育児・介護休業法の改正(2021年6月)ポイントと企業が取るべき対応とは?

更新:2023/07/28

作成:2022/09/05

古庄 拓

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

育児・介護休業法の改正(2021年6月)ポイントと企業が取るべき対応とは?

近年の日本では、少子高齢化にともない人口・労働者の数が減少する中で、女性の活躍推進が望まれています。女性の活躍推進を考えるうえで外せないのが出産・育児に関する問題です。これまで女性の育休取得は推進されてきましたが、男女の育児休業取得率に大きな差が生じている状態は改善されていません。

 

こうしたなかで2021年6月に改正されたのが、育児・介護休業法です。今回の改正は、男性の育休取得を推進する点に重きが置かれています。企業の人事担当者の方などは、具体的な改正内容と改正育児介護休業法によって自社に求められる取り組みは押さえておきたいところです。

 

記事では、改正育児・介護休業法の趣旨を確認したうえで、法改正のポイントや企業に求められる取り組みを紹介します。

<目次>

2021年6月に育児・介護休業法が改正!

近年の日本には、出産・育児にともなう休業・働き方に関して、以下のような課題が取り上げられています。

  • 育児休業取得率に大きな男女差がある
  • 男性の場合、育児休業の取得期間も約8割が1ヵ月未満と非常に短い
  • 労働者の休業取得の希望が十分にかなっていない現状がある
  • 約5割の女性が第一子出産後に出産・育児によって退職している

育児・介護休業法は、これらの課題を解消する目的で、2021年6月に改正されることになりました。

 

出典:育児・介護休業法の改正について(厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課)

法改正により企業が実施すべき取り組みとは?

思案するミドル社員

 

まずは、法改正における以下のポイントと、企業が取り組むべきことの概要をそれぞれ解説しましょう。

 
育休法のポイントと取り組みの概要表

 

雇用環境整備、周知、意向確認

改正育児・介護休業法では、企業に対して、育児休業を取得しやすい雇用環境整備および妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置を義務付けています。

 

・【1】育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
育児休業と産後パパ育休の申し出が円滑に行なえるように、事業主は次のいずれかを整備しなければなりません。

  • 1.育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
  • 2.育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置等)
  • 3.自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
  • 4.自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

 
・【2】妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
労働者本人の出産もしくは、本人または配偶者の妊娠の申し出に対して、育児休業に関する個別の周知・意向確認ができるように、以下の環境整備をすることも求められます。

  • 1.育児休業・産後パパ育休に関する制度
  • 2.育児休業・産後パパ育休の申し出先
  • 3.育児休業給付に関すること
  • 4.労働者が育児休業・産後パパ育休期間に負担すべき社会保険料の取り扱い

個別の周知・意向確認は、以下の方法で行ないましょう。

  • 1.面談(オンラインも可能)
  • 2.書面交付
  • 3.FAX(労働者が希望した場合のみ)
  • 4.電子メールなど(労働者が希望した場合のみ)

当然ですが、取得を遠慮させるような伝え方での個別周知と意向確認は認められません。企業には、上記の環境整備ならびに、実施方法の検討、準備も求められます。

 

有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

まず、従来制度の有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件は、以下のとおりでした。

【育児休業の場合】
  • 1.引き続き雇用された期間が1年以上
  • 2.1歳6ヵ月までの間に契約が満了することが明らかでない
【介護休業の場合】
  • 1.引き続き雇用された期間が1年以上
  • 2.介護休業開始予定日から93日経過日から6ヵ月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない

2022年4月1日以降は、育児休業・介護休業ともに、【1】の要件が撤廃され、【2】だけになります。

 

なお、育児休業の申し出があった時点で労働契約の更新がないと確定しているか否かで、休業取得の判断が行なわれるようになります。ただし、労働契約は、事業主が「更新しない」旨の明示をしていない場合、原則として「労働契約の更新がないことが確実」とは判断されません。

 

企業側には、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和によって、就業規則などの見直しと、必要に応じて育児・介護休業対象者との労使協定の締結が求められることになります。

 

出生時育児休業制度(産後パパ育休)

出生時育児休業制度とは、原則休業の2週間前までの申請で、子の出生後8週間以内に4週間まで育児休業を取得可能な制度です。一般では、産後パパ育休と呼ばれています。

 

出生時育児休業制度のおもなポイントは、以下のとおりです。

  • 休業中の就業:労使協定を締結している場合のみ、労働者が合意した範囲で休業中の就業が可能
  • 育児休業給付(出生時育児休業給付金):産後パパ育休も対象※

※休業中に就業日がある場合は、出生時育児休業を28日間(最大取得日数)取得する場合は、就業日数が最大10日(10日を超える場合は就業時間数が80時間)以下の場合に、給付の対象になります。

 

企業側には、就業規則などの見直しのほかに、必要に応じて、申し出期限や休業中の就業などに関する労使協定の締結が求められます。なお、後述するハラスメント教育や対策も必要です。

 

育児休業取得状況の公表の義務化

常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主には、育児休業等の取得の状況を以下いずれかの方法で、年1回の公表が義務付けられます。

  • 1.育児休業等の取得割合
  • 2.育児休業等と育児目的休暇の取得割合

計算式は、以下のとおりです。

育児休業等の取得割合、育児休業等と育児目的休暇の取得割合の計算方法

出典:育児・介護休業法の改正について

 

公表前事業年度とは、公表を行なう日の属する事業年度の直前の事業年度のことです。計算式に出てくる用語の詳しい解説は、以下の資料の33ページを確認してみてください。

 

参考:育児・介護休業法の改正について

 

なお、企業側には、育児休業取得状況の公表の義務化によって、対象者数の算定方法の確認と、算定・公表のマニュアル作成、担当者の決定などが求められることになります。

育児休業中の保険料免除について

育児休業中の労働者には、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税および復興特別所得税などの免除規定が以下のように適用されます。

  • 健康保険料・厚生年金保険料:産前産後休業中や育児休業中と同様に、免除される
  • 雇用保険料:育休中に勤務先からの給与支給がなければ、保険料負担なし
  • 所得税および復興特別所得税:育児休業給付・介護休業給付は非課税となるため、これらの給付から所得税および復興特別所得税は差し引かれない

上記の免除規定は、給与計算など人事系の手続きに影響します。企業側では、制度を正しく理解する必要があるでしょう。

ハラスメントの防止も必要

パタハラ

 

産後パパ育休などの制度が導入されても、制度を使いづらい以下のような空気感・価値観が社内にあると、男性社員の育児休暇取得率は上がりません。

  • 上司に育児休暇の相談をしたら「この忙しい時期に、何を言ってるんだ?」と怒られる
  • 上司への申し出は通ったものの、引き継ぎ予定の同僚から無視されてしまう
  • チームメンバーから育休中の就業を強いられる など

男性社員における育児休業の取得率を上げるには、こうしたマタハラ、パタハラを防ぐ取り組みも必要です。

 

特に、申し出を受ける管理職層への教育・研修は、必須になるでしょう。社員への教育・研修には、厚生労働省が用意する教育のためのコンテンツを活用するのもおすすめとなります。

 

参考:男性の育休に取り組む 社内研修資料について

まとめ

2021年6月に改正された育児・介護休業法では、以下制度の創設や要件緩和などが行なわれます。

  • 雇用環境整備、周知、意向確認
  • 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
  • 出生時育児休業制度(産後パパ育休)
  • 育児休業取得状況の公表の義務化

改正された育児・介護休業法によって、事業主には、就業規則の見直しや労使協定の締結などの準備が求められるようになります。育児休業の取得率を上げるには、マタハラ・パタハラの起こりにくい環境整備やハラスメント教育も必要となるでしょう。

著者情報

古庄 拓

株式会社ジェイック取締役

古庄 拓

WEB業界・経営コンサルティング業界の採用支援からキャリアを開始。その後、マーケティング、自社採用、経営企画、社員研修の商品企画、採用後のオンボーディング支援、大学キャリアセンターとの連携、リーダー研修事業、新卒採用事業など、複数のサービスや事業の立上げを担当し、現在に至る。専門は新卒および中途採用、マーケティング、学習理論

著書、登壇セミナー

・Inside Sales Conference「オンライン時代に売上を伸ばす。新規開拓を加速する体制づくり」など

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