ビジネスの場では当たり前のように行なわれているフィードバックですが、「実はどのようにフィードバックをすれば良いか分かっていない」「フィードバックの効果が思うように出ていない」といった悩みを抱えている方も多いでしょう。
記事では、ビジネス場面におけるフィードバックの目的や効果を高めるポイントを解説します。実際のフィードバック手法も紹介しますので、参考にしてください。
<目次>
フィードバックとは?
フィードバックとは過去の出来事や結果、見つかった課題や問題点、良かった部分や強みなどを、第三者が客観的にとらえて本人に伝えることで、行動改善や強化につなげる方法です。
元々は制御工学分野での”フィードバック制御”という言葉がもとになっています。これは入出力のあるシステムで「一度出力されたものを入力側に戻して、その後の出力の制御を行なう」といった意味です。
ビジネスで用いられるフィードバックも同じように、「過去の出来事に関する客観的な意見や評価を、実施した本人に伝えることで未来の成長に役立てる」という意味があります。
また、適切なフィードバックには、自分の行動に対する評価を得られることが達成感につながり、仕事への意欲が高まるという効果があります。逆に、フィードバックがないと、仕事がやりっぱなしになってしまったり、「放置されている」という感覚になりモチベーションが低下してしまったりすることも懸念されます。
フィードバックに関連して知っておきたい”ジョハリの窓”
”ジョハリの窓”とは、自己分析で使用する心理学モデルの一つです。1955年アメリカの心理学者ジョセフ・ルフトとハリ・インガムが発表した対人関係上の「気付き」に関するモデルであり、2人の名前から”ジョハリの窓”として親しまれ、現代まで幅広く使われています。
ジョハリの窓は、自分自身の理解を「自分が知っている/知らない」×「他人が知っている/知らない」という2軸、4つのマスに区切ったものです。
<ジョハリの窓における4つの自己>
- 開放の窓:自分も他人も知っている自己
- 秘密の窓:自分は知っているが、他人には開示していない自己
- 盲点の窓:他人は知っているが、自分では気付いていない自己
- 未知の窓:自分も他人もまだ知らない自己
ジョハリの窓に当てはめて考えると、フィードバックは「盲点の窓」に気付かせ、今後の成長に向けて「開放の窓」を広げることだともいえます。
フィードバックとフィードフォワードの違い
フィードバックと似た言葉で「フィードフォワード」という言葉もあります。フィードフォワードとフィードバックは基本的には同じ意味をもっています。
本来のフィードバックは、良いことも含めて「未来に向けて情報を伝える」ことであるにも関わらず、実際には「過去や現状の行動に対するネガティブな指摘」というフィードバックが実施されてしまっている傾向があります。
そこで、フィードバックにおける「未来に向けて」という視点を強調した概念がフィードフォワードです。「フォワード(先)」という言葉をつけることで、未来に向けたポジティブなイメージを強調しています。
フィードバックを行なう3つの目的
そもそもビジネス場面におけるフィードバックは何のために行われるものでしょうか。ここでは、フィードバックを実施する3つの目的を紹介します。実施する目的をきちんと把握することで、適切なフィードバックをしやすくなります。
- 目標の達成
- 人材育成
- モチベーション向上
目標の達成
フィードバックの目的のひとつは、組織・チームの目標達成です。フィードバックを通じて成果につながっていない行動を改善したり、成果につながっている行動を強化したりすることで目標達成を目指します。
人材育成
フィードバックする目的の2つ目は人材育成です。目標達成への取り組みと同じように、フィードバックを通じて改善すべき言動を指摘し、また、強みとなっている言動を強化することは人材育成につながります。
人は自分の言動や状況に無自覚であることも多いものです。第三者が客観的にフィードバックすることで、気付きや振り返りの機会を与え、成長へと導きます。
モチベーション向上
良かった成果や言動、成果につながったプロセスなどをフィードバックされれば、誰でも純粋にうれしいものです。ポジティブなフィードバックによって自分の成果を確認でき、業務に対して自信をもって取り組むことができるようになります。
また、信頼関係と適切なフィードバックプロセスがあれば、ネガティブなフィードバックも成長への期待、また、“きちんと見てもらえている”という実感につながります。フィードバックは、「きちんと見ているよ」「期待しているよ」というモチベーション向上につながるメッセージにもなり得ます。
2種類のフィードバック
前章で少し言及した通り、フィードバックは大きく分けると以下の2種類になります。
- ポジティブフィードバック
- ネガティブフィードバック
ポジティブフィードバック
ポジティブフィードバックは、良い成果やプロセス、言動に関するフィードバックです。受け手にとって無条件に嬉しいものであるポジティブフィードバックは、大きなモチベーションの向上につながります。
ポジティブフィードバックする際には良かった結果を褒めるだけでなく、再現できるプロセスや言動をフィードバックすることが大切です。再現可能なプロセスや言動をフィードバックすると、その言動が習慣化・強化されやすくなるためです。
そのためには、抽象的なフィードバックではなく具体的なフィードバックを意識しましょう。例えば、「盛り上がって良かったよ!さすがだね!」ではなく「あそこで入れてくれた合いの手が良いタイミングだったよね!」「○○さんは声の強弱や緩急、間の取り方がうまいよね!」といった具合に、なるべく具体的に何がどう良かったか伝えることで再現性や言動の強化につながります。
ネガティブフィードバック
ネガティブフィードバックは、改善してほしい言動を伝えることで成長を支援するものです。例えば「今回のプレゼンは内容が抽象的過ぎて、聞き手にとってイメージしにくかった。次回からより具体的な内容にして、エピソードなどを盛り込んでほしい」といったものがネガティブフィードバックです。
相手の成長を促すうえでネガティブフィードバックはどうしても必要なものですが、相手のモチベーションを下げてしまう側面もありますし、信頼関係がなければそもそも受け入れてもらえないこともあります。正しいやり方をきちんと把握してフィードバックを行なうことが重要です。
フィードバックの3つのやり方
フィードバックにはいくつかのやり方があります。本章では、フィードバックの主なやり方を3つ紹介します。すべてのフィードバックを3つのやり方でやる必要はありませんが、型を知っておくことで適切なフィードバックをやりやすくなるでしょう。
- SBI型
- サンドイッチ型
- ペンドルトン型
SBI型
SBI型は、国際的非営利の教育機関CCL(The Center for Creative Leadership)が作り上げたフィードバック手法で、”Situation(状況)”、”Behavior(行動)”、”Impact(影響)”の頭文字をとったものです。
まずは、状況を確認したうえで具体的な相手の行動をピックアップし、行動がもたらした影響や行動への感想を伝える方法です。文字どおり、Situation(状況)→Behavior(行動)→Impact(影響)と順序立ててフィードバックするため、具体的になり、内容を理解してもらいやすいのが特徴です。
SBI型はポジティブフィードバックにも、ネガティブフィードバックにも使えるやり方です。例えば、商談に関するポジティブフィードバックを、SBI型を意識しながらやると以下のようなイメージです。
サンドイッチ型
サンドイッチ型とは、ネガティブな内容をポジティブな内容で挟むフィードバック手法です。最初にポジティブな内容を伝えたうえで改善点の指摘に入り、最後に別の視点からもう一度ポジティブな内容を伝え、フィードバック全体を締めくくります。
最初と最後、両方でポジティブな内容が示されるため、伝えられた側はネガティブなフィードバックを受けてもモチベーションを維持しやすくなります。例えば、以下のようなイメージです。
なお、ネガティブフィードバックする際にサンドイッチ型を用いることは効果的ですが、普段からポジティブフィードバックをしていないとわざとらしくなりがちです。自然に受け入れてもらうためには、日頃からネガティブフィードバックをポジティブフィードバックで挟むことを意識しておくとよいでしょう。
日常におけるポジティブフィードバックとネガティブフィードバック、褒めると叱る、の割合は3:1以上が効果的だといわれています。
ペンドルトン型
ペンドルトン型は心理学者ペンドルトンによってつくり上げられたフィードバック手法で、受け手に自分自身の改善点を考えさせる方法です。やり方としては、まず、何を話すのか両者が意思確認した後に、ポジティブフィードバックを行ないます。次に、ネガティブフィードバックを実施します。
ここまではサンドイッチ型と同じですが、ネガティブフィードバックを伝える際に「伝えたフィードバックを今後の行動にどう反映するべきか」「どのように実行するのが良いか」という建設的な計画を盛り込むようにするのが特徴です。
対話しながら行なうため、受け手は一方的に責められているという意識を感じることがなく、精神的ダメージを回避できるのです。
イメージとしては、「○○に関しては、フィードバックしても良いかな?」⇒「全体を通じて、□□は良かった」⇒「一方で、△△に関しては今後改善して欲しい点になる」⇒「いま振り返ってみると、どのようにするのが良かったと思う?」といった流れで、問いかけを交えながら進めるとよいでしょう。
フィードバックはモチベーションの向上や目標達成に役立つ
フィードバックは、本人の言動等に関して、客観的に言動の影響などを伝えることで、今後の改善、また好ましい言動の強化等を実現するものです。適切なフィードバックを実施することで、目標達成やメンバーの成長、またモチベーション向上などが期待できます。
フィードバックを効果的に行なうためには、実施する側が適切な型を把握して実施することが大切です。記事で紹介したフィードバックのやり方も参考に、ぜひ適切なフィードバックを実施することで強い組織づくりや人材育成を実現してください。
なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、管理職やリーダー層を対象にフィードバック技術の研修なども提供しています。ご興味あれば、お気軽にお問い合わせください。