「よなよなエール」「水曜日のネコ」「インドの青鬼」など、ひときわ目を引くネーミングとその味わいで、こだわりのクラフトビール製造および販売を行うヤッホーブルーイング。Great Place to Work® Institute Japan 日本における「働きがいのある会社」ランキングでは2022年まで6年連続でベストカンパニーに選出されています。
同社ではひとつの仕事を多様なメンバーと関わりながらチームで取り組むため、企業理念やミッションなどの価値観の共有を重視されています。社員が、会社の目指す方向に共感し楽しく働く、その環境づくりをお伺いしました。
<目次>
- 貴社の事業内容について教えてください
- 「今までにないビールメーカー」という印象が強いですが、どのような施策・方針を掲げているのでしょうか?
- ミッションのもとに、どのような組織づくりや社員育成を行ったのでしょうか?
- チームビルディングによる顕著な成功例がファンイベントかと思いますが、貴社にとってその位置づけや取り組み内容について教えてください。
- ファンイベントに象徴される「社員が働きがいを感じられる取り組み」について教えてください。
- チームビルディングやファンイベントの開催などを推進するにあたり、新入社員にはどのような施策をとっているのでしょうか?
- 会社が成長する中、今後の組織づくりについて教えてください。
貴社の事業内容について教えてください
クラフトビールを主体としたビールメーカーです。単にビールを製造するだけではなく、ビールを中心としたエンターテイメント事業にも着手した「ビール製造サービス業」としています。ビールの新たな楽しみ方や、味わい方などについて、イベントやウェブなどでコンテンツ化して発信しています。
また、EC事業なども発展させており、小売や流通などで幅広くサービスが提供できるようにしています。家飲み需要が増加する時流にもマッチして、2020年から小売店とネット通販での缶製品売り上げは好調が続いています。
さらにコンビニエンスストア各社での販売エリアが全国に拡大したことによって、26期(2020年12月~2021年11月)における業績は、前期比3割増の売上高となり、19期連続増収と過去最高益を更新しました。
「今までにないビールメーカー」という印象が強いですが、どのような施策・方針を掲げているのでしょうか?
当社では「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションとして掲げています。これまで、日本国内のビールは、美味しかったのですが画一的な味が多かったのも事実です。
そこで日本のビール市場にバラエティを提供し、新たなビール文化を創出することでビールファンにささやかな幸せをお届けしたいと考えるようになりました。
このミッションにたどり着くまでには創業からのヒストリーがあります。当社の創業は1997年で、そのころは地ビールブームで創業から数年はとても好調でしたが、2000年ごろになってブームが去ると、たちまち売上が下がり、厳しい時代が続きました。
そうしたなかで2008年、社長に井手(てんちょ)が就任し、「ビールに味を!人生に幸せを!」を企業のミッションとして明文化したのです。そこから大手メーカーの物真似ではない独自の製品展開やファンとの交流イベントを数多く開催するようになりました。
単に風変わりな製品を出したり、イベントを頻発すれば企業が再生するわけではありません。それまでも素晴らしい社員はたくさんおり、ビールに対する情熱も個々が様々な形で持っていました。ただ、それは角度を変えてみると情熱の方向性はバラバラであり、入社した社員が数年で退職してしまう状況が続きました。
そのため今一度ミッションに立ち返り、一緒に働き続けるためには「価値観を共有できるか、企業の理念やミッションに合っているか」が一番重要であり、「会社の目指す方向に共感できるか」という視点を重視するようになりました。
当社では、ミッションを支える組織文化、“頑張れヤッホー”に由来する「ガッホー文化」と呼ばれるものがあります。
ガッホー文化は、
社員間の「フラット」な人間関係をベースにして、「究極の顧客志向」を目指そう
という考え方です。
それを支えるのが、
- 「自ら考えて行動する」
- 「切磋琢磨する」
- 「仕事を楽しむ」
という働き方の3要素であり、さらにそこへ当社の特色である
- 「知的な変わり者」
を加えて「ガッホー文化」が構成されています。
ミッションのもとに、どのような組織づくりや社員育成を行ったのでしょうか?
企業の理念やミッションへの共有・共感を深めるために、社長のてんちょ(井手)が積極的に表に出て発信するのはもちろん、若手スタッフが立ち上げた経営理念の理解を促進するプロジェクトでは、ミッションが明文化される経緯を映画のようにストーリー仕立てで伝えたり、「社内新聞」を作ったりと様々なアプローチを実施しました。
また、ミッションやガッホー文化といった理念を具体的な行動レベルで、実現していくための各種施策を、よなよなエール流コミュニケーションマップという形で整理しています。
このマップは、縦軸の下方向が「コミュニケーションの量を増やす施策」、上方向に「コミュニケーションの質を高める施策」、横軸左方向に「大人数で取り組む施策」、右方向に「少人数で取り組む施策」として分類しています。
このように分類することで、それぞれの施策のねらいを正しく理解した上で取り組むことができると考えています。
また、コミュニケーション施策を実施する際の順番も大事だと考えています。
まずコミュニケーションの「量」的確保ができれば、ワイワイガヤガヤと気軽に発言できる場も増えてきます。
たとえば、社長のことも“てんちょ”を呼んでいますが、すべての社員にニックネームをつけるようにしたところ、最初は気恥ずかしい感じもありましたが、慣れると上司に気軽に接することができるようになる関係づくりに役立っています。
社内メールも固く冗長なあいさつ文はなくなり、要件をはっきりと伝えられるようになりました。社員間の距離感も縮まり、今ではニックネームが先行してうっかり本名を忘れることもありました(笑)。
こうした土台が築かれているからこそ、次の段階として「質」の高いコミュニケーションにステップアップします。「質」の高い施策の例として「ディレクター立候補制度」や「プロジェクト制」があります。
「ディレクター立候補制度」とは管理職にあたる「ディレクター」を立候補によってのみ決定する制度です。具体的には年に一度「ディレクター」に立候補する社員が自ら立案した経営戦略・事業計画を全社員に向けて発表するプレゼン大会を実施しています。
「プロジェクト制」は、課題を見つけた社員が自らプロジェクトを立ち上げ、所属の部門を問わず希望者を募ることができる制度です。業務全体の約2割をプロジェクトに充てることを推奨しています。
チームビルディングによる顕著な成功例がファンイベントかと思いますが、貴社にとってその位置づけや取り組み内容について教えてください。
ファンイベントはヤッホーブルーイングのスタッフとファンの方とが一緒になってクラフトビールを楽しむもので、社員の働く意味、働きがいにも直結した存在になっています。
ファンイベントの位置づけは以前、「活動システムマップ」というものにまとめ、これはポーター賞(独自性のある優れた戦略を実行している日本の企業・事業を対象とした賞)もいただきました。
活動システムマップの内容は、
- 「独自の組織文化」
- 「ファンの熱量を生むコミュニケーション」
- 「模倣困難なブランディング」
という3つのポイントで成り立っています。
例えば「独自の組織文化」によるフラットで良質な社内状態が保たれているからファンイベントは成功し、言いたいことが伝えられる組織文化があるから「模倣困難なブランディング」が実現し、面白い企画が出てきます。
また「ファンの熱量を生むコミュニケーション」があるから社員のやりがいや組織文化の構築が進むなど、3つのポイントが相互に刺激し合い、高められる構造になっています。これはファンイベントを含めた当社の戦略そのものを示すものです。
ファンイベントに限っていえば、短期的売り上げや効率化を考えれば、外部のイベント会社に依頼すれば、素晴らしい企画が出てくると思います。しかし、それを自社スタッフによる独自の活動をベースにすることで、熱量の高いファンとの絆づくりが実現し、独自ノウハウの蓄積にもなっています。
おかげさまでファンイベント「宴」は盛況となり、5,000人規模の「よなよなエールの超宴」も開催できるようになりました。2015年からはオンラインでのイベントも開始し、コロナ禍では非接触型で楽しめるものにもシフトしています。
ファンイベントに象徴される「社員が働きがいを感じられる取り組み」について教えてください。
ファンイベントでは様々な企画を試行錯誤しながらチームで意見を出し合い、楽しみながら創り上げています。このことが、「スタッフが生き生き働くことで、ファンの感動が生まれる。ファンの感動を体感することで、スタッフの働きがいにつながる」ことにつながっています。。
大規模なよなよなエールの超宴のようなイベント以外にも様々な企画が開催されており、オンラインの「よなよな 月の道楽座」「BAR恥さらし」などのほか、「よなよなエール 大人の醸造所見学ツアー」は製造スタッフもファンと接する機会になっており、自分たちがつくったクラフトビールを直接顧客に説明する機会となっています。開催後はツアーの内容をウェブ記事にして、ECサイトやHPでもコミュニケーションを図っています。
また「お父さんレンタルはじめます」は私が参画したものですが、こちらもファンの方とのよい交流の場になりました。参加いただいたのは、私と同じく子育て中のパパさんが多く、子育てトークに花が咲き、最後はやはりビールで乾杯となりました(笑)。
もちろん制度的なところも充実させており、有給休暇の取得率は約9割のほか、産休取得率や復職率はともに100%であり、男性社員もここ3年で6名(取得対象者の約7割)が育休を取得するなど、子育てしながら働く環境も年々整いつつあります。
社員の仕事と家庭、プライベートの両立・充実を常に考え、楽しく健康的に働ける環境づくりに注力しています。
チームビルディングやファンイベントの開催などを推進するにあたり、新入社員にはどのような施策をとっているのでしょうか?
基本的には新入社員にも前述の「ガッホー文化」の啓蒙をすることに変わりはありませんが、新人プロジェクトとしていくつかの取り組みを実践していただいています。
当社は現在、組織規模として急成長の過程にありますが、それに伴って様々な課題が山積されている状態です。新人プロジェクトでは、新人研修中にそれらの解決に取り組んでもらうために、業務スタート前に経営的な課題などもすでに共有しています。
例えば、「ビールは好きなのだけど専門的な知識が不足している」という入社間もないスタッフの不安を解消してほしいという課題に対して、ビールの知識を集約したオンライン上のコンテンツ「ビアハブ」を設置したり、クイズ大会などを行いながら楽しくインプットするような社内向けコンテンツを提案実施してもらいました。
その他、社員がお互いをたたえ合う「know鐘(ノーベル)朝礼」や、ミッションをどう体現して日々生活するかを動画にまとめた「ミッションとわたしたち」、さらに新製品の理解を深める「オールナイトフライングニッポン」など、名前だけではどんな内容なのか想像できないものを含めて、多数企画されています。
こうした企画で入社時点から自ら考え行動する姿勢を身に着け、受け身ではなく会社の問題を自分事化して考え貢献するよう意識を高めていきます。
会社が成長する中、今後の組織づくりについて教えてください。
組織の成長に伴い、新たなチーム課題やより働きやすい職場づくり実現のため、サーベイフィードバック(従業員サーベイの振り返り活動)を行っています。
こちらはGPTWと同様の内容ですが、サーベイのみで終わらせず、出た数値について課題を見出しPDCAを回すようにしています。もちろんサーベイスコアに囚われすぎない程度にですが、誰かのせいにするとかではなくデータから課題を見つけ出してチーム状態を見つめ直すきっかけになればと思っています。
また、当社はかつて危機的な状況に陥り、そこから再生を図る中で様々な工夫を凝らして組織づくりを行ってきましたが、社員が200人規模になってきたところで組織が次のフェーズに変わりつつあることも実感しています。
それに対して、たとえば、人数が増えるなかでどうミッション共感を生み出していくかをテーマに人事で「HR未来プロジェクト」を立ち上げました。まだスタートしたばかりですが、ガッホー文化にある「チームで働く」などこれまで明文化していなかった理念のアップデートなど、HRマネジメントを総点検しています。
組織が大きくなったうえでの作業なので楽しみではあるのですが、その分人事として責任も大きくなるのは悩ましいところです(笑)。