働くバリバリのキャリアウーマン
特徴
- 社交的な性格
- 自分の時間を大切にする
- シンプルでセンスの良いものを追求する
- 個性的でこだわりがある。
- 装飾より機能を好む
- フォアグラよりレバ焼きを頼む
- プールに行ったらいきなりクロールから始める
ここまで明確に人物像が設定されていると、店舗の内装はどんなものがいいか、どこにお店を作るべきか、どんなメニューがいいか、どんな広告を出したらいいか、キャッチコピーはどういうものがいいいか、想像が膨らんできます。なお、ご興味あれば「秋野つゆ」で検索していただくと、ペルソナに関する記事が多数見つかります。
採用マーケティングにおいて、ペルソナは上記のような具体的な人物像として作成し、採用活動に関わる関係者間で共有するものです。ペルソナがあることで、どんな媒体に出すべきか、採用広告や説明会で何を伝えるべきか、面接官は誰をアテンドすべきか、といったことが明確かつ一貫性を持って実行できるようになります。
なお、ペルソナの設定方法は以下の記事でも詳細に説明していますので、ご興味あればご覧ください。
ステップ3.魅力の抽出
採用マーケティングにおける「魅力の抽出」で大切な点は、「ペルソナが魅力に感じるポイントは何か」です。
また、このステップで「採用競合はどんな魅力を打ち出しているか」もチェックしておくと良いでしょう。
ステップ4.採用計画の詳細設計
採用計画の詳細設計では、媒体の選定、採用のコンセプトやキャッチコピー、説明会のコンテンツ設計、またプロセス数値の計画などが行われていきます。
ここでも、ペルソナが作成されているからこそ、ペルソナがどのように就職活動をするか、どのような採用メッセージに強く惹かれるかといった点で一貫性を持って検討することが出来ます。
ステップ5.採用プロセスの設計
採用計画の詳細設計と並行しつつ、採用プロセス(選考と魅了付けのステップ)が設定されます。
採用プロセスの設計における通常の採用計画と採用マーケティングの違いは、「カスタマージャーニー」の考え方を組み込む点です。カスタマージャーニーは、顧客が自社サービスに触れてから購入を決めるまで、購入してからリピーターや自社のファンになるまでのプロセスを、「顧客の旅(カスタマージャーニー)」として描いたものです。
カスタマージャーニーという名の通り、単なる購買プロセスではなく、顧客の視点に立った「顧客体験」の整理です。
採用で言えば、例えば「就職サイトで自社の存在を知る」⇒「エントリー」⇒「説明会への参加」⇒「面接」⇒「内定」⇒「内定承諾」⇒「入社」といったステップを設定したうえで、
- タッチポイント:ステップ内で自社とどんな接点を持つか?(求人原稿、採用ページ、e-mail、LINE、TEL、面接官etc)
- 行動:“自社への応募”だけでなく“ペルソナの就職活動全体”として、どんな行動があるか?(他社の説明会に行く、友達に相談する、口コミサイトを調べるetc)
- 思考、感情:応募者がどんな思考や感情を持つか?(『面白そうな会社だな』『口コミサイトに書かれていたこの悪評はホントかな?』「『内定嬉しい!でもこの会社に決めていいのかな?』etc)
- 入社意欲:例えば「0:知らない状態」~「100:絶対入社する!」までどう変動するか?(口コミサイトを見たり、他社の説明会に行ったりすれば、意欲が落ちるタイミングもあるはずです)
を考えていきます。そして、応募者の心理状態などを想像したうえで、どのフェーズでどんなメッセージを発信するか、どこで社員面談を入れるか、など採用プロセスの追加や調整を行います。
ステップ6.実行
採用計画を踏まえて、採用実務を実行していきます。ペルソナをもとに採用活動の進め方を考え抜いてきたことが、ブレやズレを防ぎ、実行フェーズの効果性を高めてくれます。実行に移していったときに計画との「ズレ」が生じることもあるでしょう。細かな点は動きながら修正していきましょう。
ステップ7.検証
採用活動の実行中、また終わった段階で検証が行われます。
マーケティングにおいて非常に重視されるのが「現状の把握と施策の検証」⇒「原因の考察と次の施策」というPDCAサイクルです。
常に数字でリアルタイムに把握し、数字の裏にある仮設とのズレ、施策のミス、顧客の反応や感情を考察して、次の施策を打っていきます。
しかし、採用活動では、マーケティングの世界ほどPDCAや検証が重視されていないことが良くあります。重視されていない理由は採用活動、特に新卒採用に1サイクルが1年と長かったり、一度動かし始めると途中で修正しにくかったりといった要因があります。
しかし、採用がうまい会社ほど現状を正確に数値で把握していますし、成功や失敗をしっかり検証して次回や翌年の採用計画に反映していっています。
うまくいったプロセスを進化させ、うまくいかなかったプロセスは新しい手を試すという地道な積み重ねが、採用力を高めることに繋がります。