湘南ゼミナールオーシャン|働く人の7割が障がい者という環境で取り組んだ「誰にでも通用する」働きがいある仕組みづくり

更新:2024/03/06

作成:2022/03/05

湘南ゼミナールオーシャン

湘南ゼミナールオーシャンは、親会社の湘南ゼミナールが取り組む障がい者雇用を実現するための特例子会社であり、神奈川県内で初となる学習塾の特例子会社です。

2021年版に続きGreat Place to Work® Institute Japan 2022年版でも日本における「働きがいのある会社」ランキングの小規模部門にてベストカンパニーに選出されています。障がい者を中心に雇用する中で「働きがい」ある職場づくりと高い定着率を誇るその取り組み内容について、同社事業所長の前山様に紹介していただきました。

<目次>

Q.特例子会社設立の経緯と、主な業務について教えてください。

当社は学習塾の湘南ゼミナールのグループ企業として、2012年10月に設立。主な業務は湘南ゼミナールから発注された事務・軽作業などであり、交通費清算チェックなどの経理補助をはじめ、名刺の作成と納品、文書の電子化、各種書類のシュレッダー裁断などのオフィス業務のサポートを行っています。

2013年3月に湘南ゼミナールの特例子会社として認可を受け、2022年1月末時点で28名が業務に従事し、このうち20名が精神障がいのある方々です。

Q. 障がい者の雇用にあたり、安定した定着率のための取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか?

障がい者は大きく身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者の3つに分かれます。当社の設立当時、身体障がい者や知的障がい者については大手企業を中心にある程度雇用が進み社会的ノウハウも蓄積されていました。

しかし精神障がい者は当時まだ雇用義務化されておらず、行き場のない状態でした。私自身門外漢でしたので、同じ障がい者雇用をするならば社会的に価値あることをしたいという意志の下、採用を精神障がい者に絞り込むことにしました。いずれ義務化されることも見込まれていましたし、社会的ノウハウが少ないところでむしろ先駆者として社会に貢献しようとう精神でスタートしました。

精神障がい者の雇用は就労支援機関の協力を得ながらまずまず順調に進みました。ただ雇うことはできたものの、定着難易度などは未知数でしたので、今でもそうですが特に最初の数年は試行錯誤の連続でした。

例えば「困ったことがあったら何でも相談してね」と伝えると、どんどんエスカレートして過度の依存状態になり、職場と自宅の区別があいまいになり出社しても終日寝ているようなこともありました。障がい者に気を配ること自体はよかったのですが、それ以前に障がい者本人が「ここは自分が主体性をもって働く場」だということを第一に認識してもらわなければなりませんでした。

また別の事例で「疲れたらいつでも休んで」と声掛けしていたのですが、皆さん真面目なうえに人の目もあるからなかなか休憩をとれない。そこで1時間につき10分間回復行動に努めてもらう「リカバリータイム」という時間をつくりました。

休憩時間としていた当初はスマホでパズルゲームなどをしている人もいましたが、それでは心身を休めることはできません。全員で自分の状態を悪化させない方法、例えば、ストレッチやマインドフルネスなどの対処法を見つけていきました。そのおかげで10時に始業して14時ごろには過集中でフラフラになっていた人が、現在では8時間しっかり働けるようになっています。幸福学の研究者でビジネスコンサルタントとしても活躍されているタル・ベンシャハー博士が来日されたときに、パフォーマンスを上げるためにまず第一にやることは1日1回、従業員に休憩を与えることだとおっしゃっていましたが、まさにそのことを実感しています。

精神障がい者の多くはとても疲れやすいという特徴があります。環境に適応するまで一定期間は待つような姿勢が必要です。リカバリータイムを行い、そのことで体調が安定しパフォーマンスが徐々に向上し、自信につながっていきます。この好循環を生むために、イニシャルコストはかけるべきでしょう。突発休が減り、ワークスキルが向上し、がんばればできるという気持ちにつがることが、安定した定着率に結び付いたのではないかと思います。

湘南ゼミナールオーシャン社内01

Q.障がい者ならではの働き方があるかと思いますが、そこにはどんな考え方があるのでしょうか?

障がい者の働き方には、「セルフケア」の意識を持ち実施していただくことが重要です。当社では経営理念やビジョンがはっきり打ち出されていますが、抽象的ではあるので、個々の具体的アクションはどうすべきかを毎朝のセッションで社員全員の前で発表してもらっています。これはその人が持つマインドセット(心の持ち方、モノの見方、考え方)を広げる教育にもなり、他者の発表内容が互いを認め合い、刺激にもなっています。

また、障がい者に限らず人は最初の印象で好き嫌いや敵味方を決めつけ、人の話を聞けなくなる傾向もあるので、最後まで判断せずに聞くルールを設け、他者の意見を受け入れるトレーニングにもなっています。

当社は働き方のコンセプトのひとつとして、「イキイキはたらく」を掲げており、コロナ禍以前からZoomによるオンラインでの在宅就業を実験的に進めていました。在宅勤務では「職場を再現する」ことを目指し、就業時間は変わりませんし、朝のセッションなども同じように行っています。オンラインでつなぎっぱなしになっているので、いつでもコミュニケーションは取れます。もちろん在宅でも1時間ごとに10分間のリカバリーも行います。

彼らと接してきて思うのは、健常者と障がい者の境目はグラデーションになっているということです。つまり、本人が生きにくければ障がいになり得ますし、障がいと自覚していても、強みを活かし活躍できる働き方(場所)があれば、十二分に活躍できます。

Well-beingという考え方がありますが、これはWHOでは身体・精神・社会的に良い状態と定義されています。当社でも、自分自身で自分の人生はいろいろあるけど幸せに恵まれていると思える「主観的幸福度」という基準でWell-beingを考えています。そうした基準を目安により働きやすい職場づくりをめざし、推進しています。

Q.ポジティブ心理学「PERMA」を活用した、安心できる職場づくりを構築するための取り組みについて教えてください。

当社では「well-being」をキーワードにした、社員がより活躍できるための施策を、ポジティブ心理学のひとつである「PERMA(パーマ)」をヒントに考えています。

PERMAはP=ポジティブ感情 Positive emotion、E=熱中 Engagement、R=人間関係 Relationship、M=意義 Meaning、A=達成感 Achievementを略したもので、ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマン博士が提唱しました。短期的な気分としてのハッピーではなく、ネガティブな要素も含めて主観的に全体の幸福度をみていくものです。

この中でも、とくに当社ではR(人間関係)を重視しています。一例として社員間で「ありがとうカード」というものを作成しています。協業した従業員がお互いに、感謝の気持ちを温かみのある手書きでメッセージを送るものです。これは送られた方はもちろん、送った方にもその喜びが伝わり、感謝の連鎖が起こっています。

また、業務最後の終礼セッションでも、その日あった良かった出来事3つを各自挙げるようにしており、それが自分のどの強みを発揮したか、PERMAのどこに反映していたかなどを発表しています。感謝の気持ちを持ち、良かったことに目を向けることで、欠乏している部分や問題点ではなく、今あることに目を向け、主観的な幸福度、Well-beingを高めることにつながっていきます。

また精神障がい者が入社した際には、「強みを生かす」研修を行っています。強み診断を受けるだけでなく、チームを組んで、メンバー同士お互いの強みを見つけていくものです。また、強みを使うことでいかにパフォーマンスが上がるかも業務を通じて実感してもらいます。

現在多くの企業では問題提起と課題解決ばかりがクローズアップされていますが、そればかりですとネガティブな面ばかりに目が行きがちです。当社では、自分の強みを生かして課題をどう解決するか考えていきます。そのことが、仕事を楽しくとらえ、より高いパフォーマンスにつながっていきます。

また障がい者が働くにあたり、「心理的安全性」の確保も大切です。何か失敗をしてしまったとき、強く叱るようなことはまずありません。叱ると何も言えなくなってしまいますので、原則的に褒めるようにしています。フィードバックは「good and more」とし、良い点(good)3つに対し改善点(more)は1つに絞ることで、話しやすい雰囲気を作り上げます。

さらに「失敗=チャンス」とし、チャンス(失敗)を共有して改善策をみんなで考えます。むしろ失敗したことにより「みんなを代表してよく失敗してくれた、仕事のやり方、仕組みの改善の機会を与えてくれた」と表彰することもあります。こうして心理的な安全性を高めていくことが主体性の発揮につながり、次の挑戦へとステップアップできるのです。

湘南ゼミナールオーシャン社内05

Q.これからの障がい者雇用時代に向けた、働きがいのある職場づくりについて教えてください。

障がい者雇用では先に申し上げた通り、障がい者は雇用当初は心身共に疲れやすく、教育などのイニシャルコストはかかりますが、「セルフケア」「強みの発揮」「心理的安全性」を確保した環境づくりができれば、限りなくポテンシャルのある貴重な戦力になります。会社によってはリスクを避けるために重要なことをさせないところもあるようですが、精神障がい者は障がいのためにできないことはなく、彼らの可能性は大きなものがあります。

当社は働きがいのもてる働きやすい環境づくりをしているためか、定着率は高く保たれています。これはWell-beingを高めようとPERMAを実践し、自律的に内発的動機づけを行ってきたことが影響しています。例えば、自分の価値観と会社のビジョンをすり合わせ、それにより今の仕事が自分にとってどう価値があるか見出せるように、自分の仕事を定義しなおすジョブクラフティングを実施しています。氷山に例えるなら水面下にあたる部分に時間をかけることで、逆にトータルのコストは下がり、パフォーマンスが高くなります。

そうしてキャリアアップできた障がい者自身がもし望むなら、当社も無理に長く続けてほしいとは思っていません。もちろん寂しい気持ちはありますが、「さらに活躍できるなら、いつでも新しい場所に行きなさい」と応援しています。存在価値が見出せることで、彼らはどこでも活躍できる人材になっていくでしょう。

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