メタ認知とは「自分自身を客観的にとらえる」ことを指し、セルフマネジメントやストレスケアなどに有効な技術です。
メタ認知能力を高めることは、近年のように知識労働や感情労働が増えているなかで、個人の能力向上、また組織の人材育成や組織開発において効果的な手段となります。
本記事では、メタ認知の概要と2つの効果、メタ認知能力が高い人・低い人の違い、メタ認知能力を高めるメリットを確認します。後半では、メタ認知能力を高めるトレーニング方法を紹介しますので、メタ認知能力の向上に関心がある人は、ぜひ参考にしてください。
<目次>
メタ認知とは?
メタ認知とは、自分自身を客観的にとらえる力のことです。
メタ認知は、ジョン・H・フラベルというアメリカの心理学者が定義した概念で、もともと認知心理学の分野で使われていました。メタ認知をわかりやすく説明すると、「自分から離れたもう一人の自分が、上空や少し離れたところから自分を見ている」イメージです。
たとえば、繁忙期で忙しく、残業が続いているメンバーがいると仮定します。
残業が続くメンバーのメタ認知能力が高ければ、「自分はかなり疲れている」や「ストレスもかなり溜まっている」などの客観的判断から、「次の週末はゆっくり休もう」や「少し栄養のあるものを食べよう」などの対処ができます。
一方で、メンバーのメタ認知能力が著しく低い場合、自分の疲労度・体調・ストレスなどを客観視できないことで、さらに心身を酷使してしまったり、疲労が溜まっていることに対策を取れないまま仕事してミスを起こしたりすることもあるかもしれません。
上記では、個人のストレスや体調の例をあげましたが、メタ認知は、ビジネスシーンで複雑な課題に取り組んだり、メンバーなどと協働したりするうえでも有効なスキルです。
管理職に不可欠とされるアンガーマネジメントなどでも、「いま、相手の今の反応にイラついている」と自分の状態をメタ認知的にとらえることは、基本的な手法の一つとなります。
2種類のメタ認知能力
メタ認知能力には、メタ認知的知識とメタ認知的技能という2つの種類があります。本章では、それぞれの特徴を紹介します。
メタ認知的知識
メタ認知的知識とは、自分自身を自分が知っている知識のことです。一般には、以下の3つに分けられます。ただ、一般にメタ認知能力と呼ばれるのは、一つ目の人に関わるところです。
【①「人」に関わる知識】
認知特性、つまり自分の「物事のとらえ方」などに関する知識です。たとえば、自分自身は「疲れるとイライラしやすい」「つい自分の話ばかりしてしまう」「こういう反応をされるとバカにされた気がして苛立つ」などの特性を自分で把握して、知識として理解できている状態です。
【②「課題」に関わる知識】
課題そのものが抱えている特性の知識です。たとえば、「Aチームのプロジェクトは、後半になると質が低下する」「この商材は、営業担当者の知識量が受注の可否につながりやすい」などになります。
【③「方略」に関わる知識】
課題の解決方法に関する知識です。たとえば、「このフレームワークを使えば、新人でも自分で目標設定できる」「○○な顧客には××なアプローチが有効」などになります。
メタ認知的技能
メタ認知をするための技能・技術のことです。モニタリングとコントロールに分けられます。
◆メタ認知的モニタリング◆
自分の認知行動を監視(モニタリング)することです。メタ認知知識をいまの自分の状態と照合し、「自分は適切な判断ができているか?」「健全な状態か?」を確認していく技術になります。
◆メタ認知的コントロール◆
モニタリングの結果を踏まえて、自分をコントロールしたり改善策を実践したりすることです。
たとえば、「イライラしている自分」をモニタリング ⇒ 自分のメタ認知知識と照合⇒ イライラの原因(疲れるとイライラする)を特定 ⇒ 今日は早めに仕事を切り上げてゆっくり半身浴をする、といったものになります。
メタ認知能力が高い人・低い人の違い
メタ認知能力が高い人・低い人には、それぞれに以下の特徴があります。
メタ認知能力が高い人の特徴
- 客観的に物事を考えられる
- 自分の考え方を修正できる
- 人の意見に耳を傾けられる
- ポジティブ思考になりやすい
- 人間関係のトラブルが起こりづらい
- 柔軟な考え方ができる
- 他人の気持ちや背景を想像できる など
メタ認知能力が低い人の特徴
- 主観的で、自分中心の意見や考え方になりがち
- 感情を制御できず、いきなり怒ったりしてしまう
- ネガティブな思考になりがち
- 柔軟性に欠ける
- 他人の気持ちや背景を想像できない など
メタ認知能力を高めるメリットとは?
前述したメタ認知能力が高い人・低い人の特徴をみると想像できるとおり、メタ認知能力を高めると、以下の効果・メリットが得られます。
自分自身を客観視できる
自分自身を客観視できる状態になると、たとえば、相手の主張に苛立ったときなどにも、自分の正しさを押し付けるのではなく、会話の目的や自分自身の状態を俯瞰的に見つめられるようになります。
なお、客観の反対は、主観です。客観ができず主観的に物事をとらえる場合、自分の経験や価値観のフィルターだけで物事を認識することが多くなります。
結果として、たとえば、相手の反応や意見に対して「自分の考えは正しい」「自分は間違っていない」などのスタンスになりがちです。
感情のコントロールがうまくなる
メタ認知的技能のところでも少し触れましたが、メタ認知能力が向上すると、自分を客観的にモニタリングし、以下のようなメタ認知知識(自分の傾向)を使って、自分の行動や戦略の改善(コントロール)ができるようになります。
- 疲れるとイライラする(⇒疲労を溜めないようにする)
- 自分の案にダメ出しされると怒ってしまう(⇒怒りそうになったら6秒ルールを使う) など
特に「自分自身がいま苛立っている」といった自分のネガティブ感情や状態を客観的にとらえられると、「何が原因だろう」「6秒ルールを使おう」などと理性を働かせて感情をマネジメントしやすくなるでしょう。
ポジティブ思考になれる
たとえば、メタ認知能力が低い場合、課題やトラブルに対して、嫌な気持ちや自己嫌悪などが生じがちです。
メタ認知が高くても、もちろん感情の揺れ動きは生じます。ただ、メタ認知能力が高ければ、「感情のコントロール」のところで紹介したとおり、自分自身の感情を冷静にとらえて理性を働かせることができます。
結果として、たとえば、「このハードルは超えられる」「成長の機会だ」「このゴールを絶対に達成するんだ」など、理性的に感情を切り替えたり、自分を奮い立たせたりしやすくなります。
良好な人間関係を築ける
メタ認知能力が高まると、セルフモニタリングとコントロールを繰り返すことで、感情の制御がうまくなり、ポジティブな気持ちを維持しやすくなります。
「相手にいきなり怒ってしまう」「疲労でイライラした状態でコミュニケーションする」といった行動がなくなれば、自然と人間関係も良好になるでしょう。
感情の起伏が穏やかで、ポジティブな状態が多くなれば、周囲の人がコミュニケーションをとりやすくなることは想像に難くありません。
多様な視点で物事を見られる
たとえば、ほかのメンバーが自分と異なる意見だったと仮定します。
主観的な人は、「自分の意見が正しい、間違っていない」と自分の視点に固執しがちです。しかし、メタ認知能力を使って、客観的かつ俯瞰的な見方ができると、以下のような視点を持ち、異なる意見を理解したり受容したりしやすくなります。
- 「自分の意見は本当に正しいのだろうか……」
- 「Aさんがそういう主張をする理由は何だろうか……」
- 「Aさんの意見を受け入れると何かデメリットがあるだろうか……」 など
多様な視点で物事を見られると、柔軟性も高まりやすくなるでしょう。
メタ認知能力を高めるトレーニング方法
メタ認知能力は、日々のトレーニングで高められるスキルです。本章では、すぐに実践できる5つのトレーニングや考え方を紹介します。
セルフモニタリング
まず、鍛える必要があるのは、メタ認知的技能の一つである「セルフモニタリング」です。セルフモニタリングは、普段の自分が無意識にやっている思考・行動への気付きを、自分自身がえるトレーニングになります。
最初のうちは、「今の状況」「思考」「気分」「行動」「身体の反応」の5観点を紙などに書き出すのがおすすめです。たとえば、「メンバーに怒ってしまう自分」をセルフモニタリングすると、以下のようになります。
- 今の状況:報連相ができなかったメンバーAとBに対して、今日も大声で怒ってしまった。
- 思考:彼らの報連相が遅いと、自分が上司のC部長から怒られてしまう。なぜ彼らは、報連相をちゃんとしないのか。自分の指導方法が悪いのか。
- 気分:怒りと不安と自己嫌悪。
- 行動:クールダウンするために、好きな喫茶店で昼食をとることにした。
- 身体の反応:体温や血圧が上がってそう、表情もこわばっている。
1~5のセルフモニタリングをすると、メンバーを怒る背景に以下のような感情や思考があることが見えてきます。
- 不安:自分も部長Cから怒られるのではないか?
- 自己嫌悪:自分の指導方法が悪いのか?
セルフモニタリングを行なうと、喫茶店に行くなどの「クールダウンの方法を知っている自分」にも気付けるでしょう。セルフモニタリングを通じた解決法の気付きは、類似の問題が起きたときに自分をコントロールするメタ認知的知識として活用できます。
ライティングセラピー
ライティングセラピーとは、自分の不安・悩みなどのネガティブな感情や考えなどを、紙に書き出して(writing)可視化する方法です。
先述のセルフモニタリングとライティングセラピーの違いは、ライティングセラピーが「頭に浮かんだことを、自由に10分~20分ぐらい書き出し続けるところ」です。
たとえば、先述の「メンバーに怒ってしまう自分」の例でいえば、ライティングセラピーによって以下のような新しい気付きがえられることもあります。
- 最近、C部長から怒られることが増えた(だから部長を恐れている)
- 一方で自分は、メンバーAとBばかりに怒っている
- なぜ彼らばかりに怒ってしまうのか?(強く怒っても反論しないメンバーから)
- C部長に怒られたストレスもあるし、疲れもかなり溜まっている(だからイライラしている) など
ライティングセラピーは、感情や思考を紙に書き出すことで、精神が安定化する効果もあります。
瞑想
瞑想は、マインドフルネス(自分自身に意識を集中させ、いまの気持ちや身体状況をありのままに受け入れること)のトレーニングとしても注目されている技法です。Googleなどでも導入されていることは有名で、近年では、瞑想の効果・メリットに注目する経営者やビジネスマンも増えています。
瞑想には、以下のようにさまざまなやり方があります。
- 静座瞑想法
- 歩行瞑想法
- ボディー・スキャン など
なかでも実践しやすいのは、Googleの社員研修プログラムSIYでも実践されている歩行瞑想法です。歩行瞑想法に慣れてくると、最寄り駅まで歩く途中や、お昼休みにお弁当を買いに行く途中などにも瞑想ができるようになります。
歩行瞑想法などの詳しいやり方は、以下の記事をチェックしましょう。
認知療法
トレーニングをはじめても、最初のうちは、自分の思考の癖や習慣などをなかなか客観視できないこともあります。客観視できないときには、第三者からのいわゆるコーチングを受ける方法(認知療法)もおすすめです。
第三者に観察してもらい、気付くきかっけをもらうことで、モニタリングがどういうものかの理解もしやすくなります。
なお、認知療法には、専門的な知識と技術が必要です。
そのため、メタ認知向上に向けたコーチングは、プロにお願いしたほうがよいでしょう。
パラダイムという概念の理解
スティーブン・R・コヴィー氏の著書『7つの習慣®』では、私たちの態度や行動は、私たち自身の“パラダイム”から生じているとしています。また、『7つの習慣®』では、“パラダイム”のことを、以下のように解説しています。
(スティーブン・R・コヴィー著「完訳 7つの習慣® 人格主義の回復」 より引用)
わかりやすくいえば、私たちは、物事を“客観的(メタ認知的に)に見ている”のではなく、それぞれが“自分の見方・とらえ方” をしている(主観的に見ている)ということです。
それぞれの主観的な、自分なりの見方・とらえ方が「パラダイム」と呼ばれるものです。
たとえば、ある上司に「報連相ができないメンバーAに厳しく怒ってしまう」という問題があるとします。報連相において、メンバーAと上司には、以下のように大きく異なるパラダイム(見えている世界)がある可能性もあるでしょう。
- 上司:報連相は迅速に行なうべき、自分は報連相のやり方をしっかり教えたはずだ
- メンバーA:報連相の何が重要かわからない、上司も忙しそうだから後日にしよう
上司が、自分のパラダイムを理解し、また、メンバーAのパラダイムを想像すると、報連相を迅速に行なわない本質的な理由が見えてくるかもしれません。
- 報連相の重要性がわからない ⇒ 怒る前に、報連相の意味や重要性を先に伝える
- 上司も忙しそうだと感じている ⇒ 声をかけやすい雰囲気、信頼関係の構築に力を入れる
また、自分のパラダイムを考える、相手のパラダイムを想像するなどには、理性を使うことで、感情が落ち着いてくるという効果もあります。
まとめ
メタ認知とは、自分自身を客観的にとらえる力のことです。メタ認知能力が高いと、以下のメリットが得られやすくなります。
- 自分自身を客観視できる
- 感情のコントロールがうまくなる
- ポジティブ思考になれる
- 良好な人間関係を築ける
- 多様な視点で物事を見られる
メタ認知能力を高めるには、以下のトレーニング方法を実践するのがおすすめです。
- セルフモニタリング
- ライティングセラピー
- 瞑想
- 認知療法
- パラダイムの想像
なお、HRドクターを運営する研修会社ジェイックでは、スティーブン・R・コヴィー氏の著書『7つの習慣®』を使った研修を提供しています。『7つの習慣®』研修では、メタ認知能力が飛躍的に向上するきっかけとなる“パラダイム”の考え方を学ぶことができます。
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