最近、会議の進行を担う管理職などを対象として、ファシリテーション研修を実施する企業が増えています。会議の生産性が低い、活性化していないと感じるようであれば、ファシリテーションの技術を導入することは有効な解決策になり得ます。
記事ではファシリテーションの概要やメリット、成功させるためのコツを紹介します。
<目次>
- ファシリテーションとは何か
- ファシリテーション導入のメリット
- ファシリテーターに求められる能力
- ファシリテーションの進め方
- ファシリテーションを成功に導くポイント
- ファシリテーションスキルを身に付ける方法
- まとめ
ファシリテーションとは何か
ファシリテーションとはどのような技法を指すのでしょうか。ファシリテーションの概要やファシリテーターの役割を解説します。
会議の質を高めるための手法
ファシリテーションとは、会議の質を高める手法のひとつです。参加者からさまざまな意見を引き出して上手にまとめ、無駄な時間を減らしながら良質な結論を導き出します。
異なる考え方や価値観を持つ人が集まれば、意見をまとめて結論を出すことは簡単ではありません。合意までに時間がかかったり、平凡な結論しか出なかったりするケースも多いでしょう。
しかし、ファシリテーションを導入すれば会議を効率よく進められます。異なるタイプの意見をうまく取りまとめて画期的な結論が出やすくなることも、ファシリテーションの特徴です。
ファシリテーターの役割
ファシリテーションの技術で会議を進行していく人がファシリテーターです。ファシリテーターは、参加者の意見を引き出し、また、さまざまな意見をまとめながら、目的に向かって会議を導く役割を担います。
すべてのメンバーから意見を引き出せるように、ファシリテーターは工夫を凝らさなければなりません。さまざまな意見やアイデアを整理したり、ゴールに向けて会議を上手に収束させたりすることも、ファシリテーターの重要な役割です。
ファシリテーターがいることで、短時間で全員がしっかりと発言し、また明確な意思決定が行なわれやすくなります。結論に対してメンバーが満足感や納得感を得られることも、ファシリテーターが会議を進行するメリットです。
ファシリテーション導入のメリット
会議にファシリテーションを導入することのメリットは大きく3つです。それぞれの具体的な内容を解説します。
良質な意思決定につながる
たとえば、発言力の強い人が会議に参加していたり、参加者のポジションに上下があったりすると、発言が偏る、また一方的な主張や頭ごなしの意見が採用されやすくなって、不満を感じる参加者も出てきます。
しかし、ファシリテーターが会議を進行することで、全員がしっかりと発言する場が作れ、参加者が納得できる合意形成や成果につながる結論を得られるようになります。
また、参加者全員から意見が出て活発な議論が行なわれるとしても、会議のゴールが達成されなければ、盛り上がることに意味はありません。このような会議もファシリテーターがいることで、議論をうまくまとめて意思決定等のゴールに向けて進行されるようになります。
イノベーションの創出につながる
ファシリテーションを会議に導入するメリットとして、イノベーションや新たなアイデアが創出されやすくなることもあります。ファシリテーターが、参加者の意見を引き出し、また誰かの意見に他の人の意見を掛け合わせて、深めていきます。
また、ファシリテーションされない会議では、聞いたこともないような常識外れの意見が出ると、意見は無視・否定されて、無難な結論になりがちです。しかし、ファシリテーションされることで、突拍子もない意見も平等に拾い、他の人が意見を考える刺激剤として適切に扱われるでしょう。
新たな気付きを得た参加者同士がさらに議論を重ね、ファシリテーターが整理し収束させることで、革新的なアイデアが生まれやすくなります。
無駄な時間を削減できる
活発に意見が飛び交う場は素晴らしい状態ですが、同時に議論だけが盛り上がって、会議の時間が長くなることがあります。また、本来の議題ではない枝葉末節のところで議論が盛り上がってしまい時間を浪費するような経験はないでしょうか。
まとめ役が不在の会議は時間が浪費されやすいものです。しかし、ファシリテーションを導入することで、会議の無駄な時間が削減されます。ファシリテーターは議論を盛り上げると同時に、きっちりと会議の時間管理も行っていきます。
無駄な時間が削減されれば参加者の負担は軽減され、生産性の向上も期待できます。1つの会議でより多くの結論を出し、組織全体のスピードも上がるようになるでしょう。
ファシリテーターに求められる能力
ファシリテーターにはさまざまな能力が求められます。ファシリテーション力を磨くために必要なスキルを確認しましょう。
傾聴力と質問力
ファシリテーターは会議で、平等に発言できる場を作り、全員の意見をきちんと聴く必要があります。参加者が安心して意見を言える雰囲気を作るためには、ファシリテーターに高い傾聴力が求められます。
そして、ファシリテーターは、単に「聴く」だけでなく発言を聞いたうえで質問することで、会議の場を良質なものにします。発言者に適切な質問を投げかけて意見を深めたり他の人の理解を促したり、また、違う人に意見を求めることで意見をより良いものにしたり第三案を生み出したりすることを助けます。
ファシリテーターが会議の場を良質なものとするためには、参加者が安心して意見をいえるようにする傾聴力、そして、ひとつの発言を活かしていく質問力、両方を高いレベルで持っていることが理想です。
理解力、整理力
ファシリテーターに求められる能力として、理解力と整理力も挙げられます。ファシリテーターは会議の進行が遅れないように、さまざまな意見を素早く理解して上手にまとめながら進行していく必要があります。
意見のポイント・結論を理解するためのロジカルシンキングや、意見の一致や不一致、また異なる意見やアイデアの連携できる部分を見つけ出す思考力が求められます。これらの能力が高ければ、良質な意思決定が行なわれやすくなるでしょう。
ファシリテーターが理解力や整理力を効率よく発揮するためには、事前に論点を把握しておくことも大切です。論点に対する十分な理解がなされていれば、議論を深めるべきかどうかを判断しやすくなるでしょう。
ファシリテーションの進め方
ファシリテーションを効果的に進めるためには、以下に挙げる流れを参考にしましょう。ファシリテーションの適切な進め方と各ステップで意識したいポイントを解説します。
ゴールを設定する
ファシリテーターは、ファシリテーションするうえで、最初にきちんとゴールを明確にすることが大切です。どのような目的で行なわれ、会議のゴールが何かを明確にしておきましょう。会議のゴールを参加者全員の共通認識とすることも重要です。メンバー間でゴールの認識が異なっていると、議論はかみ合わなくなってしまいます。
たとえば、1人は「アイデアを多く出していく場」だと思っていて、違う1人は「現実的な実行可能性を踏まえてどの施策にするかを決める場」だと思っていたら、2人の意見はズレてしまうでしょう。会議の進行を踏まえて、ゴールを変更することも有り得ますが、その際も参加者全員の認識を揃えていくことが大切です。
なお、参加者にあらかじめ意見やアイデアを考えてきてもらえば、会議の生産性をより高めることが可能です。会議中に意見を考える時間が大幅に削減されるため、新たに創出された時間でより発展的な議論を交わせるでしょう。
雰囲気を作る
ファシリテーションでは参加者全員が安心して発言できる場をつくることを目指します。参加者が「自分の意見をきちんと聴いてもらえる」と思える雰囲気を、ファシリテーターは作ってあげる必要があります。
たとえ的外れな意見が出てきても、ファシリテーターがしっかりと傾聴することで、発言者だけでなく他の参加者にも安心感が生まれます。排他的、否定的な雰囲気を出さないように意識することが重要です。
ただし、雰囲気だけ作っても実際に意見が出なければ意味がありません。発言しやすい雰囲気作りだけでなく、ときには指名したりしながら、きちんと全員が意見を言っている状況を作ることがファシリテーターの役割です。
意見を引き出して広げる
意見が出やすい雰囲気になったら、参加者からの発言を引き出していきます。どのような発言であっても否定せず、間違いを恐れずに発言できる場であることを共有します。
呼びかけてもなかなか意見が出ない場合は、直接的に指名したり、付箋やオンラインドキュメントへの入力を通じて全員の意見を集めたり、オンライン会議であればチャット機能を活用して一斉に意見を出してもらったりするのも良い方法です。
参加者から意見を引き出せたら、意見の理解をすり合わせたり深掘りするための質問をしたりしてみましょう。議論をより深めり新たな意見を磨いたりするには、出された意見に対する見解を他の人に質問するのも効果的です。
ネクストアクションを明確にする
会議の最終目的は結論を出すことです。もちろん結論を出さない会議もありますが、ビジネスシーンにおける会議の多くは、「良質な意思決定」がゴールとなるでしょう。ファシリテーターは議論を活発にするだけでなく、会議をきちんとゴールに導くことが求められます。
タイムマネジメントをしながら、ときには議論を拡げ、ときには議論を収束に向かわせて、メンバー全員が納得感を抱けるように意思決定をリードすることもファシリテーターの大切な役割です。
ゴールに向けて議論を収束させるためには、ファシリテーターは常にゴールを見ておかなければなりません。参加者に時間を意識させたり、意見に優先順位を付けさせたりする工夫も必要です。
結論を出すところに向けて、意見を引き出して、納得感のある意思決定を行う。そして、何を意思決定したかを全員の共通認識とするところまでがファシリテーターの役割です。
ファシリテーションを成功に導くポイント
ファシリテーションを成功させるために意識しておきたいポイントを紹介します。以下に挙げる3つのポイントをファシリテーターが押さえておくことで、良質な結論を導く会議を実施しやすくなるでしょう。
タイムキーピングを意識する
ファシリテーションで会議の質を高めるために、ファシリテーターはタイムキーピングを意識することが重要です。会議の時間配分を事前に決めておきましょう。
会議の内容を“目的ゴールの共有”“意見だし”“議論”“収束と意思決定”などのステップに分けて、参加者にもそれぞれの大まかな所有時間を設定すると、タイムキーピングは進行しやすくなります。
会議の目的や時間設定にもよりますが、参加者にもできるだけ意見を短くまとめてもらうように働きかけておきましょう。
発言者の偏りをなくす
会議の参加者には、会議に参加している理由があるはずです。会議の内容に何らかの関わりを持っている、そして、意思決定に納得感をもってもらうためには、すべての参加者が自分の考えを発言することが大切です。
ファシリテーションで1つ重要なポイントは、しっかりと全員に発言してもらうことです。発言者が偏ってしまうと、必ず「言われなかった意見」が生じて、意思決定の納得感が損なわれたり、意思決定の質が低下したりしてしまいます。
発言者の偏りをなくすためには、ファシリテーターは誰が発言しているか、発言していない人がいないかを確認しながら進行する必要があります。同時に前述した通り、付箋を使ったり、グループに分けての意見交換をしたり、オンラインであればチャットで一斉に発言してもらったりといった形で、発言者の偏りをなくすための仕掛けも活用するとよいでしょう。
本筋からの脱線に注意する
議論の最中に本筋から脱線してしまうと、本筋に戻すのに時間がかかりがちです。とくに脱線した話で参加者同士が盛り上がると、本筋に戻りづらいものです。
しかし、本筋からの脱線は、会議の時間を無駄に浪費してしまう大きな原因の一つです。参加者のテンションが下がらないように上手に脱線から引き戻すことも、ファシリテーターに求められる役割です。
ファシリテーションスキルを身に付ける方法
自分のファシリテーションスキルを高めたり、自社の管理職にファシリテーションスキルを習得させたりする方法には、どんなものがあるのでしょうか。2つスキル習得方法を紹介します。
資格を取得する
ファシリテーションスキルを鍛える方法として、資格を取得する方法もあります。
ファシリテーターのスキルを向上させられるいくつかの民間資格があり、代表的な資格が、一般社団法人日本プロカウンセリング協会の『FITファシリテーター資格認定講座』です。この講座はコンサルティングや研修が行なえるレベルのファシリテーターを養成できるとしています。
また、一般社団法人日本きらめき協会の『自律型人材育成ファシリテーター養成講座』や、キャリアトランプの『ファシリテーター資格認定講座(CTF)』も、ファシリテーションスキルを身に付けられる民間資格です。
資格の有無はファシリテーションに必須ではありませんが、資格の学習を通して体系的なファシリテーションを学ぶことができるでしょう。
研修を受ける
自社の管理職等にファシリテーションスキルを身に付けさせたいなら、研修の実施も検討してみましょう。資格の取得に比べて、短時間でファシリテーションスキルを身に付けることが出来るでしょう。
ファシリテーションに特化した研修では、プロの講師から実践的な知識やスキルを学習することが可能です。参考書だけでは学べない、現場で役立つノウハウを取得できます。
公開コースに派遣したり、また社内でファシリテーション講座を開催して一斉にスキルを磨いたり、自社に向いたやり方で導入しましょう。
まとめ
ファシリテーションは会議の質を高める技法です。ファシリテーターが参加者の意見を引き出してまとめることで、良質な意思決定に向けた合意形成を進められます。イノベーションの創出につながることや、会議の無駄な時間を削減できることも、ファシリテーションの効果です。
傾聴力と質問力、理解力など、ファシリテーションに必要な技能を身に付けて、会議をリードできるファシリテーターが組織内に増える、とくに会議を進行する管理職層がファシリテーションの技術を身に付けると組織の生産性やスピードが向上するでしょう。