従来の旅館業界では考え至らない斬新なサービス手法により、開業以来、瞬く間に京都を中心に施設展開を推し進めてきたNazuna。
Great Place to Work® Institute Japan「働きがいのある会社」ランキング小規模部門におけるベストカンパニーに選出されています。
Nazunaが運営する旅館は、とくに若年層から絶大な人気と支持を集めており、それを支える「宿泊客をファンにする組織づくり」について、取締役事業部長 渡邊 龍一様にお話いただきました。
会社名:株式会社Nazuna様
設立:2018年(平成30年)4月
社員数:27名
ホテル・旅館の運営および企画・開発事業を行う。前身の株式会社Yumegurashiから「Nazuna 京都」「季楽 京都」の旅館事業を譲渡され、以降も続々と系列旅館をオープンさせる。さらに、2020年には「季楽 飫肥 合屋別邸」「季楽 飫肥 勝目別邸」、2021年には「Maana kamo」「Maana kyoto」の運営を開始している。
<目次>
- 貴社の事業内容とその特徴について教えてください
- 独自の事業展開で宿泊施設数も増加していますが、どのようなやりがいを感じていますか?
- 組織拡大する中で、壁や課題となることは何でしょうか?
- 企業理念の「おせっかい革命」とはどんなものなのでしょうか。
- 採用ポイントと入社後の育成方法について教えてください。
- 「おせっかい」により、どのような人材育成が実現できていますか?
- 今後の新たな取り組みについて教えてください。
貴社の事業内容とその特徴について教えてください
渡邊様:宿泊施設の運営を主体にしつつ、宿泊業や飲食店のコンサルタントも行っています。
宿泊施設は現在、京都と宮崎に展開しており、さらに「Nazuna」「Maana」「季楽」とタイプ分けしています。
とくに「季楽」ブランドは一棟貸しタイプの宿として人気があり、静かなプライベート空間をご提供しています。
町屋や武家屋敷をフルリノベーションした施設もあり、地域の特色や文化を感じながら、ゆったりとお過ごしいただけるのも特徴です。
独自の事業展開で宿泊施設数も増加していますが、どのようなやりがいを感じていますか?
渡邊様:誤解を恐れずに言えば、旅館業界は古い体質で、良くも悪くも変化のない状態が続いていました。
当社の従業員の平均年齢は25~26歳と若く、若い年齢がこれほど多くいる旅館は数少ないと思います。
若手従業員が多いからこそ、旅館業界に一石投じる役回りができることに、やりがいを感じています。
会社では3年後のミッションとして「旅館業界での革命児になる」ことを掲げています。
業界の常識からすると「そんなことをするの?」というようなことも、若いチームだからこそ面白味をもって取り組んでいます。
宿泊施設にこれまでなかった発想やクリエイティブな要素を見出していき、お客さまにより満足頂き、業界にインパクトを与えられれば、経営側のみならず現場でも大きなやりがいにもつながると思います。
そうした社内体質があるので、経営側から次々と挑戦したいアイデアが生まれてきており、「また新しいことをやるの?」と現場からは悲鳴も出ています(笑)。
現場はかなり忙しい状況になっていますが、彼らの実行力の手助けが合って、色々現実化できている状況なので感謝しかないです。
組織拡大する中で、壁や課題となることは何でしょうか?
渡邊様:常に何かしらの壁はあり、発生する課題のタイプもその時々で違いますが、これまで「これは大変」というような大きな壁はありませんでした。
当社では「課題に対するアクションをどうするか」ということで、従業員のモチベーションサーベイを4半期に1回実施し、その組織課題に向き合っております。
そこではしんどいと感じるより課題に対し「また何かあったのか、よしやろう」という感覚で、課題に対する挑戦の文化が生まれています。
むしろ課題や壁が生まれてくるのは“当たり前”のことであり、四半期ごとの対応をきっかけに、組織が変化していくことを求めているのかもしれません。
例えば、店舗で課題が見つかった場合は、小さい壁を一つひとつ現場と経営側でクリアしていくことで、大きな壁にぶつかることがなかったのかもしれません。
先ほど述べたように、チャレンジングなアイデアを出す体質が社内にあるので、課題に皆でトライすることで変化し、より強い組織になっていくことがスタンダードになりつつあります。
企業理念の「おせっかい革命」とはどんなものなのでしょうか。
渡邊様:「おせっかい」を通じて仲間の幸せとお客さまの感動を追求し、人と人との繋がりの素晴らしさを後継すること、を定義にしています。
おせっかいとは、「一歩踏み込んだ一方的なもの」です。例えば、頼まれてもいないおかずを持っていくとか……。あえて「おせっかい」を行うことで、人の温かさなどを感じられると思っています。
従業員がお客さまに対し、「おせっかい」を積極的に行ってもらいたく、「おせっかい予算」なるものを準備しています。
そもそもチャレンジ気質の従業員ですから、会社から指示されたサービスだけに徹して満足する性格ではありません。その気質を存分に発揮してもらいたく、各店舗に予算を設けました。
普段から社内ではSlackを活用しており、その中で「おせっかいSlack」を開始しました。従業員がお客さまに「おせっかい」をしたら、投稿して共有し合うのです。
毎日それぞれが投稿しており、これも会社の文化づくりの一翼を担っています。
「おせっかい実績」は最終的に集められ、Most Osekkai Player(MOP)として表彰されます。
経営側の選定にはなるのですが、さらに月間MOPから半年間のナンバーワンである「最高のおせっかい」を決めています。
前回の12月では女性従業員2名が受賞し、韓国旅行と東京ディズニーリゾートのホテルミラコスタ宿泊をプレゼントしました。
プレゼント内容も経営側が決めるので、ある種サプライズ要素があり、受賞側も何をされるのか/もらえるのかワクワクする楽しさもあります。
過去受賞の一例としては、「Nazuna 京都 御所」でお客さまが囲炉裏で朝食を食べているとき、突然焼き芋を焼いて、食事後のお客さまに配り始めたことがありました。
これがお客様に好評で、季節もちょうど秋で「よく考えたな」と思いました。
また、ある従業員が街のカフェでコーヒーを飲んでいると横で韓国語の勉強をしている方がいたので、「私、韓国人なので分からないことあればお教えしますよ」と声がけをするものまでありました。
採用ポイントと入社後の育成方法について教えてください。
渡邊様:「おせっかい革命」は独特の理念だと自負しており、入社希望者の9割はこの理念に惹かれ、応募されてきています。
採用時も、この「おせっかい」に共感しているかどうかは大きな判断基準です。スキルや能力は後からついてくるものであり、実際のところ新入社員の半分は業界の未経験者です。
未経験者のほうがフラットなものの見方ができ、旅館業界自体は古い体質の業界ですから「旅館はこうあるべし」のような先入観もなく、当社の挑戦する文化にもなじみやすいと思います。
いくら先入観はないといっても、情報としてほかの宿泊施設のサービス内容などは入ってくると思うので、「スタンダードでないからこその良さ」を理解することは必要です。
そこで、他のホテル様と提携し、入社後、各社の従業員を提携先のホテルに一般客として宿泊してもらう取り組みを実施し、自分たちが所属しているホテルのサービスとの違いを客観的に知ることができるようにしています。
採用時も現場を理解するための場を設けており、理念共感のうえで二次面接を通過したあと、1日体験として現場で働いていただいています。
そこで当社の良さや実態を見ていただき、本当に自分とマッチしているかを確認したうえで、最終面接となります。
「おせっかい」により、どのような人材育成が実現できていますか?
渡邊様:よく「おせっかい」は「おもてなし」と比較されますが、おもてなしは品が良く、相手の立場に立った行動を指しますよね。
他方、おせっかいはどこか一方的ですが、より人間的で人の温かさが感じられ、お客さまとの距離もより近いものになると考えています。
弊社の「おせっかい」は、お客様にとってもこれまで受けたことのない価値と感じていただけており、毎月、お客さまから従業員個人宛に感謝の手紙が多数届いています。
温かなお言葉が寄せられた手紙を見て、旅館や従業員に対するファンが増えると同時に、人と人のつきあいを深める、おせっかいを大事にする人材が育っているなと実感もしています。
弊社に宿泊されるのは35歳以下の方が多く、旅館業界の客層としてかなり若く、年齢層の近い弊社の従業員との相性もいいのかもしれません。
従業員の年齢層が若い分、今後もしっかり育てて、より充実した人的資本経営を実現していきたいですね。
お客さまのファンが付くような従業員が増えている中で、経営層がシステマティックに「任せた」と放置するようなことをせず、常に同じ方向を見ることができるよう、会話の時間を増やしていきたいと思います。
今後の新たな取り組みについて教えてください。
渡邊様:普段から積極的に挑戦しているので、改めてこれというものが挙げにくいですが、まず組織としては「働きがいのある会社」ランキング上位を目指し、お客様の期待にも応えていきたいですね。
働きがいのある会社として評価をいただいたからなのか、3月にアルバイトの求人を行ったところ、70名もの方に応募いただきました。
当旅館に「泊まってみたい」という声のほかに、「働いてみたい」とたくさんの方に思っていただけるのは、ブランド力の向上にある程度成功しつつある結果ではないかと感じています。
これまでもSNSで「宿」の紹介はしていたのですが、「人」の魅力を出し切れていませんでした。
今後はもう少し「人」にフォーカスして、従業員の顔を出して、TikTokなどでもPRしていきたいなと思っております
宿泊されたお客さまから多くのお手紙が届くとお話しさせていただきましたが、注目が集まってきたこの時がチャンスだと考えています。
ぜひお客さまが「会いに行きたい」と思ってくださるように努力したいと思います。「今度はどんなおせっかいをしてくれるのか」と期待されるような……。
そのほか挑戦する部分としては、これまでアパレルのSHEINやマッチングアプリのDineとコラボするなど、多様性を持った取り組みをしてきましたが、さらに日本橋三越本店で行う350周年特別企画のコラボも進んでおり、よりブランド力の強化を目指しています。
このように積極的に動いてはいるのですが、私自身は特別に「これがしたい」ということはなく、単純に新しいことをするのが楽しいんです。
元々クリエイティブ色の強い会社でしたが、私が入社してよりその傾向がより強くなったと思います(笑)。
「そんなことまでやるの」ということを面白いと感じ、挑戦してしまう――そういう文化を先導してきたからこそ、従業員からは面白いアイデアがどんどん出て、“Nazunaらしさ”も見えてくるようになりました。
これからも知らない領域へ踏み込み、挑戦していきたいと思います。