中途採用の面接では、応募者の経歴や能力が自社にマッチしているか、自社の採用職種で成果を上げられるかを見極めます。希望する働き方やビジョン、価値観が自社のカルチャーやバリューに合っているかも、重要な採用基準です。人材の見極めに悩む面接官は、ぜひ質問方法を見直してみてください。
<目次>
中途採用で面接官が押さえたいポイント
(出典) photo-ac.com
中途採用と新卒採用では、評価する要素が変わります。適切な質問を考えるためにも、まずは中途採用で基本となる考え方とポイントを把握しておきましょう。
転職回数だけで判断しない
日本では転職回数が多い求職者に対して、『忍耐力がない人』『すぐ辞める人』『業務の習熟度が足りない人』というイメージが少なからずあります。実際は転職の理由には多様な背景が絡んでおり、必ずしもマイナスの理由があるとは限りません。家庭や会社の事情で会社を退職せざるを得ないケースもあれば、夢や目標に近づくために転職をしている人もいるでしょう。
面接官は、転職が多い人への色眼鏡は外す必要があります。『中途採用の目的』を意識して偏見を持たずに相手を見なければ、優秀な人材を見逃してしまうかもしれません。
面接前は応募者の情報を十分に確認した上で、転職した回数ではなく『理由』にフォーカスしましょう。面接中は相手を見下すような発言や、批判的な口調に十分な注意が必要です。
適切な深掘り質問で見極める
企業が中途採用に求めるのは、即戦力性や専門性です。面接官が応募者の素質や能力を見抜けない場合、期待外れの結果につながります。面接では自分の実力を誇張したり、不都合なことを隠したりする応募者も珍しくありません。
面接官は履歴書や職務経歴書を参考に、『深掘り質問』で相手の核心に迫る必要があります。YESやNOで簡単に答えられる質問ではなく、「なぜそう感じたのですか?」「どのような解決策を取ったのですか?」といったように、過去の行動や背景を深く掘り下げていきましょう。
また、仕事に実績等に関しては、成果を上げたプロセスや果たした役割をしっかりと深掘りしましょう。ただし、プライベートや業務に関係ない事柄を根掘り葉掘り聞くのはNGです。一つの事柄を執拗に問い詰めると、圧迫面接を受けたという印象を与えて企業のイメージを損ないかねません。
注意が必要な質問を把握しておく
厚生労働省では公正な採用選考の基準として、『基本的人権を尊重すること』『適性・能力に基づいて行うこと』を挙げています。前述の通り、面接では仕事への適性・能力に関係のない事項を質問するのは望ましくありません。就職差別をしていると捉えられる恐れがあります。
次の項目に該当する質問は厚生労働省が「避けたほうが良い質問」として提示しているガイドラインです。知っておくと良いでしょう。
- 本人に責任のない事項(本籍・出生地・住宅状況・家族環境など)
- 本来自由であるべき事項(宗教・支持政党・人生観・尊敬する人物・愛読書など)
なお、男女雇用均等法では、性別を理由にした就職差別も禁じられています。「結婚、出産しても働き続けますか?」という女性への問いは出産をする性に対しての差別を招く可能性があり、同法の趣旨に反した質問です。相手の性格特性等を把握することは大切ですが、トラブルにつながりかねない質問を把握し、何気なく聞いてしまうというミスを犯さないように気を付けましょう。
参考1:公正な採用選考の基本|厚生労働省
参考2:男女均等な採用選考ルール|厚生労働省
応募者の内面的な資質を確認する質問
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自分の性格特性や強み・弱み
中途採用においては、活躍して欲しいポジション、そして、求めるスキルや人物像が明確です。
面接官は『活躍のために必要な能力やスキル』に加えて、『応募者の性格特性、長所・短所』を確認することで、企業文化や仕事内容にマッチした人材であるかが把握できるでしょう。特に即戦力や専門性が求められる現場において、業務における強みは重要なポイントです。過去の実績を聞くだけでなく、『なぜ成功したと思うのか』や『どのような方法で進めたのか』まで掘り下げましょう。
質問には、答えがYES・NOの2択等になる『クローズドクエスチョン』と、答えに制限を設けない『オープンクエスチョン』があります。適切にオープンクエスチョンを挟み、応募者の考えや意見、具体事例を引き出すのが面接で内面を測るときのポイントです。
- なぜそのように思うのですか?(根拠・理由)
- エピソードを教えてください(具体例)
ストレスの感じやすさや解消方法
ストレスを感じやすい人は業務や人間関係でトラブルが生じると、体調を崩したりコミュニケーションが取りづらくなったりする傾向があります。採用後も早期離職等につながる可能性があるため、採用前に『ストレス耐性』を見極めることが重要です。
以下のような質問によって、応募者のストレスを回避する能力や処理能力、経験値などを推測しましょう。
- 今までの1番の失敗は何ですか?どう乗り越えたかを教えてください
- どんなときにストレスを感じますか?
- 人間関係のトラブルはどう対処しますか?
- 仕事がない日は何をしますか?
わざと威圧的な態度を取って、相手の反応を見る方法は『圧迫面接』と呼ばれます。ストレス耐性のチェック法として取り入れる企業もありますが、面接の仕方として好ましくないでしょう。応募者の本音が引き出せない上、企業イメージが低下して優秀な人材を確保できなくなる恐れがあります。
面接官には質問の内容を工夫して、相手のストレス耐性を見極めるスキルが必要です。
応募者のスキルを確認する質問
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中途採用の応募者にとって、面接は自分の能力をアピールする場所です。一方で面接官は、応募者が培ってきた経験やスキルが自社に最大限に生かせるか、過去に上げてきた成果等が自社で再現性があるかを判断しなければなりません。
前職で作った実績と過程の再現性
前職での実績や保有する資格はポートフォリオや職務経歴書を見れば分かりますが、書かれているのは概略のみです。「営業部で〇〇に表彰されました」「集客に関連する業務に携わりました」とあっても、具体的にどのような行動で貢献したのかが見えてきません。
自社業務への適性や具体的な能力を知るためにも、面接では成果を出すまでの過程やエピソードを具体的に話してもらうことがポイントです。
- どんな状況で、どんな立場で関わったのですか?
- どんな目標を立て、どのように実績を達成したのですか?
- 実績を出すまでに、1番苦労したことは何ですか?どんな方法で問題を解決したのですか?
- どんなプロセスで意思決定したのですか?
上記のような質問を通じて、応募者の業務実績を細かく把握して自社で再現性があるかを見極めていきましょう。また、下記のようなチームワークや周囲とのコミュニケーション、またストレス耐性等に関しても「過去の事実」を確認して、応募者の回答に矛盾がないか等確認していきましょう。
チームでどのように仕事をしてきたか
組織で働くうえではチームワークは欠かせません。チームでは共通の目標を達成するために、メンバーが協力して仕事を進めていきます。
面接では『チームに貢献する意思』や『協調性』を見極める必要があります。次のような質問は、チームワークに関する資質を見極めるのに有効です。
- 仕事がはかどるのは、個人とチームのどちらですか?
- 前において、チームでどんな役割を果たしていましたか?
- チームで取り組んだときのエピソードを教えてください
- チームではどんな課題に直面しましたか?解決方法も教えてください
『チームでどのように仕事をしてきたか』に具体的に答えてもらうことで、チームワークに必要な共感力やコミュニケーション能力を把握できます。募集中の職種がチームリーダーである場合は、『リーダーとしての素質の有無』や『マネジメントスキル』もチェックしましょう。
人間関係にどう対応するか
職場にはさまざまなタイプのメンバーがいます。気が合う人もいれば合わない人もおり、『職場の悩み=人間関係』という人も少なくないのが実情です。中途採用の場合は、同僚が同世代とは限りません。年下が自分の上司となったり年が離れた人に囲まれたりと、適応力が求められるシーンが多くあるでしょう。
チームワークが求められる部署や職務では人間関係が生産性に影響を及ぼすため、応募者の『人間関係を構築する力』を見極める必要があります。
- 一緒に仕事をしたい人はどんなタイプですか?
- 一緒に仕事をしたくない人はどんなタイプですか?また、相手に対してどう接しますか?
- チーム内で揉め事が起こったとき、あなたはどう対処しますか?
- 人間関係で困った経験はありますか?
人柄の好みや人間関係で課題を抱えたときの対処法を知ると、相手が人間関係に対してどのような価値観を持っているのかが分かります。
プレゼンテーションをしてもらうのも選択肢
近年は面接にプレゼンテーションを取り入れる企業が増えています。ありきたりな質問と型通りの回答だけでは、簡単に応募者の本質は見抜けません。自由形式のプレゼンテーションを取り入れると、論理的思考力や表現力・企画力といった本当の実力を判断できるトでしょう。
プレゼンのテーマは『自己PR』『短所・長所』『これから挑戦したいこと』などが一般的ですが、中途採用なら過去の経験から『課題の解決方法』や『職務から得た学び』『自社に対する提案』を話してもらうのも良いでしょう。プレゼンの時間は内容によって変わるものの、10分以内が目安です。プレゼン後は質疑応答の時間も設け、面接官の質問に答えてもらいます。
仕事に対する考え方を確認する質問
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仕事に対する考え方を聞くと、応募者と企業の相性が分かります。過去の実績や経歴だけでなく、応募者が抱くキャリアビジョンについても理解を深めましょう。
退職や転職を考えた理由
人材に長く働いてもらうためにも、『退職した理由』や『転職を考えている理由』を確認しましょう。見るべきポイントは大きく3つです。
- どのような考え・信念に基づいて退職や転職をするのか
- 退職を決める前に、問題解決のためのアクションを起こしたのか
- 退職理由と志望動機に一貫性はあるか
例えば「期待していた社内評価が得られなかった」と答えた場合、客観的に正しい評価なのか、上司に相談したのか等が判断のポイントになるでしょう。そもそも自己認識が誤っていたり、不満をためこむだけで解決策を見出そうとしなかったりする人は、採用しても同じ理由で離職をする可能性があるでしょう。
また志望動機には「新しいことに挑戦したい」と書いているのにもかかわらず、退職理由で「専門性が生かせなかった」とあれば筋が通りません。退職理由と志望動機に矛盾がないかもチェックしましょう。
どのようなキャリアビジョンを描いているか
応募者のキャリアビジョン(将来像)を問う質問は、採用のミスマッチの防止に役立ちます。新卒採用と異なり、中途採用では採用後に歩むキャリアが決まっているケースが大半です。企業と応募者のビジョンが合致しない場合、いずれは離職につながる可能性が高いでしょう。次のような質問をぶつけてみて、返ってくる答えでビジョンを判断します。
- 将来の夢や目標を教えてください
- 仕事を通して、社会にどう貢献したいですか?
- 10年後はどんな自分になっていると思いますか?
- 今後身に付けたいスキルや挑戦してみたい仕事は何ですか?
自社で築けるキャリアと大きくかけ離れている場合は、採用しても定着しない恐れがあります。また答えが漠然としている人は他にやりたいことが見つかった時点で、離職する可能性が高いでしょう。企業のビジョンとある程度は合致していて、明確な計画を立てている応募者を合格者の候補とするのが良いでしょう。
何をイメージして応募したか確認する質問
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自社に関する質問を投げかけてみると、応募者が自社をどのような位置付けで見ているのかが分かります。スキル面のマッチングだけでなく、自社の企業文化が応募者にマッチしているどうかの見極めにも力を入れましょう。
応募の動機と入社後に上げられそうな成果
最終候補者が複数人いる場合、『自社に対する本気度』が決め手になります。『数多くの会社の中で、なぜこの会社に応募したのか』を聞くことで、応募者の熱意の程度が分かるでしょう。応募者が自社に対して抱いている思いは、以下のような質問をして見極めます。
- なぜこの会社に応募しましたか?
- これまでの経験をどう生かせると思いますか?ト
- 入社したらどのような成果を上げられると思いますか?
特に『入社後にどのような成果が上げられそうか』『どのような成果を上げられると思うか』等を応募した企業のステージや業務に絡めてキチンと話せる応募者は、自己分析はもちろん企業分析も入念に行っていると推測されますし、入社後の仕事スタイルにも反映されるでしょう。どの企業にも当てはまるような回答をする人に比べて本気度がありますし、仕事力も高いといえるでしょう。
応募者の求める働き方
中途採用では、企業文化(カルチャー)と応募者が求める働き方が一致しているかどうかも重要です。企業文化とは会社と従業員の間で共有される価値観や行動規範を指します。
社員の求める働き方と企業文化が一致していると、業務が円滑に進んで生産性が向上するだけでなく離職率が低下します。逆に価値観が一致していなければ、企業が求めるスキルや経験を持っていても長期的な活躍は難しいでしょう。それどころか、能力が高ければ高いほど、職場の結束や風土を壊す可能性もあります。
自社のカルチャーに合うかを確認するには、次のようにストレートな聞き方が効果的です。
- 働くうえで大切にしていることを3つ挙げるとすると何ですか?
- 上記をもう一段具体的に教えてください
- 前職の社風や行動規範で好きだったこと、変えたいと思っていたことは何ですか?
組織のカルチャーは企業ごとに大きく異なり、価値観や行動規範が真逆の場合も少なくありません。面接官は応募者の言葉や行動から、企業文化へのマッチ度を計る必要があります。
入社後に希望する年収
中途採用の面接では忘れずに、『入社後に希望する年収』も聞きましょう。応募者の希望年収が自社の人事制度に合うかどうか、応募者が自分の市場価値をどう評価しているかが明確になります。
応募者が自分の市場価値を正しく理解しておらず、企業側の評価との間に大きな差がある場合は要注意です。入社しても「この会社は正しい評価をしてくれない」「もっと条件を提示する会社があるはずだ」と感じてしまいます。
応募者の希望に添えない場合は、スキルアップ制度や成果報酬などを挙げ、努力すれば報われる環境だと伝えましょう。応募者の希望通りの年収を提示できなくても、納得感を持って入社してもらえる可能性はあるでしょう。
まとめ
採用にかかるコストを考えると、「離職するリスクが高い応募者は排除したい」というのが採用側の本音でしょう。
新卒採用と違って中途採用では、転職回数が多い人やブランクがある人など多様な背景の応募者がいます。面接官は応募者に対する先入観を取り払った上で、面接に臨む必要があります。応募者の回答に対して適切に深掘り質問を繰り返し、素質やスキル・企業文化との相性を確認していきましょう。