市場に商品やサービスが溢れている現在、ユーザーが真に求めるものを見つけ出すのに有効な思考法としてデザイン思考が注目されています。デザイン思考はGAFAMといわれる先端企業で導入されて成果をあげ、日本企業でも注目を集めています。
本記事では、デザイン思考とはどういうものかを説明し、デザイン思考のステップ、また実践に有効なフレームワークをプロセスごとに紹介します。
<目次>
デザイン思考とは
デザイン思考とはどのような思考法か、デザイン思考が提唱される背景や大切なポイント、アート思考との違いを確認しておきましょう。
デザイン思考とは
デザイン思考とは、「ユーザーが求めているものを徹底的に考え、ユーザーを起点として構築していく」思考法です。
いわゆるクリエイティブ的な意味での「デザイン」だけでなく、商品開発やサービス設計、ビジネスモデルの構築、そして事業経営にまで応用できる思考法として、アメリカのデザインコンサルティング会社IDEOが提唱して、世界に広まりました。
デザイン思考と類似した言葉に「アート思考」があります。デザインとアートと一見似ているようですが、ある意味では正反対の成功法です。
デザイン思考は徹底したユーザー視点が求められますが、アート思考では、アーティストが作品を創作するように自己をとことん探求していくことが軸になります。アート思考は、常識や既存の枠組みにとらわれず、自由な発想で新しいものを生み出していく思考法で、今までにないような商品やコンセプトづくりに適しています。
なぜデザイン思考が求められるのか
デザイン思考が注目される背景には、市場環境の大きな変化があります。以前は、企業が分析した市場ニーズや新技術に基づいて商品やサービスを開発。目新しさや機能性の高さによって購入意欲を喚起してきました。
しかし、一定まで技術が進化して、市場に似たような商品やサービスが溢れるようになり、企業主導の発信はユーザーが求めるものと乖離していきました。そこで、状況を打破する新たな商品開発の思考法が求められるようになった中で、デザイン思考が脚光を浴びています。
デザイン思考の大切なポイント
デザイン思考では、ユーザーと深く向き合い、徹底したユーザー視点で考えることで、表面に現れていないニーズもつかみ取って形にしていきます。
既存の商品・サービスや企業のしがらみ、また、技術優位の考え方をすべて取り払って考え、「ニーズに対して最適なユーザー体験を提供する」という姿勢が最も大切なポイントとなります。
デザイン思考の5つのプロセス
ハーバード大学デザイン研究所のハッソ・プラットナー教授が提唱しているのが、デザイン思考を用いて新しい取り組みをするのに有効な5つのプロセスです。ここではデザイン思考を実践する5つのプロセスを簡単に紹介します。
1.共感
徹底したユーザー視点を得るために、ユーザーインタビューやアンケートを用いて、生活背景、好み、考え方、行動パターンといった情報を集め、そこから隠れたニーズを探っていきます。得られた情報から詳細なペルソナを設定し、その視点から課題を抽出することも有効と考えられます。
2.問題定義
上記の課題を掘り下げ、根本にある問題を探ります。課題を改めて定義する作業を積み重ねて、ユーザー自身が気づいていないニーズを浮かび上がらせていくことが大切です。
3.アイデア
明確になったニーズに対して、解決のアイデアを出していきます。ブレインストーミングやアイデア出しのフレームワークを活用して、できるだけ多くのアイデアを出します。一旦は実現の可能性は考えず、自由に発想していくことが望まれます。
4.プロトタイプ
アイデアを取りまとめ、ある程度で固まってきたところで試作品(プロトタイプ)を作ります。試作段階では、お金と時間をかける必要はなく、とりあえず作ってみるスタンスで進めます。形として目の前に見えるようにすると、意見が出やすくなり、改善策も考えやすくなります。
5.テスト
試作品に寄せられた意見を参考にしながら、改善策を取り入れた次のプロトタイプを作って、再び意見をもらうというプロセスを繰り返していきます。「ユーザーのニーズに応えられるものになっているか」「ここまでのプロセスが間違っていなかったか」などを確認しながらテストを続けて精度を高めます。
デザイン思考のプロセスに有効なフレームワーク
デザイン思考の有効性が注目されていますが、実践するには、今までの手法との違いが大きく、進め方がわからないという声もあります。そうした場合には、フォーマットに当てはめて考えるフレームワークを活用すると、デザイン思考の理解が進み、実践しやすくなるでしょう。
本章ではデザイン思考のプロセスごとに有効なフレームワークを紹介し、どのように使うのかを説明します。
ユーザー視点を知るためのフレームワーク
デザイン思考の肝は、徹底したユーザー視点で考えることです。ユーザー視点を知るためのフレームワークを2つご紹介します。
・ジョブマップ
ここでの「ジョブ」はマーケティング用語であり、「ユーザーが商品を通じて成し遂げたいと考える目的」のことを指します。
ジョブに関する有名な具体例として「顧客はドリルが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ」というドラッカーの言葉があります。ユーザーは「ドリル」という商品を求めているわけではなく、「○○するための穴をあける」というジョブの実現を求めているということです。
ジョブマップを使って分析すると、ユーザーが望むこと、満たされていないこと、過剰に満たされていることを把握することができます。そこから、表面には出ていないユーザーの隠れたニーズを明らかにしていきましょう。
・共感マップ
商品やサービスに対してユーザーは何を見て、何を聞いて、何を感じ、どのような行動をとるのか、をマップに落とし込み、ユーザーの置かれている状況や心理状態を分析するツールです。結果からユーザーを深く理解し、ユーザーの視点に近づくことができます。
アイデアを出してまとめるフレームワーク
アイデア出しのプロセスでは、制限を設けず、できるだけたくさんのアイデアを出します。アイデア出しのプロセスに活用できるフレームワークをいくつか紹介します。
・ブレインストーミング
思いついたアイデアをどんどん出し合うのが「ブレインストーミング」です。その際のルールは「アイデアの評価をしない」「ありえないアイデアも歓迎する」「とにかく量を重視する」「アイデア同士を結び付けるなどして発展させる」といったことです。
始めに「評価と意思決定はしない」という目的をすり合わせることがブレインストーミングを成功させるためのポイントです。参加したメンバーが気兼ねなく発言できる雰囲気を作って、どんどん意見を膨らませていきます。
・SCAMPER法
アイデアを考えるためのフレームワークで、「7つの視点」でアイデアを考えます。
●Substitute(代用)
何かで代用できないか?
●Combine(統合)
何かと何かを統合できないか?
●Adapt(応用)
他に何か使えないか? 過去に似たことがなかったか?
●Modify(変更)・Magnify(拡大化)・Minify(縮小化)
目的やサイズを変更できないか?
●Put to other uses(他用途)
他の用途に使えないか?
●Eliminate(削減)
何か省略できないか?
●Rearrange(再構成)・Reverse(逆転)
再構成して使えないか、逆にしてみてはどうか?
これらの頭文字をとって「SCAMPER法」と呼ばれています。
・Dot Voting
ブレインストーミング等で出てきた、多数のアイデアを絞り込むのに用いる手法です。やり方としては、候補になるアイデアを書き出し、参加者には一人3票から5票程度の投票権を持たせ、丸い(ドット)シールを候補のアイデアの下に貼っていき、一番多く票が入った候補を採用とします。
多数のアイデアをまずは絞りこむという時に、時間をかけずにまとめることができるやり方です。Dot Votingを使って一気に絞り込んでから、投票した理由や評価して意思決定につなげていくと効率的に進められます。
・2×2マトリックス
アイデアの評価をするための手法です。縦軸と横軸にそれぞれ評価項目を設定し、評価項目の高いか低いかを、2×2のマトリックスにして落とし込んでいきます。例えば、「ユーザーにとっての価値」と「提供の可能性」という2つの観点で見て、付箋に書き込んだアイデアをマトリックス表に貼り付けていくと、それぞれのアイデアを客観的に評価しやすくなります。
・NABCフレームワーク
NABCフレームワークもアイデアを評価するのに役立つ手法です。それぞれのアイデアを「Need(顧客ニーズ)」「Approach(解決方法)」「Benefits(価値)」「Competition(競争相手)」という4つの項目で評価していきます。
試作に役立つフレームワーク
試作のプロセスでは、時間やコストをかけず、短時間で作成することがポイントです。試作に必要な、最小限の価値を探るフレームワークを紹介します。
・MVPキャンパス
MVPキャンパスとは、試作品を作る際に必要最小限の価値は何かを明確にするフレームワークです。MVPは「Minimum Viable Product」の略で、直訳すると「必要最小限の機能を有する製品」ということです。
試作の段階では、限られた時間と予算で試作品を作る必要があります。MVPキャンパスを用いることで、ユーザーのニーズを検証するにはどこまでのものを作ればいいのか、の目安が得られます。
事業化を進めるためのフレームワーク
デザイン思考を使って開発する商品やサービスの、事業化するためのモデルや、開発すべき方向性を考えるのに有効なフレームワークを2つ紹介します。
・事業環境マップ
事業環境マップは、自社商品やサービスを取り巻く外部環境を、「トレンド」「市場」「産業」「マクロ経済」という4つの領域にまとめ、それぞれの状況と変化を見るフレームワークです。開発する商品やサービスが、外部環境からどのような影響を受けるのかを評価し、開発の方向性を見極めるのに役立ちます。
・ビジネスモデルキャンパス
ビジネスモデルキャンバスでは、次の9つの要素を評価していくやり方です。
- ‐顧客セグメント(誰に提供するのか?)
- ‐価値提案(どんな価値を提供するのか?)
- ‐チャネル(どのチャネルを通じて提供するか?)
- ‐顧客との関係(どのような関係を構築するか?)
- ‐収益の流れ(どのように収益化するのか?)
- ‐リソース(必要なリソースは何か?)
- ‐主要活動(必要な活動は何か?)
- ‐パートナー(パートナーは誰か?)
- ‐コスト構造(運営するために発生するコストはどれだけか?)
9つの要素を調査・分析・評価すると、アイデアが整理されて、ビジネスとしての可能性が一目でわかります。ビジネスモデルキャンパスは事業計画書を作るフレームワークといってもいいでしょう。
デザイン思考におけるペルソナ設定の重要性
デザイン思考では、ペルソナをしっかりと設定することで、それぞれのプロセスがうまく機能していきます。フレームワークの効果を高めるにもペルソナの設定が有効です。ここではペルソナ設定の概要とポイントを紹介します。
ペルソナ設定とは?
ペルソナとはラテン語で「人」また「演劇の役割」という意味で、マーケティング用語では「想定される顧客像」として使われています。
似た言葉で「セグメント」があります。「分類分け」という意味で、「20代独身サラリーマン」「40代で子どもがいる専業主婦」といった形で使われます。
セグメントと比べて、ペルソナでは、もっと詳細なプロフィールを設定します。例えば、以下のようなものがペルソナのイメージです。
東京都杉並区在住
仕事はイベント会社の営業事務
中学・高校は女子高で大学は都内のミッション系大学の英文科卒業。
英語を使った仕事で世界を飛び回るのが夢。
休日はヨガに通い、その後ゆったりとお茶するのが楽しみ。
ペルソナ設定がなぜ重要なのか
デザイン思考で商品開発等するには、ペルソナ設定が有効です。具体的なユーザー像となるペルソナをしっかり構築することで、ユーザーが求めるもの、求める体験を徹底して考えていきやすくなるのです。つまりペルソナ設定により、デザイン思考で何よりも大切なユーザー視点を追求しやすくなるのです。
「何を売るか」をプロダクト中心のビジネスから、「誰に売るか」というユーザー・マーケット重視のビジネスへと時代がシフトしていることで、ペルソナ設定が果たす役割が大きくなっています。
ペルソナ設定のやり方
ペルソナを設定する際、「こんな人ではないか?」と感覚的な方法で進めてしまうと役に立たないものになります。なるべく、客観的なデータや事実に基づいた方法で進めましょう。
まず、ユーザーに関わる情報を集めていきます。具体的には下記のような手法を使います。
- ユーザーインタビュー
- ユーザーアンケート
- 営業担当からのヒアリング
- 顧客データの分析
- 統計データの利用
- SNSコンテンツの調査
次に集まったデータを分類して、取捨選択、整理することで必要なものを絞ります。最後に、整理したデータを見ながらペルソナを組み立てていきます。できるだけ詳細なところまで落とし込んで、実際にこういう人だとイメージできるまで詰めていきます。
年齢・性別・職業・収入といった属性項目だけでなく、将来の夢、現在の悩み、理想の人生といった内面まで深く掘り下げていくことで、より有効なペルソナを作ることができます。
ペルソナ設定の際には、自社に都合のいいデータや情報だけを拾わないように注意し、思い込みや先入観を排除するように気をつけます。設定後も定期的に見直していくといいでしょう。
まとめ
デザイン思考は、これまで行き詰っていたやり方を打破する、インパクトがある開発手法です。
デザイン思考の5つの実践ステップを進める際には、各ステップで有効なフレームワークがいくつかあります。フレームワークを活用することで、現状把握や問題点の抽出、メンバー間の意識を揃えることができるようになるでしょう。
また、デザイン思考を実践する上では、ペルソナ設定も非常に重要な要素です。詳細なペルソナを作り上げ、フレームワークを上手く使いこなすことで、デザイン思考の理解が進み、ユーザー視点を取り入れた新しい商品・サービス開発につなげることが期待できるでしょう。
ぜひデザイン思考を試してみてください。