最近、企業の経営層や人事の方から、ミドルシニアの活性化についての悩みを伺うことが増えています。1万人を超える大企業であり、「社員の約45%が50代以上」というNTTコミュニケーションズが、ミドルシニア社員の活性化にどう取り組んだのか。NTTコミュニケーションズの現役人事 浅井公一氏をお招きしてお話しいただきました。
本記事は、全3部構成となっており、vol.3ではキャリア自律のメカニズムについてご紹介します。
前後の記事が見たい方は、以下よりご覧ください。
<目次>
キャリア自律のメカニズム
キャリア自律を促進する上では、「何が起こると、人はキャリア自律に目覚めるのか?」ということも突き止める必要があると感じています。
これまでお話ししてきたように、8割の人はキャリア研修を受けてようやくキャリア自律のための行動を起こす人たちです。一方で、2割の人は、研修や教育を受けなくても自主的にキャリア自律できています。2割の人たちは、8割の人たちと何が違うのでしょうか。
我々は、自分でキャリア自律に目覚めた2割強の人を対象に、ヒアリングを繰り返してきました。ヒアリングを通じて分かったキャリア自律のメカニズム」を紹介します。
キャリア自律の条件1:感情を呼び起こす何か
仕事をしていく中で、自分の感情が大きく動くときはどんなときでしょうか。
例えば、「昇格した」「社長表彰を受けた」などのポジティブなイベントもあれば、その逆の「昇格できると思っていたのにできなかった」「期待したより低い評価だった」など、“期待したものが起こらなかった”というノンイベントもあります。このようなイベント・ノンイベントが起きたときに、人には喜怒哀楽の感情が生まれます。
キャリア自律に向けた行動に移す人は、その喜怒哀楽を体験、そこから連動して、「もっとやってみよう」あるいは「今こそ変わらなきゃ」という行動意欲が生まれていたことがわかりました。
つまり、ミドルシニアのキャリア自律は、感情を呼び起こす何かのきっかけがあり、そこから「今こそ変わらなきゃ」という行動意欲を生まれることが1つ目の条件になるわけです。
自律のための行動を起こすかどうかは、本人の価値観と意思によるところが大きいとはいえ、会社側でもキャリア自律のメカニズムをある程度コントロールすることは可能です。
もちろん、冒頭も伝えたように「よくある煽り文句」は通用しません。それぞれの会社に応じた「感情を呼び起こす仕掛け」が必要です。NTTコミュニケーションズでも、自社特有の事情を踏まえた、「一般的には通用しないけれど、NTTの社員には劇的に効く」自社専用の行動意欲を高めるプログラムを用意しています。
キャリア自律の条件2:ある程度の自信
ヒアリングを進める中で、行動意欲を持った人が新しい何かにチャレンジするためには、「成功するだろう」という裏付け、すなわち「ある程度の自信」が必要だということも分かりました。ある程度の自信があるからこそ、「変わらなきゃ」という行動意欲が実際の行動に結びつくのです。
ある程度の自信というのは、たとえば、以下のようなものです。
- これまで色々な部署で仕事をしてきたが、それなりに成果を出してきた
- 40代、50代になっても、真ん中くらいの一定の評価はとり続けている
- 異動でまったく新しい仕事にチャレンジしても、大きな失敗をせずやり遂げられた
ミドルシニアに多い「自信がない人」には、キャリア面談の中で自身の過去を振り返り、今までの仕事の中で積み重ねてきた「自信」に目を向けさせるテクニックも有効です。
多くの人は過去に「あの時は上手くいった」という成功体験を持っているはずですし、ベテランになるほど「他の人には難しいが、自分には当たり前にできること」に気づけないものです。面談では、そこに気づかせ自信をつけさせる運用をしています。
キャリア自律の条件3:メリット・デメリットの損益分岐
最後の決め手は、メリット・デメリットの損益分岐です。「新しい何かを始めてみよう」と行動意欲を持った人が、実際の行動に移すには、行動によって得られるもの(メリット)と失うもの(デメリット)を比較して、「メリットの方が大きい」と感じるかどうかが決め手になります。
例えば、新しい仕事にチャレンジするために、資格を取る必要があるとしましょう。資格を取るためには、向こう2年間は平日の夜や土日を勉強時間に費やす必要があると分かったとします。
そうすると、資格取得のメリットと平日夜の家族団らんや土日の趣味の時間を封印するデメリットを比較して、「デメリットの方が大きい」と感じれば、資格取得を躊躇したり、勉強の途中で挫折したりするわけです。逆に言うと、デメリットよりも「メリットの方が大きい」と思えれば、実際の行動に踏み切れるのです。
とはいえ、チャレンジに対しては失敗への怖れもあります。これには、「チャレンジを行ったけれど失敗した人」をロールモデルとして紹介する取り組みをしています。挑戦のプロセスにおいて身につけたこと、取り組んだことが、「後々別のことで活かされていった」というロールモデルとして登場してもらうのです。
これによって、「失敗してもデメリットは小さい、むしろメリットの方が大きい」という認識を持ってもらうようにしています。
ヒアリングを通じて、感情を呼び起こす何か、ある程度の自信、メリット・デメリットの損益分岐、3つの条件が揃えば、ミドルシニアでもほぼ100%の確率でキャリア自律の行動を起こせると分かりました。
会社がキャリア自律のためにできること
「シニア層が活性化しない」「シニア層がキャリア自律してくれない」と悩む企業は多いと思いますが、そもそも、企業として「やれることをやっていない」ケースもあるのではないでしょうか。
これから少子高齢化が進んで、ベテラン層の相対的なボリュームはもっと大きくなります。ミドルシニアへの対策が必要なのは何年も前から分かっていたのに、今まで放置してきたのであれば、人事部や会社に責任があるのではないでしょうか。
ミドルシニア個々人が変わる必要があるのはもちろんですが、会社側、人事の側も行動変容を起こす必要があると思います。
紹介してきたような研修と面談を使い、行動意欲と自信の醸成、そしてメリット・デメリットの損益分岐を上手に伝えることで、自主的にキャリア自律できる人は増やしていけると考えています。
もちろん、企業によって、文化や慣習、人事制度などのレギュレーションが異なります。従って、今回紹介したメカニズムが、うまくマッチしない企業もあるかもしれません。ですから、企業はそれぞれ自社専用の行動変容のメカニズムを研究し、自社専用の施策を試さなくてはならないでしょう。ここからがスタートだと思って、取り組んでみてはいかがでしょうか。
キャリア自律支援プラットフォームKakedasのご案内
ミドルシニア層のキャリア自律に、最も有効なのが、キャリア研修からキャリア面談の流れです。レポートでも紹介されている通り、「きっかけとしてのキャリア研修」と「自分ごとに落とし込んで行動に繋げるキャリア面談」をしっかり実施することが大切です。
一方で、キャリア面談について、「社内で実施することは工数的に難しい」「カウンセリングの技術を持った人がいない」「事業人事や経営陣がやると心理的安全性をつくる事が難しい」といったお悩みもよく伺います。
ジェイックでは、キャリア研修の提供、また、グループ会社Kakedasを通じて、従業員のキャリア面談・キャリアカウンセリングを外部委託できるキャリア自律支援プラットフォーム「Kakedas」を提供しています。
Kakedasには、1,945名(2022年9月時点)の国家資格キャリアコンサルタントが登録ししており、従業員ひとり一人に最適なキャリアコンサルタントをAIがマッチングして、キャリアカウンセリングを提供します。さらに個人情報を保護した形でキャリア面談や悩みの傾向を組織側にフィードバックし、組織開発に反映することができます。
ジェイックでは、ミドルシニアのモチベーション向上以外にも、社内公募制度と組み合わせた希望者向けのキャリア面談、特定階層(入社3年経過、入社5年経過、30歳前後、40歳前後)への定期的なキャリア面談、さらにはリーダー研修などと組み合わせた意欲向上に向けた1on1などにKakedas活用しています。
人事や上司によるキャリア面談は社内のキャリアパスや制度を踏まえたアドバイスができる一方で、「評価者である人事や上司にはキャリアの悩みや本音はしゃべりにくい…」という心理が生じるのも事実です。そして、実施する側として工数的な限界もあります。
その点、外部の国家資格者は、従業員からすると本音を相談しやすい相手であり、また話を引き出して言語化してもらう、質問を通じて思考を整理してもらうプロであります。社内にキャリア面談を導入するうえでは、社内と社外、それぞれの長所を生かして組み合わせていくことがおすすめです。