2019年に働き方改革法案が施行されて以来、多くの企業が働き方の見直しを迫られてきました。働き方改革は、表面的には、残業の削減・勤怠管理の徹底という文脈でとらえられがちですが、本質は生産性の向上です。
本記事では、働き方改革とは何か、また働き方改革関連法の変更ポイントや企業側のメリット・注意点などを解説します。
<目次>
- 働き方改革とは?
- 働き方改革が進められる背景と目的
- 働き方改革関連法の変更ポイント【労働時間法制関連】
- 働き方改革関連法の変更ポイント【均衡待遇規定関連】
- 企業が働き方改革に取り組むメリット
- 企業が働き方改革に取り組む際の注意点
- 企業による働き方改革の取り組み事例
- 働き方改革では表面的な残業削減ではなく、本質的な仕組みの改革が重要
働き方改革とは?
働き方改革とは、“一億総活躍社会”の実現に向けた政府主導の取り組みで、いまや社会一般に広く浸透した言葉です。働く人それぞれの事情や希望に応じた多様な働き方を可能にするとともに、格差の固定化を解消し、成長と分配の好循環を実現することが目標です。
働き方改革の計画は2016年に始まり、2018年6月に働き方改革法案が成立。2019年4月からは働き方改革関連法案が順次施行されてきました。
働き方改革が進められる背景と目的
労働生産性の向上
日本の労働生産性は、他の先進国に比べて低く、主要先進7ヵ国(アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・日本・カナダ・イタリア)のなかでは最下位という調査も出ています。日本経済の再生に向けて、働き方改革による労働生産性向上のための労働制度の抜本的改革が求められています。
また少子高齢化により、国内の生産年齢人口は減少に歯止めがかかりません。経済を維持するためには、労働者一人ひとりの生産性を向上させることが重要です。そこで、働き方改革によって、誰もが生き生きと長く働ける環境をつくり、同時に、生産性の向上につなげることが求められています。
労働参加率の向上
前述した生産年齢人口減少による経済成長の停滞への対策として、労働参加率を上げることも求められます。労働参加率の向上余地がある女性や高齢者、また、介護などの事情を抱えた労働者など、誰もが生き生きと働ける環境を整えることが大切になります。
働き方改革関連法の変更ポイント【労働時間法制関連】
2019年4月から施行されている働き方改革関連法は、おもに11の項目で変更がありました。労働時間法制関連では、下記8つの項目の見直しが行なわれました。長時間労働解消による、ワークライフバランスの実現と多様で柔軟な働き方の実現を目的としています。
- 1. 残業時間の上限規制
- 2. “勤務間インターバル”制度の導入促進
- 3. 年5日間の年次有給休暇の取得(企業に義務づけ)
- 4. 月60時間超の残業の、割増賃金率引上げ
- 5. 労働時間の客観的な把握(企業に義務づけ)
- 6. “フレックスタイム制”の拡充
- 7. “高度プロフェッショナル制度”を創設
- 8. 産業医・産業保健機能の強化
働き方改革関連法の変更ポイント【均衡待遇規定関連】
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を目的とする均衡待遇規定関連では、下記3つの項目の見直しが行なわれました。
- 9. 正規、非正規労働間の格差解消
- 10. 非正規雇用労働者に対する、待遇に関する説明義務の強化
- 11. 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備
同一企業内における正規、非正規の労働者間の不合理な待遇の差をなくし、また同一労働同一賃金を実現し、どのような雇用形態を選択しても待遇に納得して働き続けられるようにすることが目的です。
これにより、多様で柔軟な働き方を選択できるようになります。働ける時間等に制限がある女性や高齢者の労働参加率を高めることも狙いとした施策です。
企業が働き方改革に取り組むメリット
働き方改革への取り組みは、企業にとっては費用負担等が増加する一面があることも事実です。しかし、きちんと考えて取り組むことで、以下のようなメリットに繋げることが大切です。
- 生産性の向上が期待できる
- 企業イメージの向上につながる
- 人材が定着しやすくなる
生産性の向上
労働時間をきちんと管理して長時間労働を制約することで、短い時間で成果を上げる必要がでてきます。労働時間の制約によって社員一人ひとりの集中力を高めたり、より付加価値が高い業務に集中できるように改革したりしていくことが必要です。
また、上記を実現するために、残業削減と歩調を合わせて、業務効率化、ムダやムラがある業務の排除などに取り組むことも大切です。適正なワークライフバランスが保たれるようになることでメンバーのエンゲージメント向上も期待できるでしょう。
企業イメージと採用力の向上
働き方改革に積極的に取り組むことで、社員を大切にするホワイト企業としてのイメージ向上につながります。働きやすい職場、働きがいのある職場にすることで、採用力の向上にもつなげていきましょう。
人材の定着
人材不足は少子高齢化が進む中で慢性的な経営課題となっています。企業にとってはいかに必要とする人材を確保して定着させるかは非常に重要です。働き方改革の実現によって、働きやすい職場づくりが実現すれば、まず全般的な離職率の低下が期待できます。
また、ワークライフバランスの実現や多様で柔軟な働き方が実現することで、社員のライフステージが変わっても長く働き続けられます。優秀な女性社員の定着や復帰等には大きな効果が期待できます。
企業が働き方改革に取り組む際の注意点
- 社内規則や就業規則の見直しが必要
- 人件費が増加する可能性がある
- 管理職に負担が集中する可能性がある
- 残業削減等は決して本質的ではない
社内規則や就業規則の見直しが必要
働き方改革に取り組むためには、社内規則や就業規則の見直しが必要となる場合もあります。働き方改革関連法に遵守できていない場合、行政指導が入ったり、SNSでの炎上等につながったりすると企業の悪印象につながる可能性もあります。自信がなければ、社労士等の手を借りてチェックすることも必要でしょう。
人件費が増加する可能性がある
正規、非正規労働者間の賃金格差解消に取り組むことで、働き方改革前に比べて、人件費が増加する可能性もあります。人件費の増加は企業にとっては大きな痛手となりますので、業務を効率化して、より付加価値の高い業務に集中できるように取り組むことが大切です。
管理職に負担が集中する可能性がある
働き方改革によって、勤怠管理の厳正化や残業時間の削減が行われています。結果として、社員が労働時間内に終わらなかった業務を、労働時間の上限が適応されない管理職が残業をして巻き取ることが増えているようなケースもあります。
一般社員のワークライフバランスは保たれますが、一方で管理職には負担が集中し、仕事と生活の不調和につながり得ます。また、管理職の本来業務である中長期の計画立案や人材育成が疎かにもなりがちです。さらに負担が大きい管理職が離職してしまえば、さらなる生産力低下や人手不足にも陥りますので注意が必要です。
残業削減等は決して本質的ではない
働き方改革関連法案では、長時間労働の弊害をなくすための改正が多く盛り込まれています。改正自体はもちろん素晴らしいことであり、ホワイトで働きやすい職場を実現することは大切です。
ただし、働き方改革が単なる残業制限になってしまうと生産性の向上、また残業代で稼げなくなったことによるモチベーション低下などが生じるケースもあります。生産性を高めるには残業削減等に加えて、働く時間の生産性を高めるための適切な優先順位付け、IT活用などの時間生産性アップが必要です。
また、組織内のコミュニケーション活性化やエンゲージメント向上等も重要ですし、根本的にビジネスプロセスやビジネスモデルの見直しも大切になります。根本的な問題に着手せずに「働き方改革=残業制限と有給の取得推奨」だけで終わらないようにすることが大切です。
企業による働き方改革の取り組み事例
SCSK株式会社
SCSKは、業界内で率先して、残業時間の削減と有給休暇の取得率向上を中心とする働き方改革に取り組んできました。
場所にとらわれない新しい働き方を推進する“どこでもWORK”、有給休暇20日取得の推奨、浮いた残業代の社員還元、月間平均残業20時間未満に挑戦する“スマートワーク・チャレンジ”など、独自の働き方改革のための取り組みを行なっています。
ヤフー株式会社
土曜日が祝日と重なったら金曜日を休みにできる“土曜日祝日振替休暇”、“キャリアを見直す最長3ヵ月の休暇”“サバティカル休暇”、“社会課題解決のための有給休暇”“課題解決休暇”など、独自の働き方改革のための取り組みを行なっています。
また、世間的にはリモートワークからオフィス回帰の動きもあるなかで、さらにオンライン中心の働き方を推進するなど、より一人ひとりの事情にあわせた働き方が選択できるようにしています。
株式会社ワコール
ワコールでは、生産性向上とメンバーの働きがい向上支援を目的として“働き方・休み方改革プロジェクト”を導入しています。また、社員全体に占める女性比率が高いため、女性社員のキャリア形成のための支援や産休育休制度、育児や介護支援のための短時間勤務の制度などが整備されています。
また、ライフステージに応じて働き方の柔軟な変更も可能となっており、出産・育児による離職率を低めています。
働き方改革では表面的な残業削減ではなく、本質的な仕組みの改革が重要
働き方改革が進められた背景には、働き方に関する価値観の変化、また、少子高齢化に伴う労働生産性の向上が必要となっていることがあります。
2019年に施行された働き方改革関連法では、長時間労働の解消や雇用形態に関わらない待遇の確保等について、主に11項目が見直されました。働き方改革への対応自体は企業にとって必須なものとなっています。
働き方改革への対応は企業にとって費用負担が生じる側面があります。だからこそ、単なる残業削減などで終わらせず、業務効率化、IT技術の活用、ビジネスプロセス・ビジネスモデルの見直しなどの改革を実行する機会として、生産性向上や人材定着などのメリットにつなげましょう。