ハイコンテクストとは?ローコンテクストとの違いや国による違い、対処のポイントを解説

更新:2023/09/20

作成:2023/05/20

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

ハイコンテクストとは?ローコンテクストとの違いや国による違い、対処のポイントを解説

コンテクスト(context)は、英語で「文脈」を意味する言葉で、他の表現をするなら状況、背景、前後関係、前提条件などになります。

 

日本は、一般的に“以心伝心”や“阿吽の呼吸”などを良しとする「ハイコンテクストの文化」だといわれたりします。では、ハイコンテクスト、また、逆のローコンテクストとはどういう概念でしょうか。

 

最近、ビジネスの世界で、ダイバーシティー(多様性)が促進されたり、リモートワークが進んだりするなかで、ハイコンテクストな文化に依存していると、コミュニケーションのトラブルが生じることも多くなっています。

 

本記事では、コンテクストの概要に触れたうえで、ハイコンテクストとローコンテクストの特徴や違いをメリット・デメリット踏まえて紹介していきます。

 

後半では、国よるコンテクストの違いや、仕事のなかでコンテクストを扱うポイントを解説します。

<目次>

そもそも「コンテクスト」とは?

コンテクスト(context)は、英語で「文脈」を意味する言葉です。日本語の場合、使われるシーンに応じて、以下のように訳されるのが一般的となります。

  • 状況
  • 前後関係
  • 脈略
  • 前提条件
  • 景 など

なお、日本では、数年前に“忖度”という言葉が世間で注目を集めました。忖度は“配慮”などと似た言葉で、“他人の気持ちや考えなどを推し量る”という意味があります。

 

当時は、「官僚が政治家の気持ちを推しはかったのではないか?」ということで、忖度という言葉が多くのメディアで登場しました。

 

忖度を平易な言葉で置き換えると、“空気を読む”ということになります。コンテクストという言葉は、“空気”に近い意味合いも含む言葉です。

HR・ビジネス分野における「コンテクスト」の意味

コンテクストという言葉は、HRやビジネスシーンでも使われることが増えています。

 

HR・ビジネス領域でのコンテクストは、文脈や前後関係という意味で使われることが大半でしょう。

 

また、組織開発などにおいては、“コミュニケーションのベースとなる文化”という意味で使われたりもします。

 

ビジネス分野でのコンテクストの意味は、いずれも、「コミュニケーションの基盤となる情報や価値観」というニュアンスです。

ハイコンテクストとは?

相談する若い女性

 

ハイコンテクストは、文化や価値観、文脈の共有度が高く、お互いの共通認識や知識、文化的背景などを前提として会話が進むコミュニケーション方法です。

たとえば、社内において「“提案”とは何か?」という定義やフォーマットが決まっていて、また、「うちの企業においてはスピードが重視される」という判断基準があったと仮定します。

 

そうすると、「いつまでに提案してもらえるかな?」という社内のコミュニケーションに含まれる意味は、以下のようなものになります。

  • 「して欲しい提案は…
  • -取れる選択肢と各選択肢のメリット・デメリットを整理して、
  • -メリット・デメリットのなかで、今回取るべき選択肢はこれで、
  • -これぐらいのリソースが必要で、こういうスケジュールで進められます…
  • という情報をまとめたもの。

取るべき選択肢を考えるうえでは、「リスクの最小限に抑えるよりも、スピード重視で“最小限のリソースでまずトライアルをしてみる”という判断軸で考えて欲しい」こうした文脈・共通認識を省略して、「いつまでに提案してもらえるかな?」とか言われるのがハイコンテクストなコミュニケーションです。

 

ハイコンテクスト文化では、共有されていることが前提となる情報は省略されてコミュニケーションが進んでいきます。

 

共通認識、判断基準、価値観、相手の表情や声などから、省略されている内容を読むことが求められるのがハイコンテクスト文化です。

 

暗黙の了解、以心伝心、阿吽の呼吸といった言葉は、まさにハイコンテクストなコミュニケーションを指したものだといえるでしょう。

ハイコンテクスト文化のメリット

ハイコンテクスト化の場合、共通認識があることを前提とするため、細かな解説や共有が不要になります。

 

前述のとおり、たとえば、「提案して」という短い言葉に、

「して欲しい提案は、取れる選択肢と各選択肢のメリット・デメリットを整理して、メリットなどのなかで今回取るべき選択肢はこれで、これぐらいのリソースが必要で、こういうスケジュールで進められますという情報をまとめたもの。取るべき選択肢を考えるうえでは、リスクの最小限に抑えるよりも、スピード重視で“最小限のリソースでまずトライアルをしてみる”という判断軸で考えて欲しい」

という意味が詰まっているわけです。

 

したがって、ハイコンテクスト文化には、コミュニケーションが早い、楽になる、細かなやりとりをせずに任せられるといったメリットがあります。

 

また、上記のように共通認識や共通言語を持つことは“仲間意識”を高めることにもつながります。

ハイコンテクスト文化のデメリット

ハイコンテクスト文化では、言葉の意味や背景を明示しなくても、コミュニケーションが成立する・察し合えることが前提となります。

 

一方で、たとえば、自分が共通認識だと思っていることを相手が知らない場合、コミュニケーションに支障が生まれやすくなるでしょう。

 

また、認識がずれていれば、当然誤解が生まれますし、お互いが誤解に気づきにくい状態になります。

 

たとえば、認識がずれていると、以下のような状態が生じることになります。

  • 「あの資料、どうなったの?」
  • ⇒「どの資料のことですか?」
  • 「あの件、ちゃんとやっておいてね!頼んだよ!」
  • ⇒「はい、わかりました!」
  • (言ったほうが案件Aを指しているが、言われた方が案件Bだと思っている)

上記はコンテクストというよりは、指示代名詞の問題ですが、コンテクストが共通されていない場合に起こる事象は上記のようなイメージです。

 

したがって、ハイコンテクスト文化の組織では、コンテクストの共有度が低い新人や部外者を受け入れるハードルが高くなりますし、新人や部外者が活躍しにくい環境であるともいえるでしょう。

ローコンテクストとは?

ローコンテクストとは、ハイコンテクストとは正反対のコミュニケーション方法です。

 

ローコンテクスト環境では、文化や背景の共有性が低いからこそ、言葉による表現を重視します。

 

端的にいえば、ローコンテクストは、「伝えたいことがあれば、きちんと言葉にして伝えることが、伝える側の責任」という文化です。

ローコンテクスト文化のメリット

ローコンテクスト文化では、伝えることをすべて言語化するため、コミュニケーションの背景や文化を共有していなくても、言葉を使って明示的かつ直接的な会話を行なえます。

資料A~Eを依頼したメンバーに対する上司の質問
「昨日お願いした資料Aの作成は終わった?」

部下の回答
「はい、Aは終わりました。」

上記のやりとりで、上司は、資料A作成の進捗を確認しただけです。ここには、「もっと早く進めて!」「少し遅いのでは?」などのいわゆる“含み”は入っていません。

 

ローコンテクスト文化の組織では、基本的に言葉に“言外のメッセージ”は含ませず、会話に含まれた情報でコミュニケーションをとっていきます。

 

したがって、コミュニケーションの誤解などは生じにくいですし、新人や部外者でもすんなり会話に溶け込めるでしょう。

ローコンテクスト文化のデメリット

伝えたい内容のすべてを明確に言語化することが前提であるため、たとえば、ローコンテクスト文化のチームのなかに、ぼかした表現を使ったり、“以心伝心”や“暗黙の了解”といったハイコンテクストなコミュニケーションを好む人がいたりすると、情報伝達がうまくいかなくなります。

 

また、寡黙・言葉足らずの人がいた場合も、認識のズレなどが生じやすくなるでしょう。

 

ローコンテクスト文化の場合、細かな情報まで確認したり、伝えていったりする必要があるため、こうしたやりとりが“煩雑”と感じるようなこともあるでしょう

日本はハイコンテクストな文化?

会議する人たち、手元の書類

 

日本のハイコンテクスト文化は、世界トップクラスだといわれます。

 

日本がハイコンテクスト文化になった理由は、島国であり、文化・人種的な多様性が少ないなかで発達してきたことが関係します。

 

また、日本の場合、定住型の稲作社会であり、一つのコミュニティに所属して長年を過ごすため、“前提条件”の共有が進みやすい文化だといった背景もあるでしょう。

 

だからこそ、日本では、ここまで紹介したような“阿吽の呼吸”や“以心伝心”が素晴らしいこととして認識されてきた背景があるわけです。

 

一方で、たとえば、アメリカは、“人種のるつぼ”や“人種のサラダボウル”などといわれ、多様な人種や背景を持つ人によって構成されている国です。

 

当然、組織に所属するメンバーそれぞれの文化や常識も異なり、何事も言語化して言葉で伝えるローコンテクストな文化になっています。

 

日本では、“言葉を尽くさなくても何となくわかりあえる”という考え方があります。

 

というのは良い側面もありますが、ビジネスシーンなどでかつて話題になった“忖度”などが行なわれやすい問題もあったりします。

 

ダイバーシティーが進む時代のなかで、新しい人を受け入れるのが苦手という側面もあるでしょう。

仕事におけるコンテクストを扱うポイント

仕事におけるコミュニケーションで大事なことは、それぞれが持つ情報や考え方を確実に相手に伝え、お互いが伝えられた内容を理解した(伝わった)状態にすることです。

 

そのため、組織のコミュニケーションをスムーズにするうえでは、コンテクストに依存しすぎるコミュニケーションとは、ときにリスクになります。

関わるメンバーによる変更

まず、コミュニケーションにおけるコンテクストのハイローは、コミュニケーションに加わるメンバーによって変える必要があります。

 

たとえば、業務経験が浅い人や方針・情報の共有度が低い人の場合、長年一緒に仕事をするベテラン同士のように“察すること”や“前提条件の共有”が難しくなります。

 

したがって、経験が浅いメンバーなどがいれば、言葉を使った明確な指示・情報共有を意識して、ローコンテクストなコミュニケーションにすることが望ましいでしょう。

リモートワーク下での対処

リモートワークによってメンバーが離れた場所にいる場合、同じオフィスで机を並べていた頃のように、相手の雰囲気から“察すること”や“以心伝心”が難しくなります。

 

また、たとえば、チャットなどによるテキストメッセージでのやり取りが多い場合、お互いの価値観や思い込みによって言葉の解釈が変わってくるため、場合によっては温度差が生じることもあります。

 

こうした問題を防ぐには、リモートワーク環境下、特にテキストコミュニケーションにおいては、ローコンテクストなコミュニケーションが重要となってきます。

 

また、扱うテーマなどにおいて、チャットなどでのテキストコミュニケーションではなく、電話やWebミーティング、また、対面での打ち合わせなどを選択するなど、適したコミュニケーションの手段を選ぶことも大切です。

コンテクストの確認

コミュニケーションの当事者も、コンテクストで少しでも不安や違和感があれば、“わかったつもり”や“理解したつもり”で終わらせず、主体的に理解する姿勢を持つことが大切です。

 

たとえば、意思決定であれば「どういう判断プロセスでそうなったか?」、方針や施策であれば「どのような前提条件があったり、大方針や価値観を踏まえたりしたものか?」などを、主体的に理解しにいく必要があります。

 

不安や違和感が生じたときにすぐ主体的な質問などを行なえば、認識のズレが生じにくくなるでしょう。

共通言語の構築と初期教育

なお、ビジネスコミュニケーションをするうえで“ハイコンテクストが悪い”というわけではありません。ハイコンテクストには、ハイコンテクストのメリットが存在します。

 

特に、仲間意識を醸成しやすいことなどは、今後の組織開発を考えるうえでの一つのポイントになるでしょう。

 

また、たとえば、ミッションやビジョン、バリューの浸透なども、ある意味では、コンテクストの共有作業だといえます。

 

コンテクストの共有で大事なことは、組織において共通認識としたいことはきちんと言語化する、そして、きちんと新人に教えたり、浸透させたりするプロセスを持つことです。

まとめ

コンテクストは、文脈、前後関係、前提条件といった意味を持つ言葉です。そして、会話のなかで、どれぐらい言葉にしないコンテクストを含ませるかによって、大きく2つのタイプがあります。

  • ハイコンテクスト:文化の共有度・依存度が高く、お互いの共通認識や知識、文化的背景などを前提に会話を進めるコミュニケーション
  • ローコンテクスト:文化や背景の共有性が低く、言葉による表現を重視するコミュニケーション

日本は、以心伝心、暗黙の了解、忖度といった言葉が豊富にあるとおり、ハイコンテクストな文化を持った国です。

 

仕事でのコミュニケーションにおいては、関わるメンバーや扱うテーマによってコンテクストのハイローを変えることが大切になります。

 

また、コンテクストで少しでも不安・違和感がある場合、“わかったつもり”にせず、主体的に理解しようとする姿勢も大切でしょう。

 

なお、ハイコンテクストなことが悪いわけではなく、ハイコンテクストはコミュニケーションを効率的にしますし、仲間意識などを高める効果もあります。

 

ただし、ダイバーシティーが進むなかで、ハイコンテクストな文化を維持するには、何を共通言語、共通認識とするのかを言語化し、新人に教えたり意識的に組織内に浸透させたりすることが大切になります。

 

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著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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