目標設定を考える際は、KPIマネジメントの概念を踏まえて考えることは非常に有効です。KPIとは日本語に直すと「重要業績指標」。わかりやすくいえば、業績や成果のカギとなる指標です。
記事では、KPIマネジメントを実践するメリットを確認したうえで、業種・職種別のKPI具体例、KPIを適切に設定するポイントを解説します。
<目次>
KPIを導入するメリットとは
仕事の目標設定や計画作成にKPIマネジメントを導入すると、以下のメリットが得られます。
精度の高い計画を立てることができる
組織の場合、最終的な目標が売上や利益となることが多いです。この場合、売上や利益がKGI(最終目標)ということになります。
しかし、例えば、売上を目標に設定した場合、具体的な行動計画を立てることは意外に難しいこともあるでしょう。計画が難しいときなどに効果を発揮するのが、KPIマネジメントの考え方です。
売上というKGIは、例えば、以下のように分解できます。
・新規売上 = 新規契約数 × 契約単価
・新規契約数 = 新規商談数 × 受注率… など
こうして分解していき、たとえば、新規の商談数をKPIとして設定すれば、売上と比べて達成するための行動計画や施策が非常に立てやすくなるでしょう。
目標達成までの進捗が細かく可視化される
KPIを目標設定することで、どこが順調でどこに問題があるか、どれぐらい達成できているかなどの把握や改善がしやすくなります。先ほどの売上の例で考えると、「1年間で売上3億円」という目標だけでは、状況が把握しづらいでしょう。
例えば、「1年間で新規売上1億円、達成のために新規顧客契約を25社、新規商談を250社、既存顧客売上を2億円、既存顧客への提案金額4億円」といった形でKPIを設定することで、それぞれのKPIに対して以下のことが明確になります。
- ・進捗はどうなっているか
- ・どこが順調で、どこが不調か
- ・どこで計画とのズレが生じているか など
状況を細かくつかめるようになることで、次項目のPDCAサイクルの改善や先行管理が実現します。
数値が見える化しPDCAが回しやすくなる
立てた目標(ゴール)への到達精度を高めるには、進捗や実施内容への振り返りを行ない、遅れや問題があれば速やかに改善することが必要です。
計画→実施→振り返り→改善→……のサイクルを回すことを、PDCAと呼びます。
先述の「1年間で新規売上1億円、達成のために新規顧客契約を25社、新規商談を250社、既存顧客売上を2億円、既存顧客への提案金額4億円」というKPIの数値目標があり、それぞれの進捗が掴めると、PDCAが回しやすくなります。
実際には、商談数や提案金額など、もっと手前のアプローチ量などの行動指標(KAI)もさらにマネジメントしていきます。
うまくいっていない行動にテコ入れするか、逆にうまくいっているものをさらに伸ばす手を打つなどのPDCA、先行管理を通じて、目標達成の確度を高めることができます。
業務の優先順位が明確になるため生産性が向上する
営業職で「1年間で1000万の売上を達成する」という目標を設定したとき、前述したようにKPIツリーなどで要素を分解したうえで、何が達成のカギかを考えることがKPIマネジメントの肝となります。
例えば、去年の実績と比較して、「既存売上の目標はある程度達成できる、危ないのは新規売上だ」と仮定します。また、短期間で受注率を上げる施策を打つことは難しそうであり、現状の受注率を維持すると考えた場合、設定すべきKPIは、新規商談数ということになってくるでしょう。
以上のように実績などと比較しながら、目標達成するためにカギとなる要素はどこかを絞り込んでKPIとして設定することで、業務や行動のフォーカスが定まり、施策などの優先順位も明確になります。
【業種・職種別】KPIの具体例
KPIの具体例を業種・職種別に紹介していきます。なお、なかには、行動指標であるKAIの要素も含んでいますのでご了承ください。
営業職
- ・新規受注件数/社数/金額
- ・契約単価
- ・新規提案からの受注率
- ・新規提案件数/社数/金額
- ・新規商談からの提案率
- ・新規商談数
- ・新規リード獲得数
- ・新規顧客へのアプローチ数
- ・新規顧客数
※上記プロセスの既存顧客版
- ・新規顧客の2回目発注率
- ・既存顧客への接触率
- ・リードタイム
- ・クレーム数
- ・解約件数 など
マーケティング職
- ・マーケティング費用に対する売上効果
- ・新規顧客獲得数
- ・新規顧客の獲得単価
- ・新規商談数
- ・商談単価
- ・有効リード数
- ・獲得リード数
- ・リード獲得単価(CPA)
- ・リードからの転換率
- ・リードの有効率
- ・ウェビナーの参加企業数
- ・ホワイトペーパーのダウンロード数
- ・メルマガ開封率、クリック率
- ・直帰率
- ・PV数(ページビュー数)
- ・CVR(コンバージョン率)
- ・UU数(ユニークユーザー数)
- ・主要キーワードの検索結果1ページ目表示数
- ・検索結果での表示回数 など
人事部門
- ・採用人数
- ・求職者数
- ・面接数
- ・内定辞退数
- ・紹介経由の採用率
- ・採用者の平均在職期間
- ・定着率
- ・離職率
- ・従業員満足度のスコア
- ・従業員エンゲージメントのスコア
- ・パルスサーベイのスコア
- ・従業員の平均勤続年数
- ・管理者比率
- ・資格(スキル)保有者数(増加率)
- ・特定試験の平均スコア(TOEICなど)
- ・研修の満足度
- ・研修コストの費用対効果
- ・研修後のパフォーマンスに対する上司の評価
- ・育成プラン達成度
システム開発
システム開発におけるKPIは、QCD(品質・コスト・納期)に関するものが中心です。
- ・エラー件数
- ・テスト終了件数
- ・標準化率
- ・進捗率
- ・稼働率 など
製造業
製造業の場合、ISO22400でMES(製造実行システム)領域で定義されている以下のKPIも参考になります。
- ・労働生産性
- ・負荷度
- ・生産量
- ・品質率
- ・段取率
- ・設備保全利用率
- ・機械能力指数
- ・クリティカル機械能力指数
- ・材料使用率
- ・有害物質
- ・危険物質廃棄率
- ・在庫回転率
- ・良品率
- ・総合良品率
- ・設備負荷率
- ・平均故障間隔
- ・改良保全率 など
参考:ISO‐22400(KPI)の現状と今後のIAF活動との関連
ホテル業
- ・リピート率
- ・顧客満足度
- ・客単価
- ・宿泊客数
- ・客室稼働率
- ・定員稼働率
- ・一人あたりの宿泊数
- ・宿泊比率
- ・バックオーダー数
- ・原価率
- ・キャンセル率
- ・一室平均利用人数
- ・一人あたりの利用回数
- ・使用中の客室の収益率
- ・予約コンバージョン率(自社予約サイトがある場合)
KPIを適切に設定する際のポイント
KPIを生かした目標設定を効果的に実施するためには、以下のポイントを押さえて設定・運用をしていくことが大切です。
KPIツリーを用いて指標を洗い出す
KPIを生かした目標設定では、まず、KPIツリーを使ってビジネス上のゴールであるKGIを分解します。
例えば、営業職が「売上○万円を達成する」というKGIを設定している場合、最もシンプルなKPIの項目は以下のようになります。
- ・新規顧客の売上
- ・既存顧客の売上
以上の2つを前述したように、契約数や商談単価、受注率や商談数などへとさらに分解していきましょう。
目標達成のために肝となるKPIを特定する
KPIツリーなどで分解した指標群のなかからカギになる指標、「これを達成すればゴールを達成できる確度が高まる」「実績から変更させることが必要」といった指標を見つけ出していきます。
例えば、同じような新規売上目標だとしても、商談件数を伸ばすことで達成を目指すのか、受注率を高めることで達成を目指すのか、さらには、契約単価を高めることで達成するのかによってKPIは異なってくるでしょう。
KPI設定と併せて、KAIや施策もしっかりと策定する
KAIとは、KPI達成に向けて自分たちがコントロールできる活動指標のことです。例えば、KPIが「新規商談数」であれば、以下のような施策が考えられます。
- ・新規顧客への架電件数
- ・新規顧客へのアポイント件数
- ・週末の販売イベントにおける商談件数
- ・問い合わせに対する30分以内の返答率 など
定期的に進捗共有を行なって、進捗が計画どおりかをチェックする
上司とメンバーの1on1などを行ない、当初設定した目標に対してどのくらいの進捗かどうかの共有やキャッチアップ施策の検討をしていきましょう。
KPI設定の目的は、先行管理することです。最終的な売上ではなく、新規商談数をマネジメントすることで、「新規商談数が計画どおりに伸びていない」という状況を把握して、先行して手を打っていくことが可能になります。
したがって、目標設定にKPIを導入した場合、マネジメントの中でどれだけ早く不調の兆候、計画とのズレを把握して手を打つかが大切になります。
期間終了後に、KGI、KPI、KAIなどを振り返る
ゴールまで到達したら、どのような結果であっても必ず振り返りを行ないます。
例えば、「問い合わせに対する30分以内の返答率」というKAIを設定した場合、実績を分析したときに、30分ではなく10分以内かどうかがアポイント率の差になるという結果であれば、KAIを変更する必要があるでしょう。
また、KAIやKPIを達成したのに、KGIが達成していないということであれば、そもそも設定したKPIやKAIが間違っている、設定したステップ率が誤っていたなどの原因が考えられます。実績の分析で問題や原因が見つかったら、次の行動計画に反映していくことが大切です。
同様にKAIやKPIが未達成なのにKGIを達成したという場合、達成を喜んで終わるのではなく、以下のことをしっかりと考察することが大切になるでしょう。
- ・どこが計画とズレたのか
- ・達成したのは計画が誤っていたのか
- ・何かイレギュラーな要因があったのか
- ・過程でのイレギュラー要因は今後に向けてどうとらえるべきなのか など
ex)商談数や受注件数は未達だったが大口顧客の受注で売上達成した
⇒ 単なるラッキーパンチなのか、あるいは実は隠れた鉱脈・優良顧客の属性を見つけたのか?など
KGI、KPI、KAIなどの振り返りをしっかり行なうことで、次回以降の精度や成功の再現性が向上しやしやすくなります。
まとめ
KPIとは、以下のように業績や成果のカギとなる指標の総称です。
- ・営業職:新規顧客数、新規リード獲得数、既存顧客の売上 など
- ・マーケティング職:顧客満足度、リピート率、PV数 など
- ・人事部門:採用人数、離職率、研修の受講率 など
- ・システム開発:エラー件数、テスト終了件数、進捗率 など
- ・製造業:生産量、品質率、在庫回転率 など
- ・ホテル業:宿泊客数、一人あたりの宿泊数、使用中客室の収益率 など
目標設定にKPIを取り入れると、以下のメリットが得られます。
- ・精度の高い計画を立てることができる
- ・目標達成までの進捗が細かく可視化される
- ・数値が見える化しPDCAが回しやすくなる
- ・業務の優先順位が明確になるため生産性が向上する
KPIを適切に設定するには、以下のポイントを大切にしましょう。
- ・KPIツリーを用いて指標を洗い出す
- ・目標達成のために肝となるKPIを特定する
- ・KPI設定と併せて、KAIや施策もしっかりと策定する
- ・定期的に進捗共有を行なって、進捗が計画どおりかをチェックする
- ・期間終了後に、KGI、KPI、KAIなどを振り返る