フォードフォワードとは、現状や過去に視点を置いたアドバイスではなく、「未来に視点を置いた人材育成の手法」です。
組織において現場のモチベーションが高まらない、若手がなかなか育たない、定着率が低いなどの状況がある場合、上司の指導力に問題がある場合があります。そういった場合、「フィードフォワード」の考え方を取り入れることもおすすめです。
記事では、フィードフォワードの考え方や特徴、期待できるメリット、実施方法などを詳しく解説します。
<目次>
フィードフォワードとは?
フィードフォワードとは、フィードバックのなかで「未来を見据えたアドバイス」を重点的に行なうやり方です。フィードバックの目的は、メンバーの言動に対して評価や改善点を伝えて、相手のモチベーションを高めたり、パフォーマンスを高めて能力開発につなげたりすることです。
フィードバックの目的を達成するためには、伝える内容を絞り込む、相手が受け止めやすい形式で行なうなどの原則を守る必要があります。特に、相手の不足点や成長課題を伝えるネガティブフィードバックは実施が難しく、伝え方の工夫やポジティブフィードバックとのバランスにも注意を払うことが必要です。
例えば、モチベーションの維持を考えると、「ポジティブとネガティブの比率は3:1以上が望ましい」などもフィードバックを効果的にするノウハウの一つです。
しかし、実際のビジネス現場では、フィードバックのやり方をしっかりと学んだことがない上司も多く存在します。やり方を学んでいないと、目に付きやすい欠点や不足点ばかりを伝えたり、成長に向けたフィードバックではなく、過去への指摘ばかりになっていたりすることもあります。
結果として、フィードバックが部下の成長やパフォーマンス向上に寄与できず、またフィードバックを受けること自体がネガティブな印象になっている恐れもあります。そのなかで、あえて未来志向をイメージさせ、人材育成にフォーカスしたフィードバックのやり方が「フィードフォワード」です。
記事では、フィードフォワードの考え方や手法に絞って解説していきますが、正しいフィードバックのやり方は以下で紹介しています。こちらも併せてお読みいただくと、参考になるでしょう。
フィードフォワードを行なう目的とは?
フィードフォワードを行なう最大の目的は、人材育成です。現状のフィードバックに効果が出ていない場合、先述のとおり、上司が正しいフィードバックの方法を理解していなかったり、フィードバックのスキルが不足していたりすることが考えられます。
フィードバックの正しいやり方を、「フィードフォワード」という形で学ばせてトレーニングすることで、人材育成にプラス効果が出てきます。
フィードフォワードを導入するメリット
人材育成にフィードフォワードの考え方を取り入れると、以下のような効果が生まれます。
メンバーの成長が加速する
上司がフィードフォワードを心がけると、フィードバックが前向きな形で終わり、コーチングのように自分で考えた答えが引き出されたりすることから、部下がフィードバックされた内容を受け止めやすくなります。
単なる「指摘」ではなく、「成長へのアドバイス」として内容を受け止めて実行することで、メンバーの成長が加速しやすくなります。
社員が定着しやすくなる
間違ったやり方で、ネガティブなフィードバックばかりが行なわれていると、「フィードバック」=「上司からのダメ出し・批判」と捉えられるようになります。当然、若手の成長は促されずモチベーションも下がり、定着率も徐々に落ちてくることでしょう。
一方で、未来を想起させるフィードフォワードが増えた場合、成長の加速とモチベーションの向上が期待できます。フィードフォワードは将来に向けた助言となるため、キャリア展望などが描きやすくなる一面もあります。
上司とメンバーの関係が改善する
過去の仕事に対する不足点ばかりを指摘するフィードバックが蔓延すると、メンバーが上司・仕事に対して、苦手意識や失敗への恐れを抱くようになるでしょう。そうなると、上司へ共有しなければならない事項を伝えられなかったり、工夫がない前例踏襲の仕事が増えたりと、さらに上司からの指摘を生む悪循環にも陥りかねません。
一方で、フィードフォワードの考え方が浸透すると、未来志向のフィードバックが増えます。過去の仕事に対する指摘ではなく、未来の仕事を成功させるためのアドバイスするようになり、メンバーも上司のフィードバックを受け入れやすくなります。
フィードフォワードのやり方
フィードフォワードを実行する際は、未来に向けたフィードバックをすることがポイントです。以下の流れで進めていくと、効果の高いフィードフォワードを実現できるでしょう。
ステップ1 相手の許可を得る
ネガティブフィードバックを行なう際の鉄則として、相手に受け入れる心構えをしてもらうということが挙げられます。「仕事の指摘なのだから、素直に聞き入れるのが当たり前」と考える方もいるかもしれませんが、相手も人間ですので、できなかったことや能力不足への指摘を受け入れるには心の準備が必要です。これは、フィードフォワードでも同様です。
フィードフォワードを行なう際には、まず「先ほどの商談の件、少しフィードバックして良いかな?」と相手の許可を得ることが大切です。本題に入る前に一言添えて、相手に話を聞く姿勢を作ってもらいましょう。
ステップ2 事実を具体的に伝える
フィードフォワードで大切なことは、事実を具体的に伝えることです。漠然とした内容ではなく、具体的に伝えましょう。特に、不足点や成長課題を指摘するときほど、具体的に指摘することが大切です。
なお、事実を具体的にフィードバックするときには、「客観的な事実」と「主観的な事実」の区分けを意識することが重要です。客観と主観、どちらの事実もフィードバックの対象になります。
- 主観的な事実:納期は金曜日だったのに、提出されたのが月曜日だった
- 客観的な事実:(私には)納得していないように見えた
ただし、主観的な事実を客観的な事実のように伝えてしまうと、相手が受け入れにくくなったり、ときには拒絶反応を引き起こしたりすることもあります。主観的な事実を伝えるときには、「私にはこう見えた」「私はこう感じた」というIメッセージを加え、主観的な事実であることを明確に伝えましょう。
Iメッセージで伝えることで、相手も「そんなつもりはなかったのですが……」などの訂正や反論できる余地が生まれ、状況のすり合わせを行ないやすくなります。すり合わせを行ったうえで「私からはこう見えた」「私にはこう感じられた」という事実を再度伝えることで、相手も納得して受け入れやすくなります。
ステップ3 未来での実行と結果に意識を持っていく
ステップ2までの内容は、過去の話です。フィードフォワードを行なう場合には、必ず未来志向の質問を行なって、「次回はどうするか?」へと落とし込むことがポイントです。
上司 :「また同じような商談があったら、次はどうしようか?」
メンバー :「ヒアリング項目を順番に聞いていくのではなく、相手の表情や声に気を配り、深掘りする質問を投げかけてみるようにします」
上司 :「良いね。具体的な悩みをしっかりヒアリングできたら、サービスを紹介する際にも、“何が解決するか?”“どう役立つか?”を相手目線で伝えられるね」
フィードフォワードでは、相手に未来志向で考えてもらい、相手の意見を受け止めることが大切です。上司の個人的な経験や主観に基づいて一方的にアドバイスするのではなく、まずは相手に一度質問して自ら考えさせましょう。
質問は、「また同じような機会があったら……」以外にも、「同じ商談をもう一度するなら……」「ここで深掘りの質問をしたら……」などの聞き方があるでしょう。過去への反省ではなく、“よりうまく行なうための方法”や“うまくできたらどうなるかの結果”などの未来に、意識を持っていく聞き方が重要です。
なお、フィードフォワードはネガティブな内容だけでなく、ポジティブな内容に対しても使えます。ポジティブな内容であれば、ステップ1の「相手の許可を得る」は飛ばしても大丈夫です。
相手にアドバイスをするときのポイント
ステップ3では、「未来志向で考えてもらうには、相手に一度質問して考えてもらうことが大切」と述べました。人は外から与えられた答えよりも、自分が出した答えのほうが納得しやすい特性がありますので、相手に自分で考えてもらうことが重要です。
ただし、相手の経験や能力によっては適切な答えが出てくるとは限りません。そういう場合には上司からのアドバイスが必要となることもあるでしょう。
アドバイスするときには、ステップ1と同じように「いま答えてくれた内容もそのとおりだね。加えて、1つアドバイスしても良いかな?」といった形で、相手の許可を得ることが重要です。
まとめ
フィードフォワードは、フィードバックするうえで「未来を見据えたポジティブな内容」に意識を向けることで、難易度の高いネガティブフィードバックを効果的に行なえる考え方です。
- ステップ1 相手の許可を得る
- ステップ2 事実を具体的に伝える
- ステップ3 未来での実行と結果に意識を持っていく
上記3ステップを意識することで、誰でもうまくネガティブフィードバックを行なえるようになります。もちろん、フィードフォワードの考え方はネガティブな内容だけでなく、ポジティブな内容に使うこともできます。
上司のフィードバック技術が高まると、組織の人材育成スピードが向上します。上司やOJT指導者のフィードバック技術を向上させて、組織の発展につなげてください。