パタハラとは?パタハラ認定の事例と会社を守る対処法

更新:2023/07/10

作成:2022/05/31

東宮 美樹

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

パタハラとは?パタハラ認定の事例と会社を守る対処法

2022年4月、育児・介護休業法が改正され、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の義務化が始まりました。2022年10月1日からは「産後パパ育休」も創設されます。

 

昨今の社会的な価値観変化に伴い、子供を育てるパパ社員に関する法的制度の整備は今後も加速していくことになるでしょう。その中で、ハラスメント用語のひとつとして「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)」という言葉が取りざたされることも増えてきました。

 

本記事では、パタハラとは何か、また、パタハラ認定の事例やパタハラから会社を守る対処法とポイントを解説します。

 

<目次>

パタハラとは

パタハラとは「パタニティ・ハラスメント」の略です。パタニティとは、英語で「Paternity=父性」、ハラスメントとは「嫌がらせ」を意味します。

 

具体的にはパタハラとは、男性社員の育児休業制度の取得などに対する組織や上司・同僚からの嫌がらせを指します。「上司や同僚が男性社員の育児休業取得を拒むような言動を取る」「嫌みな発言をする」「育児休業取得後に降格させる」といった行為がパタハラにあたります。

 

育児休業等の申出・取得等を理由とする不利益取扱いの例

どのような言動が労働者の不利益にあたるのかをみていきましょう。法律等を確認すると下記の12項目が対象者の不利益にあたると考えられています。

<不利益にあたる取り扱いの例>
  1. 解雇すること。
  2. 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
  3. あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
  4. 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行なうこと。
  5. 就業環境を害すること。
  6. 自宅待機を命ずること。
  7. 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
  8. 降格させること。
  9. 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行なうこと。
  10. 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行なうこと。
  11. 不利益な配置の変更を行なうこと。
  12. 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

また、育児休業等に関するハラスメントでは「制度等の利用への嫌がらせ」もあります。ここでの「嫌がらせ」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、または雑務に従事させることをいいます。3パターンありますので下記の表で見てみましょう。

 

解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害するもの制度等を利用したことにより嫌がらせをするもの
パタハラの対象者男性社員
パタハラの行為者上司上司、同僚上司、同僚
該当要件上司がこういった言動を行なった場合は1回でもパタハラに該当。上司が言動を行なった場合は1回でも該当。同僚が行なった場合は繰り返しまたは継続的なものが該当。
上司が「個人的に」請求を取り下げるよう言う場合もパタハラに該当。会社としての場合は法律違反となる。
該当社員への直接的な言動である場合に該当。
客観的にみて該当社員が 就業する上で見逃すことができないほどの支障が生じるようなものを指します。
上司・同僚のいずれの場合であっても繰り返し又は継続的なものが該当。

 

パタハラ認定の事例

具体的にどういった言動を取ることでパタハラに認定されてしまうのか。パタハラの具体的な事例を紹介します。自社での発生を防げるように、しっかりと理解を深めてください。

 

育休復帰後すぐの遠方転勤命令

大手A企業のパタハラ事例です。育児休業から復帰した男性社員が、復帰後わずか2日で遠方に転勤を命じられます。社員の妻がTwitterで会社の対応を非難するツイートを発信したことから拡散して、最終的には会社が公式に見解発表をするなど、大きな社会問題となりました。

 

ここでのポイントは「育休明けに転勤命令を出すことは違法なのか?」ということです。

育児・介護休業法では「育児休業申出をし、または育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と定められています(育児・介護休業法第10条)

 

今回の件で会社の公式見解では、育休前の時点で「社員に対して勤務状況に照らし合わせ、異動が必要であると判断していたものの、本人へ内示する前に育休に入られたため、育休明け直後に内示することとなった」としています。この場合、法律的には必ずしも不利益な取扱いには当たりません。

 

しかし、今回の件はSNSで多くの人に拡散され、対応そのものに違法性がなかったとしても、会社としての社会的信用は失われる結果となりました。

 

最近では法的な問題がなかったとしても、SNSでの発信により大きな社会問題となり、法的な責任以上に、ブランドが棄損される等の大きなダメージが生じることが増えましたので注意が必要です。

 

育休取得後の不当な部署異動

続いては、大手B企業のパタハラ事例です。本事例は以下のような内容です。

 

育児休業から復帰した男性社員が、復帰直後に本社から地方出向を命じられ、復帰前の仕事と全く違う荷下ろしや梱包作業に就きました。その後本社に戻ったものの、ここでも重要性の低い業務に就かされます。

 

当該社員は、育児休業明けに自身の技能や経験と関係のない部署へ異動させられたことは、育児休業取得に対する事実上の懲戒処分であり、育児休業を取得したいと考える他の社員に対する見せしめだ、と主張しました。

 

当該社員が加入する労働組合・首都圏青年ユニオンは、会社に対して慰謝料請求の訴訟を起こし、2021年に和解が成立しています(和解内容は公表されていません)。

 

事例のポイントは男性社員が社外の「労働組合」に加入して訴えたという点です。

 

首都圏青年ユニオンとは、パート・アルバイト・フリーター・派遣・正社員など、どのような働き方、どのような職業の人でも、誰でも入れる若者のためのユニオン(労働組合)です。月収により組合費が決まっていて、一番高い場合でも月額3,300円となっています。

 

会社の中に労働組合がなくても、こういった社外の組織に加入して、大きな力を得て訴えを起こされることもあります。社内には労働組合がないから大丈夫だろう等と思わないことが大切です。

 

上記以外でのパタハラ認定される具体例を紹介していきます。

 

育児休業の取得について上司に相談したケース

  • 「他の人を雇うので早めに辞めてもらいたい」と言われた
  • 「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない。親で対応できないのか」と言われた
  • 「自分だけ育児休業を利用して休むなんて周りに迷惑」と言われた
  • 「育児休業を請求しないよう」言われた
  • 「育児休業の請求を取り下げるよう」言われた

 

育児休業を利用したことを理由にしたケース

  • 本人の意思に沿わない配置転換を命じられた
  • 今まで経験したことない業務に就かされた
  • 簡単な業務しか担当させてもらえなくなった
  • 「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた

 

同僚からのパタハラ

  • 育児休業を利用する旨を周囲に伝えたところ、同僚から「自分なら請求しない。あなたも利用しないべき。」と言われた。「でも自分は請求したい」と再度伝えたが、再度同様の発言を繰り返しされ、育児休業の取得をあきらめざるを得なかった。
  • 同僚が「育児休暇を取得した人にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し言い、実際に雑務のみさせられる状況となった。

 

パタハラに該当しない言動の具体例

先ほどの事例はパタハラにあたると考えられますが、逆にパタハラに該当しない言動の具体例も確認しておきましょう。下記のような事例はパタハラには該当しません。

  • 業務体制を見直すため、上司が育児休業をいつからいつまで取得するのか確認すること。
  • 同僚が自分の休暇との調整をする目的で休業の期間を尋ね、また、休業期間の変更を相談すること。

上記のように、業務上必要な場合の言動はパタハラには該当しません。ただし、制度等の利用を希望する労働者に対する変更の依頼や相談は、「強要しない場合」に限られますので注意が必要です。

 

パタハラに対しての法律上の罰則

実際に法的にパタハラ認定された場合の罰則についても説明します。

 

実際の罰則について

2022年4月1日より、中小企業に対してもパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が適用されました。パタハラに対する罰則もパワハラ防止法に含まれるものとなります。

 

現時点(2022年5点月)では、パワハラ防止法には具体的な罰則規定はありません。しかし、同法ではパワハラを防止するために講ずべき措置についての「努力義務」が企業に課されています。

 

パタハラと併せて、パワハラについて具体的にどのような努力義務が課せられるのかを確認しておきましょう。

 

<パワーハラスメント防止対策の法制化(労働施策総合推進法)の内容>

○ パワーハラスメントとは、「①優越的な関係を背景とした」、「②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」「③就業環境を害すること」(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)である。
○ 事業主に、パワーハラスメント防止のため、相談体制の整備等の雇用管理上の措置を講じることが義務付けられる
○ パワーハラスメントの具体的な定義や事業主が講じる雇用管理上の措置の具体的な内容を定めるため、厚生労働大臣が「指針」を策定する。
○ パワーハラスメントに関する労使紛争について、都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とするとともに、措置義務等について履行確保(助言、指導、勧告等)のための規定を整備する。

 
<厚生労働大臣の指針で規定する内容の概略>

 

①パワハラの具体的な定義

  • 3つの要素(①優越的な関係を背景とした②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により③就業環境を害すること)の具体的内容
  • パワハラに該当する/しない行為例
  • 適正な範囲の業務指示や指導についてはパワハラに当たらないこと

②雇用管理上の措置の具体的内容 (現行のセクハラ防止の措置義務と同様)

  • 事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
  • 苦情などに対する相談体制の整備
  • 被害を受けた労働者へのケアや再発防止 等

 

実際にパタハラが起きてしまったら?パタハラ対応マニュアル

実際にパタハラが起きてしまったらどのように対応したらいいでしょうか。対処方法について順を追って確認しておきます。

 

相談窓口の設置、当事者への事実確認

まずは、パタハラを受けた当事者が相談するための「相談窓口」をあらかじめ定めることから始まります。相談窓口は、単に窓口を形式的に設けるだけではなく、実質的に対応可能であることが大事です。従って、社員が日頃から利用しやすい体制を整備しておくこと、そして相談窓口があることを社員に周知しておく必要があります。

 

相談は電話、メール、チャットツール、対面など、複数の方法で受けられるようにしておき、相談者の心理的・物理的なハードルを下げる努力も大切です。相談窓口に相談が来た場合、内容や状況に応じて、人事部や適切や部署、外部機関との連携をスピーディにできる仕組みとしましょう。

 

行為者への事実確認

次に、行為者への事実確認を行ないます。適正な範囲の業務指示や指導についてはパタハラには該当しません。

 

厳しく指導されたことによる一方的な逆恨みからハラスメントの訴えがくる場合もありますし、本人がパタハラへの理解が不十分にまま、感情的に訴えを起こしている可能性もあります。当事者の言い分のみを鵜呑みにして、処分することがないように十分気をつける必要があります。
指導内容が適切だったのか、言動が本当にパタハラに該当するのか、行為者の意見も十分に考慮する必要があります。

 

第三者への事実確認

当事者と行為者とされる者の間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合は、第三者からも事実関係をする必要があります。

 

当事者と行為者はお互いの主観で報告していますので不一致が生じる場合は第三者の目からみて、本当に言動がパタハラに該当すべき事案なのかを確認する必要があります。

 

当事者は事実を重く受け止め過ぎてしまう可能性があり、一方で、行為者は問題を軽く考えていたり、秘密裏に処理しようとしたりする可能性があります。公正なルールに基づいて判断を行なうためにも第三者からの意見聴取が重要です。

 

しかし、内容によっては個人情報にあたることもありますし、問題が社内に広まってしまう可能性もありますので、第三者への事実確認は慎重に行なう必要があります。

 

当事者への解決策、行為者への処分の決定

当事者や行為者、第三者の意見を聞き、状況を把握したら、当事者への解決策提示と行為者への処分決定を行ないます。

 

当事者への解決策としては、当事者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者から当事者への謝罪、当事者がメンタル不全を起こしている場合は産業医など外部機関に対しての相談対応を行なうなどがあります。

 

また、直接的な対応と共に、そもそもパタハラが起こりうることへの根本的な問題解決として、職場環境の改善、迅速な制度の利用に向けての環境整備などを検討して、当事者へ説明することも大切です。

 

行為者に対して処分等を行なう場合には、まずは就業規則に照らし合わせ、懲戒規定に沿った処分を行なうことになります。今回が初めての事案なのか、繰り返し行なわれているのかなど、情報を包括的にとらえて慎重に決定する必要があります。

 

その際には、再発を防ぐうえでも、重要性を理解してもらうためにも、行為者の言動が「なぜパタハラに該当してどのような問題があるのか」を理解してもらうことが大切です。

 

社内でパタハラを起こさせないためには

社内でパタハラを起こさせないためにはどういった取り組みをしていけばいいのかを確認しておきましょう。

 

ハラスメント防止規程の策定

パワハラ防止法にもあるように、まずはパタハラについて、会社としての定義や管理上の具体的な措置方法を定めておく必要があります。

 

このような規程がないと、「Aさんは会社にとって重要な役職だから今回は処罰を軽くしよう。秘密裏にことを進めよう」「Bさんは他にも問題行動が多いから処分を重くしよう」などと、人と状況によって対応や判断が変わり、公正な判断ができなくなる可能性があります。

 

具体的に以下のようなことを規程に盛り込みましょう。

【規程に盛り込みたい内容】

1)パタハラの具体的な定義を明記する

  • 3つの要素(①優越的な関係を背景とした②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により③就業環境を害すること)の具体的内容
  • パタハラに該当する/しない行為の具体例
  • 適正な範囲の業務指示や指導についてはパタハラに当たらないことの明記

 
2)パタハラ防止に向けた具体的内容

  • 会社によるパタハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
  • 苦情などに対する相談体制の整備
  • 被害を受けた労働者へのケアや再発防止
  • 社員が職場におけるパタハラに関し相談したことや、事実関係の確認に協力をしたこと等を理由として、解雇などの不利益な取扱いをされないこと

これらの内容は、就業規則や規程に明記するだけでなく、社内報やイントラネットなどをとおして、社員に広く知らしめることが大切です。

 

マネジメント研修の必要性

規程を策定しても、行為者となり得るマネジメント層が「自分がパタハラを起こすわけがない」と思い込んでいるとなんの意味もありません。

 

ハラスメントに関するマネジメント研修は、パタハラへの理解を促すだけでなく、予防対策としても大いに役立ちます。マネジメント層に理解が深まることは、働きやすい職場環境を構築する大きな近道です。

 

働きやすい職場環境の整備は、優秀な社員の定着率アップにもつながります。せっかく苦労して採用した優秀な社員が、パタハラ等で辞めることになるのは会社として大きな損失になります。

 

マネジメント層へのパタハラ、また、その他ハラスメントへの理解が会社全体の利益につながるということを理解してもらいましょう。

 

まとめ

パタハラについて、具体例や対策などを解説してきました。今後ますます社会の価値観は変わっていくことが予測されます。女性だけが育児休業を取るという考えは、もうすでに古くなってきています。

 

男女関係なく誰もが気持ちよく働くことで会社は成長していきますし、それを妨げる行為を法律でも社会的な評価としても大きなリスクに繋がります。パタハラそのほかのハラスメントについての理解を深め、健全な就業環境を整備していきましょう。

著者情報

東宮 美樹

株式会社ジェイック 取締役

東宮 美樹

筑波大学第一学群社会学類を卒業後、ハウス食品株式会社に入社。営業職として勤務した後、HR企業に転職。約3,000人の求職者のカウンセリングを体験。2006年にジェイック入社「研修講師」としてのキャリアをスタート。コーチング研修や「7つの習慣®」研修をはじめ、新人・若手研修から管理職のトレーニングまで幅広い研修に登壇。2014年には前例のない「リピート率100%」を達成。2015年に社員教育事業の事業責任者に就任。

著書、登壇セミナー

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