リテンションとは?人事やマネジメントにおける意味と目的、効果的な施策を解説

マネジメントのイメージ

日本で少子化の影響が進んでいるのは周知の事実です。18歳人口は1992年205万人だったところから、2017年106万人と25年間で半減しています。一方で、大学進学率の上昇により、同じ期間で大学卒業者数は44万人から57万人へと増加しているため、ビジネスの現場では、少子化の影響を感じることは少なかったかもしれません。

しかし、大学進学率は頭打ちとなりつつあり、今後はいよいよ少子化の影響が大卒者採用の世界に押し寄せてきます。企業にとって採用した人材をしっかりと定着させて活躍させることは、ますます重要度を増します。

そのために有効なのが「リテンション」と呼ばれる施策です。リテンション施策を適切に実行することで、採用した人材の定着率向上やモチベーションUPを実現できます。記事では、リテンションの意味や目的、具体的なリテンション施策を解説します。

<目次>

リテンションとは?

団結するビジネスマン

リテンション(retention)は直訳すると「保持」や「維持」という意味で、おもにマーケティング領域と人事領域で使われる言葉です。「既存顧客維持」や「人材の維持・確保」などのニュアンスを表すのに使用します。

 

<マーケティング領域の「リテンション」>

マーケティング領域では、サービスを購入してくれた顧客との関係を構築したり、ファン化してリピート利用してもらったりするための施策をリテンションと呼びます。「購入したときの気持ちの高まり、購入意欲を取り戻してもらう、維持し続けてもらう」という意味合いです。

 

<人事領域での「リテンション」>

人事領域では、組織メンバーを定着させ、モチベーションを高めるための施策をリテンションと呼びます。「入社した経緯や意欲を思い出してもらう、モチベーションを高めて活躍してもらう」ことが目的となります。

 

マーケティング領域と人事領域では、対象が顧客と組織メンバーで異なりますが、根本的な意味はまったく同じです。なお、その点では、人事領域におけるリテンション施策を考えるうえでは、マーケティング領域における取り組みが参考になることも多々あるでしょう。

 

リテンションの目的と効果

企業のイメージ

ここから先は人事領域におけるリテンションについて扱っていきます。人事領域におけるリテンションの目的は企業成果の向上です。リテンションの具体的な施策などを紹介する前にリテンションの目的と効果を確認しておきます。

 

 

労働生産性の向上

リテンションの直接的な効果は、組織メンバーの定着率とモチベーション、エンゲージメントの向上です。メンバーが定着せず入れ替わる状態では、引継ぎなどによる生産性ダウンが生じます。逆に、メンバーが定着すれば、個人の知識やスキル向上、また組織内の連携向上などによる生産性の向上が見込めます。

 

また、モチベーションアップやエンゲージメント向上は、野心的な目標設定、知識やスキルの発揮意欲、目標達成に向かう途中で生じる課題への挑戦心といったところにつながり、同じく個人と組織の生産性向上が見込まれます。

 

 

採用・教育コストの削減や費用対効果の向上

社員の定着率向上は、労働生産性の向上はもちろん、採用・教育コストの削減や人材育成に関する費用対効果の向上にもつながります。

 

社員が定着すれば採用に関する諸経費は確実に減少しますし、組織へのエンゲージメント向上やリファラル採用(既存メンバーからの口コミ採用)、採用活動のステップ率上昇、優秀人材の採用にもつながります。

 

また、人材育成の対象者が長く社内に在籍すれば、人材育成の費用対効果も上昇します。例えば、管理職の3割が毎年入れ替わっていく状態だとしたら、管理職研修をしても、3年後には研修を受講した管理職は3割強しか残らないことになります。これでは研修の効果を得ることはなかなか難しいでしょう。

 

一方で、リテンション施策が機能して、組織メンバーが中長期的に定着することが見込めれば、時間のかかるリーダー人材の育成や管理職研修への投資、また、挑戦的な配置や抜擢を通じた人材育成にも挑戦しやすくなります。

リテンション施策の種類

リテンション施策は大きく分けると金銭的報酬によるリテンションと非金銭的報酬によるリテンションの2種類があります。

 

具体的な施策は後ほど紹介しますが、非金銭的報酬、例えば福利厚生や挑戦的な仕事や抜擢、成長実感や組織で働く満足感などは非常に重要です。一方で、金銭的報酬もやはり重要です。

 

組織の労働生産性を高め、メンバーの能力や実績に応じて、競合や市場評価に負けないだけの金銭的報酬を支給できる状態を作ることは忘れてはなりません。

 

 

金銭的報酬

給与や賞与、成果に応じたインセンティブなど、金銭的な報酬を与えて社員のモチベーションや働く意欲を高める方法です。

 

<金銭的報酬の具体例>

  • 個人の能力に応じた給与
  • 個人業績に合わせたボーナス
  • 会社の業績目標を超えた利益の賞与還元
  • 成果に応じたインセンティブ
  • 成果と連動した昇給
  • ストックオプション
  • 実質的な待遇面につながる福利厚生(家賃補助など)

など

 

金銭的報酬はわかりやすく、また、基本的には個人や組織の成果と直結する形になることが多いので、意識の高い社員や優秀層にとっては大きな魅力となります。

 

逆にいうと、業界標準や市場相場と比べて金銭的な待遇面で劣っている場合は注意が必要です。もちろん、根本的には労働生産性を向上させなければ、金銭的報酬は支給できません。バランスを取りながら、改善を進めましょう。

 

ただし、金銭的報酬ばかりになると、評価につながらない仕事が行われなくなったり、内発的動機を損なったりする危険性もあります。また、個人評価のウェイトが強くなると、個人プレーが加速して、組織内での連携や協力が薄れてしまう可能性もあるので注意が必要です。

 

 

非金銭的報酬

非金銭的な報酬は、仕事のやりがいや専門スキルの向上、ワークライフバランスの実現など、金銭以外の部分で、メンバーにとって「組織で働く価値」を高める方法です。

 

<非金銭的報酬の具体例>

  • ミッション、ビジョン、バリューの浸透と実践
  • インナーブランディング
  • 能力開発や挑戦的な仕事による成長欲求の刺激
  • 成長実感の習得
  • 強みを活かしている実感
  • 労働条件の改善
  • 多様な働き方の導入
  • キャリアビジョンやライフプランの構築
  • 表彰やサンクス・カードなどを通じた承認文化

など

 

人が働くうえで金銭や待遇は重要なファクターです。一方で、日本においては物質的な欲求はそれなりに満たされた状態となり、働くうえで精神的な充足を求める人が増えていることは事実です。

 

また、どこの会社でも活躍できるような優秀層になるほど、金銭的な条件だけでなく、仕事のやりがいやミッション・ビジョン・バリューへの共感などを大切にしています。金銭的報酬を忘れることはできませんが、非金銭的報酬によるリテンション施策は不可欠です。

主なリテンション施策(非金銭的報酬)の一覧

リテンション施策にはさまざまな種類があり、自社に適した施策を実施することが大切です。多くの企業で取り入れられているリテンション施策(非金銭的報酬)をいくつか紹介します。

 

 

インナーブランディング

インナーブランディングとは社内に対して行なうブランディングの総称です。メンバーの組織や事業に対する誇り・愛着を醸成することで、帰属意識が高める施策です。

 

組織メンバーの全員が、日々成果を生み出したり、直接的に顧客から感謝をもらえたり、価値を感じられたりする仕事をしているわけではありません。自分たちがやっている仕事の価値やミッション、ビジョンと仕事のつながり、社員が創出した価値を知らせる顧客の意見などを社内に発信することは、仕事のやりがいを生むうえで一番重要です。

 

また、非金銭的報酬については、活用状況や利用者の声などを発信することで、存在が認知され、価値を感じられるようになる側面もあります。メンバーに認識されていないものは、存在していないのと同じです。各種リテンション施策をやるうえでは、「導入・運用する」と同時に「発信する」ことが大切です。

 

 

成長機会の提供

成長欲求は誰もが持っているものであり、特に近年の若手社員は仕事に自己成長を強く求める傾向にあります。そのため、定期的な研修の実施をはじめ、セミナー参加や書籍購入の推奨(費用補助)、資格取得の支援、また、挑戦的な仕事やプロジェクトへの参加機会などもリテンション施策として効果的です。

 

また、直接的な成長機会の提供以外に、キャリア面談を通じて自分の成長シナリオが社内で実現できることを示したり、成長実感を獲得するための振り返りやリフレクション研修を行なったりすることも有効です。

 

 

キャリア形成・ライフプランの支援

「今後どのような仕事がしたいのか」「そのために必要な知識や経験は何か」といったキャリアパスを明確化し、「自分の実現したいキャリアを社内で実現できる、成長できる余地がある」と確信させれば「この組織で引き続き働きたい」という意識が生まれます。

 

そのためには社員一人ひとりのスキルや経験、キャリアプランを把握し、性格や特性に応じたキャリアの選択肢を複数用意してあげることが大切です。必ずしも全員が「昇進・昇格したい」「マネジメントしたい」と考えているわけではありません。一昔前と比べるとキャリアプランは多様化しています。まずは把握することから始めましょう。

 

継続して組織で働いてもらうためには、キャリアだけでなく、ライフプランを支援することも必要です。ライフプランには「何歳くらいで結婚する」「子供は何人ほしい」「資産形成をどう考えるか」といったプライベートな計画も含まれます。

 

ライフプランを把握することはハラスメントなどにもつながりますので難しいところですが、結婚、出産、育児、配偶者などの転居をともなう異動、介護など、さまざまなライフイベントに対応できる多様な働き方やサポートを、社員のライフステージに合わせて徐々に整えていきましょう。

 

ライフイベントに対応できる制度が整っていないことが原因で、優秀層を失ってしまうことは非常に大きな損失です。

 

 

サンクス・カードや社員表彰

サンクス・カードは、社員同士で感謝の気持ちを伝える際に用いられるカードのことです。リアルな「紙」でやることも可能ですし、最近はオンライン上で行なうことも一般的になっています。

 

サンクス・カードの導入と運用は、マーケティングや管理部門といった顧客からの感謝が届きにくい部署にも脚光が当たりやすくなったり、社員同士で感謝し尊重しあう文化を構築したりすることにつながります。

 

ある会社では、紙で運用するサンクス・カードを賞与通知と一緒にメンバーに届けることで、金銭的報酬と非金銭的報酬を同時に味わうような形を作っています。また、最近では、ピアボーナスという形で、メンバー同士での貢献や感謝をポイント化してギフトなどにつなげたりするような仕組みもあります。

 

サンクス・カードのような精神的報酬という点では、表彰制度もモチベーションアップに効果的です。サンクス・カードはいわばメンバー同士での尊重や感謝ですが、表彰制度は組織からメンバーへの尊重や感謝です。

 

メンバーにとっても、全メンバーの前で公に認められることは承認欲求が満たされたり、自分の成果や成長を感じたりする機会となります。表彰することで、表彰されたメンバーの達成感やモチベーションにつながるだけでなく、表彰されなかったメンバーの意欲を生み出すこともできます。

 

また、本人にコメントしてもらうなかで、あらためて「周囲の協力があってこその成果だ」という気付きや感謝の気持ちが生まれる部分もあるでしょう。

 

 

就労環境の改善

組織のメンバーが働きやすい環境を整えることは、直接的な効果とともに、「社員を大事にしている」というメッセージにもなります。特に働き方改革が謳われる近年はワークライフバランスを重視する社員も増えており、リテンション施策として就労環境の改善は必須といっても過言ではありません。

 

<就労環境の改善例>

  • 時短勤務や在宅勤務などの多様な働き方
  • 有給休暇の取りやすさや使いやすさ(時間有給など)
  • 残業の削減(時間生産性の向上などと併せて)
  • 生産性や利便性を高めるツールやインフラ
  • ワークライフバランス、QOL(クオリティオブライフ)を高める福利厚生

など

まとめ

人事分野におけるリテンションは組織メンバーを定着させ、モチベーションを維持・向上させるための施策を指します。少子化の影響が若年者雇用に直接響いてきて、若手・優秀層の取り合いが激しくなる今後、リテンション施策は組織にとってますます重要になってくるでしょう。

 

適切なリテンション施策を行なうことで、個人や組織の労働生産性は確実に高めることができますし、採用費の削減や人材育成の投資対効果向上にもつながります。

 

リテンションには金銭的報酬と非金銭的報酬があり、バランス良く導入するのが大切です。さまざまな施策がありますので、自社に適した施策、導入しやすい施策を中心に、効果検証しながら進めましょう。

 

なお、リテンション施策は形だけ導入してもあまり効果は出ません。しっかりと運用すること、また、社内に対して発信するインナーブランディングも重要です。リテンション施策の投資対効果をどう測るかも含めて、しっかりと取り組んでいきましょう。

著者情報

近藤 浩充

株式会社ジェイック|常務取締役

近藤 浩充

大学卒業後、情報システム系の会社を経て、ジェイックに入社。執行役員としてIT技術者の派遣を行う「IT戦略事業部」の創設、全社のマーケティング機能を担う「経営戦略室」室長を歴任。取締役/教育事業部長として、社内の人材育成、マネジメントで手腕を磨く。2013年には中小企業向け原田メソッド研修の立ち上げを企画推進し、自部門および全社の業績を向上させた貢献により、常務取締役に就任。カレッジ事業本部長、マーケティング本部長、教育事業本部長等を歴任。専門はマネジメント、幹部育成、組織論。

【著書、登壇セミナー】
・社長の右腕 ~上場企業 現役ナンバー2の告白~
・今だからできる!若手採用と組織活性化のヒント
・withコロナ時代における新しい採用力・定着率向上の秘訣
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